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米国株の割安度チェック

米国株に昨年10月以来の大きな下落が到来している。S&P500は最高値から5.5%、NASDAQ100は7.1%下落した。

S&P500チャート(TradingViewで作成)

 

現在は久々に巡ってきた押し目買いのチャンスなのだろうか。
各種ファンダメンタル、テクニカル指標をチェックしてみた。

1)Fear&Greed INDEX 
31 FEAR 割安

Fear&Greed INDEX(恐怖と強欲指数)は各種指標を組み合わせて市場心理を測る指標である。
4月19日現在、31と昨年10月以来の低さに落ち込んでいる。
ただし、まだFEAR(恐怖)であり、25以下のEXTREME FEAR(極端な恐怖)には達していない。

Fear and Greed Index - Investor Sentiment | CNN


2)予想PER
SP500 20.65 レンジの16-22内に戻るもまだ割高
NASDAQ100 26.22 レンジの20-27内に戻るもまだ割高

予想PERは株価が利益の何倍かを表すファンダメンタル指標である。
レンジ外の非常に割高な状態からは脱したが、過去平均よりは割高な状態が続いている。

PER(ナスダック100・S&P500・ラッセル2000)の推移とチャート


3)イールドスプレッド
-0.22% 非常に割高

イールドスプレッドは10年国債利回り-S&P500の益利回りで、2)の予想PERを10年国債利回りと比べてどうかを測る指標である。
レンジは-2~-4%と言われており、通常はより安全な米国債より米国株の利回りの方が2~4%高いのだが、現在はほぼ同じになっている。米国株は米国債と比べて非常に割高である。

イールドスプレッドの推移とチャート(米国S&P500と長期金利)


4)シラーPER
32.98 非常に割高

シラーPER(CAPEレシオ)は短期の景気変動の影響を除外するため、過去10年分の利益を元に算出したPERである。
私の過去の研究によると、シラーPE32.5以上では5年リターンの期待値がマイナスになる。
現在は依然として32.5以上であり非常に割高だ。

Shiller PE Ratio - Multpl

shinonomen.hatenablog.com


5)RSI
S&P500 日次31.296/週次55.216/月次61.333 短期的には割安。長期的にはやや割高
NASDAQ100 日次29.65/週次50.08/月次61.76  短期的には割安。長期的にはやや割高

RSIは買われすぎ、売られすぎを判定するテクニカル指標。0-100で表され、低いほど割安である。
日次で見れば割安だが、月次で見るとまだやや割高である。

S&P500指数のテクニカル分析(SP:SPX) — TradingView

ナスダック100指数のテクニカル分析(NASDAQ:NDX) — TradingView


まとめると、市場心理や短期のテクニカル指標では割安だが、ファンダメンタル指標や長期のテクニカル指標ではまだ割高である。特に、イールドスプレッドとシラーPERが非常に高いのが気にかかる。


それではどうすれば良いのだろうか。シラーPERが32.5を下回るか、Fear&Greed INDEXがEXTREME FEARになるまで待つのも一法だが、それだと押し目買いのチャンスを逃す恐れがある。
すぐに反発しても、大きな下落が来ても対応できるよう、少しずつ買い始めるのが良いのではないだろうか。

私がやっているのは、最大下落幅を想定し、投資可能資金を最大下落幅で割って、下値を更新する度、下落幅分買い増していく方法だ。
例えば、最大下落幅をリーマンショックの約50%に設定した場合、投資可能資金が5万円なら、1%下落するごとに1000円ずつ買い増していけば、リーマンショック越えの下落が来ない限り、途中で資金が枯渇することはない。
よりリスクを取るなら、最大下落幅をコロナショックの約30%にしても良い。

順調に株価が上がっている時は、定期購入するぐらいしかやることがない。
下落が来た時に、どれだけ冷静に買い向かえるかが、投資家としての腕の見せ所である。

年初一括投資は有効か

山崎元氏のNISA記事がホットエントリー入りしていた。

diamond.jp


記事中で山崎氏は「投資資金を早くNISA口座内に集めることが合理的」なので、「年初に240万円投資する。」ことを推奨されていた。

確かに、S&P500のようなインデックスは長期的には右肩上がりで上昇するのだから、1~12月に分散して買うより1月に買った方が期待リターンは高くなる。
それでは、年初一括投資と毎月積立投資では実際にどの程度の差が生じるのだろうか。
S&P500指数に対し、1985年~2023年の39回で年初一括投資と毎月積立投資で購入できる株数を比較してみた。

