東雲製作所

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移動平均線乖離率とリターンの検証(S&P500編)

1.はじめに
移動平均線とは過去X日間の株価の平均値を結んだ線で、テクニカル分析の基本となる。
移動平均線の向きで上昇・下落トレンドを判定するほか、移動平均線と株価の乖離率も参考指標となる。

info.monex.co.jp


移動平均線乖離率に関しては大きく分けて3通りの意見がある。

1)順張り派 株価が移動平均線を上抜いたら買い、下抜いたら売る。
順張り派は株価にはトレンドがあり、上がっている時は上がりやすく、下がっている時は下がりやすいと考えている。
株価が移動平均線より上=過去X日より上がっているから買いというのが彼らの主張だ。

2)逆張り 株価が移動平均線の下方乖離が大きくなったら買い、上方乖離が大きくなったら売る。
逆張り派は移動平均線から大きく離れた株価は異常値なので、いずれ平均回帰で移動平均線に近づくと考えている。
株価が移動平均線より低ければ割安、高ければ割高というのが彼らの主張だ。

3)ランダムウォーク 株価はランダムに動いているだけなので、移動平均線をもとに売買しても意味がない。
ランダムウォーク派は株価はランダムに動いており、移動平均線を用いたテクニカル分析はオカルトだと考えている。
移動平均線乖離率のようなテクニカル指標は無視してインデックスファンドを定期買い付けしろというのが彼らの主張だ。

また、1)と2)を統合した「グランビルの法則」という理論もある。

money-campus.net


8パターンもあるので詳しくはリンク先を参照して欲しいが、ざっくり言うと株価が移動平均線に近い時はトレンドに従って順張りをし、移動平均線から大きく離れたら逆張りをしろという主張だ。

一体どれが正しいのだろうか。移動平均線乖離率とその後のリターンについて検証を行った。
検証には1927年12月30日~2021年4月13日のS&P500時系列データを用いた。
50日、100日、200日の移動平均線乖離率と50、100、200、300、400、500、600日後リターンの関係を求めた。


2.移動平均線乖離率とリターンの相関
50日、100日、200日の移動平均線乖離率と50、100、200、300、400、500、600日後リターンの相関係数を示す。

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数値が正であれば順張り、負であれば逆張りが有効だ。

相関係数の目安によると0~0.2はほとんど相関なしとのことなので、移動平均線乖離率とリターンはどれもほとんど相関がない。

あえて言うなら200日移動平均線乖離率と400,500日後リターンに若干負の相関がみられる。
200営業日≒1年間なので、200日移動平均線乖離率を元に逆張りをすれば、2~2.5年後には多少リターンが高まることが期待できる。

21世紀のデータに絞って同様の相関を取った結果を示す。

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やはりほとんど相関は見られなかったが、相対的には、50,100,200日移動平均線乖離率と600日後リターンの負の相関が強かった。長期の移動平均線ほど負の相関が強い。長期逆張り投資を行うなら、200日移動平均線を使った方が良い。
また、50日移動平均線乖離率と50日後リターンも比較的負の相関が強かった。


3.200日移動平均線乖離率毎のリターンの検証
移動平均線乖離率とリターンは全体としてはほとんど相関がないことが分かった。
そこで次に21世紀のデータのうち、相対的に相関が高かったペアについて乖離率順にソートして50毎に平均を取り、乖離率毎のリターンについて検証を行った。

200日移動平均線乖離率と400,600日後リターンのグラフを示す。

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横軸が移動平均線乖離率、縦軸がリターン



乖離率が-24%以下では明らかにリターンが高くなっている。
株価が暴落し、200日移動平均線乖離率が-24%以下の時に買えば、2年後には報われる可能性が高い。
興味深いのは、逆張りは常に有効な訳ではなく、-3.3~-7.8%下方乖離した状態は2年後リターンが悪いということだ。このゾーンは危険なので安易に買わない方が良い。(3年後リターンは正なので3年保有するなら無視して買っても良いが。)

200日線をわずかに割り込んだぐらいであれば、反発する可能性が高いが、3%以上割り込んでしまうと本格的な下落局面に入ってしまい、なかなか回復しないのだと思われる。
移動平均線付近まで下げて反発した時は押し目買いだが移動平均線をはっきり割り込んだら売れと説くグランビルの法則通りの結果になったのは興味深い。

上方乖離では+1.4~+3.8%のリターンが高かった。株価が移動平均線の少し上にあるのはゆるやかな上昇トレンドの最中であることが多いので、上昇が継続しやすいのだろう。
上方乖離では連続してリターンが悪い乖離率帯は見つからなかった。
あえて言うなら上方乖離率が10%を超えるとリターンのばらつきが大きくリスクがあるが、多くの場合リターンはプラスである。
200日線からの上方乖離が大きいからといって、売った方が良いとは言えない。この点ではグランビルの法則は間違っている。


4.50日移動平均線乖離率毎のリターンの検証
50日移動平均線と50日、100日後リターンについても同様に作成したグラフを示す。

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横軸が移動平均線乖離率、縦軸がリターン


50日移動平均線からの乖離率が-15%以下では、リターンが高くなっている。50日移動平均線を-15%以上割り込んだら、反発狙いの逆張り投資が有効だ。
また、乖離率+6%以上のリターンも高い。強い上昇トレンドが形成されると100日程度は持続する可能性が高いのだろう。


5.まとめ
1)移動平均線乖離率とリターンは全体としてはほとんど相関がないが、一部の乖離率では相関がみられた。
2)200日移動平均線乖離率-24%以下では400日、600日後のリターンが高い。
3)50日移動平均線乖離率-15%以下と+6%以上で50日、100日後のリターンが高い。