東雲製作所

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2023年テレビアニメベスト10

毎年恒例のアニメ年間ベストをお送りする。
去年は5カ月遅れで発表したが、時季外れすぎてほとんど読んでもらえなかったので、頑張って1月に発表することにした。そのせいで、最後まで観れていない作品も多いが、本当に面白い作品ならすぐさま観たくなるだろうから、気にしないことにした。
葬送のフリーレンのような年またぎ連続2クール作品は2024年のベストで扱うため、入っていない。


1)【推しの子】(原作:赤坂アカ横槍メンゴ、監督:平牧大輔、アニメーション制作:動画工房

推しのアイドルの子どもに生まれ変わったアクアとルビー達の活躍を描く芸能界もの。
インターネットのショート動画に慣れ、短時間で強い刺激がないとすぐに飽きてしまう現代人向けにチューンナップされた現代エンタメの最前線。普通の作品ではクライマックスに一個あるかどうかというレベルの驚愕の超展開を一話に一個レベルで投入することで、ジェットコースターのように視聴者を揺さぶって来る。特に一話は推しのアイドルが主人公が勤務する病院にやって来るという掴みだけで十分衝撃的だが、その後も読者の度肝を抜くような展開を乱れ打ちにしている。一話ラストの展開は、「朝に道を聞けば夕べに死すとも可なり」ということを表しており、衝撃的であるだけでなく普遍性もあって心を打つ。
転生ものは大流行しているが、どの作品も異世界に転生するという前提の枠内であれこれ工夫している。本作は前提部分を一捻りして、現代のアイドルの子どもに転生させたことで全く新しい印象に生まれ変わらせた。芸能界の裏事情についても確かにそういうこともありそうと思わせるリアリティがある。
世界的に大ヒットした主題歌「アイドル」も素晴らしい。最後まで聞くたびにうるうるしてしまう。

今まではドラゴンボール、ワンピース、NARUTO鬼滅の刃のように全世界的人気を獲得するアニメ作品はバトルものに限られていた。それが、アイドルものという日本ローカルなテーマを扱っている作品が全世界的人気を獲得したことには隔世の感がある。
父親が誰かを突きとめるという目標のために、門番が課してきたミッションをクリアしていくという構造にすることで、アクアにバラエティに富んだ仕事をさせることに成功している。
アクアの目標が後ろ向きな点が気がかり。最終的に前向きな目標を獲得してくれれば良いのだが。

 

2)鬼滅の刃 刀鍛冶の里編(原作:吾峠呼世晴、監督:外崎春雄、アニメーション制作:ufotable

鬼と鬼狩りの戦いを描いた世界的大ヒット作。今シーズンは刀鍛冶の里を襲撃してきた上弦の肆、伍との戦いを描く。
刀鍛冶の里編の白眉は「無一郎の無」のエピソードで、ボロボロ泣いてしまった。余裕がないと人に優しくできないというのは歳と共に良く分かるようになってきた。
蜜璃のエピソードも心に染みた。私は花澤香菜さんのファンなのだが、蜜璃のようにとことん明るいキャラをノリノリで演じておられるのがすごい好き。
バトル面では、蜜璃が到着した段階で、ああこれでもう大丈夫だという安心感が出て緊張が削がれてしまった。遊郭編のバトルは、天元が弱いお蔭でぎりぎりまで追い詰められ、非常に面白かった。味方が頼りになりすぎるのも考えものだ。

刀鍛冶の里編の敵である半天狗と玉壺はひたすらエゴイスティックな悪い鬼だった。敵が妓夫太郎や猗窩座のように鬼側にも哀しい過去があった方がより感動的になるのだが、同情できる鬼ばかりだとワンパターンになってしまうので、シリーズ全体のことを考えればここで同情できない鬼を出してきたのは理解できる。
最後の展開はびっくりはしたが、伏線がないのでぽかんとしてしまった。珠代の予言を刀鍛冶の里編序盤あたりに仕込んでおいて伏線にした方が良かったのではないか。


3)Dr.STONE NEW WORLD(原作:稲垣理一郎Boichi、監督:松下周平、アニメーション制作:トムス・エンタテインメント

現代科学を一から再構築するという壮大なSFの第3期。宝島を舞台にお宝の争奪戦が描かれる。
地球の裏側まで行く前のお使いミッションかと思いきや、という視聴者の予想の一歩先を行くストーリーテリングに舌を巻く。ラストの引きも壮大でワクワクが止まらない。
敵のラスボス、イバラが悪賢いという言葉がぴったりの厄介な敵。賢い上に慎重でおまけにあらゆる冷酷な手を駆使してくるものだから、千空達が立てた計略が次々覆され、さらにそれの裏をかき、という攻防が繰り返される。
漫画に出て来る天才は本当に天才なの?と思うことが多いが、Dr.STONEは頭が良い原作者が頭脳を振り絞って考えた攻防戦なので、真の天才同士のコンゲームになっており、全く先が読めない。

