東雲製作所

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人類の未来 AI、経済、民主主義感想――イメージに囚われず論理的に考える。

『人類の未来 AI、経済、民主主義』(ノーム・チョムスキーレイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソン吉成真由美[インタビュー・編]、NHK出版新書)は元NHKディレクターのサイエンス・ライター、吉成真由美氏による知の巨人インタビュー集第三弾。相変わらず錚々たる面々にインタビューをしている。

第1章 トランプ政権と民主主義のゆくえ――ノーム・チョムスキー
第2章 シンギュラリティは本当に近いのか?――レイ・カーツワイル
第3章 グローバリゼーションと世界経済のゆくえ――マーティン・ウルフ
第4章 都市とライフスタイルのゆくえ――ビャルケ・インゲルス
第5章 気候変動モデル懐疑論――フリーマン・ダイソン

全体を通じて感じたのが、イメージに囚われず論理的に考えることの重要性だ。
人間はしばしば物事をイメージで判断しがちだが、インタビューを受けている各界の第一人者達はみな、論拠に基いて回答しているため、多数派に流されて意見が揺らぐことがない。
 

第2章と第3章から特に興味深かった部分についてかいつまんで紹介する。

第2章のキーワードは指数関数的成長だ。

われわれの直感的な将来予測は、線形(比例直線の形)であって、指数関数的な曲線にはならないのです。
 なぜ脳があるかと言えば、それは将来を予測するためです。現在の自分の行動ないし非行動が、将来どのような結果を生むのかを予測するために、脳は存在する。脳ができてきた大昔は、あらゆることが線形で変化していました。

カーツワイル氏は動物の移動スピードなど、人間の脳は線形モデルの将来予測に慣れているため、指数関数的成長に対応できていないと指摘。
ヒトゲノム計画では七年で一%の解析が終わったので、科学者や批評家たちは「一%の解析に七年かかったのだから、すべてを解析するにはその一〇〇倍、七〇〇年かかる」と予測したのに対し、カーツワイル氏は毎年二倍ずつ結果が伸びていくはずだから、七年で解析は終わると予測して的中させたのだと言う。

私が想起したのはアップル、アマゾンなど米国の巨大ハイテク企業、GAFAMの株価だ。
GAFAMの株価は経済アナリストから常に高すぎると言われながら、市場平均を上回って成長してきた。これも、アナリストが線形モデルで予想しているのに対し、GAFAMの業績は指数関数的に伸びているため、評価が追いつかないのではないか。

カーツワイル氏は指数関数的成長によって下記のような変化が起こると予測する。
脳の思考などの高次のタスクを担う部分である新皮質をクラウドにつないで思考を拡大させられるようになる。
ナノテクノロジーの発達により寿命を一年延ばすために必要な研究期間が、一年よりも短くなり、半永久的に寿命を延ばせるようになる。
二〇年もしないうちに、われわれが必要とするすべてのエネルギーを、太陽エネルギーで非常に安く賄えるようになる。

未来に希望が湧いてくる内容だが、プーチン大統領習近平国家主席のような強権的指導者が半永久的寿命を獲得したらと考えると恐ろしくもある。
指数関数的に成長する世界では、線形成長の世界より、より慎重な判断が求められるのではないか。


一方、第3章では日本を含む世界経済に対してより具体的な提言がなされている。

ウルフ氏は二十五年もの間日本が慢性的な低需要に苦しんできた理由をこう説明する。

その主な理由は、日本企業の行動にあったと見ています。日本企業は巨大な余剰資金貯蔵庫なんですね。過剰債務の返済が終わったあとも、慢性的に内部留保を続けています。日本企業の内部留保の割合は、GDPのおよそ八-一0%ということですから、これは世界でも最大級の余剰金になります。
 ですから日本政府の課題は、いかにしてこの巨大な余剰金を取り出すかということです。

ウルフ氏は企業に投資のための画期的な動機を与えるのは難しいため、企業の利益を吸い上げることを提案。そのための方法には、税法を変えて株主への配当を多くすることと、法人税率を上げることがあるが、日本では法人税を上げるのが適当だと指摘している。

ウルフ氏はグローバリゼーションとテクノロジーの進展により、企業による大規模な国内投資が妨げられていると指摘。
ですから、企業が国内に投資しない現実はあるけれども、総需要は上げる必要があるという場合、解決方法は企業の利益を家計に移し可処分所得とすることです。そうすることで、GDPのうち家計が占める割合が高くなる。それによって日本はもっとバランスの取れた経済になるでしょう。
と結論づけている。

この間、政府は法人税を下げて消費税を上げてきた。ウルフ氏の提言とは真逆の政策だ。

現在、政界では消費税の増減税が議論になっているが、法人税に関してはスルーされがちだ。法人増税すると景気が悪化するというイメージがあるからだろう。

法人増税論がいまいち広まらない理由の一つは、経済オンチのイメージがある左派政党しか主張していないからだろう。
本来なら皆がイメージに流されず、論理的に判断すれば良いのだが、現実的には難しい。
次善の策として、ファイナンシャル・タイムズ紙の経済論説主幹で、「世界中で最も信頼されている経済・金融ジャーナリスト」と多くの人が認めるマーティン・ウルフ氏が主張しているのだということをもっと喧伝すべきではないだろうか。