東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)の書評サイトです。ジオシティーズ(http://www.geocities.jp/shinonomenod/)から移転してきました。

どの国に投資すべきか2――バフェット流の検証

  5月16日の記事「どの国に投資すべきか」では株価が名目GPSと相関があり、新興国の予想名目GDP成長率が高いので、新興国に多く投資すべきではないかと書いた。

shinonomen.hatenablog.com

 しかし、新興国インデックスファンドの過去のリターンを見ると先進国と比べてそれほど良くもない。経済成長率は倍近いのにリターンはあまり変わらないということは、他の要素が存在するのではないか。

 その後、『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』を読んだ所、バフェット氏は「安定成長するEPS(1株利益)」と「安定して高いROE」を重視していることが分かった。バフェット氏が言っているのは個別株の話だが、各国のインデックスファンドに当てはめて検証してみた。

 検証には5月16日の記事同様「世界各国のPER・PBR・時価総額」の2010年~2018年の3月のデータを用いた。
 ROE=PBR/PERなので、表から計算できる。EPSは分からないが、国全体に投資するわけだから純利益を比較すれば良いだろう。純利益は純利益=時価総額/PER で計算した。


1)純利益成長率の検証

  国・地域 純利益成長率
  全世界 10.85
  先進国 11.76
  エマージング 5.95
  ヨーロッパ 7.83
  アジア・パシフィック 23.92
  BRICs 4.84
1 アイルランド 29.29
2 フィリピン 22.04
3 オーストリア 21.22
4 台湾 20.02
5 韓国 16.63
6 オランダ 16.54
7 デンマーク 15.39
8 タイ 14.97
9 日本 14.06
10 ニュージーランド 13.78
11 中国 13.10
12 ポーランド 13.06
13 ノルウェー 11.99
14 米国 11.96
15 ドイツ 11.61
16 ベルギー 10.34
17 香港 9.60
18 スウェーデン 9.34
19 トルコ 8.86
20 カナダ 8.54
21 英国 8.53
22 オーストラリア 8.04
23 フランス 6.08
24 マレーシア 5.58
25 フィンランド 5.49
26 インド 4.51
27 チリ 4.04
28 スイス 4.02
29 インドネシア 4.01
30 ハンガリー 3.93
31 コロンビア 3.65
32 シンガポール 3.41
33 パキスタン 1.85
34 ロシア 1.84
35 イタリア 1.28
36 イスラエル 0.58
37 メキシコ 0.36
38 ペルー -0.83
39 スペイン -1.52
40 南アフリカ -2.07
41 ブラジル -6.44
42 チェコ -6.93
43 ポルトガル -7.89
44 ギリシャ -11.79
45 エジプト -12.00


 表1に2010年~2018年の各国純利益と純利益の年平均成長率を示す。年平均成長率は基本的には2018年と2010年のデータから算出したが、当該年のデータがない国は他の年から計算した。
 純利益成長率の上位五カ国はアイルランド、フィリピン、オーストリア、台湾、韓国となった。(オーストリアは2010年だけやたら低いのでやや疑わしい)
 日本は14.06%の9位になり、11位の中国や14位の米国を上回った。とかく低成長だと言われがちな日本だが、2010年~2018年の企業利益の伸びは世界的に見て高水準であることが分かった。

 地域別では先進国が11.76%、新興国エマージング国)が5.95%と先進国が大きく上回った。(数字上はアジア・パシフィックが1位だが、アジア・パシフィックで最も成長率が高いフィリピンより高いので間違っているものと思われる)

 新興国の主要メンバーである中国、韓国、台湾の純利益成長率は米国を上回っているのに、新興国全体の成長率は低いのは奇妙だ。そこで、構成国の割合を使って計算した所、先進国10.76%、新興国9.86%となり、差は縮まったもののやはり先進国が上回った。

先進国 構成割合 純利益成長率
アメリ 65.74 11.96 786.25
イギリス 7.05 8.53 60.14
フランス 4.33 6.08 26.33
ドイツ 3.97 11.61 46.09
カナダ 3.69 8.54 31.51
スイス 3.20 4.02 12.86
オーストラリア 2.69 8.04 21.63
オランダ 1.46 16.54 24.15
香港 1.37 9.60 13.15
スペイン 1.32 -1.52 -2.01
その他 5.18    
先進国上位10ヵ国 94.82 10.76 1020.10
       
