東雲製作所

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2022年テレビアニメベスト10

毎年恒例アニメの年間ベストをお送りする。去年のベスト10では何とか4月中には発表したいなどと書いていたが、5月になってしまった。

1)鬼滅の刃遊郭編(原作:吾峠呼世晴、監督:外崎春雄、アニメーション制作:ufotable
言わずと知れた鬼と鬼狩りの戦いを描いた国民的大ヒットアニメ。
最終話は何度見てもボロ泣きしてしまう。沢城みゆき氏が上手いのは周知の事実だが、逢坂良太氏の演技も負けず劣らず素晴らしかった。
吾峠氏が最も優れているのは一瞬でキャラを立てる手腕だろう。煉獄杏寿郎が「うまい!」と連呼しながら大量の弁当を食べていたり、宇髄天元が「こっからはド派手に行くぜ」と言ってド派手に登場したりするだけで、読者はどんなキャラなのか強烈に印象づけられる。この技術は漫画家の中でも卓越している。
物語は途中の絶望が酷いほどラストのカタルシスが大きくなる。鬼滅の刃は絶望に長けた作品だが、遊郭編は特に途中の絶望度がすごかった。負けると死ぬようなバトルものはどうせ主人公が勝つんだろと思いながら見るものだが、遊郭編は、これどうやっても勝てないだろ、と観ている私も心が折れた。それでも諦めなかった炭治郎の心の強さに心打たれた。
遊郭編は善逸が格好良いのも嬉しい所。眠っていても体が反射的に動いて強いというなら分かるが、眠っていても極めて理知的な状況判断ができるって、一体どういう状態なんだ。


2)リコリス・リコイル(原作:Spider Lily、監督:足立慎吾、アニメーション制作:A-1 Pictures
少女のバディものガンアクション。『ベン・トー』のアサウラ氏が原案を務めている。
11話のラストのカタルシスがすさまじく、興奮のあまり「うおー!」と叫んでしまった。閉ざされた心の壁をも打ち破るという二重の意味になっているのが素晴らしい。
本作最大の魅力は千束の愛らしさだろう。好きな人に対して満面の笑顔でテンションもキーも高くなっている声で話しかける所がすごいチャーミングだ。こんな好き好きオーラ全開で話かけられたらたきなじゃなくても好きになってしまう。安済知佳氏の演技がまた絶妙で、無理して明るく振舞っている時と、本心を吐露している時の違いを微妙な声質の違いで表現していて、ベテランかよと感心することしきりだ。
本作のユニークな所は主人公の役割を3人で分担している所だ。千束は仲間を守るために敵と戦い、たきなは成長し、真島は強大な敵に挑んでいる。12話で話の決着はついているので、13話のバトルはなくても良かったのではないだろうか。


3)明日ちゃんのセーラー服(原作:博、監督:黒木美幸、アニメーション制作:CloverWorks)
女子中学生の明日小路がクラスメートと友誼を結んでいく話。
劇的なことは起きないが、悩みとその解消をしっかり描いているので、毎回、映画を一本見終わったような満足感がある。特に特別な才能を持たない蛇森が頑張ってギターの練習をする第七話が素晴らしい。
映像の美しさも見所の一つ。女生徒と周囲の風景が情感豊かに描かれており、ささやかな日常も心の持ちよう次第で美しく輝き出すのだと気づかされた。
大勢いるクラスメート一人一人が生き生きしており、作中で描かれていない所でも彼女たちの生活があるということがはっきり感じられる。
CloverWorksは本ランキングに三作品も入っている。2022年はCloverWorksの年だったと言っても良いだろう。

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4)サマータイムレンダ(原作:田中靖規、監督:渡辺歩、アニメーション制作:OLM TEAM KOJIMA)
紀淡海峡の小島を舞台にしたタイムリープ伝奇アクション。
タイムリープしてやり直せるという設定の作品は、死んだらやり直せば良いので緊張感がなくなってしまうという欠点があるが、本作はタイムリープする時間が迫って来て追い付かれるとそれ以上タイムリープできなくなるという設定によって、全編にわたって高い緊張感を維持することに成功している。特に前半のこんな奴絶対倒せないだろうという絶望的な状況から逆転するカタルシスが素晴らしい。
真夏の離島という設定が絶妙で、逃げ場のない切迫感と日本の原風景のようなノスタルジーと非日常的高揚を同時に感じることができる。
「影が道具をコピーした場合、元の道具を消さないと使えない」という設定と例外規定が複雑すぎて、途中からどうしてこれが使えてこれが使えないのかが理解できなかった。コピーしても使えるという設定でも良かったのではないか。