年初一括投資が毎月積立投資を上回ったのは28回。年初一括投資が上回る確率は71.8%だ。
最も年初一括投資が上回ったのは1987年の14.15%、最も下回ったのは2008年の-18.8%だった。
年初一括投資の方が平均3.32%多く購入できる。

 

2%毎のヒストグラムを見ると、±1%以内が最も多く、-1~+15%の頻度が高い。

横軸は年初一括投資の毎月積立投資に対する上回り率。縦軸は回数。


だが、年初一括投資が-9~-19%と大負けしたのが4回ある。何とかして大負けを避ける方法はないだろうか。

株価の割高、割安を簡便に見分ける方法に移動平均線乖離率がある。過去の平均株価と比べ、大幅に割高になっていたら割高と判断する方法だ。今回は50カ月移動平均線という超長期の移動平均線を採用した。
年初一括投資が大負けした年は、1月がバブル的高値になっていたのではないかと予想し、50カ月移動平均線乖離率を調べてみたのだが、乖離率は+45%~-7%とバラバラだった。

移動平均線乖離率と年初一括投資の上回り率の散布図を示す。両者に相関は見られない。

横軸は年初の移動平均線乖離率。縦軸は年初一括投資の上回り率。

 

S&P500のチャートを示す。オレンジが50カ月移動平均線、グレーが50カ月移動平均線乖離率10%の線を示す。

チャートを見ると現在の右肩上がり相場が始まって長期移動平均線が上向いた2012年以降、乖離率10%以下はどれも良い買い場だったことが分かる。
そこで、2012年以降の移動平均線乖離率と年初一括投資の上回り率の散布図を描いた所、右下がりの相関が現れた。

横軸は年初の移動平均線乖離率。縦軸は年初一括投資の上回り率。

 

2012年以降の平均乖離率は23.22%であり、平均乖離率以下だった年はマイナスになったことがない。
一方、乖離率45.98%と著しく割高だった2022年は-15.58%と大きく一括投資が下回った。
2012年以降は移動平均線乖離率を元に、割安なら一括投資、著しく割高なら毎月積立投資にする戦略がある程度有効であることが分かる。

 

まとめ
50カ月移動平均線乖離率が10%以下なら、一括投資した方が良い。
50カ月移動平均線乖離率が10~23%もどちらかと言うと一括投資した方が良い。
50カ月移動平均線乖離率が23~40%の時はどちらとも言えない。
50カ月移動平均線乖離率が40%以上の時は一括投資は止めた方が良さそう。

ちなみに12月16日時点での50カ月移動平均線乖離率は20.61%だ。来年初も今と同程度の価格であるなら、乖離率23%以下なので、一括投資しても良さそうだ。

ただし、この法則は右肩上がり相場が続いている場合に限られる。右肩上がり相場が終わって00年代のようなボックス相場になると、この法則は使えなくなるので注意が必要だ。

 

NISAでオルカンやS&P500よりハイリターンを狙う方法

1.インデックスか個別株か

来年から新NISAが開始される。つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円の年360万円が無期限で非課税になる。

NISAの投資先にはインデックス(市場を構成する多数の株への分散投資)と個別株がある。高配当の個別株を推奨するような記事もあるが、賛同しかねる。NISAでは長期右肩上がりのインデックスを買った方が良い。理由は二つある。


1)長期右肩上がりのインデックスは長期的には上がる可能性が高い。
NISAは長期間保有し続けることで非課税というメリットを最大限生かせる。そのためには下落しても長期的には上がるという確信をもって保有し続けられる資産に投資すべきだ。個別株は業績が悪化してそのまま倒産するリスクがあるが、長期右肩上がりのインデックスは暴落しても資産価値がゼロにはならず、いずれ戻るという信頼がある。

