東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)の書評サイトです。ジオシティーズ(http://www.geocities.jp/shinonomenod/)から移転してきました。

フィクションの感動はバズらない――ゆるキャン△第5話感想

 アニメ「ゆるキャン△」(あfろ原作、京極義昭監督)の白眉と言えば第5話「二つのキャンプ、二人の景色」だろう。
 ゆるキャン△は女子高生がまったりキャンプをするという癒し系の作品だが、「アニメ「ゆるキャン」で東山奈央が「くぁwせdrftgyふじこlp」を全力で発音」した件など、ネタ的にも盛り上がりを見せていた。中でも第5話「二つのキャンプ、二人の景色」はおっぱいとパスタで話題になった。

 おっぱいというのは、開始6秒で登場した下着姿の犬山あおいが巨乳だったと明らかになるシーンで、衝撃を受けた視聴者が続々と犬山あおいのイラストを書き始めたらしい。はてなでも
「犬山あおいの胸問題」を考察する ~重力による乳の実在性獲得仮説~
巨乳主義の精神とプロテスタンティズムの倫理  という二つの記事が同時にホットエントリー入りを果たしておっぱい祭りみたいになっていた。

wasasula.hatenablog.com

honeshabri.hatenablog.com


 前者の「本編開始より6秒」。ウサイン・ボルトよりも速い。も印象深いが、後者は面白いだけでなく現在の世界がプロテスタント的価値観に支配されていることが良く分かる、大変勉強になる記事で感心した。

 

 同じ5話では、中盤あたりで志摩リンがパスタを真っ二つに折ったシーンでイタリア人が激怒したことも話題になった。

www.all-nationz.com


アウトドア用の小鍋に入らないんだからしょうがないだろうと思うが、それだけイタリア人はパスタに思い入れが強いのだろう。

 

 だが、実際に5話を見てみると、おっぱいもパスタもさほど印象に残らなかった。演出的にも特におっぱいやパスタを強調するSEが使われている訳でもない。作り手が意図していない細部に視聴者が勝手に食いついたという印象だ。

 それより私はラストシーンに感動し、泣いてしまった。5話はなでしこ達野外活動サークルの三人が山梨に、リンが長野にキャンプに出かけた様を交互に描く。こういう部活ものでは、リンのように単独行動を愛する人も、ハルヒみたいな奴に強引に仲間に引きずり込まれ、そのうち仲間って良いな、と宗旨替えしてしまうことが多い。だが、本作ではリンもなでしこも互いの意志を尊重し、自由を愛するリンは一人で、仲間とわいわいやるのが好きななでしこは仲間と一緒にキャンプに出かける。


 別の場所に出かけた二人だが、LINEによってつながっている。この自由でいたいが繋がってもいたいという二律背反をぎりぎりのバランスで成立させた距離感が素晴らしい。そして二人は互いに相手のために夜道を進み、夜景の写真を贈りあう。物を贈り合うことで絆を深めるという行為は原始的部族社会から行われてきた極めて根源的な行いだが、使われているツールはスマホという最新のテクノロジーだ。このシーンでは原初的な贈答の素晴らしさと、離れていても繋がれるテクノロジーの素晴らしさという人類数百万年の歴史がぎゅっと濃縮されていて心うたれた。
 オーバーラップした夜景を眺めながら二人が並んでいる演出も素晴らしく、きっと多くの人が心動かされたはずだ。実際、「ゆるキャン 5話 感想」でググると、ラストシーンで感動したという感想記事がヒットする。だが、ネットでバズったのはこのラストシーンではなく、おっぱいとパスタである。何故なのか。

yurucamp.jp


 インターネットでは感動的なシーンは話題になりにくいのだろうか。だが、オリンピックで小平奈緒選手がイ・サンファ選手に滑り寄り、「今でも私はあなたを尊敬しているよ」と伝えたシーンなどは、大きな話題となった。感動的なシーンがバズらないのではなく、フィクションの感動的なシーンがバズりにくいのではないだろうか。

 何故フィクションの感動的なシーンは話題になりにくいのだろう。フィクションの感動には作り手の意図がある。作り手の意図にまんまとハマったと表明するのは気恥ずかしいという感覚があるのかも知れない。
 また、フィクションで感動したと表明するのは、自分がこういう人間だと表明することに等しい。小平選手に感動したと言っても、発言者がどういう人かは分からないが、ゆるキャン△5話に感動したと表明すると、発言者はリンみたいな友達が少ないタイプなんだろうな、と推測されてしまう。降参した犬がお腹を見せているような、自分の弱い部分をさらけ出している感じがして、気が進まないのかも知れない。

