東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

VIX指数35以上、実績PER20以下は絶好の買い場

 今から見れば、年末年始は絶好の株の買い場だった。
 S&P500は12/24からの一ヶ月で12.4%も上昇した。年率なら148.8%だ。
 普段なら、超凄腕の投資家が相当苦労して隠れた有望株を発掘しても、なかなか月に10%のリターンを上げることは難しいが、年末に勇気を持ってS&P500などの適当なインデックス投信を買いさえすれば、誰でも濡れ手に粟で10%以上のリターンが手に入ったのだ。買いのタイミングに比べれば、他のことなど取るに足らないことが分かるだろう。

 私は千載一遇のチャンスにほんのちょっとしか買えなかった。
 最大の原因はさらに下落するのではないかとビビってしまったことだろう。
 12月末のS&P500の実績PERは19.5ぐらいだが、2011年には13.5まで下がっている。そこまで下がる可能性もあると思うと、思い切った買いに踏み切れなかったのだ。
 米国株が他国株に比べて割高で、下落余地が大きいのは確かだ。買い向かう理論的根拠を探しておかないと、もう一度暴落した時にまた買い逃す羽目になる。

 市場のパニック度合いを示す指数にVIX指数がある。VIX指数は恐怖指数とも呼ばれ、S&P500の値動きから複雑な計算式で算出される。

 1990年以降のVIX指数とS&P500の比較図を示す。(見やすいようVIX指数は50倍にしている)

f:id:shinonomen:20190212174239p:plain

 VIX指数のピークとS&P500の底が一致しているのが分かる。グラフを見ると、VIX指数が35(上のグラフは50倍しているので1750)を超えた所で買えば、底値を拾うことができそうだ。

 リーマンショック以降、VIX指数が35以上になったのは6回ある。初めて35以上になった日と下落の底を比較した表を示す。

日付 S&P500 VIX指数 底までの日数 底までの下落率
2008/09/17 1156.390015 36.22 119営業日後 41.5%
2010/05/07 1110.880005 40.95 40営業日後 8.0%
2011/08/08 1119.459961 48.00 40営業日後 1.8%
2015/08/24 1893.209961 40.74 1営業日後 1.4%
2018/02/05 2648.939941 37.32 3営業日後 2.6%
2018/12/24 2351.100098 36.07 当日 0.0%

 2011/08/08、2015/08/24、2018/02/05、2018/12/24の4回はほぼ底値を拾えていると言って良い。

 2010/05/07はそこから7.95%下げているのでやや買うのが早過ぎるが、底値をつけてから16営業日後には元値を回復しているから、2010/05/07に買っても悪くはない。(5/7に買ってから、下値を更新する度買い増していければなお良い。)

 唯一全然駄目なのがリーマンショック時の2008/09/17で、VIX指数が35超になってから延々と下落が続き、119営業日後に41.5%も下落してからようやく下げ止まった。その後、元の株価を回復するまで1年以上かかっている。VIX指数30以上は実に170営業日も続き、ピーク時には80.86にまで達した。2008/09/17に買うのは避けるべきだ。

 

 VIX指数35超で買い向かう戦略を採るためには、リーマンショック級の下落を見分けて避ける必要がある。
 リーマンショック級の下落を見分けるには、PERを見れば良い。
 リーマンショック時は下落後もS&P500の実績PERが27前後と高止まりしており、下落してなお割高だった。
 下落後に株価が反発するのは、下落が行き過ぎて割安になっているからであり、下落してなお割高だったら、反発しないのも道理だ。
 それ以降5回のVIX指数急騰時は実績PERが22以下まで下がっている(うち4回は20以下まで下がっている)。つまり、VIX指数が35以上になり、PERも割安であれば、高確率で反発の利益を得ることができると言えるだろう。

 

結論:VIX指数35以上でS&P500の実績PER20以下なら絶好の買い場である可能性が高い。
(日本で米国や先進国の投資信託を買う場合は1日遅れになるからVIX30超になったら買い始め、下落の度に買い増す方が現実的だ。)

 

 もちろん、過去にそうだったからと言って、未来もそうだとは限らない。VIX指数35以上で実績PER20以下からさらに数十%下落することだってありえなくはない。
 しかし、可能性を言うのなら、VIX指数が極めて安定している所からだって暴落は起こりうる。少なくともVIX指数12.12、実績PER24.4の昨年9月末のような時に買うよりはVIX指数35以上、実績PER20以下の時に買った方がずっと安全である。

