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ブルーピリオド感想――クレイジーなことに挑む覚悟

(本稿は『ブルーピリオド』の抽象的ネタバレを含みます。)
『ブルーピリオド』(原作:山口つばさ、総監督:舛成孝二、アニメーション制作:Seven Arcs)は主人公矢口八虎が東京芸大合格を目指すアニメだ。
私は電撃小説大賞の応募作を仕上げている最中なのだが、芸大受験と小説新人賞応募がほぼ同じなので驚いた。

最初は絵画という未知の世界に関する薀蓄アニメとして気楽に楽しんでいた。だが、作中の予備校講師、大葉先生のアドバイスが、ことごとく小説の創作に直接役立つものばかりなので、メモを取りまくりながらもう一度頭から見返すことになった。


本作を見るまで、絵画は感覚と技術で描いているのだと思っていたが、実は小説と同じぐらい理論のウェイトが高いのだ。
大葉先生は、良い絵は構図が良く、作者の考えが明快に出ていると説く。構図=構成と考えれば小説と同じだ。
私は今書いている小説を何となく決めた結末にしていたのだが、ブルーピリオドを観てテーマについてよく考えた所、テーマと真逆の終わり方になってしまっていることに気づき、慌てて修正した。絵画も小説も、作品の隅々まで作者の明快な意図をもって構成しなくては駄目なのだ。


本作で一番心をえぐられたのは大葉先生の下記のセリフだ。
真面目さに価値があるのは義務教育までよ。真剣なのは良いことよ。でも苦手を克服するのはテストの点の取り方ね。それに良い子でいることを評価してくれるのは、そうだと楽な先生と親だけでしょ。
私はテストの点の取り方をしていたから全然受賞できなかったんだと気づいて慄然とした。

電撃小説大賞の2021年の応募数は長編だけで3255。受賞したのは9作。倍率361倍だ。
ブルーピリオドで東京芸大は現役生の合格倍率が200倍超でクレイジーだと言っており、そんな確率が低いものに挑戦する奴の気が知れないと思いながら見ていたが、電撃小説大賞で受賞するのは東京芸大に合格するよりさらに倍率が低いじゃないか。

八虎は油画選考の一次試験で、「この人数の中で目立つことが出来なければおそらく落ちる。」と斬新な構図で勝負に出る。
今までの私は戦略を間違えていた。面白い作品を書けば新人賞を受賞できると思っていたのだが、それはテストで良い点を取るやり方にすぎない。360倍を突破するには、審査員が驚くような強烈なものを出さなくては駄目なのだ。


作中の受験生達は、一日十二時間も描き続け、精神的にも肉体的にも追い詰められていく。まるで現代の科挙だ。
それに比べ、私はゲームをやったりはてブをやったり株をやったりと、小説と関係ないことで時間を浪費しまくっている。私には360倍に挑むというクレイジーなことをやっているという覚悟が全然足りていなかった。
もっと頑張らないとという熱をもらえたのが『ブルーピリオド』を観た一番の収穫だ。

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