東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)の投資と評論サイトです。ジオシティーズ(http://www.geocities.jp/shinonomenod/)から移転してきました。

書評

クライマーズ・ハイ感想――冴えないおじさんの人生だって面白い

(本稿は『クライマーズ・ハイ』の抽象的なネタバレを含みます。) 『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫著、文藝春秋)は日航機墜落事故を報じる北関東新聞社内の出来事を追った2003年の小説だ。読んで感じたのはこの20年でエンタメセオリーが大きく変化したと…

天才とは量をこなせること――売れる作家の全技術感想

『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』(角川書店)は『新宿鮫』などで知られる大沢在昌氏による小説の書き方本だ。天才が書いた本なので天才にしか役に立たない。 いや、役に立たないは言い過ぎで、凡才にも部分的には役に立つ…

盤上の向日葵感想――100日間のどこかで死ぬワニの周囲の誰か

(本稿は『盤上の向日葵』の抽象的なネタバレを含みます。)『盤上の向日葵』(柚月裕子著、中央公論新社)は将棋を題材にしたミステリーだ。563ページもある長編だが、この先どうなるんだという興味でぐいぐい読まされ、特に後半は一気読みした。 『100日後…

スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました感想

『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(森田季節原作、木村延景監督)(以下スラMAX)は異世界に転生し不老不死になった主人公アズサが、300年間コツコツスライムを倒していたら最強になっていたという出落ちのような小説が原作…

流感想―人生は素晴らしいものであってくれという祈り

(本稿は『流』の抽象的なネタバレを含みます。) 『流』(東山彰良著、講談社)は1980年前後の台湾を舞台にしたマジックリアリズム小説だ。 抗日戦争から現代へと続く堂々たる大河小説であり、初恋を描いた瑞々しい青春小説であり、鮮やかなミステリーでも…

たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座感想

『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座』(田丸雅智著、キノブックス)は各地でワークショップをやっているショートショート作家の田丸氏が、誰でも必ずショートショートが書けるというメソッドを開示した本だ。本当に誰でも書けるのか…

『ゆるキャン△12』感想―好きなことをやる自由とリアリティレベル

(本稿は『ゆるキャン△12』のネタバレを含みます。) 『ゆるキャン△12』(あfろ著、芳文社)はドラマも放送中の大人気キャンプ漫画の最新刊だ。12巻は千明、あおい、恵那の三人が行った瑞牆山キャンプの回想が描かれる。 私はなでしこが大好きなので、三人…

プロ作家になるための四十カ条感想

『プロ作家になるための四十カ条』(若桜木虔著、KKベストセラーズ)は加藤廣氏など18名の生徒をプロデビューさせたという小説家養成講座の講師が書いた小説の書き方本だ。普通の小説の書き方本が面白い小説を書く方法を説いているのに対し、本書は新人賞を…

本屋大賞作家のデビュー新人賞まとめ

作家になるのは大変だが、作家になってから生き残るのも大変だ。作家としてデビューしても、本が売れなければ新刊が出せなくなってしまう。作家としてやっていくにはただの作家ではなく人気作家にならなくてはならない。 人気作家の証の一つが本屋大賞だ。書…

真実の10メートル手前感想――計算された駆動力

(本稿は『真実の10メートル手前』の抽象的ネタバレを含みます。) 『真実の10メートル手前』(米澤穂信著、東京創元社)はフリージャーナリスト大刀洗万智の活躍を描いた連作ミステリー短篇集だ。ほとんどの作品にろくでもないおじさんが登場し、ろくでもな…

明るい未来は自分で見つける――ゆるキャン△11巻感想

(本稿はゆるキャン△11巻のネタバレを含みます。) ゆるキャン△(あfろ著、芳文社)はアニメ化、ドラマ化された大人気キャンプ漫画だ。11巻はリン、綾乃、なでしこの三人による大井川キャンプが描かれる。 // リンク リンと綾乃がバイクで、なでしこが電車で…

女のいない男たち感想――嵐の中では語れない

(本稿は『女のいない男たち』のネタバレを含みます。) 『女のいない男たち』(村上春樹著、文藝春秋)は2014年に刊行された、「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェラザード」「木野」「女のいない男たち」の六編からなる短篇集だ。…

かがみの孤城感想――なぜ主人公を変えなかったのか

(本稿はネタバレに配慮してはいますが、抽象的にはあからさまなネタバレを含みます。) 『かがみの孤城』(辻村深月著、ポプラ社)は2018年本屋大賞受賞作だ。七人の不登校児が鏡の中の城に集まって何でも願いが叶う鍵を探す話で、細やかな心理描写に引き込…

蜜蜂と遠雷感想――空とケレン味

(本稿は『蜜蜂と遠雷』の抽象的ネタバレを含みます。) 『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著、幻冬舎)はピアノコンクールを舞台に、タイプの違う天才達がしのぎを削る、音楽バトル小説だ。本作の大きな魅力は、作者自ら天下一武道会に例えるケレン味だ。全選手入場的…

人類の未来 AI、経済、民主主義感想――イメージに囚われず論理的に考える。

『人類の未来 AI、経済、民主主義』(ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソン、吉成真由美[インタビュー・編]、NHK出版新書)は元NHKディレクターのサイエンス・ライター、吉成真由美氏…