 

 VIX指数35法の欠点はむしろ買い逃がすことにある。2016年に投資を始め、VIX指数が35以上になるのをじっと待っていたら、2018年2月まで買うことができず、大きな利益を取り逃すことになる。
 株を全く持たずにVIX指数が35以上になるのをひたすら待つよりは、オーソドックスなドルコスト平均法などと併用した方が良いだろう。

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他者の色がないと気づけない――色づく世界の明日から感想

(本稿は『色づく世界の明日から』の抽象的ネタバレを含みます。)

 『色づく世界の明日から』(篠原俊哉監督)のヒロイン月白瞳美が色を見ることができないという設定には舌を巻いた。テーマ的にも表現的にも見事な設定だ。
 第一に、瞳美が世界を活き活きと捉えられずにいるということの象徴としてこの上ない。花火がモノクロで描かれる冒頭のシーンから、視聴者にも瞳美の日々がどれ程味気ないか、心をどれ程冷たく閉ざしているかまざまざと伝わってくる。
 第二に、アニメというメディア特性を最大限活かしている。モノクロとカラーの切り替えで視聴者の心を動かす手法は小説や漫画でやるのは難しい。実写ならできることはできるが、アニメーターが色づけたアニメでやることで感動が増している。さらに言うと美しい映像表現に定評があるP.A.WORKSだからこそという所もある。どうすれば自分たちの強みを活かせるのか考えぬかれた設定だ。

 本作は自分の殻に閉じこもった瞳美に、13話かけて外に出ておいでよ、と呼びかける話だ。
 私はぼっちが仲間色に染まる作品を見るとたいてい「うるせえ! ぼっちだって別に良いだろ。価値観を押し付けるんじゃねえ!」と不快になるのだが、本作は瞳美の心がほぐれていく様がものすごく丁寧に描かれているので、仲間を想いあう気持ちに何度もボロボロ泣いてしまった。
 本作に悪い人は出てこないし、人を幸せにするささやかな魔法というコンセプトが象徴するように、とても優しい世界観だ。
 だが、根本の所では結構厳しいことを問うている。もし自分の殻に閉じこもって誰にも良い影響を与えることがないまま死んだなら、何のために生まれてきたのか。

 第10話に唯翔が幼い瞳美に会う重要なシーンがある。そこで瞳美は自分とお母さんの間が川で隔てられている絵を描いている。
 唯翔が船や鳥や虹の橋やで川を超えられると提示するが、瞳美に退けられてしまう。瞳美は退けながらも、何故超えられないのか答えられない。
 何故、船や鳥や虹の橋では川を超えられないのか。それは自分と他者が川によって隔てられていると考えているのが自分自身だからだ。自ら川を超える意志を持たない内は、川に橋が掛かっていても超えることはできない。
 本作では全編に渡って唯翔が描いた金色の魚が繰り返し登場し、世界中を自由自在に泳ぎまわる。魚にとって川は自分と他者を隔てるものではなく、通路だ。他者との違いを乗り越えるためには、他者との間にあるものが壁ではなくつながりだと自らの意識を変える必要があったのだ。

 色とは多様性の象徴だ。瞳美がモノクロでしか世界をみることができなかったのは、自分の価値観でしか世界を見られないことを象徴している。瞳美は魔法写真美術部の他者達と交流することで、徐々に色を取り戻していく。
 魔法写真美術部で瞳美は深く感情をぶつけ合った唯翔、琥珀、あさぎ、将と比べ、胡桃や千草との交流は薄い。だが、あさぎのように性格的に近しい他者だけでなく、遠い他者とも交流するために、胡桃や千草の存在が必要なのだ。

 世界に色を見出すのはあくまで自分だ。だが、モノクロの部屋に住むペンギンが色を知らないように、他者という色がなければ色に気づくことができないのだ。

www.iroduku.jp

 


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効率的市場仮説は10年しか成り立たない

 投資の世界で有力視されている仮説に効率的市場仮説がある。
 効率的市場仮説によると市場が新しい投資情報を速やか、かつ適切に織り込むため、リスクが等しい商品のリターンは等しくなる。
 成長率が高い企業の株は高く、低い企業の株は安くなるため期待リターンは等しくなると言うのだ。
 従って、効率的市場仮説論者は、何を買ってもリターンは同じなのだから、市場全体に投資してリスクを軽減するのが最良の投資法だと主張している。
 この説は本当だろうか。検証してみた。


