東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

株式と債券のリバランスは不適当

 インデックス投資では定期的にリバランスをすることが推奨されている。
 リバランスとは資金配分を最適な割合に戻すことだ。例えば、株式と債券の割合を、株式60%、債権40%と定めて投資を始めた場合、株式が値上がりして株式70%、債権30%になっていたら、10%の株式を売却して10%の債権を買うことで、株式60%、債権40%の割合に戻す。逆に株式が値下がりして、株式50%、債権50%になっていたら、債権を売って株式を買うことで株式60%、債権40%に戻す。こうすることで、結果的に高値の時に株式を売り、安値で買い増すことになるので、放置しておくよりリターンが高まると言うのだ。

 リバランスに効果があることは、運用結果で実証されている。『ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞社)によると、1996年1月~2009年12月の間、米国において株式60%、債権40%の割合で運用を始めた場合、年一回リバランスを行った場合と、行わなかった場合のリターン、リスクは下記のようになり、リバランスを行った方が高いリターンを得ている。

年1回リバランス 年平均リターン10.07% リスク11.84%
リバランスなし 年平均リターン8.76% リスク13.12%

 だが、現在の日本のように債権の利回りが異常に低い時にも有効なのかは疑問だ。何故なら現在は債権の利回りが0.05%、株式は5%程度なので、リバランスをするとほとんどの場合株式を売って債権を買い増すことになる。頻繁に利回りが高い商品を売って、低い商品を買い増していたら、総リターンは下がってしまうはずだ。
 通常の場合、債権の値動きはインフレ率にある程度連動しているので、株式の割高、割安の基準値として機能する。だが、現在の日本では債権の利回りはほぼゼロに張り付いているので、基準として不適当だ。

 今の日本の状況で株式と債券に対しリバランスを行うのは、「平均利回り5%の株式が、0.05%以上の利回りを上げたら割高だから売れ」と言っていることと同義だ。これは明らかにおかしい。

 株式を割高な時に売って割安な時に買いたいのなら、平均利回りを基準に考えるべきだ。株式の過去の平均利回りが5%なら、例えば7%以上増加していたら売り、3%以下なら買い増すといった基準で売買を行う方が適当なのではないだろうか。

 

 

高畑勲監督は24年早かった

 高畑勲監督が亡くなった。
 高畑監督程、アニメについて考えた人はいないだろう。天才宮崎駿監督に知名度や興行収入では劣っても、アニメ界への影響は計り知れない。
 私の高畑監督のイメージは基礎研究者だ。基礎研究が実用化され、広く一般化するには時間がかかる。高畑監督の場合、アニメ業界の24年先を行っていた。

 高畑作品のターニングポイントは1991年公開の『おもひでぽろぽろ』だ。本作で高畑作品のリアリズム追求は頂点を極めた。顔の皺まで細かく描きこまれた表情や精緻な背景は今見てもすごい完成度だ。舞台となった場所をロケハンし、緻密に再現するのは今では当たり前のようにやられているが、当時としては画期的だった。
 一方で、過去パートを淡い色調で描いている所からは、後に傾倒していくアニメ的リアリズムの萌芽が感じられる。本作の後、高畑監督はこれまで徹底して追い求めてきた自然主義的リアリズムから、アニメ独自の表現を探求する方向へと作風をシフトさせていく。

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 高畑監督の探求がテレビアニメとして広く定着するのは15年も経ってからだ。
 2006年にTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が放映された。本作の緻密な背景や細かいキャラクターの表情は、製作した京都アニメーションの名を満天下に知らしめた。中でも、第26話「ライブアライブ」における顔の皺まで描きこまれたリアルなライブシーンは、『おもひでぽろぽろ』を思わせるものだった。 

 
 2000年代後半から2010年代前半にかけてのテレビアニメは各社がいかに画面内の情報量を高めるかの勝負だった。
 京都アニメーションは細部にとことんこだわり、シャフトはデジタルを駆使した独特の画づくりで一時代を築き、ユーフォーテーブルウィットスタジオが圧倒的な動きを武器にヒットを飛ばした。『らき☆すた』のような漫画的な作品も存在したが、覇権と呼ばれる売上げトップには、実写を思わせる美しい背景の中、細かく描きこまれたキャラクターがぬるぬる動く、画面内の情報量が多い金のかかった作品が君臨していた。
 2015年までは。
 
 2015年、時代の転換を象徴する二つの作品が公開された。
 一つは『響け!ユーフォニアム』。本作で京都アニメーションのリアリズム追求は頂点を迎えた。『響け!ユーフォニアム』のすごさを知るには『あなたは死体を埋めたあとの人間の肉声を出せるか』を読んで頂ければ良いのだが、ドラマよりもリアリティの高い芝居をアニメでやったという点で、歴史に刻まれる作品になるだろう。

 
 もう一つが『おそ松さん』だ。大人になったおそ松くんの五つ子が主役のアニメをやると聞いた時、私が思ったのは、発想は面白いが売れないだろうというものだった。キャラクターは漫画的で今風ではなく、一発ネタに終わるのではないかと思っていた。
 ところが、『おそ松さん』は大ヒットし、2015年で最も売れたアニメになった。これで業界の潮目が変わった。2015年まで、テレビアニメはいかに画面内の情報量を高めるかを競ってきた。いわば足し算の発想だ。それが2015年以降は画面内の情報量を減らす、引き算の発想へと転換した。

