投資の世界で有力視されている仮説に効率的市場仮説がある。
効率的市場仮説によると市場が新しい投資情報を速やか、かつ適切に織り込むため、リスクが等しい商品のリターンは等しくなる。
成長率が高い企業の株は高く、低い企業の株は安くなるため期待リターンは等しくなると言うのだ。
従って、効率的市場仮説論者は、何を買ってもリターンは同じなのだから、市場全体に投資してリスクを軽減するのが最良の投資法だと主張している。
この説は本当だろうか。検証してみた。
1)1年後にPERが等しくなる場合
利益成長率年20%、10%、0%、-10%の4種類の株があるとする。
現在の1株利益が100円なら、1年後は120円、110円、100円、90円になる。
どの株も1年間のリターンが5%、1年後にPER15になるとすると、それぞれの株の現在価格は下記のようになる。
成長率20%の株は1年後に1800円になるから、現在価格は1714.29円(PER17.14)
成長率10%の株は1年後に1650円になるから、現在価格は1571.43円(PER15.71)
成長率0%の株は1年後に1500円になるから、現在価格は1428.57円(PER14.29)
成長率-10%の株は1年後に1350円になるから、現在価格は1285.71円(PER12.86)
この仮定だと、利益成長率に関わらず、1年後、全ての株のPER(割安さ)が等しくなってしまう。
さらに、2年後の1株利益は144円、121円、100円、81円となる。
2年後のリターンも5%だとすると、
成長率20%の株は1890円(PER13.13)
成長率10%の株は1732.5円(PER14.32)
成長率0%の株は1575円(PER15.75)
成長率-10%の株は1417.5円(PER17.5)
となり、高成長の株ほど割安という逆転現象が起こってしまう。これは明らかにおかしい。
ここではPERが等しくなる年数を1年としたが、X年としてもX年後に同様の問題が発生する。
効率的市場仮説によれば、高成長株のPERは低下し、マイナス成長株のPERは上昇する。このこと自体は、PERの平均回帰性として、実際に見られる現象だ。
しかしながら、効率的市場仮説が永続的に成り立つなら、いずれかの時点で高成長株とマイナス成長株のPERが逆転する。だがそんなことは起こらない。
従って、「リスクが等しい商品のリターンは等しくなる」という効率的市場仮説は疑わしい。
2)50年後にPERが等しくなる場合
高成長株とマイナス成長株のPERの逆転が発生しない場合が一つだけ存在する。リターンが等しくなる期間が∞年である場合だ。
人間が株を保有する年数はせいぜい50年程度なので、試しに50年後にPER15となると仮定すると、下記のようになる
成長率20%の株は50年後に13650657円になるから、現在価格は1190388.19円(PER11903.88)
成長率10%の株は50年後に176086円になるから、現在価格は15355.38円(PER153.55)
成長率0%の株は50年後に1500円になるから、現在価格は130.81円(PER13.08)
成長率-10%の株は50年後に7.73円になるから、現在価格は0.67円(PER0.0067)
実際は高成長の株はここまで高くないし、マイナス成長の株もここまで安くない。
リターンが等しくなる期間が∞年でなければ効率的市場仮説は成り立たないのに、実際は50年未満である。
従って効率的市場仮説は間違っている。成り立つとしても、限られた期間のみだ。X年後に高成長株のPERとマイナス成長株のPERが逆転しないためには、高成長株の方がリターンが高くなければならない。
3)効率的市場仮説が成り立ちうるのは10年以内
市場はPERが等しくなる年数を何年ぐらいに設定しているのだろうか。
5、10、15、20年後までのリターンを等しくした場合の現在のPERは下表のようになる。
成長率 | 5年間成長率 | 5年後EPS | 5年後株価(PER15) | 5年間リターン(年率5%) | 現在の株価 | 現在のPER |
1.2 | 2.49 | 248.83 | 3732.48 | 1.28 | 2924.50 | 29.24 |
1.1 | 1.61 | 161.05 | 2415.77 | 1.28 | 1892.82 | 18.93 |
1 | 1.00 | 100.00 | 1500.00 | 1.28 | 1175.29 | 11.75 |
0.9 | 0.59 | 59.05 | 885.74 | 1.28 | 694.00 | 6.94 |
成長率 | 10年間成長率 | 10年後EPS | 10年後株価(PER15) | 10年間リターン(年率5%) | 現在の株価 | 現在のPER |
1.2 | 6.19 | 619.17 | 9287.60 | 1.63 | 5701.78 | 57.02 |
1.1 | 2.59 | 259.37 | 3890.61 | 1.63 | 2388.50 | 23.88 |
1 | 1.00 | 100.00 | 1500.00 | 1.63 | 920.87 | 9.21 |
0.9 | 0.35 | 34.87 | 523.02 | 1.63 | 321.09 | 3.21 |
成長率 | 15年間成長率 | 15年後EPS | 15年後株価(PER15) | 15年間リターン(年率5%) | 現在の株価 | 現在のPER |
1.2 | 15.41 | 1540.70 | 23110.53 | 2.08 | 11116.56 | 111.17 |
1.1 | 4.18 | 417.72 | 6265.87 | 2.08 | 3013.99 | 30.14 |
1 | 1.00 | 100.00 | 1500.00 | 2.08 | 721.53 | 7.22 |
0.9 | 0.21 | 20.59 | 308.84 | 2.08 | 148.56 | 1.49 |
成長率 | 20年間成長率 | 20年後EPS | 20年後株価(PER15) | 20年間リターン(年率5%) | 現在の株価 | 現在のPER |
1.2 | 38.34 | 3833.76 | 57506.40 | 2.65 | 21673.56 | 216.74 |
1.1 | 6.73 | 672.75 | 10091.25 | 2.65 | 3803.29 | 38.03 |
1 | 1.00 | 100.00 | 1500.00 | 2.65 | 565.33 | 5.65 |
0.9 | 0.12 | 12.16 | 182.36 | 2.65 | 68.73 | 0.69 |
これだと、全体的にPERが低すぎるので、成長率0%株のPERが15になるようPERを調整したのが下記の表だ。
成長率 | 現在のPER(5年後のリターンが等しい場合) |
20% | 37.32 |
10% | 24.15 |
0% | 15.00 |
-10% | 8.86 |
成長率 | 現在のPER(10年後のリターンが等しい場合) |
20% | 92.86 |
10% | 38.90 |
0% | 15.00 |
-10% | 5.23 |
成長率 | 現在のPER(15年後のリターンが等しい場合) |
20% | 231.08 |
10% | 62.65 |
0% | 15.00 |
-10% | 3.09 |
成長率 | 現在のPER(20年後のリターンが等しい場合) |
20% | 575.22 |
10% | 100.94 |
0% | 15.00 |
-10% | 1.82 |
この中だと、10年後のリターンを等しくした場合のPERが最も現状に近い。
市場は約10年後までの期待リターンが等しくなるよう価格を調整している。10年目以降は成長率分のリターンが得られる。(そうでなければ高成長株のPERとマイナス成長株のPERが逆転するという奇妙な事態が発生する)
従って、利益が市場平均を上回って安定成長する株を10年以上保有すれば、理論上市場平均を上回るリターンが得られる。
これはウォーレン・バフェットの投資法と同じである。
効率的市場仮説論者はバフェットのリターンが高いのは偶然だと主張しているが、ちゃんと理論的裏付けがあるのだ。