1)1年後にPERが等しくなる場合
 利益成長率年20%、10%、0%、-10%の4種類の株があるとする。
 現在の1株利益が100円なら、1年後は120円、110円、100円、90円になる。
 どの株も1年間のリターンが5%、1年後にPER15になるとすると、それぞれの株の現在価格は下記のようになる。

 成長率20%の株は1年後に1800円になるから、現在価格は1714.29円(PER17.14)
 成長率10%の株は1年後に1650円になるから、現在価格は1571.43円(PER15.71)
 成長率0%の株は1年後に1500円になるから、現在価格は1428.57円(PER14.29)
 成長率-10%の株は1年後に1350円になるから、現在価格は1285.71円(PER12.86)

 この仮定だと、利益成長率に関わらず、1年後、全ての株のPER(割安さ)が等しくなってしまう。

 さらに、2年後の1株利益は144円、121円、100円、81円となる。
 2年後のリターンも5%だとすると、
 成長率20%の株は1890円(PER13.13)
 成長率10%の株は1732.5円(PER14.32)
 成長率0%の株は1575円(PER15.75)
 成長率-10%の株は1417.5円(PER17.5)
 となり、高成長の株ほど割安という逆転現象が起こってしまう。これは明らかにおかしい。

 ここではPERが等しくなる年数を1年としたが、X年としてもX年後に同様の問題が発生する。

 効率的市場仮説によれば、高成長株のPERは低下し、マイナス成長株のPERは上昇する。このこと自体は、PERの平均回帰性として、実際に見られる現象だ。
 しかしながら、効率的市場仮説が永続的に成り立つなら、いずれかの時点で高成長株とマイナス成長株のPERが逆転する。だがそんなことは起こらない。
 従って、「リスクが等しい商品のリターンは等しくなる」という効率的市場仮説は疑わしい。


2)50年後にPERが等しくなる場合
 高成長株とマイナス成長株のPERの逆転が発生しない場合が一つだけ存在する。リターンが等しくなる期間が∞年である場合だ。

 人間が株を保有する年数はせいぜい50年程度なので、試しに50年後にPER15となると仮定すると、下記のようになる
 成長率20%の株は50年後に13650657円になるから、現在価格は1190388.19円(PER11903.88)
 成長率10%の株は50年後に176086円になるから、現在価格は15355.38円(PER153.55)
 成長率0%の株は50年後に1500円になるから、現在価格は130.81円(PER13.08)
 成長率-10%の株は50年後に7.73円になるから、現在価格は0.67円(PER0.0067)

 実際は高成長の株はここまで高くないし、マイナス成長の株もここまで安くない。

 リターンが等しくなる期間が∞年でなければ効率的市場仮説は成り立たないのに、実際は50年未満である。

 従って効率的市場仮説は間違っている。成り立つとしても、限られた期間のみだ。X年後に高成長株のPERとマイナス成長株のPERが逆転しないためには、高成長株の方がリターンが高くなければならない。


3)効率的市場仮説が成り立ちうるのは10年以内
 市場はPERが等しくなる年数を何年ぐらいに設定しているのだろうか。

 5、10、15、20年後までのリターンを等しくした場合の現在のPERは下表のようになる。

成長率 5年間成長率 5年後EPS 5年後株価(PER15) 5年間リターン(年率5%) 現在の株価 現在のPER
1.2 2.49 248.83 3732.48 1.28 2924.50 29.24
1.1 1.61 161.05 2415.77 1.28 1892.82 18.93
1 1.00 100.00 1500.00 1.28 1175.29 11.75
0.9 0.59 59.05 885.74 1.28 694.00 6.94
             
成長率 10年間成長率 10年後EPS 10年後株価(PER15) 10年間リターン(年率5%) 現在の株価 現在のPER
1.2 6.19 619.17 9287.60 1.63 5701.78 57.02
1.1 2.59 259.37 3890.61 1.63 2388.50 23.88
1 1.00 100.00 1500.00 1.63 920.87 9.21
0.9 0.35 34.87 523.02 1.63 321.09 3.21
             
成長率 15年間成長率 15年後EPS 15年後株価(PER15) 15年間リターン(年率5%) 現在の株価 現在のPER
1.2 15.41 1540.70 23110.53 2.08 11116.56 111.17
1.1 4.18 417.72 6265.87 2.08 3013.99 30.14
1 1.00 100.00 1500.00 2.08 721.53 7.22
0.9 0.21 20.59 308.84 2.08 148.56 1.49
             
