東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

米国債は割安か

米国の長期金利が上昇している。
10月7日時点で、2年債利回りは4.307%、10年債利回りは3.883%に達した。
日本10年国債の利回りは0.25%である。世界有数の安全資産である米国2年債の利回りが4.3%、10年債が3.9%というのは、直観的には非常にお買い得なように見える。

 

1.ドットチャートとの比較

米国FRB金融政策決定会合FOMCと呼ぶ。
9月のFOMC後にFOMCメンバーによる将来の政策金利予想分布「ドットチャート」が公表された。

FOMCメンバー予想の中央値は、政策金利を22年末に4.375%、23年末までに4.575%、24年末3.875%、25年末2.875%、長期2.5%と予想している。

現在の政策金利は3.25%、今月末は0.75ポイント利上げで4%と予想されている。予想と予想の間を直線でつないで金利を算出した所、今後2年間の平均金利は4.35%、10年間の平均金利は3.018%となった。

現在の2年債利回り4.307%はFOMC予想と大差ないが、10年債利回り3.883%はFOMC予想と比べて28.68%も高い。
FOMCの予想通りに金利が推移して10年後の長期金利が2.5%になれば、年利3.883%の金利収入に加え、10年間で35.6%の値上がり益が得られる。これは美味しすぎる。

FOMCメンバー中最もタカ派な人の予想でも10年間の平均利回りは3.518%。現在の10年債利回りは最もタカ派な予想より10.39%割安だ。

もちろん、FRBがいくら利上げをしてもインフレが鎮静化せず、いつまで経っても利下げできない可能性もあるが、原理的には景気が悪化するほど利上げをすれば、需要が減ってインフレは鎮静化するはずだ。
市場はあまりに悲観的すぎるように感じる。

米国債が割安だと主張しているのは私だけではない。髙橋ダン氏は米国債は長期的には割安なので、長期的に少しずつ買っていくことを推奨されているし、広木隆氏も「とても正しいプライシングとは思えない」と指摘されている。


2.米国債のリスク

あまりに話がうますぎる。米国債を買うことにリスクはないのだろうか。
生き馬の目を抜く市場においてリスクがないのに割安なものが放置されている訳がないのであって、もちろんリスクはある。
大きなリスクは二つある。一つは短期的な下落リスク。もう一つはドル円の下落リスクだ。

2.1 短期下落リスク

米国7~10年債ETFであるIEFは8月1日から10月7日にかけて9.83%も下落し、今現在も下落中だ。まさに「落ちるナイフ」だ。
FRBはインフレが収まるまで利上げを続けると明言している。金利が上昇すると国債価格は下落する。インフレがいつ収まるか分からない以上、短期的にどこまで下がるか分からないので、みんな怖くて手が出せない状態だ。
債券版恐怖指数のMOVE指数はコロナショックの水準まで上昇している。債券市場はコロナショック並みの恐慌状態に陥っているということだ。逆に言うとそれゆえに割安なのだが。
落ちるナイフは掴むなという格言もある。短期的に大きな含み損を抱えるのが嫌な人は、債券価格がある程度安定してから買った方が良いかもしれない。
だが、同じことを考えている人は大勢いるので、価格が安定するやいなや買いが殺到して急反発する可能性が高く、タイミングの見極めが難しい。

2.2ドル円下落リスク
米国債は円ベースで見ると為替の下落リスクがある。
ドル円は概ね日米金利差と連動している。日本の長期金利はほぼゼロで変わらないので、日米金利差≒米国金利だ。
3月4日は米国長期金利=1.737%、1$=114.85円だったが、10月7日には米国長期金利=3.883%、1$=145.39円になった。
単純に比例計算すると、米国長期金利が1%上がると14.23円円安になる。
米国の長期金利が2.5%に下落すると1.383%下落するから、ドルは19.68円下落する。下落率は13.57%だ。
もちろん、為替レートは金利差だけで決まっているわけではないが、米国長期金利の下落で得られる値上がり益は円ベースで見るとある程度相殺されてしまう可能性が高い。


3.まとめ

短期的に大きな含み損を抱えるリスクや、為替リスクはあるものの、米国10年債は長期的には割安なように見える。
もちろん、米国のインフレが長期化し、FRBが利上げを止められないリスクは存在する。
だが、FRBが利上げを停止するまで長期に渡って時間分散して少しずつ買っていけば、いずれは報われる可能性が高いのではないだろうか。


米国債に投資するには米国ETFを買う、日本のETFを買う、米国債を直接買うの3通りがある。

米国ETFとしてはIEFなどがある。SBI証券楽天証券などの大手証券会社であれば、外国株式口座を開設すれば買うことができる。

日本ETFとしてはiシェアーズ・コア米国債7-10年ETF(1656)、MAXIS 米国国債 7-10年 上場投信(為替ヘッジなし)(2838)などがある。為替ヘッジつきもあるが、現在は米国の金利が高く、ヘッジコストが高いのでおすすめできない。

米国債は証券会社の債券ページから既発債を買うことができる。満期まで保有していれば金利変動に関わらず買った時の利回りを得ることができる。ただし確定申告しないと二重課税される。
10年債はどちらかと言うと長期的には値上がりする可能性の方が高いので、生債券を買う旨味は薄いが、2年債の生債権を買うのは有望かもしれない。