Dr.STONEの一番好きな所は作中キャラにヒエラルキーがないことだ。バトルものだと戦闘力が高いキャラの、推理ものだと推理力が高いキャラの、恋愛ものだとモテるキャラのヒエラルキーが高い。例えば『鬼滅の刃』で言えば、柱のヒエラルキーが一番高い。隠や刀鍛冶のようにバトル以外で貢献しているキャラもいるものの、作中のメインの評価軸はあくまで戦闘力だ。
Dr.STONEの場合、評価軸がキャラの数だけあって完全に対等になっている。そして全キャラにしっかり長所を生かした活躍の場が用意されている所が素晴らしい。怠惰で性格がゲスい銀狼ですら女装が似合うという意外な特技を生かして活躍したのには胸が熱くなった。滅茶苦茶面白いのに、あまり話題になっていないのが不思議だ。


4)無職転生II~異世界行ったら本気だす~(原作:理不尽な孫の手、監督:平野宏樹、アニメーション制作:スタジオバインド)

転生ものの代表作の第二期。ラノア魔法大学での出来事をルーデウスとシルフィの恋愛を中心に描く。
無職転生IIは小説家になろう版の原作既読なのだが、アニメ版は原作に忠実でありながら、サブキャラクターの背景設定のような情報はばっさりカットし、アニメ映えする動きのあるエピソードを中心にぎゅっと濃縮しているため非常に密度が濃い。
背景の美しさも見所の一つ。ラノアの魔法大学や町並みが空気感まで伝わるほど描きこまれており、何気ないシーンでも、外国を旅したかのような満足感がある。

本作と他の転生ものの一番の違いは、現世の男という転生前の意識が消え去らずに残存していることだろう。可愛い天才魔法少年ルーデウスに転生してやり直すという話でありながら、その正体は太った無職の中年男であるという見たくない現実を示し続けている点は、本作の容赦のなさを象徴している。
二人の関係がアンバランスなせいでトラブルが巻き起こる、ひねりが効いたラブコメばかり見てきたので、相思相愛でお似合いな二人が真っすぐに愛を育んでいくラブストーリーが逆に新鮮だ。変なひねりを入れなくても、拒絶されたらどうしようという不安や現状維持したいという臆病な心とそこから一歩踏み出す勇気をしっかり描けば十分面白いと気付かされた。


5)天国大魔境(原作:石黒正数、監督:森大貴、アニメーション制作:Production I.G

それ町石黒正数氏原作のポストアポカリプスものSF。
マルとキルコのロードムービーと謎の学園のエピソードが交互に語られ、徐々に両者の関係が明らかになっていくという凝った構造になっている。こういう込み入った設定のSFでは最初にあれこれ説明したくなるが、本作は何も説明しないことで、視聴者が考察したくなるように作られている。情報コントロールが絶妙で、一つ謎が明らかになると、また別の大きな謎が生じるので、興味が途切れない。
エロスについて踏み込んで描いているのも特徴で、好きという気持ちは美しいだけではなく、薄暗いエゴイスティックな欲望を伴っているということを逃げずに描いている。

完璧な兄を乗り越えることで成長するというモチーフは鬼滅の刃グレンラガンなど多く見られる構造だが、通常は完璧な兄が死ぬことで自立する。本作の兄との決別は全く見たことがないパターンで衝撃を受けた。こんな残酷な決別、他にあるだろうか。そこに至るまでの不穏さが積み上がっていく演出も印象深い。
最終話が近づいているのに、続々と新たな謎が登場し、どんどん謎が重層的に膨らんでいくので、どうやって畳むんだろうと思っていたら、畳まずに終わってしまったので呆然とした。原作が完結してからアニメ化してくれれば良いのに。


6)スキップとローファー(原作:高松美咲、監督:出合小都美、アニメーション制作:P.A.WORKS)