 だが、より本質的な原因は、インターネットでバズるものと、フィクションで表現するべきものが大きく異なっていることにあるのではないか。
 インターネットでバズるのは、「ゆるキャンのパスタを真っ二つに折ったシーンでイタリア人が大激怒」のように一文で内容をずばりと表現できるようなものだ。
 一方、フィクションで表現すべきなのは、短い文章では伝えきれないものだ。短い文章で伝えることができるなら、わざわざ長い時間をかけて小説を書いたり大金を投じてアニメを作ったりしなくても、ツイッターなどで伝えれば良いからだ。
 アニメを作るのは、アニメでしか伝えきれないものを視聴者に伝えるためだ。その感動を他者に短文で伝えるのは並大抵のことではないのだ。

 

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他者の必要な場所――ゼロ・グラビティ感想

(本稿は『ゼロ・グラビティ』のネタバレを含みます。)

 パリ・ダカールラリーでエンジニアはボロボロになって完走した車を調べ、壊れた箇所ではなく、壊れていなかった箇所を補強したという。壊れた箇所は壊れていても走れたのだから、完走に絶対必要な要素ではなかった。壊れていない箇所こそが必須の要素だったという訳だ。
 『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン監督)を観ると物語に絶対必要な要素が分かる。物語にとって必須ではない要素を極限まで削りこんでいるからだ。

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 まずに目的について考える。物語の主人公はしばしば誰かのために頑張る。自分のために頑張っているより誰かのために頑張っている方が崇高な感じがするからだ。恋人のため、家族のため、仲間のため、世界のため。主人公は様々なもののために努力する。だが、『ゼロ・グラビティ』を観ると、誰かのために頑張るというのがある種のドーピングであることが分かる。

 本作は事故により宇宙に投げ出されてしまったライアンが地球へ帰ろうと奮闘する物語だ。ライアンは最愛の娘を亡くしてしまっており地球に帰還しても誰かが待っていてくれるわけではない。彼女は単に自らが生き残るために頑張る。それだけで十分心打たれる。誰かのために頑張るなどというのは、頑張りに複数人の想いを積みましすることで感動を水増しするためのテクニックに過ぎない。
 七人の仲間の想いは主人公に託された、という場合、主人公の想い30に10×7の仲間の想いを積みましして、合計100にしている。だが、主人公の想いをブラッシュアップして30から100にしてしまえば、余計な積み増しをしなくても十分心打つ物語を作ることができるのだ。

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 次に登場人物について考える。『ゼロ・グラビティ』の主要登場人物は何とライアンとマットの二人しかいない。ほとんどの物語には敵対者が登場するが、本作を観ると困難な状況さえあれば敵対者は必須ではないことが分かる。
 本作に登場するのは主人公と援助者だ。本作を観ると、成長物語において他者がいつ必要なのかが分かる。

(以下重要なネタバレを含みます。)

 本作において他者が登場するのは二箇所ある。序盤と主人公最大の危機だ。
 序盤において、他者は主人公を教え導く贈与者(師匠)として登場する。主人公は船外活動ユニットを持っておらず、自力で移動することすらままならない。主人公は贈与者にロープで繋がれ、牽引される形で移動する。これは主人公が主体的に行動する力を持たない無力な存在であることを明快に可視化している。
 成長物語は主人公の変化を描くものだ。物語序盤において師匠が必要なのは、主人公に技能を習得させるという実際的な意味と共に、主人公が成長後の姿と比べ、無力な存在であることを示すためだ。本作前半で、主人公が援助者に引っ張られて飛んでいたからこそ、終盤で、自ら飛ぶ姿が心を打つのだ。
 成長物語では逆に主人公が一人にならねばならない場面も存在する。それが主人公が覚悟を決めるシーンだ。本作でもマットが語っていた通り、決断は自分自身で行わねばならないのだ。

 だが、本作では大事な主人公の決断シーンの直前に他者が登場し、主人公に示唆を与える。最初にこのシーンを観た時、私はストイックな本作唯一のドーピングではないかと思った。あざとく泣かせに来たのではないかと感じ、実際泣いた。
 だが、よく考えると、他者が登場したのは主人公が覚悟を決めるシーンではない。その前の、最大の試練を迎えるシーンだ。最大の試練において主人公に寄り添うライナスの毛布として他者が必要だったのだ。
 もし主人公が他者からの助けを一切借りずに最大の試練を乗りこえることができたなら、それは主人公が元から成長が必要ないほど強いか、試練の強度が足りないのだ。独力では耐えられず心が折れるくらいまで追い詰められるような試練を乗りこえてこそ、主人公は成長する。そしてそのような試練に耐えるためには、寄り添ってくれる他者が必要なのだ。

