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中国株は有望か

JPモルガンが各資産の長期(10-15年)リターン見通しを公表している。

am.jpmorgan.com

中国国内株式がリターン1位と予想している。
日本人が容易に投資できそうな資産のみ抜き出してみると、下記の通りだ。

中国国内株式        8.2%
ユーロ圏大型株        7.1%
日本を除くACアジア株        7%
香港株        6.9%
新興国株        6.9%
日本株        6.7%
EAFE株(米国・カナダ以外の先進国株)        6.5%
米国のREIT        5.7%

米国大型株    4.1%

中国株の予想リターンは日本株に1.5%、米国株にダブルスコアの差をつけている。
そこで、中国株が本当に有望なのか検証してみた。


1.中国株とは
中国株には上海証券取引所深セン証券取引所から成る本土市場と香港市場がある。
中国本土株にはA株とB株がありA株は中国人投資家しか買うことができない。
だが、市場全体に投資するETFなら、いくつか東証にも上場しており、日本人でも買うことができる。

東証上場の中国株ETFの比較に関しては、下記の記事が詳しい。

se-jinblog.com


1322(CSI300)、1309(上海50)、2530(上海180A)について比較し、流動性、リターンの観点から【1322】上場インデックスファンド中国A株(パンダ)E Fund CSI300 を推奨されている。

上海50や上海180Aは上海株のみなのに対し、CSI300は上海株に加え深セン株を含んでいる。深セン市場は米国で言うナスダック、日本で言うマザーズのような新興市場で、成長性が高い企業が集まっている。長期的に見れば深セン株を含んでいた方が良いだろう。


2.CSI300のリターン・リスク
モーニングスターから上場パンダの5年、10年のリターン・リスクを調べて、他の資産と比べてみた。

投資信託 5年リターン 標準偏差 10年リターン 標準偏差
上場パンダ 9.14 19.35 11.76 26.88
eMAXIS 先進国 13.27 16.46 15.98 16.93
eMAXIS 新興国 7.43 18.21 7.69 18.56
eMAXIS NYダウ 13.41 16.59
eMAXIS TOPIX 6.44 14.58 11.58 16.53


CSI300の長期リターンは新興国株全体よりは良く、TOPIXよりわずかに良いが、米国株、先進国株に劣る。
一方、リスクは最も高い。

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CSI300のチャートを見ると時々すごい勢いで上昇しては急落している。上手く上昇に乗れれば短期で大きなリターンが得られるが、うっかり高値掴みすると何年も含み損を抱えることになる。


3.CSI300の銘柄検証
CSI300の組入上位10銘柄の情報を下表に示す。

銘柄名 漢字表記 保有比率 予想PER 3年利益成長率 業種 業務内容
KWEICHOW MOUTAI LTD A 貴州茅台酒 5.77 45.38 48.4 飲料(アルコール) 茅台酒の製造販売
CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY LT 寧徳時代新能源科技(CATL) 4.04 115.72 283.8 電化製品 電気自動車用電池
CHINA MERCHANTS BANK LTD A 招商銀行 2.97 9.47 43.6 地方銀行 商業銀行
PING AN INSURANCE (GROUP) OF CHINA 中国平安保険 2.65 7.71 12.2 生命保険 保険、銀行、投資、ネット金融
WULIANGYE YIBIN LTD A 五糧液 1.87 32.21 77.3 飲料(アルコール) 五糧液の製造販売
MIDEA GROUP LTD A 美的集団 1.74 17.77 35.1 その他資本財 生活家電の製造販売
INDUSTRIAL BANK LTD A 興業銀行 1.49 5.71 36.6 地方銀行 商業銀行
LONGI GREEN ENERGY TECHNOLOGY LTD 隆基緑能科技 1.48 34.3 280.6 半導体 単結晶インゴット、ウェハの製造販売、太陽光発電
EAST MONEY INFORMATION LTD A 東方財富信息 1.27 39.7 631.5 投資サービス インターネット金融サービスプラットフォームの運用
CHINA YANGTZE POWER LTD A 中国長江電力 1.23 18.94 20.7 電力会社 水力発電所を運営


組入1位の貴州茅台酒は酒造メーカーだ。時価総額一位とはアップル、トヨタサムスンのような世界的メーカーがなるというイメージがあったので、聞いたこともない酒造メーカーが時価総額一位と聞いて面食らった。
貴州茅台酒は健康によいとされる高級酒で贈答品の定番。原料のコーリャンが安いので非常に原価率が低く、ブランド力があるので参入障壁も高い。バフェットが言う所の堀を有したかなり美味しい商売だ。5位の五糧液も貴州茅台酒と双璧をなす酒造メーカーだ。
2位の寧徳時代新能源科技(CATL)は世界的なEV用の電池メーカーだ。PER115.7と非常に割高だが、3年でEPS3.8倍と急速に成長している。トップ10では他に、美的集団、隆基緑能科技、東方財富信息がハイテク企業だ。
他に招商銀行、中国平安保険、興業銀行と金融系企業が3社入っている。10位の中国長江電力はインフラ企業だ。

このように、業種は様々だが、ほとんどの銘柄でEPSが伸びているのは良い傾向だ。
問題は利益成長速度だ。


4.CSI300の利益成長率

www.ceicdata.com


上記のサイトから2012年2月末のPERを約14と読み取って、EPS成長率を概算してみた所、10年で1.44倍に成長していた。

S&P500 or ナスダック100 、2022年に投資するならどっち? | トウシル 楽天証券の投資情報メディア


一方、NASDAQ100のEPSは7年で倍、S&P500のEPSは8~9年で倍になっている。

米国株と比べると中国株は利益成長率が低い。非効率な国営企業を多く含んでいるからだろう。

CSI300のPERは概ね12.5~17.5で推移している。現在は16.55なので割安とは言えない。


5.全世界株インデックスにおける中国株の組み入れ比率
インデックス投資には全世界株派と米国株派がいる。
全世界株派は効率的市場仮説により、何を買ってもリスク当たりのリターンは同じであり、分散するほどリスクは軽減されるという理論に基づいて全世界の株式に分散投資している。
一方の米国株派は株のリターンは長期的に利益成長率に比例するので、高成長の市場を選んで投資した方が良いという考え方。私は基本的にこちらの立場だ。

全世界株の投資信託において、中国本土株は時価総額に比してわずかしか組み入れられていない。
時価総額で見ると米国46億 中国18億なのに対し、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の組み入れ比率は米国56.6% 中国4.9%だ。

https://emaxis.jp/pdf/koumokuromi/253425/253425_20200723.pdf

時価総額通りのウェイトで保有したいのなら、全世界株式インデックス保有額の17.2%分の中国株を買い足さねばならない。

ただし、リスクを軽減するために分散するのに、17.2%もハイリスクな資産を買い増すのは本末転倒な印象を受ける。買うとしても数%程度にとどめておいた方が良いのではないか。


6.まとめ
中国株は利益成長率が低くリスクが高いので、米国株派の人は投資する必要ない。
時価総額に比して、中国本土株は全世界インデックスへの組み入れ比率が低いので、全世界株派の人は数%程度なら買っておいても良いだろう。