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SAVE THE CATの法則とハリウッド脚本術を比較する

ハリウッドの脚本構成法を解説した代表的な本に『SAVE THE CATの法則』と『ハリウッド脚本術』がある。

 

『SAVE THE CATの法則』で提唱されている『ブレイク・スナイダー・ビートシート』はブレイク・スナイダー氏が三幕構成を発展させた脚本構成のテンプレートで、下記の15項目から成る。
*ブレイク・スナイダー・ビートシート

1.オープニング・イメージ 物語のイメージや雰囲気を伝えるファーストシーン
2.テーマの提示 作品のテーマを提示する
3.セットアップ 主要な登場人物や、舞台などの物語の設定を説明する
4.きっかけ 物語が動き出すきっかけになるできごとが起こる
5.悩みのとき きっかけとなるできごとによって主人公が悩む
6.第一ターニングポイント 主人公が自らの意思で行動して物語が本格的に動き出す
7.サブプロット メインから少し離れたサブストーリー
8.お楽しみ 作品の売りになる部分を見せる場面
9.ミッド・ポイント 物語の流れが変わるポイント
10.迫り来る悪い奴ら すべてが上手くいっていたように見えた主人公に困難が襲い掛かる
11.すべてを失って 主人公が絶不調になる
12.心の暗闇 解決策を見つける前の一番暗いシーン
13.第二ターニングポイント 主人公が最悪の状況から抜け出す解決策を見つける
14.フィナーレ 物語の中で教訓を学んで成長した主人公が勝利する
15.ファイナル・イメージ オープニングと比べて主人公がどのように変わったのかを見せる

 

一方、『ハリウッド脚本術』はニール・D・ヒックス氏による書き込み式トレーニングブックだ。
その中で氏は10のストーリー要素を提示されている。
*10のストーリー要素

1バック・ストーリー ストーリー以前に起きた、現在のストーリーのための状況と設定を確立している出来事
2内的な欲求 主人公が獲得しなければならない失われた特質
3キッカケとなる事件 主人公に解決すべき問題を与える異常な出来事
4外的な目的 人生をより良くするために解決すべき問題
5準備 外的な目的を達成するための準備。
6対立(敵対者) 主人公が目的を達成するのを妨げる外の力
7自分をハッキリと示すこと 最も落ち込んだときに、主人公が内的に変化する
8オブセッション 外的な目的を重要たらしめる周りの要素
9闘争 主人公が敵対者と戦う
10解決 外的な目的を解決し、主人公や周囲の社会が変化する

 

項目数が5個も違うので、両者はだいぶ違うようだが、よく見ると多くの点が共通している。
ブレイク・スナイダー・ビートシートには3つのポイントが混じっている。ミッド・ポイントは純粋に「お楽しみ」と「迫り来る悪い奴ら」の境界で長さを持たないから除外できる。
同様に5,6、11,12も一つのシーンと考えられる。そこを整理すると、ブレイク・スナイダー・ビートシートは12項目になる。

1.オープニング・イメージ 物語のイメージや雰囲気を伝えるファーストシーン
2.テーマの提示 作品のテーマを提示する
3.セットアップ 主要な登場人物や、舞台などの物語の設定を説明する
4.きっかけ 物語が動き出すきっかけになるできごとが起こる
5.悩みのとき きっかけとなるできごとによって悩んでいた主人公が自らの意思で行動して物語が本格的に動き出す。
7.サブプロット メインから少し離れたサブストーリー
8.お楽しみ 作品の売りになる部分を見せる場面
10.迫り来る悪い奴ら すべてが上手くいっていたように見えた主人公に困難が襲い掛かる
11.すべてを失って 主人公が絶不調になる
12.心の暗闇 一番暗いシーンで主人公が最悪の状況から抜け出す解決策を見つける
14.フィナーレ 物語の中で教訓を学んで成長した主人公が勝利する
15.ファイナル・イメージ オープニングと比べて主人公がどのように変わったのかを見せる

 
両者の対応は下記の通りだ

SAVE THE CAT ハリウッド脚本術
1.オープニング・イメージ
2.テーマの提示 (2内的な欲求)
3.セットアップ 1バックストーリー
4.きっかけ 3キッカケとなる事件
5.悩みのとき 4外的な目的
7.サブプロット (5準備)
8.お楽しみ (5準備)
10.迫り来る悪い奴ら 6対立(敵対者)
11.すべてを失って
12.心の暗闇 7自分をハッキリと示すこと
8オブセッション
14.フィナーレ 9闘争
15.ファイナル・イメージ 10解決

 

対応させると両者の特徴が分かる。
『SAVE THE CATの法則』が優れている点は、「11.すべてを失って」を明確に一項目として立てている点だ。主人公がすべてを失ってどーんと落ち込み、内なる課題と向き合うというのはハリウッド的物語の肝であり、どれだけ主人公をボコボコにできるかでカタルシスの大きさが決まる。11の下落幅が大きいほど上昇幅も大きいのだ。
また、「7.サブプロット」もユニークだ。スナイダー氏は観客を飽きさせないため7で今までと全然違うことをやれと言う。物語的必然性はないが、観客を喜ばせるために経験上必要というのが面白い。アニメの中盤で水着回があるのは理にかなったことだったのだ。

『ハリウッド脚本術』の白眉は「内的な欲求」と「外的な目的」を明確に分けた点だ。「内的な欲求」を解決するのは「自分をハッキリ示すこと」で、「外的な目的」を解決するのは「闘争」だと分割したことで、やるべきことがはっきり整理されている。
もう一つの独自性は「オブセッション」だ。これは「主人公が勝たないと仲間が死ぬ」のように闘争の掛け金を釣り上げる要素のことで、別になくても良いが、確かに盛り上がるのでやっておいて損はないのだ。