  『おそ松さん』はキャラクターや背景のデザインこそ漫画的だったが、動きには金をかけていた。ところが2018年には画もシンプルでタイヤも回らないような低予算アニメである『けものフレンズ』が大ヒットを飛ばした。
 高予算アニメでも『メイドインアビス』や『ひそねとまそたん』のように漫画的・記号的なキャラクターデザインで、絵画的な塗りの作品が目立ってきている。

 

 この背景には、視聴者が日々さらされる情報量の多さに疲れていることがあるのではないか。
 私の場合、レコーダーに『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と『ポプテピピック』の未視聴回があったら、『ポプテピピック』を先に見る。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は観るのに集中力が必要だが、『ポプテピピック』はサクサク気軽に観られるからだ。

 話を戻すと、2015年にテレビアニメで起きた転換は、1991年に高畑監督の中で起こった転換と同じである。つまり、高畑監督は24年も時代に先行していたということだ。
 高畑監督という先行者がいながらこれほど時間がかかるのは、視聴者がついて来れないからだ。1999年に公開され、高畑監督が引き算路線を完成させた『ホーホケキョとなりの山田くん』は大赤字となり、テレビでは一回しか放映されていない。早すぎたゆえの悲劇である。

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 アニメは爆発的発展が終了し、成熟期を迎えている。高畑氏ほど先進的なアニメ監督はもう現れないのではないだろうか。

リターンを定量的に比較せよ――バフェットの銘柄選択術感想

 オマハの賢人ウォーレン・バフェット。10万5000ドルを元手に始めた株式投資で800億ドル以上の富を築いた、世界で最も成功した投資家である。そんなバフェットの具体的投資術を解説した本が『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』(メアリー・バフェット、デビッド・クラーク著、井手正介・中熊靖和訳、日本経済新聞社だ。
 ワークブック形式なので、本書の通りに各種指標をチェックしていけば、バフェットと同じ基準でその株が投資対象として適しているかチェックすることができる。
 バフェットは素人にはインデックスファンドを買うよう薦めているのだが、それでも個別株を買うと言うのなら、少なくとも本書は読んでおくべきだ。

 本書で最も重要な主張は、どの投資のリターンが高いか定量的に比較して投資先を決めろというものだ。
 先進国インデックスファンドを長期保有すれば、かなりの確率で年率5%程度のリターンが得られるし、新興国インデックスファンドは価格がジェットコースターのように暴れはするものの、平均すれば年率7%程度のリターンは見込める。

主要な株価指数・インデックスのリターン (毎月更新) - myINDEX


 もし個別株を買うのなら、割安だから、増収増益で値上がりしそうだから、配当が高いからといったふわっとした理由で買ってはいけない。きちんと予想されるリターンを計算し、先進国インデックスファンドの5%より高いリターンが見込めるのでなければ、買うべきではない。

 バフェットが確実なリターンを算出するために生み出した概念が、消費者独占型企業だ。消費者独占型企業とは高いブランド力を持っている等の理由で、他の企業と価格競争をせず、安定した収益を上げることができる企業のことだ。具体的にはコカ・コーラフィリップ・モリス、アメックスのような企業だ。
 これらの企業は安定して高収益を上げることが見込めるため、債権のように将来のリターンを見積もることができる。バフェットがコモディティ型企業と呼ぶブランド力がない製品を扱っている企業も高収益を上げることはあるが、市場環境の変化によって収益が大きく変動するため、リターンを見積もることができない。バフェットは高確率で高いリターンが見込める企業にしか投資しないのだ。

 

 高いリターンの原動力となるのが、安定的に高い株主資本利益率(ROE)と安定成長する1株当たり利益(EPS)だ。
 私は本書を読むまでは、割安度の指標である株価収益率(PER)こそが重要だと思っていた。だが、PERは買う時一回だけしか効かないのに対し、ROEが生み出す利益は毎年指数関数的に積み上がっていくので、長期投資をするならROEの方が断然重要なのだ。
 私は先月、異様にPERが低い銘柄を発見して思わず買った後に急落し、「何でこんな割安な株が値上がりしないんだ! 」と首をひねっていた。本書を読んで改めて各種指標をチェックしてみた所、ROEがボロボロであることが判明した。低PER企業は、将来PERが平均並みに戻れば値上がりするが、他の投資家がその程度の企業だと思ったままだと低いPERが維持され、株価は上がらないのだ。
 皆さんは私と同じ轍を踏まないためにも、個別株を買う前には必ず本書を熟読し、ワークシートで期待収益率を算出して欲しい。

 

 安定して高い利益率を生む株は、当然ながら値段が高くなる。割高な値段で買ったのでは、儲けることができない。そのためバフェットは市場全体が落ち込んだ時や、企業が一時的な要因で業績が落ち込んで株価が値下がりした時に買うことで、巨万の富を築いた。
 だが、株価が落ち込んでいるのが一時的な原因によるものなのか、このまま業績が低迷し続けるのか見分けるのは、素人には難しい。
 そのため、優良企業を日頃からチェックしておき、市場全体が落ち込んだ時に買うのがもっとも安全だ。

 

 2018年5月末現在、日本の株式市場は2月の下落から立ち直り、市場全体が落ち込んではいない。市場ではやり手のファンドマネージャーや百戦錬磨の投資家達が、少しでも割安な銘柄はないかと鵜の目鷹の目で各種データをチェックしている。
 市場平均より賢い人以外、個別株は買わない方が無難だろう。

