東雲製作所

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逆イールドとは何か

 8月14日に米国で米国10年国債利回りが2年国債利回りを下回る逆イールドが発生した。逆イールドは景気後退(リセッション)の前兆とされることから、株価は大きく下落。S&P500は-2.93%と今年最大の下げ幅を記録した。

 ニュースサイトを見ても、逆イールドは景気後退の前兆だと書いてあるだけで、景気後退が起こる理由は書いてないことが多い。そこで逆イールドとは何か、逆イールドが発生するとなぜ景気後退が起こるのか、今回も本当に景気後退が起こるのかについて調べてみた。


1)逆イールドって何?
野村證券の解説を引用する。

逆イールド
短期金利長期金利を上回り、イールドカーブ(利回り曲線)が右下がりの曲線となっている状態のこと。市場関係者が将来的に金利が下がるとみている場合に起こる現象で、一般的に景気後退の兆候として捉えられる。

 通常、国債長期金利短期金利より高い。長期間お金を貸すとその間自由に使えないわけだから、貸し手がより高い金利を要求するのは当然だ。
 だが、将来金利が下がる場合はどうか。例えば今後2年間は金利が2%だが、その後は1%まで下がるとする。そうすると、2年間の金利は2%だが、より長期の10年間の金利は2%を下回る。これが逆イールドだ。

 長短金利の逆転は全て逆イールドと呼ぶ。3月にも米国10年国債利回りと3ヶ月国債利回りが逆転し、逆イールドだと騒がれたことがあったが、景気後退の前兆としてより適切なのは米国10年国債利回りと2年国債利回りの逆転らしい。3月の騒ぎは何だったのか。

 過去7回の景気後退では、毎回逆イールドという前兆が発生している。

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 大和投信の資料から孫引きしたグラフを見ると、確かに「長短金利差が縮まっていき逆イールド発生→景気後退が起こって長短金利差が急拡大」を繰り返していることが分かる。


2)なぜ逆イールドが起こると景気後退するの?
 一般に、景気が減速すると、景気を良くするため、米国の中央銀行に当たるFRBが利下げをする。従って、10年国債利回りのような長期金利が低下するということは、債券投資家が将来景気が減速するだろうと予想していることの表れだ。
 ただし、景気の減速=景気後退ではない。景気後退とは一般に二四半期連続でGDPがマイナス成長することを指す。GDP成長率が3%から1%に減速しても、景気後退ではない。

 景気後退はFRB金利操作ミスによって起こる。FRBが景気減速に先んじて十分金利を下げて景気を下支えすれば、景気は後退までには至らずに踏みとどまるが、FRBの利下げが遅れると景気後退に至ってしまう。
 10年国債利回りが将来景気がどうなるかの予想なのに対し、2年国債利回りFRBがどのように金利誘導するかを予想したものだ。逆イールドが発生するということは、債券投資家がFRBが十分利下げをしないせいで将来景気後退し、FRBがさらなる利下げに追い込まれると予想しているということなのだ。


3)今回も景気後退するの?
 世界的に景気が減速しているのは間違いない。英国の4-6月期GDP速報値が前期比-0.2%、ドイツは前期比-0.1%とマイナス成長になったし、日本も消費増税を控え、10-12月期はマイナス成長が予想されている。欧州各国や日本が景気後退入りする可能性は低くない。

 だが、米国債の逆イールドは米国の景気後退の前兆とされている。米国は景気後退するのだろうか。
 結論から言うと、米国は当面景気後退しない可能性が高い。

 第一に、逆イールド発生から景気後退までの期間は平均22ヶ月もある。必ずしも景気後退が差し迫っているわけではない。
 バンク・オブ・アメリカの集計によると、1956年以降で逆イールドが発生したケースは10回あり、逆イールド発生からS&P500が天井を打つまでの期間は2ヶ月から2年だった。すぐに株を売ってしまったら、2年間の上げ相場を指をくわえて見るはめになるかも知れない。
 
 第二に、専門家の多くが景気後退しないと予想している。
リセッション懸念が2011年以来の高水準、バブルのリスク広がる-調査 - Bloomberg

によると、8月に実施した調査に答えたファンドマネジャーの約3分の1は、今後12カ月の間に世界的な景気後退が起こる可能性が高いと考えている。逆に言うと3分の2は1年以内に景気後退しないと予想しているということだ。
 また、イエレンFRB前議長は逆イールドについて「歴史的には良い警告だが、今回は当てはまらないかもしれない」「(米経済は)景気後退を回避できる力強さがある」「(景気後退入りの)可能性は明らかに高まっている」ものの「ほとんどない」と指摘している。
 IMFが今年7月に改定した米国のGDP成長率予想は2019年が1.9%、2020年が1.7%だ。米中貿易戦争の激化で低下するとしても、マイナスまで行くとは考えにくい。

 第三に、各種経済指標が好調である。米国雇用統計によると、2019年7月の失業率は3.7%と過去最低水準で推移している。非農業部門雇用者変化数は16.4万人増と堅調。消費者物価指数は+0.3%。景気後退の兆候は見られない。

 第四に、過去の逆イールドとは状況が異な‭っている。これについては広木隆氏のレポートを読んで頂くのが手っ取り早い。

media.monex.co.jp

 広木氏の主張は以下のとおりだ。
 逆イールドが景気後退を招くわけではない。逆イールドの状況が発生しているにもかかわらずFRBが利上げをやめないことが要因。
 今回、リセッションにつながるようなバブルの生成とその崩壊懸念はなく、そしていつもバブルを潰してしまう当局の引き締めもすでに停止されている。どう考えても深刻なリセッションは到来しないだろう。

 広木氏の主張は論理的で説得力がある。それに対し、景気後退が起こると言っている人は「過去にもそうだったのだから今回も起こる」としか言っていない。

 逆イールドで景気後退と言っている人は、債券投資家が正しく、FRBが間違っていると考えているということだ。経済指標を見る限り、米国景気は堅調で、大きな利下げは必要ないと言っているFRBの方が正しいと思う。
 1月の株の急落を見ても分かる通り、投資家はしばしば見通しを間違える。どうして債券投資家の景気後退予想(=逆イールド)だけは必ず的中すると思うのか。

 ただし、市場参加者がみな景気後退を恐れて資金を引き上げると本当に景気後退する可能性はある。米国経済が長期の景気成長の終盤にあることは確かだ。だが、それはだいぶ前から分かっていたことだ。
 逆イールドが起きたからと慌てふためいて株を全部売り払うのではなく、長期的視点で将来、景気後退が起こっても耐えられるよう備えておくことが重要だ。