 

 

単にPERが低い株を買ったらどうなるか

 株の割安さを測る基準にPER(株価収益率)がある。「PER=株価/1株あたり利益」で計算できる。理論上会社の利益は全て株主に還元されるから、PERは株を買った資金を回収できる年数を示す。PER=15程度が基準で、それより低いと割安、高いと割高だと言われている。
 PER=15は年利1/15=6.67%に相当する。国債の年利は0.05%なのでずいぶん高いように見えるが、株は暴落して損をするリスクがあるので、元本保証の国債より5%程度は高くないとやってられないということらしい。

 株の入門書を読むと、株を買うにあたってPERは確かに重要だが、会社の成長性も合わせて判断しなくてはならぬということが書いてある。
 PER=15が標準というのは成長率0%の企業の場合だ。株価は3年後ぐらいの企業の業績を見越して動く。3年後に利益が倍になるような成長企業なら、15×2でPER=30が適正値になる。逆に3年後には利益が半減してしまうような会社なら、PER=7.5程度が適正になる。業種によっても適正なPERが異なるし、PERだけで判断しては駄目ということらしい。

diamond.jp

 しかしながら、会社の成長性を見きわめるのは難しい。過去数年は順調に利益を伸ばしていてもいきなり業績が悪化するかも知れないし、逆もまたあり得る。株の素人が無い知恵を絞って会社の成長性についてあれこれ考えるくらいなら、単にPERが低い株を買った方が良いのではないか。

 そこで、過去にPERが低かった企業の株を買ったらどうなっていたか調べることで、機械的に低PER株を買うという投資法が有効かどうか検証を行った。

 ウェブアーカイブWayback Machineで日経の予想PER低位ランキングの過去記事を検索した所、2016年5月30日が最も古かったので、このランキングの上位10社を単純に1株ずつ買ったらどうなったかを調査した。

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 これを見ると、機械的に低PER株を買うという投資法の上昇率(1.50%)は日経平均の上昇率(1.26%)を上回っており、そこそこ有効だということが分かる。
 個別に見ると、1.5倍以上と大きく値を上げた企業が4社、横ばいが5社、上場廃止が1社と3種類に分かれた。栗本鐵工所が11.8倍と急騰しているのが目立つ。
 上場廃止以外で大きく値を下げた企業はなかった。低PER株は底値に近いことが分かる。

結論:機械的に低PER株を買うという投資法はそこそこ有効である。

 

めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ZAiが作った「株」入門 改訂第2版

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安部首相が辞めても代わりがいない説は本当か

 財務省の決裁文書書き換え問題で安倍政権が窮地に立たされている。安倍政権を擁護する意見も、当初は朝日新聞による捏造だ、といったものが多かったが、政府が書き換えを認めてからは、官僚が勝手にやったことで安部首相や麻生大臣には関係ない、という意見が主流になっている。
 もう一つ主張されているのが、野党は安部首相の退陣を求めているが、安部首相が辞めても代わりがいないという意見だ。これは比較的中立的な立場の人が主張していることが多い。冷泉彰彦氏は北朝鮮情勢の緊迫化を理由に安倍政権の継続を主張している。

www.newsweekjapan.jp

また、よしき氏は経済政策を理由に、適当な後継候補が上げられないと主張している。

tyoshiki.hatenadiary.com


 果たしてそうだろうか。北朝鮮問題と経済政策の二点から考えてみる。

北朝鮮問題
 トランプ大統領北朝鮮との和平を模索していたティラーソン国務長官を解任し、強硬派のポンペオ氏を後任に据えた。北朝鮮情勢が緊迫しており、政治的空白を生むのがリスキーだという意見には同意する。
 政権交代が起こると外交に断絶が生じ、不安定になりやすいのは確かだ。例えば、民主党政権時に、尖閣諸島で中国船を拿捕しても立件しないという自民党政権下の申し送りが継承されておらず、結果的に尖閣諸島を係争地化されてしまったのは政権交代の弊害と言って良い。

