1)日銀とGPIFが日本株を大量保有
10月23日の朝日新聞に「公的マネーが大株主8割 東証1部4年で倍増、1830社に」という記事が出ていた。
年金資金を運用する国の独立行政法人と日本銀行が、東証1部企業の8割にあたる約1830社で事実上の大株主となっていることが朝日新聞などの調べでわかった。4年前の調査時から倍増した。巨額の公的マネーは実体経済と乖離した株高を招き、「官製相場」の側面が強まっている。「安定株主」として存在することで企業の経営改善に対する努力を弱める恐れがある。
記事では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と日銀がETF(上場投資信託)を買うことで、東証全体の時価総額の12%を間接保有していると指摘。業績と関係なく株価が上がり、物言わぬ株主が増えることで企業に対する経営監視が弱まるのではないかと警鐘を鳴らしている。
私はETFの運用会社や信託銀行が議決権行使をしており、会社によって会社議案への反対比率が大きく違うとは知らなかったので勉強になった。
2)日銀のETF購入には合理性がない
記事にもある通り「GPIFのような年金資金の運用期間が株を買うのは海外でも一般的だが、中央銀行による購入は国際的に異例の対応」だ。
米国の中央銀行にあたるFRBはコロナショックでありとあらゆる政策を総動員したが、ETF購入は行わなかった。それだけ効果が疑わしい政策だからだ。
「GPIFの株購入は、年金資産をより増やすためだが、日銀はお金を市場へ流す金融政策として実施している。」
だが、日銀がETFを買うことで、経済にどのような良い影響があるのか、私にはさっぱり分からない。
FRBはコロナ対応で社債を購入している。社債を購入すれば、企業の資金繰りを助ける効果があり、経済にとって有益だ。
だが、発行済の株を買っても企業の手持ち資金が増えるわけではない。儲かるのは企業ではなく、株を売った投資家だ。
儲かった投資家が「ガハハハ、今夜は豪遊しちゃうぞー!」とか言って消費すれば経済は活性化するのかも知れないが、基本的に金持ちほど投資額が多いのだから、金持ちに沢山金を配っていることになる。
貧困層に限って1万円給付します、という政策をやるなら再配分の点から合理性があるが、富裕層に1万円配布しますという政策には合理性がない。格差を拡大させるし、富裕層ほど金を配っても消費に使わない傾向があるからだ。
3)日銀のETF購入は長期的には株価を上げる効果はない
読者の中には「株を持っていない人も、GPIFが運用した恩恵は受けているんだし、株価を上げること自体は良いんじゃないの?」という意見の方もおられるかも知れない。朝日新聞の記事でも、日銀がETFを1兆円買うと、日経平均を260円ほど押し上げる効果があったという試算を紹介している。だが、日銀のETF購入が長期的に株価を押し上げる効果があるかには疑問が残る。
価格が需給で決まるという考え方に拠れば、日銀が買うことで株価が上がる。コロナでマスクをつける人が急増し、マスクの価格が上がったのは、従来の価格では需要>供給になったためだ。価格は短期的には需給で決まると言われているので、短期的な押し上げ効果はあるだろう。
一方、長期的に価格は本質的価値に収斂するという考えに拠れば、日銀が買っても影響はない。
例えば商品券は金券ショップで額面以下で売られている。誰かが1万円の商品券を大量に購入しても、1万円以上になることはない。本質的価値が1万円以下なので1万円以上では誰も買わないからだ。
株は商品券ほど本質的価値が分かりやすくはないが、日銀が日本株を買うことで日本株が割高になったら、投資家は日本株を売って、他国のもっと割安な株を買うだろう。マスクと違って、お金を増やす手段は日本株以外にもたくさんあるからだ。
アベノミクスの上げ相場で儲けた短期投資家はともかく、iDeCoで運用しているような長期投資家が恩恵を受けるかは疑わしい。
4)日銀のETF購入の恩恵を受けているのは主に海外の機関投資家
日銀のETF購入は主に短期売買している投資家に恩恵があることが分かった。
日本株長期保有している投資家は日本人が多いが短期は海外の機関投資家が多い。
Newsweekの記事によると、日本の上場企業の株主の7割は国内金融機関や個人投資家で、外国人投資家は3割程度だが、日本株売買のシェアでは外国人投資家の割合が約6~7割に跳ね上がるのだと言う。
日銀のETF購入の恩恵を主に受けているのは、日本の投資家ではなく、ヘッジファンドのような海外投資家だ。
海外の機関投資家は日本株が下落すると素早く売って資金を引き上げるが、その時に間接的に買ってあげているのが日銀やGPIFなのだ。
5)日銀のETF購入は全国民から10万円ずつ集めて海外の機関投資家に配るような政策
ジンバブエ政府がお金を刷って借金を返そうとしたらハイパーインフレになったように、日銀がお札を刷ると、お金の価値が希薄化する。
増税に比べ、金融緩和は国民の反発が少ない。インフレになっていないからだろうが、将来インフレになる確率は上がっている。国民の手持ちのお金が目減りするという点で、増税と金融緩和は同じ効果がある。
日銀はETFを最大年12兆円購入している。日本の人口は1.265億人なので、1人当たり毎年約10万円分だけお金の価値が希薄化されるということになる。
日銀のETF購入は「全国民から10万円ずつ集めて、海外の機関投資家を中心に、投資家に配布する」みたいな政策だ。
公平性の観点からも問題だし、海外の機関投資家は国内で消費しないだろうから経済活性化の点でも効率が悪い。
もし、政府が「全国民から10万円ずつ集めて、海外の機関投資家を中心に、投資家にだけ配布する」という政策を打ち出したら国民が怒り狂って支持率は急落し、政権を維持できないだろう。
同じようなことをやっているにも関わらず、なぜ怒っている人がほとんどいないのか不思議でならない。