成長率 20年間成長率 20年後EPS 20年後株価(PER15) 20年間リターン(年率5%) 現在の株価 現在のPER
1.2 38.34 3833.76 57506.40 2.65 21673.56 216.74
1.1 6.73 672.75 10091.25 2.65 3803.29 38.03
1 1.00 100.00 1500.00 2.65 565.33 5.65
0.9 0.12 12.16 182.36 2.65 68.73 0.69

これだと、全体的にPERが低すぎるので、成長率0%株のPERが15になるようPERを調整したのが下記の表だ。

成長率 現在のPER(5年後のリターンが等しい場合)
20% 37.32
10% 24.15
0% 15.00
-10% 8.86
   
成長率 現在のPER(10年後のリターンが等しい場合)
20% 92.86
10% 38.90
0% 15.00
-10% 5.23
   
成長率 現在のPER(15年後のリターンが等しい場合)
20% 231.08
10% 62.65
0% 15.00
-10% 3.09
   
成長率 現在のPER(20年後のリターンが等しい場合)
20% 575.22
10% 100.94
0% 15.00
-10% 1.82

この中だと、10年後のリターンを等しくした場合のPERが最も現状に近い。
 

 市場は約10年後までの期待リターンが等しくなるよう価格を調整している。10年目以降は成長率分のリターンが得られる。(そうでなければ高成長株のPERとマイナス成長株のPERが逆転するという奇妙な事態が発生する)
 従って、利益が市場平均を上回って安定成長する株を10年以上保有すれば、理論上市場平均を上回るリターンが得られる。
 これはウォーレン・バフェットの投資法と同じである。


 効率的市場仮説論者はバフェットのリターンが高いのは偶然だと主張しているが、ちゃんと理論的裏付けがあるのだ。

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リスニング四天王物語

nlab.itmedia.co.jp

 昔々、天界の外れにある隠れ里に、りんご、にんじん、きゅうり、ぶどうの四兄弟が暮らしておりました。
 りんごとにんじんには羽根があり、空を自由に飛び回ることができます。きゅうりとぶどうは羽根はありませんがたいそう力持ちで、家ほどもある岩を軽々と持ち上げることができました。
 仲良しの四人はいつも一緒。毎日野山を駆けまわって遊んでいました。
 昔のことを覚えていない四人は、良く両親のことを想像して語り合いました。
「きっと羽根があって力持ちに違いない。」
四人は頷き合いました。
「優しい人だといいなあ。」
四人は深く頷きました。

 ある日、いつもの様に鬼ごっこをして遊んでいた四人は、羽音を聞いて足を止めました。四人はたいそう耳がよく、里の外れの物音すら聞き取ることができたのです。真っ白の服を着た羽音の主はどんどん近づいてきて、ついに里の中に降り立ちました。四人は驚きました。里に誰かが訪ねて来るなど、初めてだったのです。
「我は天使国よりの使者である。りんご様、にんじん様。天使長の命であなた方をお迎えに参った。」
使者の話の話を聞いた四人は目を丸くしました。何と、りんごとにんじんは天使国を統べる天使長が野菜国、果物国の娘との間にもうけた子供だと言うのです。天使軍は野菜・果物連合軍と長らく敵対関係にあり、二人のことは秘されてきました。だが、この度、二国との和平が成ったことから、天使国に呼び戻すことになったと言うのです。
「我ら四人は兄弟です。私とにんじんが天使長の子供だと言うなら、きゅうりとぶどうもそうなのではありませんか。」
りんごの問いかけに、使者は激昂しました。
「断じて違う! 天使長様のお子なら立派な羽根を持っているはず。この二人には羽根がないではないか。」
使者はきゅうりとぶどうを冷たく一瞥すると、りんごとにんじんの肩に手をかけました。
「さあ、天使長様がお待ちです。早く参りましょう。」
りんごとにんじんが逡巡していると、きゅうりが二人の背中を押しました。
「せっかくお父さんに会えるんだ。行かない手はないよ。」
ぶどうも二人の肩を叩きました。
「そうだよ。天使国に行ってお父さんのことを見てきてくれよ。」
それを聞いてりんごとにんじんも天使国へ行く覚悟を決めました。二人は何度も振り向きながら、天使国へと飛び立って行きました。