5)機動戦士ガンダム 水星の魔女(原作:矢立肇富野由悠季、監督:小林寛、アニメーション制作:サンライズ
モビルスーツによる決闘で花嫁を奪い合う学園ものの第一期。12話の衝撃展開は視聴者に阿鼻叫喚を巻き起こした。
大河内氏の脚本は作劇法上学ぶべき所が多い。特に、視聴者に与える衝撃を大きくするため、悲劇の前に喜びのシーンを入れるような手法は参考になる。
本作は不適切で解消すべき関係性が多数描かれているところがユニークだ。エンタメ作品はヒーローとヒロインが結ばれて終わることが多いが、スレッタとミオリネは二人とも異性愛者だし、共依存関係なので、最終的に二人が結ばれて終わるとは考えにくい。親子関係もみな不健全であり、再構築が必要なものばかりだ。
スレッタは吃音だが、ヒロインの個性の一つとして吃音が設定されているのに好感を持った。人種的に多様だったり、太めの女子が登場したり自然に多様性が表現されている。
本作は登場人物が多く、しかも聞きなれない名前ばかりなので、名前が全然覚えられない。はっきり名前を憶えているのはスレッタとミオリネ、グエルだけだ。ドラゴンボールらんま1/2ほど覚えやすくしろとは言わないが、せめてもっと聞き覚えのあるような名前にしてほしい。

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6)よふかしのうた(原作:コトヤマ、監督:板村智幸、アニメーション制作:ライデンフィルム
不登校少年コウと吸血鬼ナズナのボーイミーツガールもの。
下ネタ好きなのに恋バナには弱いナズナと、コミュ障だが女性相手でも遠慮がないコウが少しずれたやり取りをするのが楽しい。
スタイリッシュな原作をスタイリッシュな演出でアニメ化したので、センスの塊みたいな作品に仕上がっている。物語シリーズの板村監督による心象描写を多用した演出がめっちゃクール。大事な表情をあえて見せなかったり、電車の通過音で激しい動揺を表したりすることで、直接表現するよりもキャラクターの心情がより強く伝わってくる。構図も凝っていてアニメでしか描けない作品に仕上がっている。Creepy Nutsのエンディング曲「よふかしのうた」が名曲で、気が付けばサビを鼻歌で口ずさんでいる。
本作はモノローグが詩的だ。「なずなちゃんといるのは楽しい。知らなかった自分の感情が沢山出てくる。でもそれは心がとても忙しい。楽しいという気持ちも精神的なストレスだと知る。」等にははっとさせられた。
私は本作に夜のよつばと!みたいなものを求めていたので、後半の展開は私の求めていたものではなかったが、それは私のモラトリアム願望なので、こういう展開の方が正しいのかもしれない。
本作は裏番組と録画時間が被っていたため、方々で録画が欠けている。フジテレビはアニメを中途半端な時間に放送するのを止めて欲しい。


7)ぼっち・ざ・ろっく!(原作:はまじあき、監督:斎藤圭一郎、アニメーション制作:CloverWorks)
コミュ障の女子高生ギタリストがバンドに加入する話。
私なんかが参加して良いのかなと思っている間にタイミングを逃すといったコミュ障の心理が赤裸々に描かれており分かりみしかない。基本的にぼっちの奇行を笑うギャグ漫画なのだが、分かりみが深すぎて笑えない部分がある。
結束バンドのオリジナル曲は普通に良い曲揃いで捨て曲がないので、アルバムが売れているのも納得である。ぼっちのギターソロがすごいっぽいぐらいは分かるが、細かい演奏のクオリティまで聞き分けられると、より作品を楽しめるのだろう。
自由自在な演出が印象深い。液状化したり、いきなりシュールレアリズムの絵みたいになったりと、ありとあらゆる技を使って、ぼっちが精神的に追い詰められた様をバラエティ豊かに描いていて、飽きさせない。
ストーリー的には台風下のライブがピーク。ぼっちが仲間のために奮起するという成長が描かれていてぐっと来た。


