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株を売った方が良い場合まとめ

 初心者向けの投資本にはしばしば、投資信託を定期的に積み立て、リバランスの時以外絶対に売ってはならないと書いてある。
 だが、原理上売った方が良い場合も存在する。それは下記の二つの場合だ。


1)明らかに本質的価値より高い場合
 株や投資信託に、明らかに本質的価値より高い値段がついている場合は、いずれ下落するから売った方が良い。
 株価はしばしば行き過ぎるので、売った後にさらに株価が上がって悔しい思いをするかも知れないが、売りどきを逃して株価の急落に巻き込まれるよりはずっとましである。
 問題は、なぜ市場はその株に、明らかに本質的価値より高いような価格をつけているのかということだ。

 市場で株を売買しているのは主にプロであるから、市場価格はプロが値付けしていると言って良い。プロが売っていないということは、プロは高くないと思っているということだ。
 プロは個人投資家よりも多くの情報、経験を有している。そのプロが高くないと考えているのであれば、個人投資家が割高だと思っているのは間違いで、本当は高くない可能性が高いのではあるまいか。

 実際は、プロも割高だとは思っているが、ぎりぎりまで値段を吊り上げてから売ろうと欲の皮を突っ張って売らずにいることもあるので、必ずしも個人投資家の割高だという判断が間違っているとは限らない。だが、個人が的確に株の本質的価値を算出し、割高だと判断するのが難しいのは確かだ。


2)高確率で下落する場合
 本質的価値に関わらず、株が高確率で下落する場合は、いったん売って、下落後に買い直した方が良い。「バイ&ホールド最強説は本当か」で検証した結果、基準価額1000円の投資信託がたった3円下落する場合でも売って買い直した方が良いことが分かった。
 ただし、個別株やETFの場合売買手数料がかかるので、小幅な下落の場合は売らない方が良い。

 理論上、下落確率が高い場合に売った方が良いのは確かだが、実際にやるとなると問題が生じる。
 第一に、売った後、買い戻すのが難しい。下落前にまんまと売れたとしても、下落直後はさらに下落するのではという不安が市場に満ち満ちているから、買い戻すのは心理的に難しい。市場が落ち着いてから買い戻そうと思っていると、株価が急反発してしまい、売った値段より高く買い戻すということになりかねない。

 第二に、何故下落が察知できるのかという問題がある。
 著名投資ブロガーのチンギスハン氏は、昨年12月18日にかけて何度もさっさと売るべきだと警告を発し、その直後、株価は大暴落した。

www.tingisuhan.com

 氏のように長年の経験と優れた投資センスを持つ投資家であれば、市場よりも早く下落を察知し、売り抜けることが出来るのかも知れない。

 だが、凡百の個人投資家が下落を察知して市場よりも早く売るのは難しい。例えば、チャートがあからさまなデッドクロスを形成し、市場が悲観的な所に悪材料が飛び込んできたような場合なら、個人投資家でも下落可能性が高いと判断することができるだろう。
 だが、そんなあからさまに下落しそうであれば、個人投資家が売るより早く、プロの機関投資家が売るだろう。個人投資家が売ろうとした時には既に株価が暴落しており、いまさら売っても遅いということになりかねない。


 適切に株を売るには、市場平均より株の本質的価値を的確に評価できるか、株の値動きを正確に予測できなくてはならない。つまり、市場平均よりも賢い必要がある。これは個人投資家にはなかなかハードルが高い。

 最悪なのは、本質的価値より安く、これから上昇する時に売ってしまうことだ。投資の入門書が個人投資家に絶対売るなと言っているのは原理的には間違いだが、実際上はそこそこ妥当なアドバイスなのだ。