能登から都内の高校に進学してきた岩倉美津未とクラスメイト達の高校生活を描く群像劇。
P.A.WORKSは最近立て続けにバイオレンスアクションをやっていたが、やはり本作のような心がほっこりする日常アニメの方が向いている。
本作は何と言っても美津未のキャラが良い。田舎の大家族でたっぷり愛情を受けて育っているので、ごく自然に人の善性を信じている。彼女の前向きな温かさが、布団に入れた湯たんぽのように周囲をじわじわと変えていく。
本作で描かれているのは大半が高校生の本当にたわいない日常的なエピソードだ。だが、劇的なことが起きなくても、心の落ち込みとそこからの回復を効果的な演出で描けば、十分心動かされるということを気づかされた。

本作は海外の春アニメ評価ランキングで一位を獲得した。【推しの子】は劇的なので外国人にウケるのも分からなくはないが、本作のようなささやかな日常を描いたアニメが海外で大人気と聞くと、日本と海外のアニメファンの差はもはやほとんどないのだということを実感する。
美津未は官僚になってゆくゆくは石川県知事を目指すと公言しており、彼女の世間知らずな真面目さを示すエピソードとして笑って見ていたのだが、正月の地震で奥能登が壊滅的被害を受けた後で見ると、裏にある切実さが見えてきて笑えなくなってしまった。帰省の回で描かれた、東京とは全く時間の流れ方が異なっている奥能登の夏の一日を見たら、誰もが気軽に限界集落からは移住しろなどとは言えなくなるのではないだろうか。


7)君のことが大大大大大好きな100人の彼女(原作:中村力斗・野澤ゆき子、監督:佐藤光、アニメーション制作:バイブリーアニメーションスタジオ)

驚異の100股ラブコメ。2020年3月に『カノジョも彼女』が主人公が堂々と二股する二股ラブコメという新ジャンルを開発したと思ったら、2020年4月には100股ラブコメの本作が登場した。ジンバブエドルも真っ青のインフレっぷりである。
ラブひな』のようなハーレムラブコメは交際していない状態なので、主人公が複数の女子からアプローチされていても倫理的問題はないものの、主人公が優柔不断に見える、最終的にメインヒロイン以外が負けてしまうという問題があった。
負けヒロイン問題に関しては、マルチエンディングにするといった解決策が模索されていたが、優柔不断問題は構造上解決不能と思われていた。
『カノジョも彼女』は優柔不断問題を解決したものの、二人としか付き合わないので負けヒロイン問題は残ったままだった。
本作は主人公に堂々と100股させるというコペルニクス的転換によって、優柔不断問題と負けヒロイン問題の両方を一気に解決することに成功した。100股しなくてはいけない理由を導入することで、主人公恋太郎がX股しているにも関わらず、誠実で格好良いというありえない両立を達成している。

本作はとにかく好本静登場回の第3話が素晴らしい。まさか100股ラブコメなどというクレイジーな内容のアニメでボロ泣きするとは思わなかった。ヒロイン毎にコンプレックスを掘り下げてしっかり描いてから肯定するという王道パターンがなされているので、ほろっとさせられる。
ギャグのテンポが良いことも大きな魅力。栄逢凪乃が登場した第5話は遊園地デートで合理的すぎる凪乃に恋太郎がツッコむという内容。M-1グランプリ並みのギャグ密度で笑い転げた。


8)呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変(原作:芥見下々、監督:御所園翔太、アニメーション制作:MAPPA)

呪霊と呪術師の戦いを描いた大人気バトルアニメ。五条悟と夏油傑の過去を描いた「懐玉・玉折」と渋谷における死闘を描いた「渋谷事変」が続けてアニメ化された。
本作最大の魅力は何と言ってもアニメーションの極致とも言うべき神作画だろう。MAPPAのアニメーションは以前から凄かったが、遂にMAPPAの全能力を極限まで引き出せる原作が登場した感がある。
特に両面宿儺vs魔虚羅は圧巻で、画面上で動いているものの数が既に人がしっかり認識できる限界を超えているので、これ以上複雑にしても意味がない。まさにアニメの極致だ。
リアリティがすごい点にも舌を巻く。細部まで忠実に再現された渋谷の街が、実写のようなリアリティのある破壊のされ方をするという物理的な面だけでなく、長く続いた組織における不毛な足の引っ張り合いとか、田舎の排他的な様など、設定、エピソードにも抜群のリアリティがある。
三輪と与の会話など切ないシーンの演出も印象深い。

