東雲製作所

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2020年テレビアニメベスト10

2019年テレビアニメベスト10は2019年の年末に書いて発表した。

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だが、その後に放送された『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』の最終回が滅茶苦茶感動的だった。これを観てから選定していれば、絶対ベスト10入りの出来で、やはり秋アニメも最後まで観てから選定しないとダメだと痛感した。
そこで2020年テレビアニメベスト10は年が改まってから発表することにした。そうしたら発表がこんなに遅くなってしまった。締め切りがないのも考えものである。

 

1)神様になった日 (原作・脚本:麻枝准、監督:浅井義之、アニメーション制作:P.A.WORKS
原作脚本を麻枝准氏が務める一夏の思い出を描いた作品。平凡な高校生成神陽太の前に、全知の神を名乗る少女ひなが現れたことで騒動が巻き起こる。テンポの良いキレキレの演出で見せる夏のシーンと、しっとりとした冬のシーンのコントラストが鮮やか。

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2)ゴールデンカムイ(第3期)(原作:野田サトル、監督:難波日登志、アニメーション制作:ジェノスタジオ)
大人気冒険活劇アニメの第3期。ひたすら下らないスチェンカの話があったかと思うと、痛切な回想話が入り、はたまた息詰まるスナイパーの銃撃戦があったりと、話の振れ幅がすごい。主要キャラが死ぬかもしれないと話が引き締まる。
樺太はかつて日本だった所なのに、北海道アイヌとはちょっと違う少数民族が住んでいたことなど何も知らなかった。調べたことをきっちりエンタメに落としこんでいるのに感心した。
原作者の筋骨隆々なタフガイ好きが高じて、女性キャラまで筋骨隆々なタフガイになっていて笑った。そのうちアシリパさんも筋骨隆々になるのではないか。

 

3)波よ聞いてくれ(原作:沙村広明、監督:南川達馬、アニメーション制作:サンライズ
ラジオ局とカレー屋が舞台の色んな要素が詰め込まれたアニメ。特に階下の住人の心霊騒動を描いた第7話は伏線の貼り方が完璧で素晴らしい。
ヒロインみなれのキャラが強い。アニメのヒロインって、強くてもどこかオタク男にとって好ましい所があるものだが、みなれは男ウケなど知るかという感じで振り切って造形されている。おかげで、視聴者の意表を突くようなトラブルが巻き起こって、楽しい。
日本のアニメは欧州人から見るとティーン向けばかりという指摘があって、首をひねっていたのだが、ヒロイン造形の点では一理あるのではないか。本作ははっきり大人向けアニメと言って良いだろう。

 

4)デカダンス(監督:立川譲、アニメーション制作:NUT)
人類が怪物のような生命体ガドルと戦う話かと思いきや、さらに凝った設定になっているSFアニメ。
ヒロインナツメが表情豊かで前向きですごく魅力的だ。カトゥーンっぽい絵柄なので見逃しているオタクが多そう。もうちょっと萌え寄りの絵柄だったら大人気になったのではないだろうか。
かなり奇妙な設定なのだが、ミッドポイントで奈落に落ちてそこから這い上がっていくなど、ストーリー展開は王道で、ベタの強さを感じる。

 

5)ケンガンアシュラ(原作:サンドロビッチ・ヤバ子、だろめおん、監督:岸誠二、アニメーション制作:LARX ENTERTAINMENT)
Netflixで世界的にヒットしている格闘アニメ。観るとアドレナリンがドバドバ出るので、ヒットするのも納得である。
原作者が格闘家らしく、実際に組手をしてから描いているのだと言う。世界中のあらゆるスタイルの格闘術が登場して飽きさせない。
普通、トーナメントでは、主人公と関係ない試合は適度に端折るものだが、本作は全試合しっかりやるので、ほとんどの回で主人公以外が試合をしている。主人公の試合は9割方主人公が勝つのに対し、脇役同士の試合はどちらが勝つか全く分からないので、手に汗を握る展開が続く。むしろ主人公なんかいない方が良いのかもしれない。

