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退屈は投資家を殺すか――マネーと常識 投資信託で勝ち残る道感想

 『マネーと常識 投資信託で勝ち残る道』(ジョン・C・ボーグル著、林康史監訳、石川由美子訳、日経BP社)ヴァンガード社の創設者にして史上初のインデックスファンドを作ったボーグル氏の古典的名著だ。

 最初に登場する「ゴッドロックス家の寓話」が本書の主張を端的に示している。

 米国すべての企業の株式を100%保有するゴットロックス家は、企業が生み出した利益成長と配当のすべてを手にしていた。
 ヘルパーズ家が一部企業の株式を他の家族に売却させ手数料を取ると、ゴットロックス家の財産が増えるペースが鈍化した。
 投資コンサルタントを雇うと、さらにゴットロックス家の取り分が減ってしまった。
 ファミリーきっての知恵者の助言に従い助っ人をすべて排除した所、ゴッドロックス家は再びアメリカ合衆国株式会社が焼いてくれるパイの100%を手にすることができた。

 この助っ人を全て排除し、アメリカ合衆国株式会社全体を保有する戦略こそがインデックスファンドの戦略なのだ。

 本書は「市場を丸ごと保有するインデックスファンドを定期買い付けしろ」ということを繰り返し説いているだけであり、そのことに納得している人は読まなくて良い。だが、多くの投資家はこの戦略を素直に実行することができない。

 何故実行できないのか。そこには二つの理由がある。

 一つは、何もできないというのが受け入れがたいからだ。
 投資で力量が発揮できるのは銘柄選択とタイミングだ。
 この内、銘柄選択に関して、自分が市場平均を上回れないということは納得できる。多くのプロ投資家がしのぎを削って作り上げている市場平均が、私より賢いのは当然だ。
 しかし、ドルコスト平均法の方がタイミング投資より優秀だというのは受け入れがたい。ドルコスト平均法は、定期的に同じ額を買い付けるという、ししおどし並の知能しか必要ない投資法だ。ドルコスト平均法の方がタイミング投資より優秀というのは、お前はししおどしよりアホだと言われているようなものだ。これを受け入れるのは人類として辛すぎる。

 だが、本書によると、多くの投資家はししおどしよりアホらしい。過去25年において、インデックスファンドの年平均リターンは12.3%で、平均的な株式ファンドは10.0%であったが、平均的なファンドの投資家は7.3%を獲得したにすぎない。投資家は誤ったタイミングで売買する(割高になってから買い、下落してから売る)せいで、2.7%もリターンを損なっているのだ。(さらに、ファンド選択を間違えたせいで2.3%のリターンを損なっている。)

 もう一つはインデックスファンドを定期購入するという投資法があまりに退屈だからだ。最初に定期買い付けの申し込みをしたら、後は全くすることがない。多くの投資家はこの退屈に耐えられない。

 最終章でボーグル氏は「おそらくあなたは、単純なやり方が正解で複雑なやり方はうまくいかないと、本書で何度も何度も繰り返し述べていることに対して、私と同様うんざりしているに違いない。実際、われわれ投資家は、本書が指摘してきた真実を無視して行動することを好むようだ」と匙を投げたようなことを言い出し、投資資産の5パーセントをインデックスファンド以外の楽しみのための資金に回すことを容認している。
 
 インデックスファンドの創設者ですら、5%は容認せざるを得なかったとも言えるし、5%しか容認しないとはさすがとも言える。(同じような趣旨で橘玲氏は20%を楽しみに回すことを提案している。)

 いずれにしても、投資で勝つためには、自分は賢いというプライドや、市場平均を上回る方法を見つけたいという好奇心を制御しなくてはならない。自分の心こそが最大の敵なのだ。

 

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