新興国 構成割合 純利益成長率
ケイマン諸島(中国) 16.14 13.10 211.43
韓国 15.08 16.63 250.78
台湾 11.52 20.02 230.63
中国 9.68 13.10 126.81
インド 8.20 4.51 36.98
ブラジル 7.51 -6.44 -48.36
南アフリカ 6.62 -2.07 -13.70
ロシア 3.61 1.84 6.64
香港 3.29 9.60 31.58
メキシコ 2.92 0.36 1.05
その他 15.43    
新興国上位10ヵ国 84.57 9.86 833.84


 表2に構成割合と純利益成長率を示す。新興国ではトップ3の成長率は高いものの、成長率-6.44%のブラジルと-2.07%の南アフリカが大きく足を引っ張っていることが分かった。


2)ROEの検証

  国・地域 ROE
  全世界 12.01
  先進国 11.76
  エマージング 13.27
  ヨーロッパ 11.17
  アジア・パシフィック 8.37
  BRICs 13.49
1 パキスタン 25.46
2 インドネシア 21.06
3 ペルー 17.44
4 トルコ 15.58
5 インド 15.28
6 タイ 14.88
7 南アフリカ 14.77
8 チェコ 14.43
9 ギリシャ 14.38
10 スウェーデン 14.37
11 米国 14.25
12 スイス 14.23
13 中国 14.00
14 ポルトガル 13.93
15 フィリピン 13.91
16 デンマーク 13.85
17 メキシコ 13.51
18 エジプト 13.10
19 ロシア 12.87
20 ドイツ 12.37
21 イスラエル 12.34
22 マレーシア 12.17
23 フィンランド 12.15
24 スペイン 12.04
25 チリ 11.87
26 英国 11.68
27 香港 11.40
28 ポーランド 11.15
29 オランダ 11.13
30 アイルランド 11.07
31 オーストラリア 11.04
32 ニュージーランド 11.00
33 ブラジル 10.95
34 台湾 10.81
35 シンガポール 10.69
36 コロンビア 10.67
37 カナダ 10.66
38 ノルウェー 10.64
39 韓国 10.44
40 フランス 9.98
41 ハンガリー 9.97
42 ベルギー 9.83
43 イタリア 7.53
44 日本 7.44
45 オーストリア 7.31


 表3に2010年~2018年の平均ROEを示す。
 平均ROEの上位五カ国はパキスタンインドネシア、ペルー、トルコ、インドとなった。日本は下から二番目と世界有数の低ROE国である。
 純利益は順調に成長しているのにROEは低いということは、日本企業は利益に寄与していない資産を多く保有しているということである。きちんと再投資できていない資産に課税するなりして、再投資を促すべきではあるまいか。

 地域別では新興国(13.27%)が先進国(11.76%)を上回った。ただし、国別の結果から独自に計算した結果では、先進国(13.43%)が新興国(12.68%)を上回った。