 その晩のことです。きゅうりは何者かのヒソヒソ声で目を覚ましました。村外れで誰かが密談をしているようです。耳をそばだてるとこんな声が聞こえてきました。
「あいつらの存在は天使国にとって邪魔なのだ。確実に始末しろ。」
続けて、複数の羽音が一目散にこちらに向かってきます。きゅうりは慌ててぶどうを揺り起こすと外に飛び出しました。すると空から無数の矢が飛んできました。空に黒装束の天使数名が並んで矢を放っているのです。
 きゅうりは杉の大木を引っこ抜いて構えました。しかし、天使達ははるか上空にいて届きません。
「ぶどう、僕を投げろ!」
ぶどうは頷くと、きゅうりを大木もろとも空に投げ上げました。きゅうりは大木を横薙ぎにして、天使たちを打ちました。叩き落された天使達はほうほうの体で逃げて行きました。
「やつらは天使国の手の者だと言っていた。このままではりんごとにんじんが危ない。」
「すぐ助けにいかなくちゃ。」
二人は急いで旅支度を整えると、天使国の都へ向けて旅立ちました。
 三日三晩歩き続け、都までの中ほどまで到達した時、二人の耳は無数の羽音を捉えました。顔を上げた二人は唖然としました。空を埋め尽くさんばかりの天使たちが、手に手に武器を持ってこちらへ向かってきたからです。
「どうやらただでは行かせてくれないようだ。」
きゅうりは二本の大木を引き抜くと、二刀流に構えました。
「誰が来ようが押し通るまでのことよ。」
ぶどうは大岩を打ち砕くと無数の石つぶてを作り出しました。
 こうして二人対三千人の戦が始まったのです。

 一方、天使長の館に通されたりんごとにんじんは、豪勢なもてなしに目を丸くしていました。大浴場ではライオンの口からふんだんに湯が流れ、天蓋つきのベッドはふかふかでどこまでも沈んでいきそうです。
「いやあ。良いお湯だったね。うっかり茹でにんじんになる所だったよ。」
「僕の方こそリンゴジャムみたいな甘い香りがしてきたから慌てて上がったよ。」
二人は朗らかに笑いあいました。
「いよいよ明日は父さんとの対面だね。」
「どんな人だろう。優しい人だと良いなあ。」
すると、館の中で誰かが話をしているのが聞こえてきました。
「今度こそ抜かりはないのであろうな。」
「はっ。天使軍の精鋭、三千を向かわせております。きゅうりとぶどうを仕留めそこねることなどありえません。」
りんごとにんじんは驚いて顔を見合わせました。この人達は一体何を言っているのでしょうか。
「しかし天使長様、本当によろしいのですか。長年会っていないとは言え、きゅうりとぶどうはあなたのお子ではありませんか。」
天使長と呼ばれた男は深々とため息をつきました。
「きゅうりとぶどうが生きている限り、いつ私が天使とドワーフのハーフであることが表沙汰になるか分からん。天使国と野菜・果物連合国との和平は薄氷の均衡の元に保たれておる。もし今、私が純血の天使でないことが発覚し、和平反対派が息を吹き返しでもしてみろ。天界はいつ果てるとも知れぬ戦の時代に逆戻りしてしまう。そんな時に私情を挟むわけにはいかんのだ。」
りんごとにんじんは愕然としました。だが、ショックを受けている場合ではありません。
「きゅうりとぶどうが危ない! 」

 きゅうりとぶどうは奮戦し、各々千人の敵を打ち倒しました。しかしきゅうりの手には既に木はなく、体には槍がささってお盆の馬のようになっています。ぶどうも石つぶてが尽き、半分の実が割れてべとべとになっていました。
 二人を取り囲んだ天使たちは槍を構え、じりじりと包囲の輪を狭めて来ます。
「どうやらここまでのようだ。」
その瞬間、空の彼方から何かが猛スピードで突っ込んで来ました。にんじんです。にんじんはきゅうりとぶどうを掴むと、天使軍の槍衾から間一髪二人を救い出しました。
「今だ! 」
にんじんが叫ぶと、空に待機していたりんごが力の限り羽根を振り下ろしました。巨大な竜巻が起こり、天使軍の面々は吹き飛ばされました。
 次々と大地に落ちてきた天使軍を睥睨し、りんごが声を張り上げました。
「帰って我が父に告げるが良い。今後一切我らに手出しすることは許さん。もしもう一度我らに仇なそうなどと一言でも漏らしてみろ。我ら四人の地獄耳が聞きつけて、たちまち天使軍を討ち滅して見せようぞ。」
天使軍がほうほうの体で逃げ帰ると、四人は抱き合っておいおい泣きました。