 

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

 

 

どの国に投資すべきか

 前回の記事では、何にどの程度投資すべきか人によって意見がばらばらだということを書いた。
 なぜばらばらかと言うと、人によってリスクをどの程度重視するかが異なっているからだ。

 私は債権によるリスクヘッジは必要ないと思う。なぜなら、成長市場の株式インデックスファンドは、20年間続けて投資すればリターンはほぼ平均収益率の前後に収束し、損をするリスクは極めて低くなるからだ。
 長期投資によってリスクヘッジしているのに、更に債権でリスクヘッジをするのはやり過ぎだ。
 また、投資をする人も当分の生活資金は預金として持っているはずで、これが債権と同じ役割を果たすから、債権を買うのは二重に過剰だ。長期投資をするならエリス氏が言うとおり100%株式で運用すべきだ。


 100%株式で運用すべきなのは良いとして、どの地域の株を買うべきだろうか。これについては大きく分けて二つの考え方がある。
 一つは効率的市場理論で、「株式市場は効率的に運用されており、割安な株などない。仮にあったとしても事前に知ることはできない。」というものだ。
 この考えに従えば、どの国や地域に投資すればリターンが高くなるかは分からない。できるだけ広い銘柄に投資する程、リターンを保ったままリスクを減らすことができるので、世界市場ポートフォリオ、すなわち全世界の時価総額割合で各地域のインデックスファンドに投資するのが良いということになる。
 世界市場ポートフォリオには、浮動株補正をするかによって、二つの比率が存在する。

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 先進国80% 新興国11% 日本9% (補正あり) 

 

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 先進国65% 新興国28% 日本7% (補正なし) 

 浮動株補正とは、国や創業者等が保持していて市場に出回っていない株を除外するもので、補正をすると新興国の割合が下がる。
 浮動株補正はインデックスファンドの運用上都合が良いだけなので、私は補正しない方が良いと思う。


 もう一つは反効率的市場理論で、どの株を買うと儲かるかはある程度予想できるというもの。
 高成長株が良いという意見と、低PER株や高配当株といった割安株が良いという意見がある。
 どの意見が正しいのか、過去のデータを用いて検証を行った。

 検証には「世界各国のPER・PBR・時価総額」の2010年~2018年の3月のデータを用いた。
 2010年3月と2018年の3月の時価総額データからキャピタルゲイン(値上がり益)を、各年3月の配当利回りからインカムゲイン(配当益)を算出し、8年間のトータルリターンを算出した。配当再投資は行っていない。
 これと2010年3月の実績PER、配当利回りデータの比較を行った。

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 図1はPERとリターンの比較図だ。横軸がPER、縦軸がリターン(投資額との比)である。
 相関係数は0.093でほとんど相関はない。
 PERは低い程割安と言われているが、低い程リターンが高くなってはいない。PER11以下の非常に低い国(ギリシャ、スペイン、ロシア、イタリア)ではリターンが低くなっている。これらの国では低いリターンを見越して安値になっていたと考えられる。
 PER30以下ではむしろPERが高い国の方がリターンが高い。PER30以上だと割高になっているからかリターンは良くない。
 特にリターンが良かったのはフィリピン、タイ、中国。これらは成長国であり、成長国の方がリターンが高いように見える。
 PER30以上に高騰している国は割高の恐れがあるが、それ以下ではPERからリターンを予想することはできない。

 シーゲル氏が指摘していた「成長の罠」は成長国に投資家の過大な期待が集まってバブルが発生すると株価が割高になり、高成長にも関わらずリターンが低くなってしまうという現象だ。

地域・国 PER   地域・国 PER
全世界 17.4   エジプト 15.4
先進国 17.7   日本 15.2
エマージング 15   スウェーデン 14.9
ヨーロッパ 14   フランス 14.5
アジア・パシフィック 14.1   ノルウェー 14.3
BRICs 14.7   カナダ 13.8
インド 23.2   台湾 13.8
スイス 23   オランダ 13.7
フィンランド 22   中国 13.6
米国 21.9   英国 13.2
ギリシャ 21.7   コロンビア 13.2
南アフリカ 21.3   オーストリア 13
ペルー 20.2   香港 12.8
フィリピン 19.9   ポルトガル 12.3
ニュージーランド 19.7   パキスタン 12.1
チリ 19.7   ドイツ 12
デンマーク 19.1   チェコ 11.6
ブラジル 18.5   スペイン 11.5
メキシコ 17.7   ポーランド 10.4
インドネシア 16.9   イタリア 10.3
マレーシア 16.9   ハンガリー 10
オーストラリア 16.6   韓国 9.5
シンガポール 16.1   ロシア 8.2
アイルランド 16   トルコ 7.5
タイ 15.5   イスラエル マイナス
ベルギー 15.4      


 表1は2018年4月の各国実績PERだ。2月に株価が暴落したため、現在各国のPERは低水準となっている。
 PERは最高でもインドの23.2であり、バブルと呼ぶ程の水準ではない。現時点ではどの国に投資しても「成長の罠」にはまる可能性は低い。

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 図2は配当利回りとリターンの比較図だ。横軸が配当利回り(%)、縦軸がリターンである。
 相関係数は-0.074。ほとんど相関は見られない。
 チェコのように配当利回りは最高なのにリターンはマイナスな国もあるし、リターンが高かった三ヶ国の内、フィリピンとタイはそれほど配当利回りが高くない。
 配当利回りからリターンを予想することは難しい。