3)どこに投資すべきか
 両指標はおおざっぱに言えば株式のリターンと一致する。

  国・地域 純利益成長率 ROE 平均
  全世界 10.85 12.01 11.43
  先進国 11.76 11.76 11.76
  エマージング 5.95 13.27 9.61
  ヨーロッパ 7.83 11.17 9.50
  アジア・パシフィック 23.92 8.37 16.14
  BRICs 4.84 13.49 9.17
1 アイルランド 29.29 11.07 20.18
2 フィリピン 22.04 13.91 17.98
3 台湾 20.02 10.81 15.42
4 タイ 14.97 14.88 14.92
5 デンマーク 15.39 13.85 14.62
6 オーストリア 21.22 7.31 14.27
7 オランダ 16.54 11.13 13.84
8 パキスタン 1.85 25.46 13.66
9 中国 13.10 14.00 13.55
10 韓国 16.63 10.44 13.53
11 米国 11.96 14.25 13.10
12 インドネシア 4.01 21.06 12.53
13 ニュージーランド 13.78 11.00 12.39
14 トルコ 8.86 15.58 12.22
15 ポーランド 13.06 11.15 12.11
16 ドイツ 11.61 12.37 11.99
17 スウェーデン 9.34 14.37 11.86
18 ノルウェー 11.99 10.64 11.32
19 日本 14.06 7.44 10.75
20 香港 9.60 11.40 10.50
21 英国 8.53 11.68 10.10
22 ベルギー 10.34 9.83 10.08
23 インド 4.51 15.28 9.90
24 カナダ 8.54 10.66 9.60
25 オーストラリア 8.04 11.04 9.54
26 スイス 4.02 14.23 9.13
27 マレーシア 5.58 12.17 8.88
28 フィンランド 5.49 12.15 8.82
29 ペルー -0.83 17.44 8.30
30 フランス 6.08 9.98 8.03
31 チリ 4.04 11.87 7.95
32 ロシア 1.84 12.87 7.35
33 コロンビア 3.65 10.67 7.16
34 シンガポール 3.41 10.69 7.05
35 ハンガリー 3.93 9.97 6.95
36 メキシコ 0.36 13.51 6.94
37 イスラエル 0.58 12.34 6.46
38 南アフリカ -2.07 14.77 6.35
39 スペイン -1.52 12.04 5.26
40 イタリア 1.28 7.53 4.40
41 チェコ -6.93 14.43 3.75
42 ポルトガル -7.89 13.93 3.02
43 ブラジル -6.44 10.95 2.25
44 ギリシャ -11.79 14.38 1.30
45 エジプト -12.00 13.10 0.55


表4は両者の平均を取ったものだ。
 両指標から判断した投資有望国上位五カ国はアイルランド、フィリピン、台湾、タイ、デンマーク となった。
 中国が11位、米国が13位、日本は21位となった。

 5月16日の記事で述べた通り、日本から安価な手数料で投資できる地域は日本、アメリカ、先進国、新興国の四地域である。
 過去8年間の純利益年平均成長率と平均ROEはそれぞれ下記のようになる。

純利益の年平均成長率
米国 12.0
日本 14.1
先進国 11.8 or 10.76
新興国 6.0 or 9.86

平均ROE
米国 14.2
日本 7.4
先進国 11.76 or 13.43
新興国 13.27 or 12.68

両者の平均
米国 13.1
日本 10.75
先進国 11.94
新興国 10.45

 つまり純利益とROEの観点からは 米国>>先進国>日本>新興国 であると言える。

 中国などの高い成長率のわりに新興国のリターンが冴えないのは、ブラジルなどの国が足を引っ張っているせいだということが分かった。

 これは過去のデータなので将来もこうなるというわけではない。
 だが、GDP成長率の差ほど、新興国投資が優位なわけではないようだ。

 

行為には責任が伴う――万引き家族感想

(本稿は万引き家族の抽象的なネタバレを含みます。)

 『万引き家族』(是枝裕和監督)を見終わった直後はそれほど傑作だとは感じなかった。確かに安藤サクラ氏の泣きの演技は素晴らしかったが、冗長な部分も多いように感じたのだ。だが、時間を置いて、感想を書くためにあれこれ思い返していると、次々新たな発見が出て来て、数日後には間違いなく傑作だという考えに至った。こういう感覚になったのは『この世界の片隅に』以来二回目だ。

 『万引き家族』は両義的な映画だ。あらゆることが良い面と悪い面の両面を持つよう、慎重に設計されている。
 家族関係は優しいが金目当てだし、犯罪に手を染めるのは生活のために仕方ない面もあるが、明らかにやりすぎな面もある。彼らが貧乏なのは社会のせいであり、自業自得でもある。
 花火が家から見えないシーンが象徴的だ。ビルに囲まれたボロ家から花火が見えないのは、社会の繁栄が彼らに届いていないことを象徴している。一方で、家を出て外に行けば見えるのに、そうしないからでもある。家族の心地良い関係は、彼らの心を慰めると同時に、日なたの世界へ出ることを阻害してもいる。

gaga.ne.jp

 徹底的に一面的なものの見方を排した本作だが、唯一明確に発しているメッセージがある。「行為には責任が伴う」ということだ。自分の行為は周囲に影響を及ぼすが故に責任が伴う。そのことを自覚することが大人の条件だ。
 子どもにやって良いことと悪いことを教えるのが親の役目だ。だが、本作の祥太に規範を教えたのは父の治ではなく、駄菓子屋だった。治はあらゆる責任から逃げ続けているが故にいつまでたっても大人になることができない。

