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著名投資家のアセットアロケーションまとめ

 前回の記事で資金は出来るだけ速やかに投資する方が良いと分かった。問題は投資先だ。

 投資関係の様々な本やサイトを読みあさった結果、幅広い銘柄に少しずつ投資することでリスクを分散するインデックス投資が良いということが分かった。具体的にはインデックスファンドやETFを買えば、少額で分散投資をすることができる。
 だが、インデックスファンドには、国内、先進国、新興国といった地域別や、株式、債権、不動産(リート)といった対象別に様々な種類がある。問題は何にどういう割合で投資すべきなのか、人によって言っていることがバラバラだということだ。
 まずは、色々な人が提唱されているアセットアロケーション(資産配分)を見比べてみよう。

 

1)勝間和代氏のアセットアロケーション

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国内株式 25%
国内債券 25%
海外株式 25%
海外債権 25%

 『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』(勝間和代著、光文社新書)の中で勝間氏が資産四分法として提唱されていたアセットアロケーション
お金は銀行に預けるな』は「金融の相場は予測することができない」といったインデックス投資の勘所が分かりやすく書かれた啓蒙書で、四資産に等分投資しろという主張も分かりやすい。
 ただし、本書が書かれた当時は債権の金利が今よりずっと高かった。勝間氏が現在も1:1:1:1がベストとお考えかどうかは分からない。

 

 

2)山崎元氏のアセットアロケーション

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国内株式 50%
海外株式 50%

 『全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド』(山崎元、水無瀬ケンイチ著、朝日新書)の中で山崎氏が提唱されていたアセットアロケーション
 山崎氏の主張の特徴は、現在先進国債権が歴史的低金利なので、日本の長期金利が2%を超えるまではリスク資産は「国内株式」+「外国株式」だけで良いと言われていることだ。(無リスク資産としては個人向け国債・変動金利10年満期型は買っても良いとは言われている。)
 ベストな数字は「内株:外株=4:6」だが、リバランスの手間がかかるとも書かれているので、リバランスの手間を厭わないのなら国内株式:海外株式=40%:60%の方が良いかも知れない。
 山崎氏の主張で重要なのが、「資本主義市場の価格決定メカニズムを考えると、経済が低成長あるいはマイナス成長であっても、株式投資は「それなりに(リスクなりに)儲かるはず」。何故なら、低成長は株価に既に織り込まれてリスクなりの利回りになっているから。」というもの。見落とされがちな指摘で感心した。

 『ほったらかし投資術』は「50%はTOPIX連動型のETF、50%を外国株式インデックスファンド」という風に、やるべきことが順を追って具体的に書かれているのが特徴的で、本書を読むだけで予備知識がない人でもインデックス投資を行うことができる。

 

 


3)橘玲氏のアセットアロケーション

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世界市場ポートフォリオ 80% 
 国内株式 12% 
 海外株式 68%
トレーディング・個別株投資 20%

 『臆病者のための株入門』(橘玲著、文春新書)で橘氏が「トーシロ投資法」として提唱されていたアセットアロケーション。リスクのとれる金融資産の8割をインデックス投資にあて、残りの2割をトレーディングや個別株投資で楽しむことを提案されている。
 国内株式:海外株式=1:1が最適なのは時価総額の世界におけるシェアが50%あるアメリカの場合であり、日本は15%しかないのだから15%にすべき。投資は余裕資金で行うのだから為替リスクを気にする必要はない。という主張には目から鱗が落ちた。
(15%というのは当時の比率で、現在なら約10%に相当する。)

 『臆病者のための株入門』は投資の流派を「トレーディング」「インデックスファンド」「バフェット流」に分け、合理的な方法は市場の歪みを利用するか、長期投資で樹から果実が落ちるのを待つかしかない。と指摘した上で、
1トレーディングは歪みを利用
2インデックスファンドは長期投資
3バフェット流は歪み+長期投資
と明快に整理している。
 ほとんどの本は3流派のどれかに肩入れして書かれているのに対し、本書は中立的立場で書かれているので、投資に関する全体的主張を俯瞰的に把握することができる。