 フィリピン、タイ、中国のリターンが高かったことから、GDP成長率との相関が高そうだ。
 

 世界各国のGDP成長率と株価の相関によると、株価は名目GDPと相関が高いとのことだ。

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 2010年~2018年の名目GDP成長率とリターンの比較図が図3だ。
 相関係数は0.313となり、弱い相関がみられた。右下端のエジプトが大きく相関を下げており、エジプトを除いた相関係数は0.430となった。
 エジプトのような例外はあるものの、名目GDP成長率とリターンにはある程度の相関が見られることが分かった。

  Country 2022/2018     Country 2022/2018
1  Sudan 1.849   33  Singapore 1.199
2  Nigeria 1.840   34  Brazil 1.195
3  Egypt 1.539   35  Sweden 1.195
4  Morocco 1.528   36  Israel 1.191
5  India 1.478   37  Russia 1.185
6  Pakistan 1.463   38  Belgium 1.176
7  Ukraine 1.448   39  South Korea 1.176
8  Indonesia 1.447   40  Denmark 1.166
9  Vietnam 1.432   41  Canada 1.164
10  Malaysia 1.428   42  United States 1.164
11  Philippines 1.428   43  South Africa 1.163
12  Bangladesh 1.428   44  Hong Kong 1.163
13  China 1.401   45  Hungary 1.162
14  Chile 1.386   46  Saudi Arabia 1.149
15  Argentina 1.361   47  Finland 1.147
16  Kazakhstan 1.340   48  Spain 1.147
17  Kuwait 1.285   49  Austria 1.144
18  Thailand 1.270   50  Italy 1.144
19  Iraq 1.262   51  France 1.143
20  Peru 1.262   52  Algeria 1.138
21  Turkey 1.250   53  Greece 1.135
22  Colombia 1.248   54  Germany 1.131
23  Mexico 1.241   55  Portugal 1.126
24  Czech Republic 1.238   56  Taiwan 1.125
25  Romania 1.234   57  Netherlands 1.125
26  United Arab Emirates 1.234   58  Angola 1.119
27  Slovakia 1.230   59   Switzerland 1.113
28  Qatar 1.224   60  United Kingdom 1.113
29  Poland 1.221   61  Norway 1.101
30  Ireland 1.210   62  Japan 1.083
31  New Zealand 1.207   63  Iran 1.066
32  Australia 1.205   64  Venezuela 0.559

 表2は主要国についてIMFの2022年予想名目GDPと2018年GDPから2022年までの4年間のGDP成長率を算出したものだ。
 アフリカ、南アジア、東南アジア諸国が上位に並んでいる。
 先進国は軒並み低く、中でも日本は下から三番目である。
 
 高成長国に直接投資しようとするのは、コストが高く、リスクも高いのでお勧めできない。
 日本から低コストのインデックスファンドで投資できるのは日本、アメリカ、先進国、新興国の4地域だ。
 先進国、新興国は指標にそって各国株式を組み合わせたものだ。代表的な指標の組入比率は下記の通りだ。

 先進国(MSCIコクサイ)
アメリカ65.74%、イギリス7.05%、フランス4.33%、ドイツ3.97%、カナダ3.69%、スイス3.2%、オーストラリア2.69%、オランダ1.46%、香港1.37%、スペイン1.32%

 新興国(MSCIエマージング)
中国(含ケイマン諸島)中国25.82%、韓国15.08%、台湾11.52%、インド8.2%、ブラジル7.51%、南アフリカ6.62%、ロシア3.61%、香港3.29%、メキシコ2.92%

 国内で買えるインデックスファンド、ETFでは、
日本→iシェアーズTOPIX ETF(信託報酬0.06%)
アメリカ→SPDR S&P500 ETF(信託報酬0.0945%)
先進国→eMAXIS slim 先進国株式INDEX(信託報酬0.1095%)
新興国→EXE-iつみたて新興国株式(信託報酬0.1804%)、eMAXIS slim 新興国株式INDEX(信託報酬0.19%)
が低コストである。

 

 先進国(MSCIコクサイ)、新興国(MSCIエマージング)について、各指数の各国組み込み比率から4年間GDP成長見込みを算出すると、下記のようになる。

日本 8.27%
アメリカ 16.36%
先進国 15.67%
新興国 27%

 新興国が圧倒的に高い。新興国インデックスファンドは過去20年間のリターンも最も高いので、世界市場ポートフォリオより割合を増やすべきだ。
 アメリカの方が先進国より成長率が高いが差はわずかだ。分散が高い方がリスクヘッジになるので、先進国を採用する。
 
 この結果から、下記の3通りのポートフォリオが導ける。
1)先進国56% 新興国41% 日本3%

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時価総額割合に成長率をかけてウェイトを算出したもの。3種類の中では比較的穏当。

 

2)先進国37% 新興国63%

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成長率が極めて低い日本はカットし、成長率の比で先進国と新興国を割り振ったもの。

 

3)新興国100%

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長期投資によってリスクヘッジをしているのだから、最も予想リターンが高いものに全ぶっこみすべきだろうというストロングスタイルな考え方。


 ファンドの海のツールで各ポートフォリオのリターンとリスクを算出すると下記のようになった。

1)期待リターン(年率)6.74%、リスク(年率)21.58%
2)期待リターン(年率)7.68%、リスク(年率)23.33%
3)期待リターン(年率)9.25%、リスク(年率)26.25%