 ラスト近く、祥太が治に重大な告白をする。これは最後のチャンスだった。治は息子にそんなことをしては駄目だと叱るべきだった。世間的には間違っていようとも父として息子に規範を示し、父親としての責任を果たすべきだった。だが、治はそうはせず、ただへらへらと受け流しただけだった。祥太はそのことによって完全に父に失望し、大人になる。

 あらゆる責任から逃げるということは、何一つ信念を持たないことでもある。柴田治というあまりにも悲しい男のことが頭から離れない。

 

blog.monogatarukame.net

 物語る亀の評論。バスのシーンを私は「振り返ったがもう父の姿は見えない」のだと思ったが、カメ氏は「父のことを思い返しつつ、彼らは成長する」と解釈されていて感心した。

投資信託の基準価額を予想する方法

 投資を始めて最も驚いたことの一つが、投資信託は当日の注文を締め切った後に価格(基準価額)が発表されるので、いくらで買えるか分からないということだ。
 もし商品に値札がついておらず、レジを通すまで値段が分からないスーパーがあったら、誰も行かないだろう。投資信託はスーパーで買う日用品より高いにも関わらず、みな値段が分からないことに唯々諾々と従っている。それなりの理由があるとは言え、奇妙な商習慣だと言わざるを得ない。

www.rakuten-sec.co.jp

 投資信託の値段は基本的に買った日の終値から決まる。日経平均TOPIXに連動する投資信託の場合、取引終了となる午後三時直前の値段を見て買い注文を入れれば、ほぼ連動した価格で買える。問題は外国株式の投資信託だ。

 外国株式も買った日の終値と為替から価格が算出される。だが、先進国株式の場合、日本時間の午後三時時点では欧州市場や米国市場は開いてすらいないので、終値がいくらになるか分からない。前日下がっていたからと買い注文を出すと、翌日は反発していて高く買うはめになることも多い。


 投資信託の基準価額は、同じ指標に連動するETFの値動きを見ればある程度予想がつく。

 例えば、eMAXIS Slim先進国株式インデックスのように、MSCIコクサイ・インデックス(円)に連動するインデックスファンドを購入する時は、MAXIS 海外株式(MSCIコクサイ)上場投信のように、同じ指数に連動するETFの価格を見ればよい。

stocks.finance.yahoo.co.jp

 

 ETFの取引価格は先物価格などを参考に投資家達が値動きを予想して売買した結果決まるので、ある程度近い値動きになる。

  eMAXIS Slim MAXIS海外株式
2018/6/1 -34 -217
2018/6/4 183 102
2018/6/5 81 86
2018/6/6 -5 -128
2018/6/7 123 158
2018/6/8 -35 5
2018/6/11 -40 -165
2018/6/12 125 103
2018/6/13 22 60
2018/6/14 -38 -69
2018/6/15 31 72
2018/6/18 -41 30
2018/6/19 -71 12
2018/6/20 -83 -149
2018/6/21 66 173
2018/6/22 -107 -129
2018/6/25 22 199
2018/6/26 -177 -219
2018/6/27 42 99
2018/6/28 -57 -57


 2018年6月のeMAXIS Slim先進国株式インデックスの基準価額とMAXIS 海外株式(MSCIコクサイ)上場投信の終値の前日比を示す。設定時の価格が違うので絶対値はだいぶ違うが、値動きの傾向は似通っている。

 2018年上半期の両値を比較した所、相関係数は0.78となり、かなり強い相関があった。

 ただし、相関係数は0.78であって1ではないので、全然違う値動きをすることもある。特に午後三時以降に大きなニュースがあった場合は、ETFにはそのニュースが反映されていないので、異なった値動きになるはずだ。


 投資信託の価格を正確に予測するのは難しい。どうしても正確な値段で買いたいのなら、ETFを買った方が良いだろう。
 

人のことを低能などと言ってはならない

  Hagex氏が殺された。
 出頭してきた容疑者は、色んな人に「低能」などといった罵詈雑言を浴びせかけていたことから「低能先生」と呼ばれていたらしい。
 もしこの容疑者の口癖が「低能」ではなく「はにゃーん」だったら「はにゃーん先生」と呼ばれていただろう。
 別に低能先生と呼ばれたから犯行に及んだわけではないようだが、低能先生などと呼ばれて気分が良いわけはない。
 低能などという言葉を使ったことが、自らの不幸を招いたのだ。

