米国株が急激に値を戻している。昨年末にこれまでの下落のダメ押しのように6.63%暴落したS&P500は1月に入ってから順調に値を上げ、1月18日には12月13日の暴落前の水準まで回復した。
株にはモメンタムという、上がっているものは上がり、下がっているものは下がり続ける傾向がある。このまま順調に上がり続けるなら買って一儲けしたい所だ。だが、著名な投資家のジム・ロジャーズ氏はインタビューで「アメリカ株は、いま最高値にあるから買わない。」と語っていた。
現在の米国株は割高なのだろうか。イールドスプレッドとバフェット指数で結論が大きく異なる。
1.イールドスプレッド
イールドスプレッドは株の益利回り(PERの逆数)と10年国債利回りの差を表す。株がいくら割安でも、安全な米国債で株と同程度の利回りが得られるなら、みな米国債を買うので株は下落する。株価が上がるためには、単に株が割安であるだけでなく、国債と比べて十分割安でなくてはならない。
1月18日現在、S&P500の益利回りは6.38%、10年米国債利回りは2.78%なのでイールドスプレッドは3.6%だ。
米国株のイールドスプレッドはここ5年は2.5~4.0%で推移している。グラフから読み取った平均値は3.5%なので、3.6%は概ね適正値と言える。
暴落の底である昨年12月28日のS&P500益利回りは6.56%、10年米国債利回りは2.72%なのでイールドスプレッドは3.84%。割安だったと言えるだろう。
2.バフェット指数
バフェット指数は当該国のGDPと株式市場の時価総額の比だ。
その国のGDP成長率と時価総額の成長率は長期的に見ると同程度になるので、株式の割安さの指標となる。100以上だと株が割高、100以下だと割安となる。
米国株のバフェット指数は2013年3月に100を突破し2018年1月に150.94まで上昇。それ以降高止まりしている。
1月19日のバフェット指数は130.99。暴落した12月28日ですら116.91であり、かなり割高だ。
なぜ12月28日の米国株はイールドスプレッドで見ると割安なのに、バフェット指数で見ると割高なのだろうか。
3.自社株買い
http://www.daiwa.jp/products/fund/include/2/2711/l2711.pdf
上記のPDFに米国企業の自社株買いのデータがある。グラフからざっくり読み取ると、米国企業は2013年3月から2017年6月の間に約2.4兆ドルの自社株買いを実施している。同程度の自社株買いがなされたとすると、2018年12月までだと3.2兆ドルだ。
2018年12月の米国株時価総額は21.8兆ドルなので、2013年3月以降の自社株買いは、米国株の株価を14.7%押し上げる効果があった。
自社株買いをしても時価総額は変わらないが、株数が減って一株当たりの利益は増えるので、益利回りは上昇する。
もし米国企業が1月18日に2013年3月以降に行った自社株買いを打ち消すだけの増資を行うと、益利回りは約14.7%割高だということになり、バフェット指数の30.99%割高だという評価の半分程度は説明できる。
イールドスプレッドとバフェット指数の評価が乖離している理由はある程度分かったが、どちらの評価が正しいかは一概に言えない。
だが、益利回りやイールドスプレッドに基いて売買している投資家は多いが、時価総額に基いて売買している投資家などほとんどいない。株価形成上、イールドスプレッドの方が力を持つのではないだろうか。
4,まとめ
1)2019年1月18日現在の米国株はイールドスプレッド的には適正だが、バフェット指数的にはかなり割高である。
2)昨年最安値を記録した2018年12月28日の米国株はイールドスプレッド的には割安だが、バフェット指数的には割高。
3)イールドスプレッドとバフェット指数で評価が乖離しているのは自社株買いの影響が大きい。
昨年12月の暴落は米国経済が景気後退するかもしれないという不安から引き起こされたもので、実際にはまだ景気後退していない。
本当の景気後退が来たら昨年末以上に下落することが予想される。暴落時に素早く売り抜ける自信がない人は、下落に備え、今のうちに現金比率を上げておくのが良いだろう。
とは言え、数年間は景気後退が起きない可能性もある。しばらく景気後退が来ない場合にも備えて、ある程度の株は保持しておくべきではないだろうか。