 4年間GDP成長率が27%なのでリターンはこれほど高くはならないだろうが、リスクは参考になる。

 リスクとは標準偏差のことだ。リスクの2倍以上損をする確率は2.5%である。3)の場合、1年間で投資額の52.5%以上吹き飛ぶ可能性が2.5%あるということだ。

 

 これらのポートフォリオはかなりリスキーなので、絶対に生活資金を投入してはならない。
 新興国株式が暴落したタイミングで金が必要になり、投資信託を解約しなくてはならなくなったら、大損する恐れがある。
 もし真似をするのなら、20年以上塩漬けにしても良い資金で行って欲しい。

guide.fund-no-umi.com

 

7/13追記

 純利益成長率とROEによる検証では新興国は有望ではないという結果になった。

2)と3)は止めた方が良いと思われます。

shinonomen.hatenablog.com

著名投資家のアセットアロケーションまとめ

 前回の記事で資金は出来るだけ速やかに投資する方が良いと分かった。問題は投資先だ。

 投資関係の様々な本やサイトを読みあさった結果、幅広い銘柄に少しずつ投資することでリスクを分散するインデックス投資が良いということが分かった。具体的にはインデックスファンドやETFを買えば、少額で分散投資をすることができる。
 だが、インデックスファンドには、国内、先進国、新興国といった地域別や、株式、債権、不動産(リート)といった対象別に様々な種類がある。問題は何にどういう割合で投資すべきなのか、人によって言っていることがバラバラだということだ。
 まずは、色々な人が提唱されているアセットアロケーション(資産配分)を見比べてみよう。

 

1)勝間和代氏のアセットアロケーション

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国内株式 25%
国内債券 25%
海外株式 25%
海外債権 25%

 『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』(勝間和代著、光文社新書)の中で勝間氏が資産四分法として提唱されていたアセットアロケーション
お金は銀行に預けるな』は「金融の相場は予測することができない」といったインデックス投資の勘所が分かりやすく書かれた啓蒙書で、四資産に等分投資しろという主張も分かりやすい。
 ただし、本書が書かれた当時は債権の金利が今よりずっと高かった。勝間氏が現在も1:1:1:1がベストとお考えかどうかは分からない。

 

 

2)山崎元氏のアセットアロケーション

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国内株式 50%
海外株式 50%

 『全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド』(山崎元、水無瀬ケンイチ著、朝日新書)の中で山崎氏が提唱されていたアセットアロケーション
 山崎氏の主張の特徴は、現在先進国債権が歴史的低金利なので、日本の長期金利が2%を超えるまではリスク資産は「国内株式」+「外国株式」だけで良いと言われていることだ。(無リスク資産としては個人向け国債・変動金利10年満期型は買っても良いとは言われている。)
 ベストな数字は「内株:外株=4:6」だが、リバランスの手間がかかるとも書かれているので、リバランスの手間を厭わないのなら国内株式:海外株式=40%:60%の方が良いかも知れない。
 山崎氏の主張で重要なのが、「資本主義市場の価格決定メカニズムを考えると、経済が低成長あるいはマイナス成長であっても、株式投資は「それなりに(リスクなりに)儲かるはず」。何故なら、低成長は株価に既に織り込まれてリスクなりの利回りになっているから。」というもの。見落とされがちな指摘で感心した。

 『ほったらかし投資術』は「50%はTOPIX連動型のETF、50%を外国株式インデックスファンド」という風に、やるべきことが順を追って具体的に書かれているのが特徴的で、本書を読むだけで予備知識がない人でもインデックス投資を行うことができる。

 

 


3)橘玲氏のアセットアロケーション

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世界市場ポートフォリオ 80% 
 国内株式 12% 
 海外株式 68%
トレーディング・個別株投資 20%

 『臆病者のための株入門』(橘玲著、文春新書)で橘氏が「トーシロ投資法」として提唱されていたアセットアロケーション。リスクのとれる金融資産の8割をインデックス投資にあて、残りの2割をトレーディングや個別株投資で楽しむことを提案されている。
 国内株式:海外株式=1:1が最適なのは時価総額の世界におけるシェアが50%あるアメリカの場合であり、日本は15%しかないのだから15%にすべき。投資は余裕資金で行うのだから為替リスクを気にする必要はない。という主張には目から鱗が落ちた。
(15%というのは当時の比率で、現在なら約10%に相当する。)

 『臆病者のための株入門』は投資の流派を「トレーディング」「インデックスファンド」「バフェット流」に分け、合理的な方法は市場の歪みを利用するか、長期投資で樹から果実が落ちるのを待つかしかない。と指摘した上で、
1トレーディングは歪みを利用
2インデックスファンドは長期投資
3バフェット流は歪み+長期投資
と明快に整理している。
 ほとんどの本は3流派のどれかに肩入れして書かれているのに対し、本書は中立的立場で書かれているので、投資に関する全体的主張を俯瞰的に把握することができる。

 

 

4)バートン・マルキール氏のアセットアロケーション

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現金 5%
債権 27.5%
不動産 12.5%
株式 55%
 アメリカ株 27%
 先進国株 14%
 新興国株 14%

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 原著第10版』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞出版社)でマルキール氏が50代半ばの人のために提唱されていたアセットアロケーション
 より大きなリスクが取れる20代半ばの投資家には
現金5%
債権15%
不動産10%
株式70%
を提案されている。
 IMFが当分の間高成長を見込んでいるという理由で、新興国の割合を高めにしているという特徴がある。