 

 ちょっと前にこういう増田記事があった。 

anond.hatelabo.jp

 確かにはてなにはこういう口の悪い人が結構いる。だが、それに影響されて悪口をエスカレートさせるのは良くない。
 何故なら、書いた言葉は自分に影響を与えるからだ。

 この増田も最初は周りが使っているからという理由で汚い言葉を使い始めたのかも知れない。
 だが、他者のことをバカ、アホ、低能などと嘲り続けていると本当に相手がバカなんじゃないかと思うようになる。
 そのうち自分だけが正しく周り中がバカだと感じるようになり、誰からも学ぶことができなくなってしまうのだ。

 

 容疑者は頻繁に他者に対し「殺す」などとidコールを飛ばしていたらしい。
 最初に「殺す」と書いた時、本人は本当に殺すつもりはなかっただろう。だが、何度も殺すと書き続けているうちに、その言葉が彼自身への呪いとなり、自らを縛っていく。そしてちょっとしたきっかけで、本当に人を殺してしまったのだ。

 もちろん、ほとんどの人はネット上で「殺す」などと書いても実際に殺すことはないだろう。だが、殺すなどと書きこむことが、自分の人格に良い影響を与えるわけがない。

 周りがどんな言葉を使っていようとも、「低能」だの「殺す」だのといった言葉で他者を中傷してはならない。相手を傷つけるだけでなく、書いた本人を歪めてしまうからだ。

 

 Hagex氏のご冥福をお祈り申し上げます。

株式と債券のリバランスは不適当

 インデックス投資では定期的にリバランスをすることが推奨されている。
 リバランスとは資金配分を最適な割合に戻すことだ。例えば、株式と債券の割合を、株式60%、債権40%と定めて投資を始めた場合、株式が値上がりして株式70%、債権30%になっていたら、10%の株式を売却して10%の債権を買うことで、株式60%、債権40%の割合に戻す。逆に株式が値下がりして、株式50%、債権50%になっていたら、債権を売って株式を買うことで株式60%、債権40%に戻す。こうすることで、結果的に高値の時に株式を売り、安値で買い増すことになるので、放置しておくよりリターンが高まると言うのだ。

 リバランスに効果があることは、運用結果で実証されている。『ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞社)によると、1996年1月~2009年12月の間、米国において株式60%、債権40%の割合で運用を始めた場合、年一回リバランスを行った場合と、行わなかった場合のリターン、リスクは下記のようになり、リバランスを行った方が高いリターンを得ている。

年1回リバランス 年平均リターン10.07% リスク11.84%
リバランスなし 年平均リターン8.76% リスク13.12%

 だが、現在の日本のように債権の利回りが異常に低い時にも有効なのかは疑問だ。何故なら現在は債権の利回りが0.05%、株式は5%程度なので、リバランスをするとほとんどの場合株式を売って債権を買い増すことになる。頻繁に利回りが高い商品を売って、低い商品を買い増していたら、総リターンは下がってしまうはずだ。
 通常の場合、債権の値動きはインフレ率にある程度連動しているので、株式の割高、割安の基準値として機能する。だが、現在の日本では債権の利回りはほぼゼロに張り付いているので、基準として不適当だ。

 今の日本の状況で株式と債券に対しリバランスを行うのは、「平均利回り5%の株式が、0.05%以上の利回りを上げたら割高だから売れ」と言っていることと同義だ。これは明らかにおかしい。

 株式を割高な時に売って割安な時に買いたいのなら、平均利回りを基準に考えるべきだ。株式の過去の平均利回りが5%なら、例えば7%以上増加していたら売り、3%以下なら買い増すといった基準で売買を行う方が適当なのではないだろうか。

 

 

高畑勲監督は24年早かった

 高畑勲監督が亡くなった。
 高畑監督程、アニメについて考えた人はいないだろう。天才宮崎駿監督に知名度や興行収入では劣っても、アニメ界への影響は計り知れない。
 私の高畑監督のイメージは基礎研究者だ。基礎研究が実用化され、広く一般化するには時間がかかる。高畑監督の場合、アニメ業界の24年先を行っていた。

