東雲製作所

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ChatGPTを使って小説を書いてみた(2)

(本記事は「ChatGPTを使って小説を書いてみた(1)」の続きです。)

shinonomen.hatenablog.com

 

 

前回生成した短編小説「佐藤と沢井」の問題点を再掲する。

問題点1 シーン間の接続が上手く行っていない箇所がある
佐藤が沢井の部屋の中を探し始めた後玄関のドアをノックしたり、佐藤は沢井の家に入った後沢井の母を無視していきなり小説の中に入ったりとシーン間の接続が上手く行っていない箇所がある。これは人が修正すれば簡単に解決できる。

問題点2 視点が乱れている箇所がある
本作は佐藤一元視点で描かれているが、「佐藤は残念そうに肩を落とし」のように佐藤を外から描写していたり、「彼女自身も彼に惹かれていった。」のように沢井の心情を直接書いている箇所がある。これも人が修正すれば良い軽微な問題だ。

問題点3 ディティールが端折られてあらすじのようになっている箇所がある。
「しかし、道中で多くの困難に直面する。二人は共同で、問題を解決し、道を進んでいく。」のように、小説というより小説のあらすじのようになっている箇所がある。このような箇所は具体的なエピソードに起こすべきだ。

問題点4 急展開すぎる
沢井がいきなり小説の中に入るのは急展開すぎる。急展開だと感じるのは伏線が張られていないからだ。小説の中に入るような超常的なことが起きるのなら、「謎の力を持つアイテムを手に入れた」のような伏線がほしい所だ。

問題点5 沢井の心情が理解できない
沢井がなぜ突然別れを切り出して小説の中にこもってしまったのかが分からない。沢井がそうするに至った原因を書くべきだ。

問題点6 構造がない
問題点5とも関連するが、沢井にどのような内的欠落があり、小説世界に入って戻って来るという体験を通してどのように成長したのかが描写されていないため、クライマックスのカタルシスがない。
この小説は沢井の成長物語なので、成長物語の構造を付与すべきだ。

まず、最も重要な問題点6から取り掛かった。


4.構造の付与

面白い物語には構造がある。物語の構造については先人の研究が蓄積されており、「欠落→回復」のような大構造から、ブレイク・スナイダー・ビートシートのように詳細なものまで様々存在する。構造の種類は何でも良いが、何らかの構造がないと、人は物語を面白いと感じにくい。

ChatGPTはその都度最適な単語を充てるという刹那的な方法で物語を生成しているため、構造が欠落していることが多い。あらすじに構造を付与するのはChatGPTより人間の方が能力が高いので、人間が行った。

この物語は沢井が成長する話なので、成長物語の構造を付与するのが良いだろう。
成長物語には様々なテンプレートがあるが、最低限下記の5項目を定める必要がある。
1.主人公の内的欠落
2.主人公がこなさねばならない課題
3.主人公がどん底に落ちるエピソード
4.主人公が新たな自我を獲得するエピソード
5.危機を克服するエピソード

4-1.主人公の内的欠落
物語は変化を描くものだ。沢井を成長させるためには、物語開始時点で小説家になる上で必要な内的要素を欠落させている必要がある。
おそらく沢井は自分の小説に対する自信を欠いており、発表する勇気を持てないでいたのではないか。発表しなければ、どんなに才能があっても小説家にはなれないので、妥当な欠落と言えよう。

4-2.主人公がこなさねばならない課題
小説家になること

4-3.主人公がどん底に落ちるエピソード
主人公を成長させるためには、一度どん底に落としてアイデンティティクライシスに陥らせる必要がある。
沢井をどん底に突き落とすためには、沢井が書いた小説を誰かに酷評させれば良い。沢井は佐藤から勇気をもらって自分の小説をインターネットに公開した。だが、ある日、それに対し酷評するレスがつく。ショックを受けた沢井は現実世界から逃げたいと強く願ったために、小説の世界に入ってしまったという展開にすれば、沢井がなぜ佐藤に別れを告げて小説の世界に入ってしまったのかという疑問も解消できる。

4-4.主人公が新たな自我を獲得するエピソード
酷評を受けるたびに筆を折っていたのでは小説家は務まらない。酷評を受け止めるだけのメンタルの強さと、その指摘が妥当であれば受け入れるだけの柔軟性が必要だ。
沢井はそのようなことを自ら気づくことで、成長し、小説世界から脱出する意思を獲得する。