2)数十年後にどの銘柄が強いか分からない。
1970年代の米国には、ニフティフィフティと呼ばれるこれを買っておけば鉄板だという50銘柄が存在した。その中にはフィリップモリスファイザーのように好リターンを上げた銘柄もあるが、ポラロイドのように経営破綻してしまった銘柄もあった。
1970年代に将来デジカメやスマホが普及し、フィルムカメラが駆逐されてしまうことを誰が予測できただろう。長期的には市場環境が激変してしまう可能性があるので、個別株を保有し続けるのはリスクが高い。


2.第三のインデックスNASDAQ100

長期右肩上がりになっているインデックスでは、米国と全世界株が有名だ。
インデックス投資の世界には米国派と全世界派がいて、論争が続いている。
米国(S&P500や全米)の強みは全世界より過去のリターンが高いこと。
全世界の強みは米国以外にも分散しているため、リスクが低いことだ。

長期投資向けのインデックスでは米国と全世界ばかりが話題になるが、長期右肩上がりでS&P500、全世界より過去のリターンが高い第三のインデックスが存在する。それがNASDAQ100指数だ。

NASDAQ100は米国のナスダック上場銘柄の中から金融会社を除き、時価総額上位100銘柄を組み入れた指数で、S&P500よりハイテク株のウェイトが高い

QQQ(NASDAQ100ETF)、SPY(S&P500ETF)、VT(全世界ETF)の過去15年の推移を示す。

VT(全世界株式ETF)の時系列データが得られた2008年6月23日の株価を100とすると、
2023年11月3日時点の株価はVT=264.5、SPY(S&P500ETF)=458.1、QQQ(NASDAQ100ETF)=921.4となる。
過去15年間で、NASDAQ100は全世界の3.5倍のリターンを上げている。

NASDAQ100指数を牽引しているのは、マグニフィセントセブンと呼ばれる米国のビックテック7社(アップル、マイクロソフト、アマゾン、エヌビディア、アルファベット(グーグル)、テスラ、メタ)だ。
ETFにおけるビックテック7社の組み入れ比率を示す。

全世界=14.29%、S&P500=27.44%、NASDAQ100=43.16%となっており、ビックテックのウェイトが高い指数程過去のリターンが高い。


3ETFとビックテック7社の株価を比較したグラフを示す。メタ上場週の2012年5月14日を100とした。


エヌビディアとテスラのパフォーマンスがすさまじすぎて、他が見えないので、2社を除いたグラフを示す。

11年間のパフォーマンスは
エヌビディア>テスラ>>>>マイクロソフト>アマゾン>アップル>>グーグル>メタ>NASDAQ100>>S&P500>全世界
となっている。
マグニフィセントセブンの中ではエヌビディア(162倍)とテスラ(120倍)のパフォーマンスが突出している。メタ(8.2倍)とグーグル(8.6倍)のパフォーマンスが冴えないが、それでもNASDAQ100(6.7倍)に勝っている。7社がいかに強いかが分かる。

S&P500が全世界よりリターンが高いのは米国株全体が強いからではなく、マグニフィセントセブンに代表される米国テクノロジー株のウェイトが高いからだ。
NASDAQ100指数は米国テクノロジー株のウェイトをS&P500よりさらに高めることで、ハイリターンを実現している。


今後もビックテックの優位は続くのだろうか。
前出のチャートの過去15年間に当たる1997~2012年のチャートを見ると、アップルとアマゾンが驚異的なパフォーマンスを見せていることが分かる。


NASDAQ100は特定の銘柄がずっと牽引しているのではなく、1998年からのアマゾン、2004年からのアップル、2013年からのテスラ、2016年からのエヌビディアのように、驚異的なパフォーマンスを見せる銘柄が順次登場し、高成長を維持している。
NASDAQ100指数のリターンが高いのは個別企業特有の強みによるものではなく、米国大型ハイテク企業に共通する構造的な強みに起因している可能性が高い。構造的要因が原因なのであれば、今後エヌビディアやテスラのパフォーマンスが落ちても、新たな牽引銘柄が登場し、NASDAQ100のハイパフォーマンスは維持されるのではないだろうか。

