東雲製作所

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乙一「プロットの作り方」感想――型を使ってこそ自由に創作できる

『ミステリーの書き方』(日本推理作家協会編著、幻冬舎を読んでいる。480ページもある分厚い本で、日本推理作家協会に所属する43名の著名作家がそれぞれの得意分野について創作法を伝授してくれるという贅沢な本だ。
中でも乙一氏による「プロットの作り方」は論理性、有用性で一頭地を抜いている。
ハリウッド映画のシナリオ執筆法を参考に構築したという氏のプロット構築法は下記の通りだ。

一章
A「一つ目のパート:登場人物、舞台、世界観の説明」
a「一つ目の変曲点:問題の発生」
二章
B「二つ目のパート:発生した問題への対処」
b「二つ目の変曲点:問題が広がりを見せ、深刻化する。それによって主人公が窮地に陥る」
三章
B「三つ目のパート:広がった問題に翻弄される登場人物。登場人物の葛藤、苦しみ」
c「三つ目の変曲点:問題解決に向かって最後の決意をする主人公」
四章
B「四つ目のパート:問題解決への行動」
それぞれの章の完成原稿は均等な長さになるよう心がける。

乙一氏のプロットの作り方の特徴は汎用性が高いことだ。
比較のため、代表的なハリウッド式のプロット構築術である『ハリウッド脚本術』(ニール・D・ヒックス著/濱口幸一訳、フィルムアート社)のストーリー要素を挙げる。

1.バック・ストーリー
2.内的な欲求
3.キッカケとなる事件
4.外的な目的
5.準備
6.対立(敵対者)
7.自分をハッキリと示すこと
8.オブセッション
9.闘争
10.解決

『ハリウッド脚本術』では、敵対者と最終決戦をして勝利するという流れがプロットに組み込まれているので、ハリウッド的な物語しか作ることができない。
一方、乙一氏の方式はより抽象度が高い。逃げ出したり、敵対者と和解したりして解決しても良いのでより多様な物語を作ることができる。


乙一氏のプロットの作り方には二つ注意点がある。
一つは短~中編向きで長編には向かないということだ。長編の場合、起承転結起転結のように第二の問題を発生させないと話がダレてしまう。

二つ目は長さをぴったり均等にする必要があるのか疑問だということだ。
4パートの長さは均等が良いというのは映画における経験則に基づいていると思われる。だが、4パートの長さが10:10:10:10の場合と、少し長さを変えた場合(11:10:10:10など)を被験者に鑑賞させ、ぴったり均等がもっとも評価が高かったというような実験結果を得ているわけではないだろう。
また、映画の場合均等にすれば視聴者は同じ時間をかけて鑑賞するが、小説の場合、会話と描写で読者の読む速度が異なるので、行数を同じにしても読むのにかかる時間は同じにならないという問題もある。
普通の小説では二章が長めで、主人公最大の窮地は物語後半に来ることが多い。4パートの長さはぴったり同じにしなくても良いのではないか。


本稿を読んでもっとも感じたのは型の強さだ。発想のユニークさが卓越している乙一氏の小説が、きっちり型を守ることで生み出されているのが面白い。
完全に自由に書こうとしても、面白いストーリーでなくてはいけないという枷があるので、かえってありがちな展開になってしまう。
型を守れば型によって面白さが担保されているので、思い切り自由に発想を飛ばすことができるのだ。