東雲製作所

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半額神、客を走らす

晩御飯はスーパーBig-Aの半額弁当を食べることが多かった。ところが、Big-Aが戦略を転換し、以前なら半額にしていた時間帯になっても三割引にしかしなくなってしまった。私には弁当は半額でしか買わないというポリシーがあるため、なかなか買うことができない。
代わりに愛用しているのが駅前のスーパーだ。以前外法の者と戦った所である。

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こちらは毎晩八時に半額にするので、高確率で半額弁当を入手することができる。
先日、そのスーパーで舌を巻く出来事があったので、お伝えしたい。

七時五十分に弁当売り場を訪れた私は厳しい戦いを覚悟した。
その日は弁当ポイント十倍デーの水曜日。惣菜は沢山残っていたが、弁当の残りが少なかったのだ。
弁当らしい弁当はたれカツ丼二つとレバニラ弁当一つのみ、他には焼きそば二つとビッグハンバーガーが十個程残っていた。争奪戦に備えて気を引き締める。

八時前に半額シールを貼り付ける店員、半額弁当業界用語で言う所の半額神が売り場に現れた。ベテランの貫禄を感じるその女性半額神は、売り場をざっと見渡して残数を確認した後、惣菜に半額シールを貼り始めた。私は二つしかないタレカツ丼の前の好位置を確保。半額シールが貼られたら即座に確保する構えだ。
半額神が惣菜に半額シールを貼り終える。いよいよ弁当の番だと意気込んだ私は愕然とした。何と半額神は弁当には半額シールを貼らずにバックヤードに戻ってしまったのだ!
半額弁当を狙っていた客達に動揺が走る。幾人かの客が半額を諦め、三割引きのタレカツ丼や焼きそば、ビッグハンバーガーを手に取る。私は戒律に従ってそれを呆然と見送った。

やがて、半額神は売り場に戻ってくると、残った弁当や総菜の配置を整え始めた。八時を過ぎても半額シールを貼る様子はない。私は諦めて入口脇まで戻って、カゴを返した。
だが、万が一ということもある。帰る前にもう一度弁当売り場を確認しておこう。弁当売り場に戻った私は信じられないものを見た。何と残った弁当すべてに半額シールが貼られていたのだ! 私は猛然と残り一つのタレカツ丼とビッグハンバーガーをつかむとレジに向かった。

それにしてもなんと見事なフェイントよ。私は唸った。あの半額神は弁当が残りわずかで焦っているという客の心理を読み切った上で、たった数分シールを貼るのを遅らせただけで、五個程の弁当を三割引きで売ることに成功した。諸葛亮もかくやという見事な采配だ。
私も半額でしか買わないという戒律がなければ、見事に騙されていた所だ。鮮やかな手腕にほとほと感じ入ったのだった。