4-5.危機を克服するエピソード
物語の世界から脱出するのが危機の克服に当たる。
物語の世界から脱出するに当たって、沢井が成長したことを示すような言動をすることが望ましい。

問題点6を解消することで、「問題点5沢井の心情が理解できない」も解消できた。次に問題点4の解消にとりかかる。


5.伏線の付与

「沢井がいきなり小説の中に入るのは急展開すぎる」という問題を解消するために、沢井が小説の中に入る力を持ったアイテムを得るエピソードを追加する。

ChatGPTに「小説の中に入る力の源となるアイテムを考えて下さい。」とお願いした所、「魔法のペン」という回答が返ってきた。

だが、現代日本が舞台の小説で沢井が魔法のペンを入手するためには沢井がそういうアイテムを扱っていそうな変わった店に行く必要があり、何でそんな店にいくのか説明するために話が長くなってしまう。もっと、沢井が行くのが自然な場所で入手できて、かつ超常的力が宿っていてもおかしくないようなアイテムが望ましい。

そこで、「小説の中に入る力の源となるアイテム」は神社のおみくじにした。沢井が神社で「強く願えば何でも叶う」と書かれたおみくじを引くことにすれば、自然にキーアイテムを入手させることができる。沢井の部屋に焼け焦げたおみくじが落ちていたことにすれば、超常的力が働いたことの傍証になるし、佐藤が沢井を追って小説の中に入るための小さなミッションを発生させることができる。


6.ディティールの付与

「問題点3 ディティールが端折られてあらすじのようになっている箇所がある。」を解消するため、ChatGPTに追加質問を行った。
追加質問の際は「具体的に」と指定するのが重要で、書かないと一般論を述べ始めることがある。また、ChatGPTはしばしば前に書いたことを忘れる。忘れていたら、前提条件を追加して再質問するのが良い。

Q1「あなたは作家です。あなたは「佐藤は沢井に何があったのか知りたいと思い、彼女が住む町に行く。そこで、佐藤は沢井が自分が書いた小説の世界に入ってしまっていることを知る。」と書きました。佐藤は沢井が自分が書いた小説の世界に入ってしまっていることをどうやって知ったのか具体的に教えて下さい。」

佐藤は、沢井が自分が書いた小説の世界に入ってしまっていることを知ったきっかけは、町で沢井の家族や友人たちと話したことだった。

佐藤が沢井の家族に会った際に、彼女の姉妹から「沢井がある日、自分が佐藤さんの小説の世界に入ってしまった」という話を聞いた。最初は冗談かと思った佐藤だったが、沢井の友人や知人たちに話を聞くうちに、彼女が本当に自分が書いた小説の世界に入ってしまっていることがわかった。

その後、佐藤は沢井の部屋を訪ねた際に、彼女が机の上に置いてあった手帳から、自分が書いた小説のキャラクターや出来事が書かれたページを見つけた。それを見た佐藤は、自分が書いた小説の世界に沢井が入り込んでしまったことを確信した。


「手帳に佐藤が書いた小説のキャラクターや出来事が書かれていたことで確信」というのは面白いが、沢井が何度も佐藤の小説に出入りしていることになり、話が複雑になる。沢井の妹が、沢井が佐藤の小説のキャラクターと一緒に光るゲートの向こうに入っていくのを目撃していたことにしよう。
佐藤の小説のキャラクターは、一目で現実世界の人間ではないと分かる変な奴が良い。全身に袋麺を装着した正義のヒーロー、袋麺マンにしよう。袋麺をモチーフにしたのは私が袋麺を好きだからだ。自分が好きなものをモチーフにした方が、いきいきとした描写になりやすい。


Q2「あなたは作家です。佐藤は沢井を救うために、自分が書いた物語の世界に入り、彼女を探し始めました。その後、佐藤が物語の世界で沢井を見つけるまでに直面した困難のエピソードを具体的に3つ作成して下さい。」
1つ目のエピソード:
佐藤は、物語の世界で沢井を探している途中、急に現れた大きな岩に阻まれる。その岩は、彼が押しても引いても動かないほど重く、佐藤は手足を使って何とか動かそうとしたが、どうにもならなかった。その時、佐藤は自分が書いた物語の中でのキャラクターのように、巧みな言葉遣いで岩を動かす方法を思いつく。