 その後、四人は里に帰り、いつまでも幸せに暮らしました。天使軍の面々は、四人の地獄耳と強さを大いに恐れ、畏敬の念を込めてリスニング四天王と呼んだということです。

 

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株を売った方が良い場合まとめ

 初心者向けの投資本にはしばしば、投資信託を定期的に積み立て、リバランスの時以外絶対に売ってはならないと書いてある。
 だが、原理上売った方が良い場合も存在する。それは下記の二つの場合だ。


1)明らかに本質的価値より高い場合
 株や投資信託に、明らかに本質的価値より高い値段がついている場合は、いずれ下落するから売った方が良い。
 株価はしばしば行き過ぎるので、売った後にさらに株価が上がって悔しい思いをするかも知れないが、売りどきを逃して株価の急落に巻き込まれるよりはずっとましである。
 問題は、なぜ市場はその株に、明らかに本質的価値より高いような価格をつけているのかということだ。

 市場で株を売買しているのは主にプロであるから、市場価格はプロが値付けしていると言って良い。プロが売っていないということは、プロは高くないと思っているということだ。
 プロは個人投資家よりも多くの情報、経験を有している。そのプロが高くないと考えているのであれば、個人投資家が割高だと思っているのは間違いで、本当は高くない可能性が高いのではあるまいか。

 実際は、プロも割高だとは思っているが、ぎりぎりまで値段を吊り上げてから売ろうと欲の皮を突っ張って売らずにいることもあるので、必ずしも個人投資家の割高だという判断が間違っているとは限らない。だが、個人が的確に株の本質的価値を算出し、割高だと判断するのが難しいのは確かだ。


2)高確率で下落する場合
 本質的価値に関わらず、株が高確率で下落する場合は、いったん売って、下落後に買い直した方が良い。「バイ&ホールド最強説は本当か」で検証した結果、基準価額1000円の投資信託がたった3円下落する場合でも売って買い直した方が良いことが分かった。
 ただし、個別株やETFの場合売買手数料がかかるので、小幅な下落の場合は売らない方が良い。

 理論上、下落確率が高い場合に売った方が良いのは確かだが、実際にやるとなると問題が生じる。
 第一に、売った後、買い戻すのが難しい。下落前にまんまと売れたとしても、下落直後はさらに下落するのではという不安が市場に満ち満ちているから、買い戻すのは心理的に難しい。市場が落ち着いてから買い戻そうと思っていると、株価が急反発してしまい、売った値段より高く買い戻すということになりかねない。

 第二に、何故下落が察知できるのかという問題がある。
 著名投資ブロガーのチンギスハン氏は、昨年12月18日にかけて何度もさっさと売るべきだと警告を発し、その直後、株価は大暴落した。

www.tingisuhan.com

 氏のように長年の経験と優れた投資センスを持つ投資家であれば、市場よりも早く下落を察知し、売り抜けることが出来るのかも知れない。

 だが、凡百の個人投資家が下落を察知して市場よりも早く売るのは難しい。例えば、チャートがあからさまなデッドクロスを形成し、市場が悲観的な所に悪材料が飛び込んできたような場合なら、個人投資家でも下落可能性が高いと判断することができるだろう。
 だが、そんなあからさまに下落しそうであれば、個人投資家が売るより早く、プロの機関投資家が売るだろう。個人投資家が売ろうとした時には既に株価が暴落しており、いまさら売っても遅いということになりかねない。


 適切に株を売るには、市場平均より株の本質的価値を的確に評価できるか、株の値動きを正確に予測できなくてはならない。つまり、市場平均よりも賢い必要がある。これは個人投資家にはなかなかハードルが高い。

 最悪なのは、本質的価値より安く、これから上昇する時に売ってしまうことだ。投資の入門書が個人投資家に絶対売るなと言っているのは原理的には間違いだが、実際上はそこそこ妥当なアドバイスなのだ。

スマホが表現を規定する

 TBSラジオのアフター6ジャンクションで12月4日、1月8日の二回にわたってWebトゥーンの特集をしていた。

www.tbsradio.jp


 Webトゥーンとは縦スクロール、フルカラーのウェブ連載されている漫画のことだ。

 12月4日は「海月姫」など紙漫画のヒットメーカーでありながら、LINEマンガで「偽装不倫」を連載している東村アキコ氏がゲスト。
 東村氏の場合、普通の漫画のように描いた原稿を編集者が縦スクロール用に再配置しているのだが、Webトゥーンでデビューした人は、最初から巻紙のような原稿用紙に描いているのだと言う。