 

6)呪術廻戦(原作:芥見下々、監督:朴性厚、アニメーション制作:MAPPA
ポスト『鬼滅の刃』の呼び声高い人気作。『鬼滅の刃』がどのキャラも可愛いのに対し、『呪術廻戦』はどのキャラも格好良い。主要キャラが音楽に合わせて踊るエンディングとか格好良すぎでしょう。
「『愛の反対は無関心』が日本では『好きの反対は無関心』に変わった」等、すごく哲学的な所があり、何のために生きているのか考えさせられる。
余談だが、我が家のレコーダーはダブ録ができない。『呪術廻戦』は『トニカクカワイイ』と放送時間が被っていたので、毎回頭が少し欠けている。番組はきっちり0分と30分から始めるようにして欲しい。

 

7)GREAT PRETENDER(監督:鏑木ひろ、アニメーション制作:WIT STUDIO
詐欺師集団が悪党を罠にかけて大金を巻き上げるコンゲームもの。ちょっと都合が良すぎる気もするが、とにかくエンターテイメントに徹していて、コロナ禍に見るには最適である。
詐欺師集団が悪者を騙す話は結構あるが、主人公エダマメの存在がユニークだ。エダマメは毎回暴走して、結果的にローラン達の妨害をしている。詐欺をする上では邪魔者だが、話を予測不可能な面白いものにする上では不可欠なのだ。

 

8)放課後ていぼう日誌(原作:小坂泰之、監督:大隅考晴、アニメーション制作:動画工房
女子高生が釣りをするアニメ。まったり見れるし、釣りうんちくとしても面白い。
陽渚と夏海が探り探り友情を深めていく様がこそばゆくてたまらない。
細かい感情を丁寧に書いていくと、劇的なことが起きなくても面白いのだということを示しているという点で、ゆるキャン△に通じるものがある。

 

9)メジャーセカンド 第2シリーズ(原作:満田拓也、監督:渡辺歩、アニメーション制作:OLM
女子部員が多い中学野球部が舞台の話。中学生らしくみんなすごく不完全な所がよい。キャプテンの大悟は人格者だったのが突如投げやりになったりして面食らうが、中学生の精神状態としてはリアリティがある。
本作は才能がない奴はどうすれば良いのかをテーマにしている。中学生はちょうど男女の体格差が顕著になる時期であり、覆し難い持って生まれたものの差が登場人物達に突きつけられる。
この難しいテーマにどう決着をつけるのか続きが楽しみだ。

 

10)乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった... (原作:山口悟、監督:井上圭介、アニメーション制作:SILVER LINK.)
悪役令嬢モノの代表作。主要キャラが良い人ばかりなのでノーストレスで見ることができる。

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話題作で言うと『映像研には手を出すな』は他のアニメと被っていて録画していなかったため観ていない。NHKだからどこかで再放送するだろうと思っていたら、全然しなかった。乞う再放送。

 

 

 

 

賞味期限切れインスタント食品レビュー

私にはリスのように食べ物を買い込んで延々と放置するクセがある。
久しぶりに積んであるインスタント食品の賞味期限を確認した所、年単位で過ぎているものが多数発見された。
もったいないので食べることにしたが、商品によって劣化ぐあいが異なっていたのでレビューを記す。

なお、本記事では賞味期限切れの食品をどかすか食べているが、期限切れの食品を食べることを推奨するものではない。
まっとうな社会人は賞味期限が切れる前に食べましょう。


カップうどん
あつあつ牛すきうどん(東洋水産

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 賞味期限から1年2ヵ月超過
ネギがしなびて茶色く変色している他は普通。味も特に変化なし。

 

赤いきつねうどん(東洋水産

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賞味期限から3年4ヵ月超過
見た目は全く変化なし。味も特に変化なし。


カップ
チキンラーメンチキぎゅー 鶏ガラペッパービーフ味(日清食品

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賞味期限から9ヵ月超過
たった9ヵ月しか超過していないだけあって、見た目も味も全く問題ない。
ものすごく超過したものばかり食べているので感覚がおかしくなっている。

