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大どんでん返し創作法感想

『大どんでん返し創作法:面白い物語を作るには ストーリーデザインの方法論』(今井昭彦著、PIKOZO文庫)はラジオCMディレクターとして小説や漫画のCMを1000本以上作ってきた筆者による小説の書き方本だ。
面白いストーリーを作るために最も重要なのはどんでん返しであると説く筆者がどんでん返しを分類し、機械的に作る方法を解説している。

物語の作り方本の多くは、「キッカケとなる事件」「ミッドポイント」「闘争」といった物語を構成する諸要素を列記し、前から順に作っていくよう説いている。本書は諸要素の中でどんでん返しが最も重要だと明示し、どんでん返しから作れと説いている点が優れている。

成長物語におけるどんでん返しは主人公にショックを与え、成長を促すためにある。従って、必ずしもどんでん返しである必要はなく、庇護者が死ぬなど衝撃的な出来事が起きても良い。だが、衝撃的な出来事に比べ、どんでん返しは伏線回収の気持ちよさも味わえるという点でより優れている。

本書ではどんでん返しを四つの基本形に分類している。
1)敵の正体が明らかになる
2)死んだはずの敵が甦る
3)失われたはずの力が復活する
4)探しものは自分のそば(内部)にあった

小説や漫画に精通している著者ならではの分類だが、具体的過ぎて抜けが生じている。例えば『君の名は。』のどんでん返しは上記のどれにも当てはまらない。
1)敵の正体が明らかになる
2)敵の有無が反転する。
3)目的の正体が明らかになる
4)目的の有無が反転する。
とした方がより包括的になるのではないか。これなら『君の名は。』のどんでん返しは4)に当てはまる。


本書の白眉はスティーブン・キングの理論を援用して敵をドラキュラ【主人公の外部に存在する恐怖】、狼男【主人公の内部に巣食う恐怖】、フランケンシュタイン【主人公が生み出した恐怖】の3パターンに分類し、「敵はAだと思っていたらBだった」のABに当てはめると6パターンになると説いている箇所だ。数々の敵の正体に関するどんでん返しがすっきりと整理されていて目から鱗が落ちた。
私は「主人公」「敵対者」「依頼者」「援助者」「助手」という5種類のキャラクターの役割を「Aだと思っていたらBだった」のABに当てはめ、5×4=20パターンに分類してみたことがある。だが、敵対者がからまないどんでん返しはインパクトがない。例えば依頼者だと思っていた人が実は援助者だったと分かっても別に驚かない。敵対者の種類で分類したのは上手いやり方だと感心した。

本書では敵の正体に関するどんでん返しを6パターンに分類しているが、成長物語としての有効性という点でさらに数を絞り込むことができる。
本書でも指摘している通り、敵の正体が分かった時に主人公が受けるショックは【主人公が生み出した恐怖】>【主人公の内部に巣食う恐怖】>【主人公の外部に存在する恐怖】の順に大きい。
成長物語では、主人公にとってよりショックなことが発覚すべきだ。
例えば、「自分の過失せいで人が怪我したのかと思っていたら、実は自分とは無関係の通り魔に刺されただけだった」というどんでん返しでは、主人公は「なーんだ」とほっとしてしまい、成長しない。
逆に「自分とは無関係の通り魔だと思っていたら、犯人は過去の自分が行ったいじめに対する復讐を目論んでいた」というどんでん返しだったら、主人公はショックを受けて過去のいじめを反省し、成長しようとするだろう。
従って、敵に関するどんでん返しのうち、成長物語として有効なものは下記の3パターンしかない
1)敵は【主人公の外部に存在する恐怖】だと思っていたら【主人公の内部に巣食う恐怖】だった。
2)敵は【主人公の外部に存在する恐怖】だと思っていたら【主人公が生み出した恐怖】だった。
3)敵は【主人公の内部に巣食う恐怖】だと思っていたら【主人公が生み出した恐怖】だった。
どんでん返しと聞いても漠然としていて、どう作って良いか分からないが、有効なパターンはそう多くないのだ。

141ページの小冊子だが、得る所の多い本だ。