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22/7計算中season4感想

22/7は秋元康氏プロデュースのデジタル声優アイドルグループだ。メンバーはアニメ風のキャラクターと担当声優から構成されており、キャラクターとリアルメンバーの二形態で活動している。
22/7計算中は2018年から放送されている22/7と三四郎によるバラエティー番組だ。今でこそVTuberが出演するテレビ番組は沢山あるが、22/7計算中はアニメ風キャラによるバラエティーの先駆的な例と言えるだろう。

22/7初期メンバーの8人+追加の3人は明確なコンセプトに基づいてキャラクターデザインされている。キャラクターデザインをカントク氏、田中将賀氏、黒星紅白氏など錚々たる面々が務めていることもあり、ぱっと見ただけでどういうキャラか把握できる。
例えば滝川みうはいかにも内向的そうだし、丸山あかねはいかにも理知的そうだ。

 

お笑いにおいて一目でキャラが把握できることは大きなアドバンテージになる。オードリーの春日氏は登場しただけで面白い。観客は春日氏がふんぞり返ってゆったり登場するのを見ただけでやたら偉そうなことを把握できるので、こういうキャラなんですよという説明を省いていきなり笑わせにいくことができる。
アイドルバラエティー番組は、そのアイドルに詳しい人じゃないとどういうキャラか把握できず面白くないという欠点がある。22/7計算中はぱっと見でキャラが把握できるので、22/7に詳しくなくても入りやすいという強みがあった。

22/7は2021年に5人が卒業し8人の新メンバーが追加された。新メンバーは演じているメンバーを元にキャラクターデザインされたので、ぱっと見どういうキャラか分からない。氷室みず姫がボーイッシュなのが分かるぐらいだ。

 

涼宮ハルヒが「ただの人間には興味ありません」と言っていたが、普通の人間は分かりやすく面白くはない。
一時期22/7検算中というリアルメンバーが出演する番組を放映していたが、3カ月で終了し、計算中に戻った。涼花萌氏のように普段からキャラが立っている人ならともかく、普通の人間が素の状態でバラエティー番組で面白いことをやれと言われても難しい。

評論家の大塚英志氏が自然主義的リアリズムと漫画・アニメ的リアリズムという概念を提唱されている。前者は作品のリアリティが現実と一致しているのに対し、後者のリアリティは漫画・アニメ的お約束に依拠して設定されている。
漫画・アニメ的リアリズムの良さを一言で言えば単純化されていることだ。
アニメキャラの性格はツンデレ、コミュ障、委員長のような類型を元に造形されているので、視聴者が容易にキャラを把握できる。
また外見も現実の人間より単純化されている。怒っている時は血管マークが浮き上がるので、現実の人間のように一瞬顔をしかめたので実は怒っているのではないか、などと細かい表情を読み取る必要はない。

もちろん、漫画、アニメ作品の中には複雑な内面や読み取りにくい表情を持つキャラクターも存在する。だが、それは自然主義的リアリズムを取り入れた結果であり、漫画・アニメ的リアリズムの特長は単純化による読者の負担軽減にある。娯楽作品はリラックスして楽しむものなのに、頑張って細かな表情を読み取ったりしたくない。


バラエティー番組は基本的に視聴者がぼーっと楽しめるように作られている。22/7計算中は普通のバラエティー番組より出演者の表情が読み取りやすいため、さらにぼーっと見ることができる最高の番組だった。
だが、シーズン4の途中から新メンバーが登場し、大幅に面白さが減じていた。演者を元に作られている新メンバーのキャラは自然主義的リアリズムに近いので把握しにくく、ぼーっと楽しめなくなってしまったからだ。これからは頑張って自然主義的リアリズム=現実の人間の面白さを楽しまねばならないと覚悟して観続けた。

だが、最近、新メンバーの八神叶愛が、戸田ジュンが卒業して不在となっていた残念キャラの後継者としての地位を確立して面白さが戻ってきた。
残念ポジションは、戸田ジュン卒業後は立川絢香が代行していたが、基本コンセプトの小悪魔と残念の食い合わせが悪かった。八神叶愛は狂犬で残念というのがフリとオチになっているのでとても面白い。

重要なのは、八神叶愛を演じている雨夜音氏の性格が面白いわけではなく、番組にどういう要素が必要か考えてキャラを立てたことで面白くなったということだ。
やはり人間よりキャラの方が面白い。

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