 

カップヌードル400億食記念パッケージ(日清食品

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賞味期限から4年4ヵ月超過
今回食べた中で最も古い。
具材が茶色く変色しており特にネギは黒ずんでいる。カップの縁に黒い粉がくっついており、少し食べるのを躊躇した。
古い木材のような匂いがする。部屋の匂いが移っているのか?
恐る恐る食べてみると麺が古いような味がする。古いような味って何やねんという感じだが、かんすいの味が強く出ているのかもしれない。スープは問題ない。

 


カップ焼きそば
焼きそば名人ソース焼きそば東洋水産

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賞味期限から3年4ヵ月超過
かやくが茶色くしなびている。味は特に変化なし。

 


カップそば
緑のたぬき天そば 1980年発売復刻版(東洋水産

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賞味期限から1年10ヵ月超過
見た目、味ともに変化なし。

 

おそば屋さんの鴨だしそば(東洋水産

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賞味期限から3年4ヵ月超過
麺から黒い粉状のもの(そば粉?)が分離し、かまぼこにまぶさっている。衝撃的な見た目だ。
食べてみると酸っぱい味がする。柚子のような酸味が鴨だしとあっていてこれはこれで美味しいが不安になる。幸いお腹は壊さなかった。


*まとめ
どんと焼きそばの麺は3年以上経っても何の変化もないのに対し、そばは2~3年で劣化するということが分かった。
具材では野菜が変色するが、味にはあまり問題がなかった。


*結論
カップラーメン、焼きそば、うどん、そばの中ではそばが最も劣化が早い。
賞味期限が切れてから2年近く経ったものが複数あって、あなたが腐っていなければ食べる主義なら、そばから食べた方が良い。役に立つ機会が少なそうな情報だなあ。

 

もみあげ流米国株投資講座感想

「もみあげの米国株投資」は私が毎朝読んでいるブログだ。米国駐在員であるもみあげ氏がその日の米国市場の動向について端的にまとめられていて、米国株の速報サイトではピカ一だ。

www.momiage.work


そんなもみあげ氏の本が出た。『もみあげ流米国株投資講座』(もみあげ著、ソーテック社)だ。


株式投資本には大きく分けて二種類ある。インデックス投資本と個別株投資本だ。
前者は「市場全体に連動するインデックスファンドをコツコツ積み立てろ」というもので、初心者向けの内容としては正しい。下手に市場平均を上回ろうとすると火傷をするからだ。
だが、インデックス投資本の内容は、要約すれば「市場全体に連動するインデックスファンドをコツコツ積み立てろ」の一行だけだ。
私からすると知っていることしか書いてない。

一方の個別株当資本は、独自の手法で市場平均を上回る方法を説いた本だ。高配当株でマネーボックスを作るとか、新高値の株を買ってトレンドに乗るとか、ボロ株を買って吹き上がるのを待つとか、内容がバラエティ豊かで面白い。
反面、言っていることが怪しげだ。主張の根拠が曖昧で、著者が運良く上手く行っただけじゃないの? と言いたくなるものが多い。


『もみあげ流米国株投資講座』は様々な市場平均を上回る手法について書いてある。1種類しか書いてない類書より密度が高い。ちゃんとデータに基いて市場平均を上回る根拠が書いてあるし、その手法の良い点だけでなく悪い点も書いてあるので信頼できる。

本書は、初心者でも一から米国株投資について学べる本でありながら、投資本やレポートを読みまくっている私でも知らないことが沢山書いてあって読み応えがある。各セクターの特色に加え、有望銘柄の特徴が端的にまとめられている。
具体的には、GAFAMはインドに積極投資しているので、インド企業に直接投資するよりもGAFAMに投資した方が低リスクでインド企業の成長を取り込めるという指摘には眼から鱗が落ちた。
また、QQQ+VIGは重複が15%しかなく、S&P500をオーバーパフォームできそうという提案は、すぐ真似ができ、実用性が高い。