2つ目のエピソード:
佐藤は、物語の世界で沢井を探している途中、途中で道に迷ってしまう。周りを見渡しても、どの方向に進めばいいのかわからない。そこで佐藤は、自分が書いた物語の中でのキャラクターのように、直感や勘を頼りに進むことを決める。それが功を奏し、彼は迷わず沢井の元へたどり着くことができた。

3つ目のエピソード:
佐藤は、物語の世界で沢井を探している途中、突然強い風が吹き荒れ始める。風は強くなるばかりで、佐藤は倒れそうになるほどであった。そこで佐藤は、自分が書いた物語の中でのキャラクターのように、自分の意思で風を操る方法を思いつく。佐藤は、強い意志で風を操り、沢井のいる方向へと進むことができた。

せっかくChatGPTに考えてもらったが、どれもあまり面白くない。せっかく袋麺マンを登場させたので、袋麺マンと戦うことにしよう。
長編小説なら白熱のバトルシーンにする所だが、これは短編小説なのであまり長々書いてもしょうがない。佐藤は袋麺マンに追い詰められるが、作者だけが知っている袋麺マンの弱点を突いて逆転勝利することにしよう。


Q3「あなたは作家です。佐藤と沢井が物語の世界から脱出するために行った具体的な方法を考えて下さい。」

佐藤と沢井は、物語の世界から脱出するために、以下の方法を考えた。

物語の結末を変える:佐藤と沢井は、物語の結末を変えることで、物語の世界から脱出することを試みた。彼らは、自分たちの物語に登場するキャラクターや出来事を変え、新しい物語を作り上げた。すると、物語の世界が揺らぎ始め、佐藤と沢井は脱出することができた。

物語の作者と対話する:佐藤と沢井は、物語の作者に会い、物語の世界から脱出する方法を尋ねた。すると、作者は自分が書いた物語に影響を与えることができる存在であることを明かし、彼らを脱出させるために協力した。

物語の世界を継続させる:佐藤と沢井は、物語の世界を継続させることで、物語の中で自分たちが生きることを決めた。しかし、物語の世界から脱出するためには、新たな物語を作り上げ、物語の世界を変える必要があった。彼らは、物語の世界を変えながらも、新たな物語を作り上げることに成功し、脱出することができた。


物語の結末を変えることで脱出するというのは、単に物語の世界から脱出するだけでなく、沢井が成長したことも示せる素晴らしいアイデアだ。
今まで袋麺町から出たことがなかった袋麺マンが、初めて外の世界に出ていくように結末を変更することで、外に出られるようになることにしよう。