 縦スクロールウェブ漫画だと当然表現方法も変わってくる。
 第一に紙漫画と違って見開きが使えないので、間を取ることで見せ場感を作る。
 第二に紙漫画はページをめくった所に見せ場がくる必要があるが、Webトゥーンにはその制約がない。
 第三に印刷上の制約がないのだからフルカラーであることが推奨される。(東村氏はモノクロでスクリーントーンを貼るよりカラーの方が楽とのこと。)
 第四に小さい画面で読むので背景を極力減らすよう言われる。
 第五にコマ割りがないので台詞がより重要になる。

 また、東村宅には手塚治虫など、過去の名作を集めたマンガ部屋があるのだが、子供やその友達は紙の漫画には見向きもせずにみなスマホで漫画を読んでいるのだと言う。


 1月8日は関西外国語大学講師でWebトゥーンに詳しい具本媛氏がゲスト。
 Webトゥーンは元々韓国で若者たちがブログ用の色んなコンテンツの中の一つとして生み出したもので、漫画家が作った訳ではない。
 Webトゥーンでは絵と台詞を交互に配置したり、ズームイン、ズームアウトを連続した多数のコマで表したりと動画的な表現が盛んだ。
 スマホでは一回のスクロールで画面が大きく動くので、縦に速く動いた状態でちょうど良く見えるよう計算して描いている。
 韓国では2004年からWebトゥーンが盛んになったので、それ以降の世代はほぼWebトゥーンしか読まないのだと言う。
 

 これを聞いて思ったのが、アニメも若い人はスマホで観ているのではないかということだ。
 最近、美麗でぬるぬる動く作品が以前ほどヒットしなくなった。昨年の大ヒット作、ポプテピピックはたらく細胞は、映像の美しさというよりもアイデア重視の作品だ。
 私はこれを、視聴者が美麗な画に慣れて有り難みが薄れたためとか、情報過多に疲れている等々の理由を考えていたが、それだけでは説明しきれないと感じていた。だが、スマホで観る人が増えたのだとすると、合点がいく。スマホで観るなら、ヴァイオレット・エヴァーガーデンよりポプテピピックの方が断然見やすいからだ。
 

 最近は小説もスマホで読む人が多い。小説家になろうのようなウェブ小説は、ストーリーが単線的な作品が多いという特徴がある。  
 単線的というのは、一人の主人公が順々に仲間を増やしていったり、敵を倒していったりする構造のことだ。単線的な物語構造は古くは桃太郎のような口承文芸に良く見られる構造だ。作者が書いてはアップしていくので、口承文芸に近い特徴を持つのだろう。
 ウェブでは込み入ったミステリーや多元内視点みたいな複雑な構造の小説は流行らない。紙だと、引っかかる所があっても戻って参照するのが楽だ。一方、スマホだと、何十ページも前に戻るのはかなり面倒くさい。


 スマホに最適化すべく、色んなジャンルのフィクションが表現を工夫しているのは素晴らしい。だが、小説や漫画を読むなら紙の本が、アニメを見るならテレビの方が媒体としてより優れている。具氏も自分は紙漫画の方が好きで、Webトゥーンは紙漫画の感覚を再現するために工夫していると語っていた。
 だが、すでに漫画の売り上げは電子書籍が紙の単行本を追い抜いており、このままでは漫画は完全にWebトゥーンに移行してしまいかねない。
 紙の本や高画質のテレビで見るために積み上げられてきた技術が、スマホで見るには邪魔になるという理由で衰退してしまうとしたら、非常に残念だ。

 番組パーソナリティー宇多丸氏が指摘していたが、漫画を読むメディアはスマホで打ち止めになるとは限らず、VRのような方面に進化するかも知れない。スマホは携帯性を優先した結果、フィクションを読むには画面が小さすぎる。タブレットは大きさは良いが重くて長時間持っていると疲れてしまう。
 早く携帯性に優れ、大きな画面で見ることができ、操作性も優れている端末が開発されて欲しいものだ。

 

radiocloud.jp

 アフター6ジャンクションの過去放送はTBSラジオクラウドに登録すれば聞くことができる。色んなニッチな文化系トピックスを扱っていておすすめだ。

 

manga.line.me

 