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』はあらゆる人が薦めているインデックス投資のバイブル。厚い本だが、歴史上の様々なバブルにおけるアホな狂乱の話から始まって、テクニカル分析ファンダメンタル分析、新興の行動ファイナンス学派によるあらゆる「株式市場は予測可能だ」とする主張を滅多斬りにしていて、ぐいぐい引き込まれる。
 特に印象に残ったエピソードは、画面上でランダムに動くボールを見せかけの装置でコントロールする実験を行った所、ほとんどの被験者は「かなりうまくボールの動きをコントロールできたと思う」と答えた。惑わされなかった被験者は全員重度のうつ病患者だった。というもの。世界を正しく認識する者はうつ病になってしまうということを示唆していて興味深い。
 マルキール氏は効率的市場理論を高らかに主張されているのだが、それは市場は常に正しいという訳ではなく、市場を一貫して正しく予測することはできない、つまり市場が間違っていても事前にどう間違っているか分からないから市場の歪みを利用して儲けたりはできないと言っているだけだということには注意が必要だ。
 結論としては「幅広い銘柄に分散された、低コストのインデックス・ファンドを保有するべき」に尽きるのだが、様々な「市場は部分的に予測可能だ」とする理論が紹介されているので、インデックス投資より高いリターンを上げたいと考えている人にも参考になる。

 

 

5)チャールズ・エリス氏のアセットアロケーション

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株式 100%

 『敗者のゲーム なぜ資産運用に勝てないのか』(チャールズ・エリス著、鹿毛雄二訳、日本経済新聞社)は投資家へのアドバイス集のような内容で、投資計画を文書化しろ、底値で買って天井で売ろうとするな、など役に立つ心得が多数記されている。だが、最も重要なのは、十年以上運用する資産はすべて株式に投資しろという主張だ。
 債権を買う人はインフレのリスクを軽視している。長期の収益率は平均収益率に近くなるのだから、平均収益率が高い株を買うべきだとの主張が力強い。 投資のリターンは投資の腕より、どれだけの資金を値動きが大きい株式に投入できるかという心の強さによって決まるのではないか。

 

 


6)ジェレミー・シーゲル氏のアセットアロケーション

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株式投資 100%
ワールド・インデックスファンド 50%
 米国株 30%
 非米国株 20%
リターン補完戦略 50%(各10~15%)
 高配当戦略
 グローバル戦略
 セクター戦略
 バリュー戦略

 『株式投資の未来 永続する会社が本当の利益をもたらす』(ジェレミー・シーゲル著、瑞穂のりこ訳、日経BP社)の結論としてシーゲル氏が提示されていたアセットアロケーション。半分は世界のインデックスファンドに投資し、半分は個別株投資で市場平均以上のリターンを狙う戦略を提示されている。
 シーゲル氏がユニークなのは、配当を再投資すると仮定して計算すると、低成長企業の方が高成長企業よりもリターンが高くなる。高成長の企業、セクター、国は投資家の期待を集めて実態以上に値上がりしており、投資すると「成長の罠」にはまる。と主張されている点。
 普通、高成長な方がリターンが高くなると思いがちだが、その投資家の思い込みによって資金が集中するから逆にリターンが低くなるという指摘に目を開かれた。
 通常、リターンは株の値動きだけで計算し、配当のことは無視しがちだが、シーゲル氏はS&P500全社のリターンを配当込みでコツコツ計算して、高成長企業より、高配当企業や低PER企業、ヘルスケアや生活必需品等の老舗企業の方がリターンが高いと結論づけており、説得力がある。

 

 

7)たぱぞう氏のアセットアロケーション

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米国株式 70%(VTI35%,VYM35%)
米国債券 30%(BND)

 ウェブサイト『たぱぞうの米国株投資』でたぱぞう氏が、誰でもできる海外投資として提唱されていたアセットアロケーション
 たぱぞう氏ご自身は米国個別株を中心に運用されている。

 たぱぞう氏の主張は日本のような成熟市場ではインデックスで勝てるかどうか分からない。右肩上がりの成長国であり、投資環境が整備されている米国に集中投資すべきというもの。
 たぱぞう氏は労働人口増加国であることを最も重視しており、中国、韓国、台湾、タイ等将来の人口減少国は積極的に組み入れられないと主張されている。
 過去の株価や人口推移のグラフを用いた説明は分かりやすい。

www.americakabu.com

 

8)水無瀬ケンイチ氏のアセットアロケーション

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日本株式 7%
先進国株式 49%
新興国株式 14%
日本債権 30%

 ウェブサイト『梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)』で水瀬ケンイチ氏が提唱されているアセットアロケーションの内の一つ。日本債権の割合を変えた複数のパターンを提示されていたのだが、ご自身は日本債権が30%になるようリバランスすると書かれていたので、30%のバージョンを採用した。
 水無瀬氏は「はじめての投資!おススメの一冊」で1位を獲得した単著『お金は寝かせて増やしなさい』では単一の最適アセットアロケーションは提示されていない。最適なアセットアロケーションは人によるという考えのようで、『ファンドの海』の「長期投資予想/アセットアロケーション分析」等のツールを使って自分で決めるよう提案されている。
 水無瀬氏は資産配分の肝は日本債権であり、自分のリスク許容度に応じて日本債権の割合を変化させるべきだと主張されている。『敗者のゲーム』を読むと100%株式こそベストだと感じるが、長年の経験を持つ水無瀬氏がこう言うということは、実際には100%株式のストロングスタイルを貫くのは難しいのかも知れない。