これでディティールが決まったので、下記のようにあらすじをアップデートした。

さよなら袋麺マン あらすじ

ある日、主人公の高校生、佐藤は、学校帰りに道端で拾った手帳を拾う。手帳には、自分と同じ高校に通う謎の美少女、沢井の名前が書かれていた。佐藤は手帳を返そうと沢井に会いに行くが、彼女は手帳がなくなってから学校に来ていなかった。手帳には、沢井が興味を持っている本や映画、音楽のリストが書かれており、佐藤は彼女がどんな人なのか興味を持ち始める。
佐藤は手帳の中にあった映画館のチケットを見つけ、その映画を観に行くことにする。そこで、偶然にも沢井と出会い、手帳を返すことができる。2人は意気投合し、沢井が興味を持っていることについて話し始める。
佐藤は沢井の手帳に書かれていた小説のアイデアを称賛し、小説を書いているのかと尋ねる。小説を書いていることを秘密にしていた沢井はショックを受けるが、佐藤に熱心にせがまれ、ついに初めて自分が書いた小説を他人に見せる。佐藤は沢井が書いた小説を読み、その才能に感心する。彼女が小説家になりたいと思っていることを知り、佐藤は沢井を支援するために自分が書いた小説「袋麺マン」を見せる。沢井はのびのびと楽しく書かれた佐藤の小説に感銘を受け、彼の書く物語の世界に引き込まれる。
沢井は佐藤の勧めで、小説投稿サイトに自分の小説を発表する。二人はヒット祈願のため神社でお参りをする。沢井が引いたおみくじには「強く願えば何でも叶う」と書いてある。沢井の小説に面白かったというコメントが書き込まれ、沢井は喜ぶ。
ある日、沢井が佐藤に突然別れを告げる。佐藤は沢井に何があったのか知りたいと思い、彼女が住む町に行く。佐藤が沢井の家族に会った際に、彼女の妹から「沢井が光るゲートの向こうに消えるのを目撃した」という話を聞いた。最初は冗談かと思った佐藤だったが、「体中に袋麺を貼り付けた奇怪な男と一緒だった」と聞いて驚く。特徴が佐藤が書いた小説の主人公「袋麺マン」と一致していたからだ。沢井が消えた部屋には焼け焦げた「強く願えば何でも叶うと書かれた神社のおみくじ」が落ちていた。どうやら沢井は袋麺マンと一緒に佐藤が書いた小説の世界に入ってしまったらしい。
佐藤は沢井の小説のコメント欄に酷評が書き込まれているのを発見する。沢井はこのコメントにショックを受け、小説の中に逃げ込んでしまったのだ。
佐藤は神社でおみくじを引きまくり、ついに同じおみくじを引き当てる。そして佐藤は沢井を救うために、自分が書いた物語の世界に入り、彼女を探し始める。
物語の世界に入った佐藤の前に、袋麺マンが立ちはだかる。袋麺マンは頭の鍋から麺を繰り出して襲い掛かってきた。佐藤は袋麺マンに追い詰められるが、作者だけが知っている袋麺マンの弱点を突いて逆転勝利する。
佐藤は袋麺マンの家にたどり着き、沢井を見つけることができた。酷評コメントを読んでダメージを受けた沢井が「袋麺マン、私を助けて!」と強く願ったら、袋麺マンが表れ、自分の部屋にかくまってくれたのだと言う。
佐藤は沢井に「酷評コメントなんか気にするな。でも主人公が塔の中に閉じこもったまま終わるのは良くないという指摘には一理ある」と告げる。ショックを受けた沢井は袋麺マンの家に引きこもるが、しばらくして出てきて「自分の小説を読み返してみた。確かに主人公が塔から出て終わった方が良いね。」と告げる。
2人は協力して、物語の世界から脱出する方法を探すが、袋麺町の周りにバリアがあって外に出ることができない。袋麺マンは袋麺町から出たことがないという設定だからだ。沢井が「袋麺マン」に袋麺マンが袋麺町の外に出る記述を加えることを提案する。佐藤が「袋麺マンは、外の世界の事件を解決するため、袋麺町から飛び出した。」という結末に書き換えると、町を取り囲んでいたバリアが崩壊した。
佐藤と沢井は物語の世界から脱出することができ、現実世界に戻る。沢井は佐藤に感謝し、彼女は小説家としての夢を追い続けることに決めた。


7.あらすじの小説化

前回のあらすじから増えたシーンに関して、ChatGPTに描写してもらい、それを切り貼りして元原稿を生成した。


8.推敲

問題点1,2の修正に加え、全面的に文章に手を入れた。特に後半はChatGPTの文章が全然使えなかったので、ほぼ自力で書いた。
推敲にあたって、下記のようにシーンごとにそのシーンで描くべきことをリストアップし、描くべきことを強調するように推敲を行った。

ある日、主人公の高校生、佐藤は、学校帰りに道端で拾った手帳を拾う。手帳には、自分と同じ高校に通う謎の美少女、沢井の名前が書かれていた。
描くべきこと:美少女沢井とお近づきになれるチャンスだと喜ぶ佐藤の心情。手帳にびっしりと書き込みがされている様。

ChatGPTは適当に描写を行っているので、意図のある描写に変える必要がある。例えば冒頭のシーンでChatGPTは「手帳の表紙には、カラフルな花柄が描かれている。」と書いたが、カラフルな花柄であることに必然性がない。びっしりと書き込みがなされていることを示せば、沢井の小説への熱意を表すことができる。

完成した小説を小説家になろうで公開した。

https://ncode.syosetu.com/n0271if/


9.使ってみた感想

ChatGPTはアイデア出しツールとしては非常に優秀だ。あらすじを大量に出力させたり、敵がしてくる妨害の案を考えさせたりといった使い方ができる。ChatGPTから外部刺激を得ることによって思考を活性化することができる。
一方で、構造付与は人間の方が得意だ。文章も自力で意図をもった描写にできていない。アマチュアの私よりも下手なのだから、現時点では作家を代替するには程遠い。
もっとも、囲碁もプロに勝つには程遠いと思っていたらいきなり勝ったので、小説もいきなり人間の作家より面白い作品を生み出すかもしれない。