一方、本作には不満も多い。最大の不満は「必死に頑張ったが努力は無意味で、最終的に敵の思い通りになった」という展開が繰り返されることで、勧善懲悪が好きな私には滅茶苦茶フラストレーションが溜まった。
渋谷事変では某人気キャラが死ぬのだが、雑魚に圧勝した他は、強敵相手に全然活躍できないままやられてしまった。殺すにしても強敵をぎりぎりまで追い詰めるとか、仲間を守り抜くみたいな見せ場を作ってからにしてほしかった。


9)ゴールデンカムイ(原作:野田サトルチーフディレクター:すがはらしずたか、アニメーション制作:ブレインズ・ベース)

明治時代の北海道を舞台にした金塊争奪戦の第四期。
本作が面白い理由の一つ目は未知の世界を知る喜びだ。日露戦争後の北海道・樺太という今まであまり物語の舞台となって来なかった場所を舞台にし、徹底的に調べて描いているため、アイヌ文化を中心にそんな風習があったのかという文化人類学的面白さがある。今期ではアイヌの下ネタ民話が下らなくて面白かった。下ネタ民話はあまりアイヌ文化として発信されないので、新鮮な驚きがあった。
二つ目の理由は味のあるキャラクターだ。出て来るのは囚人や、囚人の皮を集めて黄金を手に入れようとしている連中であり悪人が多いのだが、単に悪いだけでなく彼らなりのこだわりがあり、そこが魅力になっている。
今期では鶴見中尉の忠実な部下である月島軍曹の隠れた内面が明らかとなり、心打たれた。鯉斗少尉は奇声を上げて転がっていたのでただの変態かと思っていたら、珍しくまともな男だと分かった。私が大好きな谷垣のエピソードも印象深い。
主要キャラクターは全員過去回が回想で入り、それが全て心がざわめくようなエピソードで、棘のように心に残る。深い欠落を抱えた連中の話であり、PTSDの話でもある。日本は戦後長らく戦争がなかったので戦争のPTSDを描いている作品は珍しい。

良くない点は話が行きつ戻りつしていて、終わりに向かって進んでいる感が全然ないこと。入れ墨人皮が全部で何枚ぐらいなのかを最初に示さなかったせいで、無限に話を増やすことができる一方、どのぐらい話が進んでいるのか全然分からなくなってしまった。面白いエピソードを強引にねじ込んでいったお蔭で面白くなっているという面もあるので功罪あるが、途中で残り何枚だと示しても良かったのではないか。


10)僕の心のヤバイやつ(原作:桜井のりお、監督:赤城博昭、アニメーション制作:シンエイ動画

クラスメイトを殺す想像をしているヤバい少年が、クラスの人気者女子と仲良くなっていくボーイミーツガールもの。
ヤバい主人公の市川はただの中二病であり、ヒロイン山田の方がより変なのが面白い。
非モテの男子とクラス一の美女が両想いなのになかなか進展しないなどという設定は美女と野獣の昔からあるベタ中のベタ設定だ。だが、二人のキャラの面白さと思春期の鬱屈した想いの解像度の高さで新鮮味を出すことに成功している。それほど劇的なことは起きないのに、二人のドキドキ描写が鮮やかで、観ているこちらまでドキドキしてしまう。キャラと細部が良ければ設定はベタで良いのだと痛感する。
思春期のエロに囚われているが、エロいことは良くないことだという潔癖さも強い中学生男子の葛藤が赤裸々に描かれており、解像度が高い。こういう話だと、主人公男子を単に鈍感にして振り回される女子の可愛さを楽しむ漫画にしがちだ。本作は鈍感ではあるのだが、しばらくしてから気づいたり、他人のことだと気づいたりと、気づき方にリアリティがある。

からかい上手の高木さん』に端を発する高木さんものは、「高木さんが西片をからかい、西片が反撃しようとするが返り討ちにあう」といったような定型構造があるので、やりとりにドキドキしつつも、定型通りに終わるという安心感がある。
本作も最初は「山田の変な行動に市川が内心突っ込みを入れる」という定型がある作品だったのだが、途中から定型がなくなったので、話がどう展開するか分からず、それが恋愛の先が見えないドキドキとマッチしている。

 

他にも「とんでもスキルで異世界放浪メシ」、「吸血鬼すぐ死ぬ2」、「SPY×FAMILY」、「マッシュル-MASHLE-」、「TRIGUN STAMPEDE」、「お兄ちゃんはおしまい!」、「百姓貴族などが面白かった。

2023年のランキングを見るとトップ3がジャンプ作品であり、相変わらずジャンプが強かったという印象だ。トップ10のほとんどが人気作なので、今年はもっとマイナーだが面白い作品を発掘できるよう頑張りたい。

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