8)SPY×FAMILY(原作:遠藤達哉、監督:古橋一浩、アニメーション制作:WIT STUDIO、CloverWorks)
スパイと殺し屋と超能力者が疑似家族を作って共同生活する大人気スパイアクションホームコメディ。
昭和の頃は『ゴルゴ13』のようなシリアス漫画と『天才バカボン』のようなギャグ漫画は全く別物で、シリアス漫画には極端なギャグはなく、ギャグマンガはたまにシリアス展開になってもリアリティレベルは低かった。
SPY×FAMILYでは本格スパイアクション映画のリアリティレベルとギャグマンガのリアリティレベルが同居しており、振れ幅がすごいので読者の心を強く揺さぶることに成功している。
分割第一クール後半はフィオナの話が中心。可哀そうだが、アーニャにとってはヨルの方が明らかに母親としてふさわしいのでしょうがない。
黄昏の自称ライバル東雲が変すぎる。面白いが同じ名前としては複雑な心境だ。


9)チェンソーマン(原作:藤本タツキ、監督:中山竜、アニメーション制作:MAPPA
チェンソーの悪魔をその身に宿した少年が悪魔と戦うバトルアクション。
「人間に仇なすものの力を借りて仇なすものを討つ」という物語構造は鬼滅の刃や呪術廻戦と全く同じだが、圧倒的センスによって新奇性を獲得している。
想像より早く、より最悪に物事が進行するので、常に驚かされる。物語上の課題に対し、普通の作者はどうすれば解決できるかと考えるのに対し、藤本氏はどうすれば読者が最も驚くかと考えているのではないだろうか。
本作の長期的目標が存在せず、刹那的願望と充足の繰り返しでしかないという物語展開が、主人公デンジの生き方そのものを表している。その日暮らしの貧困家庭に育った子供はその日一日を生きることに精いっぱいなので、長期的展望を持つことが難しいのだという。父親の借金返済に追われ、極貧生活を送っていたデンジはまさにそういうキャラクターだ。
キャラクター造形やストーリー展開は破天荒だが、心に余裕がないため刹那的にしか生きられない心理描写はリアルかつ直截的で心打たれた。


10)王様ランキング(原作:十日草輔、監督:八田洋介、アニメーション制作:WIT STUDIO
非力で聾者のボッチ王子がカゲと共に立派な王様になることを目指す物語。2022年のアニメ界はボッチに始まりぼっちに終わったと言える。
王子なのに非力で言葉も話せないという大きな欠落と、それゆえの悔しさをしっかり描いているので、視聴者が共感できるし、物語の駆動力が強い。特に、巨人族の子供なのになぜボッチが小さくて非力なのかが明らかになった時は、「そういうことか!」と膝を打った。物語史に残る見事な設定だ。
一方、父のボッス王が何を考えているのか良く分からない。王様ランキングというタイトルも本作の核心を表していない。おそらく、作者は非力な王子が王様ランキング1位を目指すという設定を最初に思いついて、後づけで色々設定を足していったので、部分的に無理が生じてしまったのではないだろうか。


その他にも、Engage Kiss、パリピ孔明、その着せ替え人形は恋をする、ヒューマンバグ大学ー不死学部不幸学科-、メイドインアビス烈日の黄金郷、それでも歩は寄せてくる、まちカドまぞく2丁目、スローループなどが面白かった。

2022年はレベルが高く、例年ならベスト10に入るような作品がこぼれてしまった。ベスト10は有名な作品ばかりになってしまったが、面白いのだからしょうがない。
2022年はアニメの当たり年だったが、2023年も豊作である。すでに1月開始アニメで観れてないのがいくつもあるので、来年も今ぐらいの発表になりそうだ。

 

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