 

randomwalker.blog19.fc2.com

 


9)年金積立金管理運用独立行政法人アセットアロケーション

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国内株式 25%
外国株式 25%
国内債券 35%
国債券 15%

 年金を運用している独立行政法人が基本ポートフォリオとして公開しているもの。年金を運用するだけあって、かなり手堅いアセットアロケーションになっている。
 勝間氏紹介の資産四分法に近いが、リスクを減らすため国内債券が多く、リターンの割に為替リスクが大きい外国債券の割合が低くなっている。

www.gpif.go.jp

 

10)全員の平均アセットアロケーション
インデックス投資は皆の平均を取り続ける戦略なので、9人の平均を取ってみた。細かい配分が書いてないものに関しては、時価総額割合で配分した。また、橘氏のインデックス部分は現在の世界市場ポートフォリオに置き換えた。

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日本株式 14.47%
米国株式 34.01%
先進国株式 13.82%
新興国株式 7.15%
日本債券 10%
米国債券 8.88%
先進国債券 1.42%
新興国債券 0.54%
個別株  7.78%
不動産・現金 1.94%

大まかに言うと、
日本株式 14%
外国株式 55%
日本債権 10%
国債券 11%
個別株  8%
その他  2%
である。
 そこそこ妥当なアセットアロケーションではあるまいか。

 私は株式時価総額の割合を元に、市場の有望性を見て多少割合を変えるべきではないかと考えている。
 具体的なことは次回に書く予定だ。

 

shinonomen.hatenablog.com

一括投資と積み立て投資を比較する

 『全面改訂ほったらかし投資術』(山崎元、水無瀬ケンイチ著、朝日新書)の中で、山崎元氏が一括投資の有効性について書かれていた。


 定期的に一定額を積み立てる方法は「ドルコスト平均法」と呼ばれる方法で、しばしば投資家にとってリスクが低減できる有利な方法だと説明されています。(中略)

 しかし、ドルコスト平均法を含めて「時間分散」を行う投資法は、投資すべき資金が既にあり、最適な投資額が決っているとすると、時間・手間・コストがそれぞれ余計にかかるのと共に、投資が完了するまでの期間に十分機会を利用できない「機会コスト」もかかるので、「気休めにはなっても、合理的ではない方法」です。

 既に運用資金をお持ちの方は、どの道「いいタイミング」など分からない中で平均的に有利だと思うからリスク資産に投資するのですから、ご自分にとっての適正投資額を遠慮なく1回で投資してしまってください(「一括投資」)。

 

 株価は平均的には徐々に高くなるから早めに全額を投資しきった方が確かにリターンは多くなりそうだ。だが、ドルコスト平均法にも平均取得株価を引き下げる効果がある。

 山崎氏が言われていることは本当だろうか。実際のデータで検証を行った。

 検証には日経平均株価の2015年1月~2018年3月の始値データを用いた。

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 100万円の資金を一括投資は初日に一括投資する。一方、積み立て投資は100日かけて1万円ずつ投資するものとした。
 検証期間は2015年1月5日から2017年10月31日(2018年3月30日の100営業日前)までの全営業日。

 日経平均株価で取得できる金融商品を1単位とし、期間中の全ての営業日について両者の合計取得単位数を算出。100日後の終値で換金した場合のリターンを計算した。

 一括投資の平均利回り(年換算)は7.42%、積み立て投資は2.97%となり、一括投資が上回った。

 695日中、一括購入法が上回った日は446日、積み立て投資が上回った日は249日だった。一括投資の勝率は概ね64.2%だった。

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 両投資法利回りの頻度分布を示す。縦軸が年間利回りを示す。一括投資はハイリスクハイリターン、積み立て投資はローリスクローリターンであることが分かる。 散らばり具合(=リスク)を示す標準偏差は一括投資が24.90、積み立て投資が14.69だった。

 金融商品のリスク当たりのリターンを示す指標にシャープレシオがあり、以下の式で表される。
 シャープレシオ=(投資商品のリターン-無リスク利子率)÷ 投資商品の年率リスク
 無リスク利子率を10年国債金利の0.05%として、両投資法のシャープレシオを計算すると、一括投資が0.30、積み立て投資が0.20となり、やはり一括投資が上回った。

 

 株価は年平均7%程度上昇すると言われている。100日もかけて購入するのは機会損失が大きすぎるようだ。そこで10日かけて10万円ずつ投資する方法についても同様に100日後のリターンを計算した所、次のような結果となった。

 10日積み立て投資: 平均利回り6.91%、標準偏差23.95、シャープレシオ0.29

 一括投資       : 平均利回り7.42% 標準偏差24.90、シャープレシオ0.30

 やはり利回り、シャープレシオ共に一括投資が上回った。連続した10日程度の分散では、リスクを十分に減らせないことが分かった。


 長期間の積み立てでは機会損失が大きく、短期間ではリスクを十分に減らせない。やはり山崎氏が言う通り、ある程度のリスクには目をつぶって一括投資するのが合理的なようだ。 


結論:積み立て投資より一括投資の方が合理的である。

 

PS.だが、実際に自分が投資をする段になるとびびってしまい、一回で全額を投資することはできなかった。一括投資最大の問題は心理的抵抗を振り払うことが難しいことかも知れない。

