『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』(ハワード・マークス著、貫井佳子訳、 日本経済新聞出版社)はウォーレン・バフェットが絶賛し、バークシャー・ハザウェイの株主総会で配布した投資本だ。
私は最近読んだのだが、なぜ投資を始める前か、せめて9月までに読まなかったのかと後悔した。本書を読んでいれば、昨年10月以降の暴落をかなり回避することができただろう。
本書で最も重要な教えは「サイクルを意識せよ」だ。
投資の成否の大部分は何を買うかではなく、長期サイクルのいつ買うかで決まる。2016年に株を買えばほぼ何を買っても大儲けだが、2018年1月に買って儲けるのは難しい。だが、投資本の大半は何を買うかについて書いており、いつ買うかに関しては匙を投げているか、チャート分析のような短期のトレンドについてしか書いてない。大きなサイクルでいつ売買すべきか説いている本書のような本は貴重だ。
市場心理は楽観と悲観の間で振り子のように揺れ動く。だが、振り子がどのタイミングで反転するかを予測するのは難しい。本書はそれに対して三通りの対応を挙げる。
1未来の予測にいっそう力を注ぐ。
2未来は知りえないことを受け入れ、サイクルの存在を無視する。
3自分が今サイクルのどの位置に立っているのか、そして、どのような行動をおこすべきなのかをつきとめようとする。
1は筆者が「知ってる派」と呼ぶ投資行動だ。未来を予測し、それに基づいて投資を行えば、予測が当たった時大きなリターンを得ることができる。だが、予測を一貫して当て続けている投資家は存在せず、予測が外れた場合大きなダメージを受ける。
2は効率的市場仮説に基づいた、「バイ・アンド・ホールド」と呼ばれる投資行動だ。市場平均と同程度のリターンで満足するのなら、合理的な投資法だ。
3が筆者が推奨する投資行動だ。筆者は周囲を観察し、逆張りすべきだと主張する。周囲が積極的な時は資産が割高になっているから慎重に、消極的な時は割安になっているから積極果敢に投資すべきだと言うのだ。
そのために本書はチェックリストを用意している。いくつか抜粋すると、下記のようなものだ。
景気 | 堅調 | 低迷 |
---|---|---|
見通し | 明るい | 暗い |
貸し手 | 積極的 | 消極的 |
金利 | 低い | 高い |
yeild spread | タイト | ワイド |
投資家 | 楽観的 | 悲観的 |
売り手 | 少ない | 多い |
市場 | 活況 | 閑散 |
パフォーマンス | 堅調 | 軟調 |
資産価格 | 高い | 低い |
期待リターン | 低い | 高い |
リスク | 高い | 低い |
投資トレンド | 積極 | 慎重 |
周囲を観察し、チェックリストの右が多ければ積極的に、左が多ければ慎重に投資すべきだと言うのだ。
投資のセオリーに「落ちたナイフは掴むな」がある。暴落中の株は買わずに、値動きが落ち着いてから買うべきだという教えだ。だが、筆者は「ナイフが床に落ち、混乱がおさまり、不透明感が消えるころには、超お買い得品はまったく残っていない」と主張する。
逆張り投資家として、願わくば用心深さとスキルを携えて落下するナイフを掴みにいくのが我々の仕事だ。だからこそ、本質的価値という概念が非常に重要な意味を持つ。本質的価値に対する考えを維持し、周りがみな売っているときに買うことができれば(そして、それが正しい判断だったと判明すれば)、それこそが最も少ないリスクで最も高い利益をあげる方法なのである。
よほど自分の本質的価値の判断に自信がないとできないが、恐怖や強欲の感情に負けないよう、逆張りの意識は忘れずに持っておきたい。
本書で次に重要なのが、「リスクを意識してディフェンシブに投資すべき」だという主張だ。
筆者の上げる、リスクとリターンの図が分かりやすい。
一般に、ハイリスク商品程リターンは高くなると思われている。だが、リスクの高い資産が確実に高いリターンを生み出すというのなら、その資産はハイリスクではない。リスクの高い投資は先行きがより不確かで、リターンの確率分布の幅が広いのだ。
強気相場では、攻撃的な投資家ほど高いリターンを上げる。だがそれはたまたま運が良かっただけに過ぎない。従って、高いリターンをあげた投資家=優れた投資家ではない。
投資家の力量は、自分の投資スタイルに合わない環境において試される。リターンだけに目を向けリスクを軽視していた投資家は、相場の急落で手痛いダメージを受ける。バフェットの「潮が引いて初めて、誰が丸裸で泳いでいたのかがわかる」という言葉が痛烈だ。
「投資家の仕事とは、利益を得るために、きちんと理解したうえでリスクをとることだ。これがうまくできるかどうかが、すぐれた投資家とそれ以外とを分け隔てる」のだ。
未来は誰にも分からないが、注意深く観察すれば現在のことはある程度知ることができる。未来に起こりうる様々な事態に備えながら、感情に流されず、合理的な投資判断をするよう努めたい。
投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識
- 作者: ハワード・マークス,貫井佳子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/10/23
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (6件) を見る