 だが、安倍首相が退陣し自民党の他の人が首相になったとしても、外交関係の閣僚を留任させれば、大きな混乱が生じるとは考えにくい。安部首相はトランプ大統領と一緒にゴルフをしたりして個人的に親しいというメリットはあるが、それが北朝鮮危機において事態の打開に寄与しているようには見えない。
 安部首相は「関わっていたら首相も議員も辞める」という答弁をして自ら今日の危機を招くなど、危機管理能力に優れているとは言い難く、朝鮮半島有事の際に適切に対処できるか不安が残る。危機管理という点では、外相時代目立った失点や失言が無かった岸田氏の方が優れているし、他の候補も安倍氏より劣っているということはないのではあるまいか。

2経済政策
 経済政策において、安部首相はリフレ派の期待を一身に背負っている。確かに、安部政権の金融緩和や消費増税延期は景気回復に一定の効果があったように見える。安部首相が続投すれば金融緩和は継続され、消費増税は延期されるが、交代すれば金融緩和は縮小、消費増税が実施されて不況がやってくるという主張も散見される。

 だが、金融緩和を行っているのは日銀であり、黒田総裁は再任されたばかりで五年間は交代しないから、首相が交代したからといっていきなり金融政策が大きく変更されるとは考えにくい。
 消費増税に関しては、石破氏ら主な首相候補が軒並み賛成しているのは確かだ。だが、安部首相も先の総選挙で、消費増税を実施し、使い道を子育て支援等に当てることを主に訴えて勝利している。安倍政権が続けば、予定通り消費増税が実施されると考えるのが自然だ。つまり、自民党政権が続く限り、どっちみち消費増税は実施されるのだ。
 総選挙で野党は消費増税の延期を訴えていたのだが、それをもって安倍政権支持から野党支持に鞍替えしたという人はあまり聞かない。

 民主党は消費増税しないと言っていたのに増税したから信用ならんという意見には一理あり、野党が政権を奪還しても結局消費増税になる可能性はある。とは言え、さすがに増税しないと言っている野党より増税すると言っている与党が政権を獲った方が増税しない可能性が高いということはないだろう。

 安部首相は一度消費増税を延期した実績があるから、また延期するのではないかと期待するのは分からないでもない。だが、安部首相は消費増税を実施し、使い道を変更することを国民に問うために、わざわざ600億円もかけて解散総選挙を行ったのである。確かに私も消費増税は延期すべきだと思うが、特に必要もない解散をしてまで国民に信を問うた公約を撤回するのもそれはそれで問題があるのではないだろうか。

富士宮浅間神社巡り

  出張で静岡の富士宮に行ってきた。日中は仕事をしていたので、夜になってから浅間神社を見に行った。
 富士宮には浅間神社と名のつく神社がいくつもある。まず、若之宮浅間神社にお参りした。

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 次に、城山富士浅間神社に行った。

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 暗すぎて何も写ってない!

 

 最後に富士山本宮浅間大社に行った。やはり夜になってからじゃ遅かったのか……とがっかりしていたが――

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 何と社殿がライトアップされていた。

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 冬の引き締まった空気の中、浮かび上がる楼門が幻想的だ。

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 大鳥居からの眺め。奥に小さく楼門が見える。

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 石碑とライトアップされた木々。

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 中でも印象的だったのが湧玉池だ。湧玉池は富士山本宮浅間大社の境内にあり、国の特別天然記念物に指定されている。説明板によると、1万年前の富士山噴火で流れでた溶岩の末端に位置しており、富士山麓に降った雨や雪が湧き出しているのだと言う。

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 ネットのレビューを見ると癒やしスポットだと書かれているが、夜の湧玉池は荒々しかった。

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 真っ黒な水面に満々と湛えられた水が、橋の下を激しく白波を立てて流れ下っている。辺りには轟々と水音が響き渡り、大地が揺さぶられている。
 昔の人が畏怖の念を抱いて神社を建立したのも納得だ。

 都会に住んでいると、周りの全てが人の手によって作られたものなので、人間は環境を自在に変えられるような気になってくる。だが、富士宮で巨大な富士山を見ると、それが間違いであることに気付かされる。どう頑張っても人力で富士山を作ることなんて出来っこないからだ。

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 全国各地にイオンが出来、日本中が均一化されていると言われている。実際、富士宮の幹線道路沿いには、どこにでもあるようなチェーン店が立ち並んでいる。
 だが、ビルに囲まれて育った人と、富士山を見て育った人とでは、根っこの部分の考え方に大きな違いが生じるのではないか、と考えさせられた。