米国大手ハイテク企業に共通する構造的強みとは何か。IT業界が勝者総取りであることが大きい。
例えばYouTubeの配信者の取り分は広告収入の55%に抑えられている。他のマイナープラットフォームに動画をアップしてもわずかな視聴者しか得られないため、配信者は取り分に不満でもYouTubeに動画をアップせざるを得ず、アルファベットは濡れ手で粟で莫大な収益を得ることができる。

半導体業界の覇権企業がインテルからエヌビディアに交代しつつあるように、NASDAQ100のトップ企業の顔ぶれは変わっていくだろうが、トップ企業が莫大な利益を上げられるという構造自体は変わらないのではないだろうか。


3.NASDAQ100のリスク

効率的市場仮説によるとあらゆる資産のリスク当たりリターンは等しくなる。
NASDAQ100のリターンが高いということはリスクも高いということを意味している。
NASDAQ100のリスクは主に二つある。

1)大手ハイテク株に大きく依存しており、多様性が低い
前記のように、NASDAQ100指数は、大手ハイテク企業7社のウェイトが43.16%もあり、7社の株価に大きく依存している。他の銘柄もハイテク株が多く、多様性が低い。

QQQが設定された1999年3月8日からのSPYとQQQのチャートを示す。

QQQは2000年のITバブル崩壊で82.7%も下落している。100$投資していたら17.3$になってしまった計算だ。怖すぎる。
同期間のS&P500の最大下落率は45.7%だ。

S&P500は大手ハイテク株と全く異なる値動きをするエネルギー株や銀行株、公益株、生活必需品株などをある程度含んでいる。NASDAQ100は似た値動きをするハイテク株のウェイトが高いため、ハイテク株に逆風の環境になると大きく下落するリスクがある。

2)割高
11月3日時点でNASDAQ100の予想PERは25.75、S&P500は19.27だ。

stock-marketdata.com


NASDAQ100の予想PERはコロナ前は概ね20~22と21前後で推移していた。PERが平均回帰すると18.4%下落する。
S&P500予想PERはコロナ前は概ね16~19と17.5前後で推移していた。平均回帰すると9.2%下落する。共に割高だが、NASDAQ100の方がより割高だ。

下記の記事によると、米国のITバブル時のナスダックの予想PERは80近くに達していたという。

seekingalpha.com

ITバブル崩壊の時に82.7%も下落したのは、適切価格の4倍近い非常識なバリュエーションになっていたからだ。
現在は18.4%割高なだけなので、82.7%も下落する可能性は低い。


4.NISAでNASDAQ100に投資する方法

NISAでNASDAQ100に投資するには、具体的に何を買えば良いのだろうか。

下記の記事でNASDAQ100インデックスのコストを徹底比較してくれている。

shintaro-money.com

 

1)つみたて投資枠
長年つみたてNISAではNASDAQ100に投資できなかった。金融庁がNASDAQ100をインデックスだと認めていないからだ。
2023年10月からiFreeNEXT NASDAQ100インデックス(実質コスト0.519%)が買えるようになった。存続期間の長いアクティブファンドとして承認されたのだ。
現状これしか買えないので選択の余地はない。

2)成長投資枠
成長投資枠では外国株口座でドル建てのQQQMを買うのが最も経費率が低い。QQQMはQQQの廉価版で実質コストは0.15%だ。1株150$程度で買うことができる。

円建てで買いたい人はNEXT FUNDS NASDAQ-100連動型上場投信【1545】(実質コスト0.320%)が最もコストが低い。1株23000円程度で買うことができる。

毎月一定金額を買いたい人はインデックスファンドを買うのが良い。<購入・換金手数料なし>ニッセイNASDAQ100インデックス(信託報酬0.2035%)が最もコストが低い。ただし、設定されたばかりで、信託報酬以外の経費がどのぐらいになるか分からない。

 

まとめ

・NASDAQ100は全世界株やS&P500より過去のリターンが高い。
・米国の大型ハイテク株のウェイトが高い指数程、リターンが高い
・NASDAQ100をNISAで買うには、つみたて投資枠ではiFreeNEXT NASDAQ100インデックス、成長投資枠ではQQQMが良い。

