出張帰りに埼玉の川越に立ち寄った。川越と言えば、時の鐘など古い町並みの残る小さな町というイメージだった。だが、実際はとんでもないモンスタータウンだった。
普通の町は、チェーン店のうちいくつかがある。例えば、私の家の最寄り駅周辺には吉野家と松屋とサイゼリヤとケンタッキーとリンガーハットとドトールがある。結構ある方だと思うが、マクドナルドやモスバーガーや日高屋や幸楽苑はない。安価なハンバーガーやラーメンを食べるには他の駅まで行かねばならない。
川越は何でもある。ちょっと歩いただけでファーストフードはもちろん、ドン・キホーテやブックオフなど、あらゆるチェーン店が出店している。関東に進出しているチェーン店は全部あるんじゃないかという勢いだ。
チェーン店だけでなく、洒落た店も多い。特に和菓子屋の充実ぶりは目を見張るものがある。
そしてやたら人が多い。ベッドタウンの商店街と言えばシャッター商店街になっているのが定番だが、川越駅から本川越駅方向へ1kmも続くクレアモールは平日の昼間だというのに人がひっきりなしに歩いている。おそらく分厚い住宅街があるせいだ。
川越がすごいのは観光地でもあることだ。時の鐘を中心とした古い町並みは風情があり、コロナ禍など過ぎ去ったかのように多くの観光客であふれている。
周囲には様々な和菓子店や伝統工芸品の店など、ユニークな店がずらりと並んでいる。これらの店を一軒ずつ訪ねていけば、わざわざ外に観光に行く必要などない。
交通の便が良く住宅地で商業地というと、千葉県の船橋や柏が近い。だが、船橋や柏は観光地ではない。逆に歴史のある観光都市である鎌倉や日光や成田はこんなに商店が充実していない。
横浜のような大都市は全部あるが、横浜駅から山下公園まで歩いて行くのは厳しかろう。川越は商業ビルと商店街と観光地が駅から歩いて行ける範囲に収まっているので非常に利便性が高い。
恐ろしいのが、町ゆく人の誰一人この異常性に気づいて高揚しておらず、何事もないかのように利便性を享受していることだ。
川越で生まれ育ったら、川越から出られないのではないか。どこに移り住んでも川越よりは不便だ。何でもあるのが当たり前だと思っている川越民は、川越外の暮らしに耐えられず、舞い戻ってしまうに違いない。
『メイド・イン・アビス』の舞台であるアビスという縦穴の町は、アビスの呪いによって探掘家を捕らえて離さないが、川越は何ら超常的力を持たないのに住民を捕らえて離さない。どちらがより恐ろしいかは言うまでもないだろう。
市のホームページによると、川越の人口は一日1.9人ずつ増加していると言う。
千年ぐらいしたら、関東のベッドタウンは皆ことごとく廃墟と化し、川越だけが残るのではないか。千葉県民としては恐ろしい話だ。