 

 

4)バートン・マルキール氏のアセットアロケーション

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現金 5%
債権 27.5%
不動産 12.5%
株式 55%
 アメリカ株 27%
 先進国株 14%
 新興国株 14%

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 原著第10版』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞出版社)でマルキール氏が50代半ばの人のために提唱されていたアセットアロケーション
 より大きなリスクが取れる20代半ばの投資家には
現金5%
債権15%
不動産10%
株式70%
を提案されている。
 IMFが当分の間高成長を見込んでいるという理由で、新興国の割合を高めにしているという特徴がある。

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』はあらゆる人が薦めているインデックス投資のバイブル。厚い本だが、歴史上の様々なバブルにおけるアホな狂乱の話から始まって、テクニカル分析ファンダメンタル分析、新興の行動ファイナンス学派によるあらゆる「株式市場は予測可能だ」とする主張を滅多斬りにしていて、ぐいぐい引き込まれる。
 特に印象に残ったエピソードは、画面上でランダムに動くボールを見せかけの装置でコントロールする実験を行った所、ほとんどの被験者は「かなりうまくボールの動きをコントロールできたと思う」と答えた。惑わされなかった被験者は全員重度のうつ病患者だった。というもの。世界を正しく認識する者はうつ病になってしまうということを示唆していて興味深い。
 マルキール氏は効率的市場理論を高らかに主張されているのだが、それは市場は常に正しいという訳ではなく、市場を一貫して正しく予測することはできない、つまり市場が間違っていても事前にどう間違っているか分からないから市場の歪みを利用して儲けたりはできないと言っているだけだということには注意が必要だ。
 結論としては「幅広い銘柄に分散された、低コストのインデックス・ファンドを保有するべき」に尽きるのだが、様々な「市場は部分的に予測可能だ」とする理論が紹介されているので、インデックス投資より高いリターンを上げたいと考えている人にも参考になる。

 

 

5)チャールズ・エリス氏のアセットアロケーション

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株式 100%

 『敗者のゲーム なぜ資産運用に勝てないのか』(チャールズ・エリス著、鹿毛雄二訳、日本経済新聞社)は投資家へのアドバイス集のような内容で、投資計画を文書化しろ、底値で買って天井で売ろうとするな、など役に立つ心得が多数記されている。だが、最も重要なのは、十年以上運用する資産はすべて株式に投資しろという主張だ。
 債権を買う人はインフレのリスクを軽視している。長期の収益率は平均収益率に近くなるのだから、平均収益率が高い株を買うべきだとの主張が力強い。 投資のリターンは投資の腕より、どれだけの資金を値動きが大きい株式に投入できるかという心の強さによって決まるのではないか。

 

 


6)ジェレミー・シーゲル氏のアセットアロケーション

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株式投資 100%
ワールド・インデックスファンド 50%
 米国株 30%
 非米国株 20%
リターン補完戦略 50%(各10~15%)
 高配当戦略
 グローバル戦略
 セクター戦略
 バリュー戦略

 『株式投資の未来 永続する会社が本当の利益をもたらす』(ジェレミー・シーゲル著、瑞穂のりこ訳、日経BP社)の結論としてシーゲル氏が提示されていたアセットアロケーション。半分は世界のインデックスファンドに投資し、半分は個別株投資で市場平均以上のリターンを狙う戦略を提示されている。
 シーゲル氏がユニークなのは、配当を再投資すると仮定して計算すると、低成長企業の方が高成長企業よりもリターンが高くなる。高成長の企業、セクター、国は投資家の期待を集めて実態以上に値上がりしており、投資すると「成長の罠」にはまる。と主張されている点。
 普通、高成長な方がリターンが高くなると思いがちだが、その投資家の思い込みによって資金が集中するから逆にリターンが低くなるという指摘に目を開かれた。
 通常、リターンは株の値動きだけで計算し、配当のことは無視しがちだが、シーゲル氏はS&P500全社のリターンを配当込みでコツコツ計算して、高成長企業より、高配当企業や低PER企業、ヘルスケアや生活必需品等の老舗企業の方がリターンが高いと結論づけており、説得力がある。