もみあげ氏は最終章でご自身のポートフォリオ区分を公開されている。

もみあげ流ポートフォリオ
インデックスETF 10%
GAFAM 10%
成長株銘柄・ETF 50%
高配当銘柄 5%
安定連続増配銘柄 10%
ESG銘柄 15%
現金 10%

各ジャンルにおいてETFを紹介されている場合はETF、ない場合は一押し銘柄か最初に紹介している銘柄を組み込んで、具体的なポートフォリオを作成してみた。
インデックスETF
 VOO 10%
GAFAM
 MSFT 10%
成長株銘柄・ETF 50%
 QQQ 10%
 SMH 10%
 V 10%
 DHR 10%
 TSLA 10%
高配当銘柄
 VYM 5%
安定連続増配銘柄
 VIG 10%
ESG銘柄
 QCLN 15%
現金 10%


投資手法の検証にはバックテストとフォワードテストがある。バックテストは過去のパフォーマンスを見るもの、フォワードテストは投資手法提唱後のパフォーマンスを見るものだ。
本書では、過去のパフォーマンスを元に成長株中心ポートフォリオの優秀性が説かれている。
そこで、上記ポートフォリオフォワードテストを行った。
本書には2020年7月末までのデータが載っているので、2020年7月末~2021年1月末のパフォーマンスを求めてみた。

銘柄 ウェイト 7/31 1/29 リターン リターン×ウェイト
 VOO 10% 297.61 340.18 14.3 1.43
 MSFT 10% 203.98 231.96 13.72 1.37
 QQQ 10% 265.31 314.56 18.56 1.86
 SMH 10% 165.07 226.61 37.28 3.73
 V 10% 189.83 193.25 1.8 0.18
 DHR 10% 203.8 237.84 16.7 1.67
 TSLA 10% 286.15 793.53 177.31 17.73
 VYM 5% 79.79 90.99 14.04 0.7
 VIG 10% 121.9 137.05 12.43 1.24
 QCLN 15% 34.84 79.87 129.25 19.39
現金 10%        
          49.3

 

VOO(市場平均)のリターン 14.3%
もみあげ流ポートフォリオのリターン 49.3%

もみあげ流ポートフォリオが3.45倍のリターンを上げた。(現金が10%入っているのに!)
フォワードテストでももみあげ流ポートフォリオの優秀性が示された。
テスラ、ESG銘柄のQCLNが倍以上という驚異的パフォーマンスを上げたほか、半導体のSMHも好調だった。
一方ビザ(V)が不調だったが、経済が回復すると伸びてくる銘柄なので、バランスも考えられている。


ただし、今からもみあげ流ポートフォリオをそっくりコピーしても、市場平均を上回れるとは限らない。
もみあげ流ポートフォリオが圧倒的パフォーマンスを上げられたのは、徹底的な調査でテスラ、ESG銘柄、半導体の将来性が高いということを市場に先んじて見抜いたからだ。
特にテスラとESG銘柄はバブル的に上がっているので、今から買うと大損するリスクがある。(もちろん安定的に上がり続ける可能性もあるが。)
やはり市場平均を上回るのは並大抵のことではないのだ。

 

一億総指示待ち時代

菅首相は国民からの批判が高まってからようやく緊急事態宣言を出した。12月中に出していれば、医療崩壊は避けられ、経済へのダメージも少なくて済んだだろう。
はてブには、私同様首相の判断の遅さを批判するコメントが溢れていた。

同様に呆れたのが、私が勤める会社の対応だ。緊急事態宣言が出た翌日に会議を開いておもむろに対応を検討。金曜の五時ごろようやくテレワークの推奨を通知したのだ。報道によって事前に木曜に出ると分かっていたし、小池知事はもっと前からテレワークを推進してくれと訴えていた。
本来なら政府に先んじて社員にテレワークを呼びかけるべきだし、せめて金曜からテレワーク中心にするよう準備しておくべきではないか。