 

全面改訂 ほったらかし投資術 (朝日新書)

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フィクションの感動はバズらない――ゆるキャン△第5話感想

 アニメ「ゆるキャン△」(あfろ原作、京極義昭監督)の白眉と言えば第5話「二つのキャンプ、二人の景色」だろう。
 ゆるキャン△は女子高生がまったりキャンプをするという癒し系の作品だが、「アニメ「ゆるキャン」で東山奈央が「くぁwせdrftgyふじこlp」を全力で発音」した件など、ネタ的にも盛り上がりを見せていた。中でも第5話「二つのキャンプ、二人の景色」はおっぱいとパスタで話題になった。

 おっぱいというのは、開始6秒で登場した下着姿の犬山あおいが巨乳だったと明らかになるシーンで、衝撃を受けた視聴者が続々と犬山あおいのイラストを書き始めたらしい。はてなでも
「犬山あおいの胸問題」を考察する ~重力による乳の実在性獲得仮説~
巨乳主義の精神とプロテスタンティズムの倫理  という二つの記事が同時にホットエントリー入りを果たしておっぱい祭りみたいになっていた。

wasasula.hatenablog.com

honeshabri.hatenablog.com


 前者の「本編開始より6秒」。ウサイン・ボルトよりも速い。も印象深いが、後者は面白いだけでなく現在の世界がプロテスタント的価値観に支配されていることが良く分かる、大変勉強になる記事で感心した。

 

 同じ5話では、中盤あたりで志摩リンがパスタを真っ二つに折ったシーンでイタリア人が激怒したことも話題になった。

www.all-nationz.com


アウトドア用の小鍋に入らないんだからしょうがないだろうと思うが、それだけイタリア人はパスタに思い入れが強いのだろう。

 

 だが、実際に5話を見てみると、おっぱいもパスタもさほど印象に残らなかった。演出的にも特におっぱいやパスタを強調するSEが使われている訳でもない。作り手が意図していない細部に視聴者が勝手に食いついたという印象だ。

 それより私はラストシーンに感動し、泣いてしまった。5話はなでしこ達野外活動サークルの三人が山梨に、リンが長野にキャンプに出かけた様を交互に描く。こういう部活ものでは、リンのように単独行動を愛する人も、ハルヒみたいな奴に強引に仲間に引きずり込まれ、そのうち仲間って良いな、と宗旨替えしてしまうことが多い。だが、本作ではリンもなでしこも互いの意志を尊重し、自由を愛するリンは一人で、仲間とわいわいやるのが好きななでしこは仲間と一緒にキャンプに出かける。


 別の場所に出かけた二人だが、LINEによってつながっている。この自由でいたいが繋がってもいたいという二律背反をぎりぎりのバランスで成立させた距離感が素晴らしい。そして二人は互いに相手のために夜道を進み、夜景の写真を贈りあう。物を贈り合うことで絆を深めるという行為は原始的部族社会から行われてきた極めて根源的な行いだが、使われているツールはスマホという最新のテクノロジーだ。このシーンでは原初的な贈答の素晴らしさと、離れていても繋がれるテクノロジーの素晴らしさという人類数百万年の歴史がぎゅっと濃縮されていて心うたれた。
 オーバーラップした夜景を眺めながら二人が並んでいる演出も素晴らしく、きっと多くの人が心動かされたはずだ。実際、「ゆるキャン 5話 感想」でググると、ラストシーンで感動したという感想記事がヒットする。だが、ネットでバズったのはこのラストシーンではなく、おっぱいとパスタである。何故なのか。

yurucamp.jp


 インターネットでは感動的なシーンは話題になりにくいのだろうか。だが、オリンピックで小平奈緒選手がイ・サンファ選手に滑り寄り、「今でも私はあなたを尊敬しているよ」と伝えたシーンなどは、大きな話題となった。感動的なシーンがバズらないのではなく、フィクションの感動的なシーンがバズりにくいのではないだろうか。

 何故フィクションの感動的なシーンは話題になりにくいのだろう。フィクションの感動には作り手の意図がある。作り手の意図にまんまとハマったと表明するのは気恥ずかしいという感覚があるのかも知れない。
 また、フィクションで感動したと表明するのは、自分がこういう人間だと表明することに等しい。小平選手に感動したと言っても、発言者がどういう人かは分からないが、ゆるキャン△5話に感動したと表明すると、発言者はリンみたいな友達が少ないタイプなんだろうな、と推測されてしまう。降参した犬がお腹を見せているような、自分の弱い部分をさらけ出している感じがして、気が進まないのかも知れない。

 だが、より本質的な原因は、インターネットでバズるものと、フィクションで表現するべきものが大きく異なっていることにあるのではないか。
 インターネットでバズるのは、「ゆるキャンのパスタを真っ二つに折ったシーンでイタリア人が大激怒」のように一文で内容をずばりと表現できるようなものだ。
 一方、フィクションで表現すべきなのは、短い文章では伝えきれないものだ。短い文章で伝えることができるなら、わざわざ長い時間をかけて小説を書いたり大金を投じてアニメを作ったりしなくても、ツイッターなどで伝えれば良いからだ。
 アニメを作るのは、アニメでしか伝えきれないものを視聴者に伝えるためだ。その感動を他者に短文で伝えるのは並大抵のことではないのだ。

 

ゆるキャン△ 1 [Blu-ray]

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