 高畑作品のターニングポイントは1991年公開の『おもひでぽろぽろ』だ。本作で高畑作品のリアリズム追求は頂点を極めた。顔の皺まで細かく描きこまれた表情や精緻な背景は今見てもすごい完成度だ。舞台となった場所をロケハンし、緻密に再現するのは今では当たり前のようにやられているが、当時としては画期的だった。
 一方で、過去パートを淡い色調で描いている所からは、後に傾倒していくアニメ的リアリズムの萌芽が感じられる。本作の後、高畑監督はこれまで徹底して追い求めてきた自然主義的リアリズムから、アニメ独自の表現を探求する方向へと作風をシフトさせていく。

おもひでぽろぽろ [DVD]
 

 

 高畑監督の探求がテレビアニメとして広く定着するのは15年も経ってからだ。
 2006年にTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が放映された。本作の緻密な背景や細かいキャラクターの表情は、製作した京都アニメーションの名を満天下に知らしめた。中でも、第26話「ライブアライブ」における顔の皺まで描きこまれたリアルなライブシーンは、『おもひでぽろぽろ』を思わせるものだった。 

 
 2000年代後半から2010年代前半にかけてのテレビアニメは各社がいかに画面内の情報量を高めるかの勝負だった。
 京都アニメーションは細部にとことんこだわり、シャフトはデジタルを駆使した独特の画づくりで一時代を築き、ユーフォーテーブルウィットスタジオが圧倒的な動きを武器にヒットを飛ばした。『らき☆すた』のような漫画的な作品も存在したが、覇権と呼ばれる売上げトップには、実写を思わせる美しい背景の中、細かく描きこまれたキャラクターがぬるぬる動く、画面内の情報量が多い金のかかった作品が君臨していた。
 2015年までは。
 
 2015年、時代の転換を象徴する二つの作品が公開された。
 一つは『響け!ユーフォニアム』。本作で京都アニメーションのリアリズム追求は頂点を迎えた。『響け!ユーフォニアム』のすごさを知るには『あなたは死体を埋めたあとの人間の肉声を出せるか』を読んで頂ければ良いのだが、ドラマよりもリアリティの高い芝居をアニメでやったという点で、歴史に刻まれる作品になるだろう。

 
 もう一つが『おそ松さん』だ。大人になったおそ松くんの五つ子が主役のアニメをやると聞いた時、私が思ったのは、発想は面白いが売れないだろうというものだった。キャラクターは漫画的で今風ではなく、一発ネタに終わるのではないかと思っていた。
 ところが、『おそ松さん』は大ヒットし、2015年で最も売れたアニメになった。これで業界の潮目が変わった。2015年まで、テレビアニメはいかに画面内の情報量を高めるかを競ってきた。いわば足し算の発想だ。それが2015年以降は画面内の情報量を減らす、引き算の発想へと転換した。

  『おそ松さん』はキャラクターや背景のデザインこそ漫画的だったが、動きには金をかけていた。ところが2018年には画もシンプルでタイヤも回らないような低予算アニメである『けものフレンズ』が大ヒットを飛ばした。
 高予算アニメでも『メイドインアビス』や『ひそねとまそたん』のように漫画的・記号的なキャラクターデザインで、絵画的な塗りの作品が目立ってきている。

 

 この背景には、視聴者が日々さらされる情報量の多さに疲れていることがあるのではないか。
 私の場合、レコーダーに『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と『ポプテピピック』の未視聴回があったら、『ポプテピピック』を先に見る。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は観るのに集中力が必要だが、『ポプテピピック』はサクサク気軽に観られるからだ。

 話を戻すと、2015年にテレビアニメで起きた転換は、1991年に高畑監督の中で起こった転換と同じである。つまり、高畑監督は24年も時代に先行していたということだ。
 高畑監督という先行者がいながらこれほど時間がかかるのは、視聴者がついて来れないからだ。1999年に公開され、高畑監督が引き算路線を完成させた『ホーホケキョとなりの山田くん』は大赤字となり、テレビでは一回しか放映されていない。早すぎたゆえの悲劇である。

