(本稿は「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」の軽度のネタばれを含みます。具体的には誰と誰が戦うとか、ここの演出がすごかったというような情報を明かしています。どちらが勝つかや猗窩座の過去など、公式がぼかしている情報に関してはぼかして書きました。)
平日午後に半休を取って「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」(原作:吾峠呼世晴、監督:外崎春雄、制作会社:ufotable)を観た。夏休み中ということもあってほぼ満員だった。私は頻尿なので上映時間が長いのを心配していたが、上映前に3回も念入りにトイレに行ってから臨んだので、無事中座することなく見通すことができた。
感想を一言で言うと、アニメーション(美術とアクション)は素晴らしいが、構成には改善の余地がある。
1.素晴らしいアニメーション
まず、無限城のスケールに圧倒された。広大な空間の遥か彼方まで建物が続いていて、山手線内ぐらいの広さがありそうだ。しかもそれが縦横無尽に動き回っている。さすがTV版で使用したモデルを破棄して新たに作り直しただけのことはある。童磨の部屋も重厚な柱に水がたたえられた豪奢な部屋になっており、原作に比べ、空間の解像度が格段に高まっていた。
アクションも全てがド迫力に生まれ変わっていた。落下した炭治郎が義勇に助けられるという原作では何てことない一コマが、手に汗握るシーンへと変貌していて心つかまれた。超高速のバトルシーンは目で追いきれないほど。メインの猗窩座戦も一部屋で戦うのではなく、部屋の上を飛び移ったりと空間を広く使ったバトルになっていて、映画ならではの迫力があった。
声優さんの演技では、胡蝶姉妹が印象深かった。しのぶの悲痛な心情の吐露にはぼろぼろ泣かされたし、カナエが「関係ありません」と言うシーンでは、無理して言っているのが伝わって来て、心動かされた。
2.構成面の不満~猗窩座の映画にして欲しかった
一方、構成には不満が残る。まず、上映時間が155分とあまりに長すぎて途中で疲れてしまった。できれば2時間以内に収めてほしかった。
本作は主に、しのぶvs童磨、善逸vs上弦の陸、義勇・炭治郎vs猗窩座という三つのバトルが描かれているが、相互に関連がないので映画として散漫に感じる。無限列車編は全編を通して煉獄さんの映画と言って良いが、本作には全編を通した主軸が存在しない。
また、次の第二章はおそらく童磨戦決着までが描かれるのだろうが、原作1冊分しかなく、原作2冊分のボリュームがある本作と比べてあまりに短すぎる。時系列的には前後するが、しのぶvs童磨を童磨の二戦目と合わせて第二章にすれば、第一章、第二章共に分量的にちょうど良いし、内容的にも第一章は猗窩座の物語、第二章はしのぶの物語が主軸になるので、映画としてまとまりが良い。
また、村田達下っ端隊員の戦いや、お館様の指揮シーン等を膨らませたのは良いのだが、代わりに何かを削っていないので、テンポが悪く感じた。原作に忠実なのは良いが、戦闘中のセリフのうち、テンポを悪くしているものはある程度カットした方が良かったのではないか。
本作の白眉である猗窩座の過去シーンではぼろ泣きした。それだけに、猗窩座戦が終わった後の数分は完全に蛇足だった。戦闘が決着したらすぐに、花火をモチーフにヒロイン視点で猗窩座のことを歌ったしっとりとしたEDをかけて猗窩座の幸せだった頃の日常を振り返る演出にすれば、より感動的な気分で劇場を出ることができただろう。
本作は猗窩座再来というタイトルなのだから、猗窩座の映画であるということを前面に打ち出すような構成にして欲しかった。特にEDは鬼との戦いをテーマにした重厚な曲にするより、キャッチ―で切ないラブソングにした方が、曲も映画もさらにヒットしただろうにもったいない。
そうしなかったのは、作り手の、猗窩座は大量に人を殺している鬼だし、あまりフューチャーするのもいかがなものかという判断があったのかもしれない。