そんな時、「緊急事態宣言でたけどお前らは何か生活様式を変えるの?」という記事を読んだ。

anond.hatelabo.jp


去年の3月から完全に引きこもっているという増田による、このままでは「みんなが自分以下のやつが動けばいいと思っているだけで何も変わらない」
「対策できていないやつが対策するように圧力をかけるだけじゃなくて、それなりに対策できている人たちも含めて全員が対策レベルを一段階上げることが必要なんじゃないか」という呼びかけに、私は我が身を振り返った。

良く考えると当社には申請して認められれば週3回までテレワークにできる制度がある。会社からテレワークを増やすよう指示が出る前に、自ら率先してテレワークにすれば良かったのだ。上司がテレワークにすると仕事の能率が落ちると思っているので言い出しにくかったのだが、当然のような顔をして申請すべきだった。
首相の判断が遅いことを批判していた私が最も判断が遅かった。恥じ入るばかりだ。

首相は国民からの指示待ちだし、会社は首相からの指示待ちだし、末端の国民たる私は会社からの指示待ちだった。国民はみずからの程度に応じた政治しかもちえないという言葉を実感したのだった。

移動平均線を下抜いたら売る戦略は有効か

先週から株式市場が軟調になっている。S&P500は一週間で3.31%下落した。
ロビンフッダーにやられたヘッジファンドが換金売りするのではないかという懸念が直接の原因だが、背景には株バブルが弾けるのではないかという投資家の恐れがある。

資金の主な運用先は株と債券だ。
各国中央銀行が低金利政策を採っているため、債券は利回りが1%しかないのに下落余地はたっぷりあるという誰得状態になっており、資金を運用するには割高でも株を買うしかない。

今後、債券利回りが上がったら、債券に資金が流出して株価が下落することは避けられない。
FRBは今年中は利上げしないという予想が大半なのでまだ大暴落はないと思う。今後1年以上株以外に運用先がない状態は変わっておらず、顧客に「適当な投資先がなく現金で保有していたのでリターンは0です」と言うわけにいかない機関投資家は、長期間株式市場から離れるわけにいかないからだ。
だが、疑心暗鬼にかられた投資家が逃げ出して、一時的に株価が下落するリスクは常にある。

今は株を持っていないと資金は増えないが、逃げ遅れると怪我をするというチキンレース状態なのだ。


こういう時誰もが思うのが、大暴落をいち早く察知して売り逃げられないかということだ。
東雲製作所でも以前、先行指数と言われるSOX指数、ダウ輸送株平均、ラッセル2000を用いて察知できないか検証したが、できることもある程度の精度だった。

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他にも、株の先行指標にはバルチック海運指数、銅/金レシオ、VVIX/VIXなど色々あるが、どれも完全ではない。

唯一大暴落から確実に逃げられる方法がある。株価が移動平均線を下抜いたら売る戦略だ。これはテクニカル分析の最も基本的な戦略だ。
この方法はある程度株価が下落してから売るのでいち早く売り逃げることはできないが、大暴落の途中で株価は必ず移動平均線を下抜くので、確実に途中で逃げられるというメリットがある。

そこで、2020年のS&P500時系列データを用いて、移動平均線を下抜いたら売却し、上抜いたら買い戻す戦略の有効性について検証した。

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青がS&P500、オレンジが50日移動平均線

下記の2つの方法で積み立てを行い、1年間のリターンを比較した。
1)毎日1$ずつ単純に積み立て
2)同様に毎日1$ずつ積み立てるが、50日移動平均線を下抜いたら売って積み立てを停止、上抜いたら買い戻して積み立てを再開。

投資額 235$
1)のリターン 18%(298.52$)
2)のリターン 13%(285.27$)
1)の単純積み立ての方がリターンが良かった。
2020年は10年に一度の大暴落があったので2)に有利なはずなのに負けた。大暴落がなければさらにリターンが劣ることが予想される。

両戦略の評価額の推移を示す。

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青が戦略1),オレンジが戦略2)の評価額

2)は2月に売って4月に買い戻した時点ではリードしていたのだが、9月と10月の押し目で買えなかったせいで逆転された。
実際は売買手数料や売却益への課税が発生するので、さらにリターンが劣後する。

