東雲製作所

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『ゆるキャン△12』感想―好きなことをやる自由とリアリティレベル

(本稿は『ゆるキャン△12』のネタバレを含みます。)
 『ゆるキャン△12』(あfろ著、芳文社)はドラマも放送中の大人気キャンプ漫画の最新刊だ。12巻は千明、あおい、恵那の三人が行った瑞牆山キャンプの回想が描かれる。
 私はなでしこが大好きなので、三人のキャンプだとなでしこは出てこないのかとがっかりしていたのだが、読んでみたら出ずっぱりだったので嬉しい。

 回想であることを利用して、実際は同行していなかった犬を登場させたり、なでしこを聞き手としてワイプで登場させるなど実験的な手法を採っている。現実側でなでしこがホットドックの話を始めると、回想の中の千明が影響を受けて食べているものがホットドックに変わるなど、前衛的な演出が面白い。だが、こんな手法を採った一番の理由は、作者のあfろ氏がなでしこと犬が好きなので、なんとしても登場させたかったからであろう。
 このような手法はあまりに実験的なため、新人であれば編集者に止められただろう。売れることで好きなことをやる自由が得られたのだ。

 もう一つ感じたのは現実は強いということだ。
 「神戸 Godo」という地名表示を見つけた千明達は「まさか神戸(こうべ)まで来てしまっていたとは」「いやいや神戸(こうべ)ちゃうやん 下に読みが書いてあるで」「ゴッド…オー?」「ゴッドォ…」という会話を繰り広げる。
 また、三人は売店で「にんにくしよゆづけ」を見つけ、「しよゆ」って何だ? と盛り上がる。
 これらは作者が0から作り上げたギャグなら弱い。だが、本作は作者の取材を元に描かれており、リアリティレベルが現実なので十分面白い。
 音楽で例えるなら、リアリティレベルを上げると作品全体の振幅が小さくなるので、読者がボリュームを上げて聞き、細かい音の違いを感じ取れるようになるのだ。

 一方、キャラクターは漫画的リアリティで造形されている。ドラマ版ではなでしこ役の大原優乃氏がすばらしい怪演を見せているが、実写で見るとゆるキャン△のキャラ、特になでしこが漫画的リアリティのキャラであるということがよく分かる。
 キャラクターは作品の舞台と違って取材に基づいてリアリティレベルを上げることは難しい。であるならば、単純にキャラを強くした方が良い。
 リアリティレベルが漫画寄りなので、キャラクター同士の掛け合いでは、漫画的なギャグを放り込むことができる。

 本作はキャラクターは漫画リアルで舞台は現実リアルという二つのリアリティの良い所取りをしているのだ。