おまけ:富士宮焼きそばの写真

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「ふじの」の焼きそば

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「伊東」の五目焼きそば

 

カーリングはなぜ面白いのか

 平昌オリンピックで、カーリングの人気が盛り上がっている。2月19日夕方の時点で女子は4勝2敗、男子は3勝3敗と健闘している。
 はてブでも、日本代表女子の和気あいあいとした様子を報じた記事がホットエントリーに入っていた。

headlines.yahoo.co.jp


 キャラクターは別にしても、カーリングには見始めるとついつい見入ってしまう魅力がある。カーリングが面白い理由を考えた結果、カーリングはルール上つまらない試合になりにくいということに気がついた。その理由を述べる。


1)一試合のうち10回緊張と緩和が繰り返される。
 人が面白さを感じる要素に「緊張と緩和」がある。野球の面白さは主に「緊張と緩和」から成り立っている。塁にランナーが溜まっていくにつれて緊張が高まり、ツーアウト満塁にでもなれば、緊張はマックスになる。その後点が入るかチェンジになるかすることでいったん緊張が緩み緩和が訪れる。観客は徐々に緊張が高まり一気に緩和されることの繰り返しに快楽を感じる。
 野球の場合、緊張と緩和が起こるかどうかは試合展開任せだ。例えば「チームAが初回にタイムリーヒットで3点取って以降は投手戦になり、お互いほとんどランナーを出せずに試合終了」みたいな試合の場合、観客が緊張と緩和を味わえるのは一回だけである。つまり面白い試合になるかどうかはやってみないと分からないということだ。

 カーリングは10エンド戦うが、エンドのラストショットは必ず得点にからむショットになるので、構造上緊張が訪れないということがあり得ない。また、緊張と緩和が多すぎると一回当たりの緊張が薄まってしまったり、緊張しすぎて疲れてしまったりするが、一試合中十回というのは多すぎず少なすぎず程よい回数だ。
 カーリングはルール上、必ず程よい回数の山場が出現するようにできている競技なのだ。


2)点差が離れるとコンシードするのでだれた展開にならない。
 スポーツは筋書きのないドラマと言われる。スポーツが面白いのはどちらが勝つか分からないから。大きな点差がついて、どちらが勝つか誰の目にも明らかな状態でだらだら続くスポーツほど退屈なものはない。
 だがカーリングではそんな心配は無用だ。点差が開いて逆転不可能な状態になると、負けている方のチームがコンシード(降参)を申し出て試合を終わらせるからだ。試合を見ていると、4点差ぐらいで潔くコンシードを申し出たりしていて感心してしまう。もし私が選手だったら、最終エンドを残して7点差でも、もしかしたら相手が全ショットミスるかも知れないし、と考えてしまって、降参できないように思う。


 一方、カーリングにもつまらない展開が存在する。ハウス(的)の中にストーンがなく、その手前にガードストーンもない状態で、チームAがストーンをハウスに入れる(ドロー)→チームBがストーンをぶつけて叩き出す(テイクアウト)というのをひたすら繰り返す状況になると、単なる的当てゲームになってしまってつまらない。

こういう展開はリードしているチームが守備的な戦術を採った場合に起きやすい。ハウスの中にストーンが溜まっている展開は、自他共に大量点を取る可能性が高まるから、リードしているチームがハウスの中を空っぽにしておこうとするのは合理的ではあるのだが、見ている方はつまらない。
 だが安心してほしい。日本代表は男女とも攻撃的なので、ドロー→テイクアウトの繰り返しというつまらない展開になりにくいのだ。


 韓国戦は日本代表女子の攻撃的な特徴が良く出た熱戦だった。最終第10エンド。得点は6対5で日本が1点リードだが、韓国が有利な後攻だ。難しい局面になり、日本がタイムアウトを取った。
 ここで日本には二つの選択肢があった。相手のストーンを叩き出して局面を単純化するか、ガードを置いて局面を複雑化するかだ。
 解説者は前者を押し、私もそうすべきだと思った。第10エンドで韓国に1点取らせれば、延長11エンドで日本が有利な後攻を取れるからだ。
 だが、日本はコーチと相談し、このエンドで勝ちに行くべく後者の戦術を取った。おいおい、大丈夫かよ。
 すると韓国が上手くショットを決め、韓国のNo1ストーンががちがちに守られてしまった。このままでは韓国に2点取られて逆転負けである。だから言わんこっちゃない。
 だがそこでスキップの藤沢選手は投げたストーンを、ハウスの中のストーンのまさにこの1点という場所に当てて押し込み、No1ストーンを奪い返してしまった。すげー!!
 日本俄然有利。だが、まだ韓国最後の一投が残っている。韓国のスキップに藤沢選手を上回るミラクルショットを決められたら再逆転だ。果たして――
 固唾をのんで見守る中放たれた韓国のラストショットはわずかに狙いを外れ、日本が1点を獲得。勝利した。

