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ソフトバンクグループ株は割安か

 (今回の記事は長く込み入っているので、結論だけ知りたい方は一番下のまとめをご覧下さい。)

 ソフトバンクグループ(以下ソフトバンクG)株が大幅下落している。
 ソフトバンクGは7月29日につけた5886円の年初来高値から下落に転じ、10月25日には3958円の年初来安値をつけた。下落幅は32.8%だ。

 下落の原因はソフトバンクGがWeWorkに1兆円の追加融資を決めたことだ。

www.bloomberg.co.jp

 

 ソフトバンクGがサウジアラビアと共同出資して立ち上げたソフトバンクビジョンファンドは様々なベンチャー企業に巨額の投資を行ってきた。だが、ウーバーやWeWork等の実際の企業価値が想定よりも大幅に低いことが発覚した。
 孫正義会長はアリババの将来性を見抜いて巨額の出資を決断するなど、卓越した投資選別眼の持ち主だと思われていた。だが、WeWorkのずさんな経営を見抜けなかったことで、投資家に孫会長の手腕が不安視されている。

 SBI証券のまとめでは、11月1日現在、ソフトバンクGに対し、アナリスト12人中10人が強気、1人がやや強気、1人が中立の判断を示している。
 アナリストのほとんどは割安と見ているということだ。

 ソフトバンクGは本当に割安なのだろうか。いくつかの見方がある。


1)PER,PBR
11月1日現在、ソフトバンクGの予想PER、実績PBRは下記の通りだ。
予想PER 3.95
実績PBR 1.24

日経平均の予想PERが12.95なので、PER的には異様に安い。だが、WeWorkへの巨額出資等で予想通りの利益は得られないだろうから、予想PERはあまり当てにならない。
日経平均の実績PBRは1.13なので、PBR的には日経平均よりは高い。
PBR1.0が時価総額=純資産 なので、資産価値の24%増しで評価されているということだ。


2)ソフトバンクGの見解
ソフトバンクGは自社のウェブページで1株当たりの株主価値を計算、公開している。

group.softbank


それによると、11月1日現在の1株当たりの価値は11129円。株価は4192円なので、実際の価値の37.7%で評価されているということになる。

1)のPBRと違う理由は2)には株の含み益が含まれているためだ。PBRは株を買った時の値段で評価する。時価で評価している2)の方が実態に近い。

 ただし、この試算では最近のソフトバンクビジョンファンドの価値急落が反映されていない。

www.bloomberg.co.jp
評価切り下げは最大70億ドルに達する可能性も
 という報道に基づいてソフトバンクビジョンファンドの価値を70億ドル減らすと1株当たり価値は3.38$=365.99円下がって10763円になる。
 現在の株価4192円は38.9%。実際の資産価値より61%割安ということだ。


3)ソフトバンクGの見解に対する反論
ソフトバンクGの見解には反論もある。

jp.reuters.com

 まとめると、
保有株式の持株比率が大きく、株価を暴落させずに売却できないので、2割差し引くべき。
・アリババ株は売却時の税金分3割を差し引くべき。
・ビジョンファンド等の投機的投資は40%割り引くべき。
という理由で2月6日の時点では16%安いだけになると言う。

現状の1株当たりの価値に上記のディスカウントを適用すると、1株当たりの価値は6393円となった。現在の株価4192円は65.6%。持ち株が値上がりしているので、34.4%割安だ。

 持株価値を2割引きすべきという主張は、市場で短期に持株を一気に売り払うような場合には正しい。だが、長期間かけて少しずつ売却するか、買収先を探して市場外で売買すれば市場価格に近い価格で売れるはずだ。
 逆に言うと、ソフトバンクGが持ち株を慌てて売らねばならないような事態に追い込まれても、34.4%割安だということだ。倒産さえしなければ割安だと言える。


4)ソフトバンクGの財務は危ないのか
 前項の議論で、ソフトバンクGは倒産さえしなければ割安だということが分かった。
 ソフトバンクGの財務は危ないのだろうか。

 ソフトバンクGの危険性で良く指摘されるのが、有利子負債の大きさで15兆1556億円もある。ただし、総資産も36兆5870億円ある。また保有しているアリババ株の時価総額が12兆8899億円、ソフトバンクが4兆7778億円なので、アリババ株とソフトバンク株を売り払えば、有利子負債は完済できる。(ただし、急いで完済を求められるような事態になるとディスカウント価格でしか売れないのは3)の通り。)

 自己資本比率は22.4%と低めだが、急成長企業としてはそれほど低くもない。

 本業の利益を示す営業キャッシュフローは1兆1718億円のプラス
 投資キャッシュフローは2兆9080億円のマイナスで、両者を足したフリーキャッシュフローは1兆7362億円のマイナス。利益の倍以上投資しているため収支がマイナスになっているということだ。
 ただし営業キャッシュフローは巨額のプラスなので、財政的に危なくなったら投資を絞れば黒字にできる。孫会長が倒産の危機が迫っているのに、取り憑かれたように巨額投資を続けるとまずいが(WeWorkに追加出資したことでこの懸念が増大した)、まともな判断力を持っていれば大丈夫だ。

 報道によると、ソフトバンクビジョンファンドはシェア拡大を優先させていた出資先に黒字化を急ぐように指示を出したという。どうやら孫会長はまともな判断力を持っているようだ。


5)まとめ
 ソフトバンクGの妥当な株価は6393~10763円なので、現状の株価はかなり割安だ。
 ただし、現在は世界的に株価が高騰中だ。現在の株高には利益成長の裏付けがないのでいずれ下落する可能性が高い。
 大きな下落が来たらソフトバンクGが保有するアリババ等の株価も下落する。急成長株を多く抱えるソフトバンクGは市場平均を上回って大きく下落する可能性が高い。
 ソフトバンクG株が割安なのは間違いないが、世界的な株価の下落が来たら大きな含み損を抱えるリスクがあることには注意が必要だ。