過去の金利下落局面における米国債リターン

米国債利回りが上昇している。7月7日時点で米2年債利回りは4.95%。10年債利回りも4.06%と4%を超えている。
市場はFRBパウエル議長が主張していた年内二回利上げを織り込みつつある。2年債利回りは一時5.1%台まで上昇したが、それ以上上がらず下落に転じた。そろそろ金利のピークが近そうだ。
今後金利が低下に向かえば債券価格は上昇する。具体的にどの程度のリターンが見込めるのか。過去の金利下落局面のリターンを調べてみた。

米国短期金利(2年債利回り)の推移を示す。


2000年以降、大きな金利の低下が起きたのは三回。2000年5月12日から2001年11月8日に6.936%から2.304%に、2007年7月6日から2008年3月17日に4.992%から1.345%に、2018年11月8日から2020年5月7日に2.973%から0.139%に下落している。
このうち時系列データが得られた過去2回における、主要債券ETF SHY(米国債1-3年ETF)、IEF(米国債7-10年ETF)、TLT(米国債20年超ETF)の値動きを下表に示す。

2007~8年の金利下落局面において、債券ETFは8.78%~18.50%上昇した。2018~20年の金利下落局面では7.75%~52.74%上昇している。
それぞれの期間の上昇率を年率換算すると下記のようになる。
2007~8年 SHY、IEF、TLTはそれぞれ12.56%、26.4%、26.25%上昇。    
2018~20年 SHY、IEF、TLTはそれぞれ5.18%、17.33%、35.26%上昇。

基本的に投資は年率5-6%のリターンを目指すものなので、このリターンは出色の出来だ。
期間が長い債券程値動きが大きいため、金利下落=価格上昇時のリターンが大きくなっている。特にTLTの年率26.25%、35.26%というリターンはぼろ儲けと言って良い。
実際はこのキャピタルゲイン(値上がり益)に加え、債券利回り分のインカムゲイン(分配金益)も得られるのでさらにリターンが大きい。

話がうますぎる。何か穴がないのだろうか。
最も大きな問題は、米国の金利が下落すると、ドル円がドル安方向に振れ、円建ての米国債価格が下落することだ。

それぞれの期間におけるドル円の変化率と年率換算は上表の通りだ。
2018~20年は為替がさほど動かなかったので問題ないが、2007~8年は全ETFキャピタルゲインより為替の下落の方が大きく、値上がり益を完全に打ち消してしまっている。
今回はどうなるかは分からないが、現在の140円台というのは近年ではまれな円安なので、今後大きく円高に振れるリスクは大きい。

円高リスクに備えるなら、為替ヘッジ付き米国債ETFを買うのも一法だ。為替ヘッジコスト≒日米金利差なので為替ヘッジをかけるとインカムゲインが得られなくなるが、キャピタルゲインが大きいので、許容できるコストだろう。
為替が円高に振れる場合と、振れない場合の両方に備え、ヘッジありとヘッジなしの両方を買っておくのが良いかもしれない。

もう一つの問題は、米国の利上げが長引いて、金利がなかなか下落しない、もしくは上昇するリスクがあることだ。
投資家垂涎の利回りが得られる米国債が安値で放置されているのは、この懸念があるためだ。
そのため、金利がピークアウトして大きく下がり始めるまで、毎月定期的に買っていくことをお勧めする。
米国長期債券ETFを毎月コツコツ買っていけば、長期的には報われる可能性が高いのではないだろうか。
安全資産である米国債は株式の急落時に上昇することが多いので、ポートフォリオに組み込むことで分散になるというメリットもある。

円建てで買える米国債20年超ETFは下記の一本しかなく、為替ヘッジなし商品は存在しない。為替ヘッジをかけたくないなら、ドルでTLTを買うしかない。
iシェアーズ 米国債20年超 ETF(為替ヘッジあり) (2621)
米国債7-10年ETFは為替ヘッジあり、なし共に多数のETFが存在する。主なものは下記の二つだ。
iシェアーズ・コア 米国債7-10 ETF (1656)
iシェアーズ・コア 米国債7-10 ETF(為替ヘッジあり) (1482)
1400~2800円前後の少額から投資することができる。

