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小池一夫のキャラクター進化論(1)感想

小池一夫氏は『子連れ狼』などで知られる作家、漫画原作者だ。「劇画村塾」や大阪芸術大学小池一夫ゼミを開き、高橋留美子原哲夫板垣恵介、椎橋寛といった漫画家を育成されている。
小池一夫のキャラクター進化論(1) 漫画原作マル秘の書き方』(小池一夫著、星海社新書)は、漫画原作の書き方本だが、あらゆるフィクションの創作にも役に立つ。

本書が最も強く訴えているのは「漫画=キャラクター」ということだ。
さいとう・たかを氏や石ノ森章太郎氏から「漫画で一番大事なのはドラマではない。キャラクターだ」と言われた小池氏は、売れている漫画はタイトルがキャラクター名だということに気付く。読者が求めているのは凝ったストーリーではなく魅力的なキャラクター。映画やドラマと違ってスター俳優の魅力に頼れない漫画ではゼロからキャラクターを起てなくてはならないという主張に納得した。

小説は漫画ほどキャラクター重視ではなかったが、近年はライトノベルの影響もあり、キャラクター重視の小説が増えている。
私が書く小説はキャラクターが弱いので、ストーリーなど他の要素でカバーしようと考えていた。だが、本書を読んで、逃げずにキャラを起てねばならぬと腹を括ることができた。


小池氏は漫画の基本的な構成として「主・謎・技・感」を挙げている。
「主・謎・技・感」とはそれぞれ「起・承・転・結」に対応しており、
1)物語の冒頭《起》では《主》人公を強烈に印象付けて起て、
2)《承》ではキャラクターに《謎》を追わせ、
3)《転》ではアッと驚く《技》やアイデアでひねりを効かせ、
4)ラストの《結》では読者の《感情》を動かすのが重要なのだという。

起承転結と言って済ませている類書が多い中、本書はそれぞれのパートで読者に何を伝えるべきかが明確に書かれており、参考になる。


本書で最もためになったのが「消去」だ。
小池氏は、主人公が「俺は明日アメリカに行く!」と言ったら、飛行機を予約したり空港に移動したりといった不要なシーンは「消去」して次のコマで自由の女神を背景にハンバーガーを食べる主人公を描けば良いという例を挙げ、物語的に関係のない、省略できることは徹底的に消去しろと説いている。
また、同じことを言っているセリフは二つも要らないので、「そうですね」のように相手の意見に同意するだけの「受けゼリフ」も止めるべきだという。

漫画はページ数が限られているので、小説より消去が徹底されている。だが、テンポよく話が進んだ方が良いのは小説も同じなので、小説も漫画並みに厳しく不要なシーンを消去すべきなのではないか。


本書に書かれた心構えも印象深い。
小池氏は塾生に「毎日5つのキャラクターを描け」と言う課題を出していたが、たいていの生徒は最初だけでやめてしまう。ところが、板垣恵介氏は「絶対漫画家になりたいから、人の倍描かなきゃダメだと思って、毎日10個のキャラクターを描いた」のだと言う。
小池氏は実際にデビューする人は「なりたい人」ではなく「書きたい人」「書かずにおれない人」だと指摘する。だが、才能がにない人には無理だと切り捨てはしない。
小池氏は自分が「なりたいだけの人」だと気づいたなら「毎日、必ず1時間、机の前に座るクセをつけろ」とアドバイスする。
机の前に座って手を動かし続ける執念こそが創作者によって最も重要な資質なのだ。

小池氏はクリエイターになることを、いつも作品創りのことで心が支配される「修羅の道」と表現されている。技術的に参考になるだけでなく、精神的にも身が引き締まる一冊だ。