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米国株は割高か

 米国株が急激に値を戻している。昨年末にこれまでの下落のダメ押しのように6.63%暴落したS&P500は1月に入ってから順調に値を上げ、1月18日には12月13日の暴落前の水準まで回復した。
 株にはモメンタムという、上がっているものは上がり、下がっているものは下がり続ける傾向がある。このまま順調に上がり続けるなら買って一儲けしたい所だ。だが、著名な投資家のジム・ロジャーズ氏はインタビューで「アメリカ株は、いま最高値にあるから買わない。」と語っていた。

forbesjapan.com

 現在の米国株は割高なのだろうか。イールドスプレッドとバフェット指数で結論が大きく異なる。


1.イールドスプレッド
 イールドスプレッドは株の益利回り(PERの逆数)と10年国債利回りの差を表す。株がいくら割安でも、安全な米国債で株と同程度の利回りが得られるなら、みな米国債を買うので株は下落する。株価が上がるためには、単に株が割安であるだけでなく、国債と比べて十分割安でなくてはならない。

 1月18日現在、S&P500の益利回りは6.38%、10年米国債利回りは2.78%なのでイールドスプレッドは3.6%だ。

finance-gfp.com


 米国株のイールドスプレッドはここ5年は2.5~4.0%で推移している。グラフから読み取った平均値は3.5%なので、3.6%は概ね適正値と言える。

 暴落の底である昨年12月28日のS&P500益利回りは6.56%、10年米国債利回りは2.72%なのでイールドスプレッドは3.84%。割安だったと言えるだろう。
 

2.バフェット指数
 バフェット指数は当該国のGDPと株式市場の時価総額の比だ。

バフェット指数=株式市場の時価総額÷GDP×100

 その国のGDP成長率と時価総額の成長率は長期的に見ると同程度になるので、株式の割安さの指標となる。100以上だと株が割高、100以下だと割安となる。

nikkeiyosoku.com


 米国株のバフェット指数は2013年3月に100を突破し2018年1月に150.94まで上昇。それ以降高止まりしている。
 1月19日のバフェット指数は130.99。暴落した12月28日ですら116.91であり、かなり割高だ。

 なぜ12月28日の米国株はイールドスプレッドで見ると割安なのに、バフェット指数で見ると割高なのだろうか。


3.自社株買い 

http://www.daiwa.jp/products/fund/include/2/2711/l2711.pdf

 上記のPDFに米国企業の自社株買いのデータがある。グラフからざっくり読み取ると、米国企業は2013年3月から2017年6月の間に約2.4兆ドルの自社株買いを実施している。同程度の自社株買いがなされたとすると、2018年12月までだと3.2兆ドルだ。
 2018年12月の米国株時価総額は21.8兆ドルなので、2013年3月以降の自社株買いは、米国株の株価を14.7%押し上げる効果があった。
 自社株買いをしても時価総額は変わらないが、株数が減って一株当たりの利益は増えるので、益利回りは上昇する。
 もし米国企業が1月18日に2013年3月以降に行った自社株買いを打ち消すだけの増資を行うと、益利回りは約14.7%割高だということになり、バフェット指数の30.99%割高だという評価の半分程度は説明できる。

 イールドスプレッドとバフェット指数の評価が乖離している理由はある程度分かったが、どちらの評価が正しいかは一概に言えない。
 だが、益利回りやイールドスプレッドに基いて売買している投資家は多いが、時価総額に基いて売買している投資家などほとんどいない。株価形成上、イールドスプレッドの方が力を持つのではないだろうか。


4,まとめ
1)2019年1月18日現在の米国株はイールドスプレッド的には適正だが、バフェット指数的にはかなり割高である。
2)昨年最安値を記録した2018年12月28日の米国株はイールドスプレッド的には割安だが、バフェット指数的には割高。
3)イールドスプレッドとバフェット指数で評価が乖離しているのは自社株買いの影響が大きい。


 昨年12月の暴落は米国経済が景気後退するかもしれないという不安から引き起こされたもので、実際にはまだ景気後退していない。
 本当の景気後退が来たら昨年末以上に下落することが予想される。暴落時に素早く売り抜ける自信がない人は、下落に備え、今のうちに現金比率を上げておくのが良いだろう。
 とは言え、数年間は景気後退が起きない可能性もある。しばらく景気後退が来ない場合にも備えて、ある程度の株は保持しておくべきではないだろうか。

 

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