東雲製作所

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バイ&ホールド最強説は本当か

 投資本にはしばしば「株や投資信託を頻繁に売買すると損をするからバイ&ホールドが最強だ。」と書いてある。売買する毎に手数料がかかるので、できるだけ売買しない方が良い。特に売却すると税金がかかるので、値上がりして下落しそうでも売らずに我慢すべきだと言うのだ。

 この内、手数料の部分は、株に関しては正しいが、投資信託に関しては間違っている。
 バイ&ホールド最強説を採る投資本は基本的にコストの安いノーロード型投資信託を買うよう薦めている。ノーロード型投資信託は売買手数料が無料なので、頻繁に売買しようがずっとホールドしていようがコストは変わらない。むしろ売った方が売って現金化している間の信託報酬がかからないので、コストが安いぐらいだ。
 ETFの場合は売買手数料がかかる場合もある。だが、多くの証券会社では1日10万円以下なら売買手数料無料だし、カブドットコム証券なら特定のETFは取引量にかかわらず売買手数料無料になる。証券会社に払う手数料がかさむから、出来る限り売るなという意見は間違っている。

 では、税金に関してはどうだろうか。株を売却すると利益の20.315%課税が課税される。売却すると20%も損すると書いてある本もあるが本当だろうか。

 具体的な例で途中で株を売って利食いした方が良いか、売らずにホールドし続けた方が良いか検証してみよう。
 計算が煩雑になるため、税率は20%とした。

ケース1 1000円→1100円→1080円→1200円という値動きの場合
1)ホールドして1200円で売る
2)1100円で売って1080円で買い直し、1200円で売る

1)最終利益は200*0.8=160円
2)最初の売却益は100*0.8=80円
1080円で購入1200円で売却するから二回目の税金は120*0.2=24円
最終利益は200-24=176円 
途中で売って買い直した方が16円利益が多い。

ケース2 1000円→1100円→1090円→1200円の場合
1)ホールドして1200円で売る
2)1100円で売って1090円で買い直し、1200円で売る

1)最終利益は同じく160円
2)最初の売却益は80円
1080円で1090円の株を買うと0.99株しか買えないので、1080円で買って1189円で売ることになり、二回目の税金は22円
最終利益は189-22=167円。
10円下げた場合も途中で売って買い直した方が7円利益が多い。

 何円で利益が等しくなるかは、下記の式を解けば良い。
1080/X*1200-1000-(1080/X*1200-1080)*0.2=160

 課税額を厳密化すると
1079.685/X*1200-1000-(1079.685/X*1200-1079.685)*0.20315=160
となる。

 数学の知識が錆び付いていて解けないので、Excelで左辺を計算すると、下表のようになる。

1090 166.5090084
1091 165.6408407
1092 164.774263
1093 163.909271
1094 163.0458603
1095 162.1840267
1096 161.3237657
1097 160.4650731
1098 159.6079446
1099 158.752376
1100 157.8983629

つまり、X=1097以下なら2)が得、すなわち3円の下げを回避するだけでも売る意味があるということになる。
 予想よりはるかに僅かな下げでも利食い→再投資した方が良いことが分かる。

 売却して20%の税金を取られたくないのであれば、株券を保有し続け、現在の値段を眺めてニヤニヤしたまま死ぬより他なく、いずれかの時点で売らないと役に立たない。途中で売ろうが最後に売ろうが値上がり分の税金をいつ払うかの違いであり、良く言われる税金の繰り延べ効果はさほど大きくないのだ。
 バイ&ホールド最強説を採る本の中には雹が降ろうが槍が降ろうが絶対に売っては駄目だみたいなトーンのものもある。確かに初心者はちょっとの上げ下げで恐れを抱いて売ってしまいがちなので、売りを我慢せよと説くことには意味がある。しかし絶対売るなと言うのは言いすぎだ。

 株を売却すると損だというのは、アメリカのように基本的に右肩上がりの相場の場合である。右肩上がり相場では、天井かな、と思って売ってもすぐに上がってしまい、利益を逃すことになりかねない。
 一方、現在の日本株のようにボックス相場化している場合は、単にバイ&ホールドしていてもほとんど儲からない。下がった時に買い、上がった時に売る技術が求められるのだ。