他に私が気づいていないリスクがあったらご指摘下さい。

Fear&Greed IndexのピークはS&P500のピークと一致している。

株高が続いている。S&P500は6月21日現在で年初来で14.16%上昇している。
だが、投資家のセンチメントを表すFear&Greed Indexは79のExtreme Greed(極度の強欲)になっている。このまま上昇が続くのだろうか。

Fear&Greed Indexについては2020年1月10日に記事にしている。

shinonomen.hatenablog.com

この記事ではExtreme Fearは良い買い場だが、Extreme Greedは必ずしも良い売り場ではないと結論づけている。

だが、最近は傾向が変わってきた。
過去1年のFear&Greed IndexとS&P500の比較を示す。

上段:Fear&Greed Index、下段S&P500

赤線で示したFear&Greed IndexがExtreme Greedでつけたピークと、S&P500のピークはほぼ一致している。また青線で示したFear&Greed IndexがExtreme FearでつけたボトムとS&P500のボトムも概ね一致している。

データを拾えた過去3回に、Fear&Greed IndexがExtreme Greedでピークをつけた後のS&P500の値動きは下記の通りだ。

2023年2月1日 82→27営業日で6.40%下落
2022年12月1日 76→18営業日で7.20%下落
2021年11月9日 77→15営業日で3.68%下落

過去3回は平均5.76%下落している。

なぜ、2020年1月時点ではFear&Greed IndexのExtreme Greedと株価のピークが一致していなかったのに、最近は一致するようになったのだろうか。

ざっくり言うと、2020年以前の米国株は右肩上がりの上げ相場だったのに対し、2021年から2023年前半はレンジ相場だった。上げ相場ではレンジ相場より下落が起きにくいので、Fear&Greed Indexのピークと株価のピークが一致しなかったのだと考えられる。
現在、2022年8月のピークを上抜いて新たな上げ相場が始まったのであれば、Fear&Greed Indexのピークと株価のピークが再び一致しなくなるかも知れない。だが、今がレンジ相場か上げ相場かを判断することは難しい。

現在Fear&Greed Indexは6月15日に82のピークをつけて下落したがまだExtreme Greedにとどまっている。

過去にはExtreme Greedになってから上昇したこともあったので、空売りした方が良いとまでは言えないが、過去3回は下落しており、リスクが高い。
また、S&P500の予想PERは19.92と過去平均の18前後と比べて割高で、センチメントだけでなくバリュエーション面でも買いにくい。
Fear&Greed IndexがExtreme Greedの間は買いを見送った方が良いのではないだろうか。

edition.cnn.com

はてな株に投資すべきか

日経平均株価は一時3万1000円を超え、33年ぶりの高値をつけた。

一方ではてな株は低迷している。2019年前半に急騰して5000円台になったのを除けば長期右肩下がりだ。

これだけ下落したのだから、はてな株は買いチャンスなのではないかと思われるかもしれない。
そこで、はてな株に投資すべきかを初心者向けに解説してみた。

1.株価指標

Yahooファイナンスを見ると、5月26日時点ではてなの株価指標は下記の通りだ。

finance.yahoo.co.jp

PER(会社予想)25.09倍
PBR(実績)0.96倍
1株配当 -

それぞれの意味について簡単に解説する。
*PER
PER(株価収益率)は株価÷1株当たり純利益。ここでは会社予想とあるので、株価÷今期の1株当たり会社予想利益=25.09ということだ。
会社の利益が100%株主のために使われる場合、何年で株を買った元が取れるかを示している。はてなの場合25.09年だ。

平均予想PERはプライム全銘柄が14.70、日経平均が14.17なのではてなのPER25は市場平均より高めだ。
PERが高いほど市場の評価が高く割高、低いほど市場の評価が低く割安だ。
成長期待の高い新興企業は高め、成長が鈍化した企業は低めになる。