メイドインアビス4,5巻感想――愛の物語

(本稿はメイドインアビス4,5巻のネタバレを含みます。) 『メイドインアビス』(つくしあきひと著、竹書房)は探窟家の子供リコと機械人形のレグがアビスという縦穴を底へ向かって降りていく物語だ。リコとレグは黎明卿ボンボルドの元から逃げてきたナナチを…

賭博師は祈らない感想―どうでもいいは強いが意味がない

『賭博師は祈らない』(周藤蓮著、電撃文庫)は第23回電撃小説大賞金賞受賞作だ。ライトノベルには珍しい歴史小説で、18世紀末イギリスの文化を丹念に調べて書いている。 主人公ラザルスは店に睨まれないため大きく勝たない主義の賭博師だが、ある日、ちょっ…

「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」感想――善性の笑い

ナイツは昔から大好きな漫才師だ。膨大な数のボケを畳み掛けてくるヤホー漫才を生み出しただけに留まらず、他の漫才師のスタイルのパロディをやったり、「俺ら東京さ行ぐだ」にひたすらツッコミ続けたり、英語で漫才をやったり、今も次々と新しいスタイルを…

個性を祝福する文学――十二人の死にたい子どもたち感想

『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁著、文藝春秋)は連休中に一気読みした。こんなにページを繰る手を止められない小説は久しぶりだ。 本作は十二人が室内で議論をしながら事件の謎を解いていくという『十二人の怒れる男』のオマージュ作品だ。『十二人…

娯楽と真実――王とサーカス感想

(本稿は『王とサーカス』の抽象的なネタバレを含みます。) 『王とサーカス』(米澤穂信著、東京創元社)は骨太なテーマを持った読み応えのある小説だ。ネパールの王族殺害事件に遭遇した記者、太刀洗万智がジャーナリストの存在意義を問われるのだが、それ…

2017小説年間ベスト10

東雲長閑が2017年に読んだ小説のベスト10です。2017年発売作品のベスト10ではありません。 万延元年のフットボール 大江健三郎 講談社文庫ノーベル文学賞受賞作家の代表作だけあって、非常に読み応えがある。感想を書く度に新しい発見があって、感想記事を三…

他者に向かって叫ぶべき本当の事――万延元年のフットボール感想

(本稿は『万延元年のフットボール』の抽象的ネタバレを含みます。) 『万延元年のフットボール』はノーベル賞作家大江健三郎氏の代表作だ。だが、新作と戦前の文豪の間のエアポケットに入ってしまって、最近ではほとんど話題になることがない。確かに難解な…

コンピューターにできること――ベストセラーコード感想

『ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム』(ジョディ・アーチャー&マシュー・ジョッカーズ著、解説西内啓、川添節子訳、日経BP社)はアメリカのベストセラーをコンピューターを用いて分析した本だ。テーマ、プロット、文体、…

ライトノベルとお約束ギャグ

少し前に「アニメの寒い描写がきつい」という増田記事が話題になっていた。 anond.hatelabo.jp 私も筆者が挙げている「女子のツッコミの過剰な暴力、寒いギャグやノリ、不自然なエロハプニング、シリアス展開中の不自然なギャグ」みたいなお約束ギャグはいら…

不条理な欠落――その女アレックス感想

(本稿は『その女アレックス』の抽象的ネタバレを含みます。) 物語は欠落を回復する過程を描いたものだ。桃太郎のおじいさんとおばあさんには子供が欠落しており、シンデレラは地位と伴侶が欠落している。欠落は自分のミス、不運、敵による侵害など様々な要…

戦略としての小説家――ライトノベル・フェスティバル2017(ゲスト森田季節先生)感想

まずは小説二作品の本編冒頭部分を読み比べて頂きたい。 「焼いたフルーツってずるい味がする」 二切れ目の焼きパイナップルを口に入れる前につぶやく。率直な感想なんだけど、我ながらいまいち要領を得ない表現だ。「ずるいって何だよ?」 ほら、広峰には伝…

異なったリアリズムの混在――コンビニ人間感想

(本稿は『コンビニ人間』の抽象的ネタバレを含みます。) 不気味さの谷という言葉がある。人間とは全然違うロボットや人間と見分けがつかないロボットは不気味ではないが、人間のようで微妙に違うような外見や動きのロボットは不気味に感じることを指す。 …

アイデア大全のアイデア創出法を整理する

読書猿氏と言えば、知的で役に立つブログ、「読書猿Classic: between / beyond readers」で有名である。物語作者がチラシの裏に書くべき7つの表/もうキャラクター設定表はいらないは小説を書く時お世話になっている。 そんな読書猿氏初の著作が『アイデア…

エンタメとして評価すべき――罪と罰感想

(本稿は『罪と罰』のあからさまなネタバレを含みます。) 『罪と罰』(ドストエフスキー著、工藤精一郎訳、新潮文庫)は人間の罪に関する深い洞察を含んだ高尚な純文学であると思われている。例えば、下巻の裏表紙には「ロシア思想史にインテリゲンチャの出…

酷い目に遭いたいという欲望――ぼくは明日、昨日のきみとデートする感想

(本稿は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の抽象的ネタバレを含みます。) 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(七月隆文著、宝島社文庫)を読んで、非対称性に居心地の悪さを感じた。本作の恋愛は構造的困難さを抱えており、その負荷は男女が均…