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 アニメは爆発的発展が終了し、成熟期を迎えている。高畑氏ほど先進的なアニメ監督はもう現れないのではないだろうか。

リターンを定量的に比較せよ――バフェットの銘柄選択術感想

 オマハの賢人ウォーレン・バフェット。10万5000ドルを元手に始めた株式投資で800億ドル以上の富を築いた、世界で最も成功した投資家である。そんなバフェットの具体的投資術を解説した本が『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』(メアリー・バフェット、デビッド・クラーク著、井手正介・中熊靖和訳、日本経済新聞社だ。
 ワークブック形式なので、本書の通りに各種指標をチェックしていけば、バフェットと同じ基準でその株が投資対象として適しているかチェックすることができる。
 バフェットは素人にはインデックスファンドを買うよう薦めているのだが、それでも個別株を買うと言うのなら、少なくとも本書は読んでおくべきだ。

 本書で最も重要な主張は、どの投資のリターンが高いか定量的に比較して投資先を決めろというものだ。
 先進国インデックスファンドを長期保有すれば、かなりの確率で年率5%程度のリターンが得られるし、新興国インデックスファンドは価格がジェットコースターのように暴れはするものの、平均すれば年率7%程度のリターンは見込める。

主要な株価指数・インデックスのリターン (毎月更新) - myINDEX


 もし個別株を買うのなら、割安だから、増収増益で値上がりしそうだから、配当が高いからといったふわっとした理由で買ってはいけない。きちんと予想されるリターンを計算し、先進国インデックスファンドの5%より高いリターンが見込めるのでなければ、買うべきではない。

 バフェットが確実なリターンを算出するために生み出した概念が、消費者独占型企業だ。消費者独占型企業とは高いブランド力を持っている等の理由で、他の企業と価格競争をせず、安定した収益を上げることができる企業のことだ。具体的にはコカ・コーラフィリップ・モリス、アメックスのような企業だ。
 これらの企業は安定して高収益を上げることが見込めるため、債権のように将来のリターンを見積もることができる。バフェットがコモディティ型企業と呼ぶブランド力がない製品を扱っている企業も高収益を上げることはあるが、市場環境の変化によって収益が大きく変動するため、リターンを見積もることができない。バフェットは高確率で高いリターンが見込める企業にしか投資しないのだ。

 

 高いリターンの原動力となるのが、安定的に高い株主資本利益率(ROE)と安定成長する1株当たり利益(EPS)だ。
 私は本書を読むまでは、割安度の指標である株価収益率(PER)こそが重要だと思っていた。だが、PERは買う時一回だけしか効かないのに対し、ROEが生み出す利益は毎年指数関数的に積み上がっていくので、長期投資をするならROEの方が断然重要なのだ。
 私は先月、異様にPERが低い銘柄を発見して思わず買った後に急落し、「何でこんな割安な株が値上がりしないんだ! 」と首をひねっていた。本書を読んで改めて各種指標をチェックしてみた所、ROEがボロボロであることが判明した。低PER企業は、将来PERが平均並みに戻れば値上がりするが、他の投資家がその程度の企業だと思ったままだと低いPERが維持され、株価は上がらないのだ。
 皆さんは私と同じ轍を踏まないためにも、個別株を買う前には必ず本書を熟読し、ワークシートで期待収益率を算出して欲しい。

 

 安定して高い利益率を生む株は、当然ながら値段が高くなる。割高な値段で買ったのでは、儲けることができない。そのためバフェットは市場全体が落ち込んだ時や、企業が一時的な要因で業績が落ち込んで株価が値下がりした時に買うことで、巨万の富を築いた。
 だが、株価が落ち込んでいるのが一時的な原因によるものなのか、このまま業績が低迷し続けるのか見分けるのは、素人には難しい。
 そのため、優良企業を日頃からチェックしておき、市場全体が落ち込んだ時に買うのがもっとも安全だ。

 

 2018年5月末現在、日本の株式市場は2月の下落から立ち直り、市場全体が落ち込んではいない。市場ではやり手のファンドマネージャーや百戦錬磨の投資家達が、少しでも割安な銘柄はないかと鵜の目鷹の目で各種データをチェックしている。
 市場平均より賢い人以外、個別株は買わない方が無難だろう。

 

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

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