例えばトヨタはPER10.18、ソニーはPER19.64だ。はてなは利益面では市場からトヨタソニーより高く評価されている。

*PBR
PBR(株価純資産倍率)は株価÷1株当たり純資産。株価が企業が保有する資産の何倍で評価されているかを示す。
はてなは0.96倍と保有資産より低く評価されている。市場からはてなは経営を続けていっても資産は増えず、むしろ微減させるだろうから、すぐさま解散した方が良いと評価されている。
ものすごい低評価のようだが、日本市場にはPBR1倍割れ企業が珍しくない。例えばトヨタもPBR0.93と1倍割れである。
ただ、PBR1倍割れしているのは多くが低成長の古参企業であり、新興IT企業で1倍割れなのは珍しい。

*配当
多くの企業が株主還元のため利益の一部を配当として株主に支払っている。
はてなは無配当だ。株主に配当を払うより事業に投資した方が株主の利益になると考えている。
新興企業では珍しくない。


2.業績

はてなの売上高・純利益の推移を示す。(22年度までは実績。23年度は会社予想)

左軸が売上高、右軸が純利益。単位は百万円。

23年度は大きく減益見込みであることが分かる。
長期的に見ても売上は右肩上がりで伸びているが、利益は年度ごとのばらつきはあるものの、右肩下がりになっている。
はてなが利益は二の次にして売上を伸ばすことに注力していることが分かる。


3.はてなに投資するべきか

株式の長期投資を行う場合、主に3種類の考え方がある。
1)株価が割安だから投資→割安株投資
2)今後高い利益成長が見込めるから投資→成長株投資
3)配当が高いから投資→高配当投資
1)は主にPERやPBRに着目した投資、2)は主に業績に着目した投資、3)は主に配当に着目した投資と言える。

各投資スタンスに立ってはてな株を検証する。

1)割安株投資
割安株投資は株価が割安な銘柄に投資し、評価が適正値に戻るのを待つという投資手法だ。
はてなの株価指標のうち、PER25は割安ではない。PER25というのは安定的に利益を伸ばしている優良企業の評価であり、年々利益を減らしているはてなの評価としては高すぎる。
一方、PBE0.96は割安と言える。はてなは毎年利益を出している企業であり、今後資産を減らすだろうという評価は低評価すぎる。
ただし、今後PBR1.00に戻っても4.17%の利益が得られるだけだ。低PBR株を狙う場合、通常はPBR0.5といった非常に割安な株を狙うのであって、PBR0.96がPBR1.00に戻るのを狙うことはあまりない。

2)成長株投資
成長株投資は今後利益が順調に伸びていくだろう銘柄に投資し、利益の成長と共に株価も上がることを期待する投資手法だ。
はてなの場合、利益が減っているので成長株投資には適さない。
もっとも、売上は伸びているので、いずれ利益も増え始めるはずではある。気の長い投資家は、将来の利益増に期待して少しずつ投資しても良い。
ただし、はてなの場合、説明会資料を見ても売上のことしか書いておらず、いつ利益が増加に転じるか分からない。通常、売上が増えても利益が増えないうちは、株価も上がらない。利益が伸び始めてから投資した方が安心だ。

3)高配当投資
高配当投資は、配当利回りの高い株に投資し、確実に収入を得ようという投資手法だ。
はてなの場合、無配当なので高配当投資には向いていない。

はてなは売上を順調に伸ばしているので、長期的には有望かもしれない。
だが、表面的な数字を見る限り、どの観点からも現時点では投資に適していない。


4.ユーザーにとっては良い企業

はてなはあまり投資をするには適していないが、だからと言ってはてなが悪い企業なわけではない。
例えば、はてなが短期的利益を追求する企業だったら、下記のような改変を行うだろう。
・アカウントを維持するには課金が必要。
・ブクマをするには動画広告を見る必要がある。
・イエロースターも有料化する。
このような改変を行えば短期的にはてなの利益は増えるだろうがユーザーは不便になる。
はてなが目先の利益に汲々としていないのは株主にとっては良くないが、ユーザーにとっては良いことなのだ。

 