2)のメリットは含み損が少なくて済むことだ。
3月の暴落時、1)は最大で27%の含み損が発生するが、2)の含み損はわずか2%だ。

移動平均線を下抜いたら売る戦略は、30%もの含み損を抱えるなんて耐えられないという人はやっても良いが、リターンを最大化したいのならやるべきではない。

修羅の半額弁当

 駅前にある大型スーパーでは、午後八時に弁当が半額になる。以前は八時半頃に行っても半額弁当が買えたのだが、最近は八時十五分頃には弁当コーナーがすっからかんになっていることが多い。そこで、七時五十分頃に行き、半額シールが貼られるのを待ち構えることにした。

 七時五十五分頃になると、弁当、惣菜売り場の周辺に客が集まり始めた。良い場所を確保したいが、あまりに長時間最前列を占拠しているのも気まずいということで、そこかしこでポジションをめぐる微妙な駆け引きが繰り広げられている。
 残っている弁当は十数個。600円以上する国産牛弁当が3つ。450円のハンバーグ弁当が3つ。特製ハンバーガーが1つ。400円の鮭のり弁とコロッケのり弁は2つと4つ残っている。私の狙いはハンバーグ弁当、次いで鮭のり弁だ。

 惣菜、弁当コーナーはコの字型のテーブルで、下辺部分に弁当が並んでいる。ハンバーグ弁当は中央付近、のり弁は左端にある。
 私は密集を避け、左端付近に陣を敷いた。鮭のり弁を確実に押さえ、あわよくばハンバーグ弁当を狙おうという作戦だ。
 弁当コーナーの周囲には、コロナ禍などどこふく風で、二重の人垣が形成されている。まるで獲物を狙うカモメの群れのようだ。

 ここで動きが出た。一人の主婦が3割引のハンバーグ弁当をかごに入れたのだ。これでハンバーグ弁当は残り2つ。場に緊張が走る。
 だが、主婦は3割引の値札を見て、ハンバーグ弁当を棚に戻した。戻した場所は棚の端。私の目の前だ。遠かったハンバーグ弁当が目の前に転がり込んできた。大チャンスだ。

 ところが、喜んだのもつかの間、こんどは別の女性が戻されたばかりのハンバーグ弁当をかごに入れた。すでに半額シールを持った店員が惣菜コーナーの横でスタンバイしているというのに、彼女は弁当を棚に戻そうとはしない。まさか、八時から半額になることを知らない素人か。わずか数分の差で2割も損するとは可哀想に。私は彼女を憐れんだ。


 八時の時報が鳴り、店員が半額シールを貼り始めた。惣菜から貼っていくので弁当まで来るにはタイムラグがある。弁当狙いの猛者達は半額の時をじりじりと待っている。
 ついに店員が弁当にシールを貼り始めた。阿修羅の如く腕が伸び、特製ハンバーガーや国産牛弁当が瞬く間に消えていく。ハンバーグ弁当も数秒以内に奪取され、私のあわよくばなどという甘い目論見は打ち砕かれた。

 私が鮭のり弁狙いに気持ちを切り替えた時、事件が起きた。先ほどの女性がカゴから3割引のハンバーグ弁当を取り出し、店員の前に差し出したのだ。店員が半額シールを貼りつける。女性はハンバーグ弁当をカゴに戻すと、戦場から立ち去った。
 何たる非道! 何という外法の者! 私は激怒した。

 こんなことが許されるのなら、昼頃にやってきてめぼしい弁当をすべてカゴに入れて待機、八時に半額シールを貼ってもらって半額で買うということもできてしまう。そうなれば店は定価で売れたかもしれない弁当を半額で売ることになり、大打撃だ。

 外法の者よ。もし誰もがシールが貼られる前の弁当をカゴにいれて待機するようになったら、八時に来ても弁当が買えなくなってしまう。そうなると、先んじて弁当を押さえようと、七時五十分、七時半、七時とどんどん先に来て弁当を確保しなくてはならなくなる。弁当売場は弁当をカゴに入れ、無為に立ち尽くす亡者達であふれるだろう。
 お前はちょっとぐらい良いだろうという軽い気持ちで地獄の釜の蓋を開けてしまった。こんな非道は絶対に許されない。絶対にだ!