 

 

7)たぱぞう氏のアセットアロケーション

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米国株式 70%(VTI35%,VYM35%)
米国債券 30%(BND)

 ウェブサイト『たぱぞうの米国株投資』でたぱぞう氏が、誰でもできる海外投資として提唱されていたアセットアロケーション
 たぱぞう氏ご自身は米国個別株を中心に運用されている。

 たぱぞう氏の主張は日本のような成熟市場ではインデックスで勝てるかどうか分からない。右肩上がりの成長国であり、投資環境が整備されている米国に集中投資すべきというもの。
 たぱぞう氏は労働人口増加国であることを最も重視しており、中国、韓国、台湾、タイ等将来の人口減少国は積極的に組み入れられないと主張されている。
 過去の株価や人口推移のグラフを用いた説明は分かりやすい。

www.americakabu.com

 

8)水無瀬ケンイチ氏のアセットアロケーション

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日本株式 7%
先進国株式 49%
新興国株式 14%
日本債権 30%

 ウェブサイト『梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)』で水瀬ケンイチ氏が提唱されているアセットアロケーションの内の一つ。日本債権の割合を変えた複数のパターンを提示されていたのだが、ご自身は日本債権が30%になるようリバランスすると書かれていたので、30%のバージョンを採用した。
 水無瀬氏は「はじめての投資!おススメの一冊」で1位を獲得した単著『お金は寝かせて増やしなさい』では単一の最適アセットアロケーションは提示されていない。最適なアセットアロケーションは人によるという考えのようで、『ファンドの海』の「長期投資予想/アセットアロケーション分析」等のツールを使って自分で決めるよう提案されている。
 水無瀬氏は資産配分の肝は日本債権であり、自分のリスク許容度に応じて日本債権の割合を変化させるべきだと主張されている。『敗者のゲーム』を読むと100%株式こそベストだと感じるが、長年の経験を持つ水無瀬氏がこう言うということは、実際には100%株式のストロングスタイルを貫くのは難しいのかも知れない。

 

randomwalker.blog19.fc2.com

 


9)年金積立金管理運用独立行政法人アセットアロケーション

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国内株式 25%
外国株式 25%
国内債券 35%
国債券 15%

 年金を運用している独立行政法人が基本ポートフォリオとして公開しているもの。年金を運用するだけあって、かなり手堅いアセットアロケーションになっている。
 勝間氏紹介の資産四分法に近いが、リスクを減らすため国内債券が多く、リターンの割に為替リスクが大きい外国債券の割合が低くなっている。

www.gpif.go.jp

 

10)全員の平均アセットアロケーション
インデックス投資は皆の平均を取り続ける戦略なので、9人の平均を取ってみた。細かい配分が書いてないものに関しては、時価総額割合で配分した。また、橘氏のインデックス部分は現在の世界市場ポートフォリオに置き換えた。

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日本株式 14.47%
米国株式 34.01%
先進国株式 13.82%
新興国株式 7.15%
日本債券 10%
米国債券 8.88%
先進国債券 1.42%
新興国債券 0.54%
個別株  7.78%
不動産・現金 1.94%

大まかに言うと、
日本株式 14%
外国株式 55%
日本債権 10%
国債券 11%
個別株  8%
その他  2%
である。
 そこそこ妥当なアセットアロケーションではあるまいか。

 私は株式時価総額の割合を元に、市場の有望性を見て多少割合を変えるべきではないかと考えている。
 具体的なことは次回に書く予定だ。

 

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