はてな決算説明資料23年7月期

はてなの収益を見ると、儲かっているのは法人向けサービス「Mackerel」や少年ジャンプ+などに採用されているGigaViewerなどのテクノロジーソリューション事業で、はてなブックマークはてなブログは利益が伸びていない。
はてなブログなどのコンテンツ事業は「仕込みの時期として中長期的な視座で取り組む」とあり、短期的には儲からなくても良いと割り切っている。その鷹揚さは素晴らしい。

だが、はてなの株価があまりに安いと買収される可能性がある。
もし、イーロン・マスク氏のような人がはてなを買収した場合、テクノロジーソリューション事業を残してはてなブックマークはてなブログのようなコンテンツ事業は閉鎖するかもしれない。
そうならないために、多少は株価対策も行った方が良いのではないだろうか。

ドル建てMMFは利回り4%超

米国債利回りが急低下している。3月8日に5.070%まで上昇した米国2年債利回りは3月24日には3.767%まで下落した。

FOMC参加者が金利見通しを示したドットプロットによると23年末の金利は5.125%、24年末は4.25%、25年末は3.125%となっている。
FRBの見通し通りなら2年債利回りは4.745%前後になるはずなのに、3.767%しかない。
市場はFRBの言うことを無視している。FF金利先物によると、市場は5月には利上げをせず6月頃に利下げを開始することを織り込み始めた。
FOMC前にSVBバンクなどの破綻を受けて、FRBはより利上げに慎重になるのではないかと予想するなら分かる。
だが、FRBは地銀が破綻したのを見た後でもう一回利上げする、年内は利下げしないと言っているのだ。FRBが言う通りにすると考えるのが普通だ。

債券投資は難しい。私は「米国ハイテク株は米国債より低利回り」という記事で益利回り3.92%のナスダック100より4.62%の米国2年債を買った方が得だと主張し、実際にナスダック100ETFの一部を売って米国短期国債ETFを購入した。

shinonomen.hatenablog.com

その後米国短期国債価格が急上昇(金利が急低下)したので喜んでいたが全然儲からなかった。ドル円がドル安円高に動いたためドル建て米国債の価格を押し下げ、値上がり分を相殺してしまったからだ。為替ヘッジつき米国債ETFを買えば良かったのだが、そこまで考えが回らなかった。

市場は米国債に明らかにおかしな値付けをしている。値付けが適正化されることを見越して差益を得る方法はないのだろうか。
まず思いつくのはドルベースで米国債ETF空売りすることだ。だが日本人が米国株を空売りするのはハードルが高い。外国株信用取引口座を開設しないといけないし、SBI証券信用取引対象銘柄に米国債ETFは含まれていなかった。

東証上場の為替ヘッジつき米国債ETF空売りするという手もある。だが、米国債の値付けが是正されるとしたら、5月2~3日の次回FOMCの結果を受けてだろうから1カ月以上先になる。そうなると手数料負けしそうだ。

ドル円は日米金利差に相関する。将来2年債利回りが上昇するなら、為替はドル高に振れるはずだ。
3月24日現在、ドル建てMMFは利回りが高いものでは4.227%もある。MMF(Money Market Fund)とは高格付け短期債券で運用される投資信託でほぼ預金と同じだが、元本保証はないためごくまれに元本割れする。リーマンショックでは1社のMMFが元本割れを起こしている。
価格が乱高下しておりリスクが高い米国2年債の利回りが3.767%しかないのに、預金に近いMMFで4.227%の利回りが得られるならMMFに置いておいた方が低リスク高リターンだ。
ナスダック100の予想PERは3月24日現在24.85とかなり割高だ(通常は21前後)。S&P500の予想PERは17.75と適正価格なので長期的には悪くないが、短期的にはFRB利上げ、金利上昇により下落するリスクがある。そうなると日本株や全世界株も高確率で連れ安する。
5月のFOMCまではドル転してドル建てMMFに入れておくのが最もリスク当たり利益が高いというのが私の結論だ。

ただし市場が正しくFRBが間違っていた場合(FRBが利上げ断念に追い込まれた場合)、円高になって円ベースでは損をする可能性がある。また、FRBの予想通りだとしても長期的には米国債金利は低下するので、為替が円高方向に振れやすいことには注意が必要だ。