 私が我に返ると、すでに鮭のり弁は棚から消えていた。私はあわてて残り2個しかないコロッケのり弁の一つをカゴに入れると、レジに向かった。


 『ベン・トー』という半額弁当争奪戦をテーマにした傑作ライトノベルがある。そこで半額弁当を奪い合う狼(半額弁当を奪い合う戦士)達は相手を殴ったり蹴ったり必殺技で吹き飛ばしたりはしていたが、戦いは半額神(半額シールを貼る店員)がバックヤードに去ってから行っていた。現実はフィクションよりもさらに修羅であった。末法の世とはこのことだ。私は嘆息した。

 ところが、翌日、弁当売り場を訪れた私は拍子抜けした。昨日の修羅とは打って変わって、半額弁当を狙う人は数人ほど。弁当売り場は平和そのもので、私はらくらく目当ての弁当を手に入れることができた。

 思えば、昨日は弁当ポイント10倍デー。だからあれほど弁当売り場が殺気立っていたのか。
 しかし、このスーパーでは200円1ポイントなので、半額ハンバーグ弁当を買ってもつくポイントは10ポイント。得するのは9円だけだ。
 くだんの女性も9円引きセールと言われても真人間のままだったろうに、ポイント10倍の魔力によって修羅道に堕ちてしまった。ポイントの恐ろしさを胸に刻み、もって他山の石としたい。

 

神様になった日感想――下らない一瞬の価値

(本稿は『神様になった日』のネタバレを含みます。)
『神様になった日』(原作・脚本:麻枝准、監督:浅井義之、アニメーション制作:P.A.WORKS)は平凡な高校生成神陽太の元に、全知の神を名乗る少女佐藤ひなが現れ、「30日後に世界は終わる」と告げたことで巻き起こる騒動を描いたアニメだ。

kamisama-day.jp

私は偉そうな幼女が大好きなのでひなの可愛さには心を撃ち抜かれた。ひなの場合は本当に全知なのだが、普通の子供も無根拠な全能感を持っている。私も子供の頃はマサチューセッツ工科大学に入学するとか言ってたもんなあ。偉そうなひなを見ていると幸せな気分になるのは、子供の頃の全能感を思い出すからかもしれない。

ひなは全知の能力を持っているのに、その能力をひたすら下らないことにしか使わない。
テンポの良い演出で話が斜め上の方向に暴走するので、笑いながら観ていたのだが、最後まで見ると、一夏の体験にこそひなにとってかけがえの無い価値があったことが分かる。
本作は一夏の話なので劇的だが、30日だろうが100年だろうが、命が限られているという点では変わりない。本作が突きつけているのは限られた命をどのように使うかという命題だ。

私は死後残るものにこそ価値があると考えているのでせっせと文章を書いているのだが、死後にはてなブログが閉鎖されたら、書いた文章は全て消えてしまう。すごい芸術作品を作れば永く残るかもしれないが、それだって人類が絶滅したら誰にも省みられない。
つまり、死後残るものを作っても問題の先送りにすぎないわけで、下らないことをして笑っている一瞬の価値を認めなければ、人類全ての活動に意味がないということになってしまうのではないか。

(以下、終盤のネタバレを含みます。)
終盤、陽太はひなを引き取るべく施設を訪れるのだが、対比的に登場したひなを捨てた実の父が物語に深みを与えている。
陽太は仲間が沢山いるから奪還に行けた。孤独だったら、一人でずっと世話をしないといけないのだから、引き取るのは諦めるしかなかっただろう。
陽太に仲間が沢山いるのは、陽太が仲間と下らないことをして笑い合っている一瞬の価値を認めているからだ。下らない一瞬の価値を認めるかどうかが人生の全てを分けるのだ。