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過去の金利下落局面における米国債リターン

米国債利回りが上昇している。7月7日時点で米2年債利回りは4.95%。10年債利回りも4.06%と4%を超えている。
市場はFRBパウエル議長が主張していた年内二回利上げを織り込みつつある。2年債利回りは一時5.1%台まで上昇したが、それ以上上がらず下落に転じた。そろそろ金利のピークが近そうだ。
今後金利が低下に向かえば債券価格は上昇する。具体的にどの程度のリターンが見込めるのか。過去の金利下落局面のリターンを調べてみた。

米国短期金利(2年債利回り)の推移を示す。


2000年以降、大きな金利の低下が起きたのは三回。2000年5月12日から2001年11月8日に6.936%から2.304%に、2007年7月6日から2008年3月17日に4.992%から1.345%に、2018年11月8日から2020年5月7日に2.973%から0.139%に下落している。
このうち時系列データが得られた過去2回における、主要債券ETF SHY(米国債1-3年ETF)、IEF(米国債7-10年ETF)、TLT(米国債20年超ETF)の値動きを下表に示す。

2007~8年の金利下落局面において、債券ETFは8.78%~18.50%上昇した。2018~20年の金利下落局面では7.75%~52.74%上昇している。
それぞれの期間の上昇率を年率換算すると下記のようになる。
2007~8年 SHY、IEF、TLTはそれぞれ12.56%、26.4%、26.25%上昇。    
2018~20年 SHY、IEF、TLTはそれぞれ5.18%、17.33%、35.26%上昇。

基本的に投資は年率5-6%のリターンを目指すものなので、このリターンは出色の出来だ。
期間が長い債券程値動きが大きいため、金利下落=価格上昇時のリターンが大きくなっている。特にTLTの年率26.25%、35.26%というリターンはぼろ儲けと言って良い。
実際はこのキャピタルゲイン(値上がり益)に加え、債券利回り分のインカムゲイン(分配金益)も得られるのでさらにリターンが大きい。

話がうますぎる。何か穴がないのだろうか。
最も大きな問題は、米国の金利が下落すると、ドル円がドル安方向に振れ、円建ての米国債価格が下落することだ。

それぞれの期間におけるドル円の変化率と年率換算は上表の通りだ。
2018~20年は為替がさほど動かなかったので問題ないが、2007~8年は全ETFキャピタルゲインより為替の下落の方が大きく、値上がり益を完全に打ち消してしまっている。
今回はどうなるかは分からないが、現在の140円台というのは近年ではまれな円安なので、今後大きく円高に振れるリスクは大きい。

円高リスクに備えるなら、為替ヘッジ付き米国債ETFを買うのも一法だ。為替ヘッジコスト≒日米金利差なので為替ヘッジをかけるとインカムゲインが得られなくなるが、キャピタルゲインが大きいので、許容できるコストだろう。
為替が円高に振れる場合と、振れない場合の両方に備え、ヘッジありとヘッジなしの両方を買っておくのが良いかもしれない。

もう一つの問題は、米国の利上げが長引いて、金利がなかなか下落しない、もしくは上昇するリスクがあることだ。
投資家垂涎の利回りが得られる米国債が安値で放置されているのは、この懸念があるためだ。
そのため、金利がピークアウトして大きく下がり始めるまで、毎月定期的に買っていくことをお勧めする。
米国長期債券ETFを毎月コツコツ買っていけば、長期的には報われる可能性が高いのではないだろうか。
安全資産である米国債は株式の急落時に上昇することが多いので、ポートフォリオに組み込むことで分散になるというメリットもある。

円建てで買える米国債20年超ETFは下記の一本しかなく、為替ヘッジなし商品は存在しない。為替ヘッジをかけたくないなら、ドルでTLTを買うしかない。
iシェアーズ 米国債20年超 ETF(為替ヘッジあり) (2621)
米国債7-10年ETFは為替ヘッジあり、なし共に多数のETFが存在する。主なものは下記の二つだ。
iシェアーズ・コア 米国債7-10 ETF (1656)
iシェアーズ・コア 米国債7-10 ETF(為替ヘッジあり) (1482)
1400~2800円前後の少額から投資することができる。

他に私が気づいていないリスクがあったらご指摘下さい。