 日本女子が攻撃的戦術を取っているのは、性格的に楽天的だからというだけでなく、スキップ勝負になれば藤沢選手の方が相手より力量が上だと自信を持っているからかも知れない。

2017小説年間ベスト10

 東雲長閑が2017年に読んだ小説のベスト10です。2017年発売作品のベスト10ではありません。

万延元年のフットボール 大江健三郎 講談社文庫
ノーベル文学賞受賞作家の代表作だけあって、非常に読み応えがある。感想を書く度に新しい発見があって、感想記事を三度も書き直した程だ。最近あまり読まれていないのがもったいない。
万延元年のフットボール感想

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

 

 

その女アレックス ピエール・ルメートル著、橘明美訳 文春文庫
ミステリーランキングを総なめにした、ものすごくリーダビリティが高いミステリー。アレックスのキャラクター造形とトリックがすごすぎて、テーマについて深く考える気にならないのが難点。
その女アレックス感想

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 

 

罪と罰 ドストエフスキー著、工藤精一郎訳 新潮文庫
純文学だと思われがちだが、最近の作家で言うと東野圭吾西尾維新みたいな内容だ。
罪と罰感想

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

 

 

アズミ・ハルコは行方不明 山内マリコ 幻冬舎文庫
地方都市の閉塞感を書かせたら随一の作者による現代の福音書
アズミ・ハルコは行方不明感想

アズミ・ハルコは行方不明 (幻冬舎文庫)

アズミ・ハルコは行方不明 (幻冬舎文庫)

 

 

ビブリア古書堂の事件手帖7~栞子さんと果てない舞台 三上延 メディアワークス文庫
大ヒットシリーズの完結編。シェイクスピア稀覯本を巡って、遂に栞子さんがラスボスの母と対決する。
「個々の力は劣っていても、二人の力を合わせれば強敵だって倒すことができる! 」というのは良くある展開だが、本作では力を合わせれば勝てることを定量的に示したのが画期的で感心した。

 

君に恋をするなんて、ありえないはずだった 筏田かつら 宝島社文庫
非モテ男子とギャル系女子のすれ違いラブストーリー。設定に目新しさはないが、リアリティの高さに圧倒される。とりわけ非モテ男子のハリネズミのようになっている心の動きの克明さには目を見張るばかりだ。普通のライト文芸では書かないもう一歩踏み込んだ場所までリアリティを持って描き切ったという点もポイントが高い。

 

蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ 杉井光 講談社タイガ
片手用ピアノ曲が左手用しかないといううんちくを基に組み立てられたミステリー。犯人の心情は直接描かれていないにも関わらず、どれだけの想いでこれを為したのかということがひしひしと伝わってくるのが素晴らしい。作中で展開される作詞、作曲論も興味深い。

 

コンビニ人間 村田沙耶香 文藝春秋
奇抜な発想と確かなリアリティがパッチワークになった過去に類を見ない小説。
コンビニ人間感想

コンビニ人間

コンビニ人間

 

 

Re:ゼロから始める異世界生活 長月達平 MF文庫J
死ぬと本人の記憶意外全てリセットされるという『死に戻り』の設定が秀逸。生きる意味は行為が誰かの記憶に残ることで初めて生まれるのではないかということを考えさせられた。
Re:ゼロから始める異世界生活感想

 

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち 大山淳子 講談社文庫
全編にひねりとくすぐりが満ち満ちている、脚本家らしいユーモアミステリー。
猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち感想

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫)

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫)

 

 

ノンフィクションでは『脳が読みたくなるストーリーの書き方』、『職業としての小説家』→感想、『イデア大全』→感想、『ベストセラーコード』→感想 などが小説創作上有益で面白かったです。

 

脳が読みたくなるストーリーの書き方

脳が読みたくなるストーリーの書き方

 

 

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 

 

ベストセラーコード

ベストセラーコード

 

 

shinonomen.hatenablog.com

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