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テクニカル分析は役立つこともあるが、今は役に立たない

 テクニカル分析は、経済学の世界では非常に評判が悪い。

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞社)はテクニカル分析をボロクソに叩いている。

 マルキール氏は「ランダムなコイン投げの結果として描かれたチャートは、通常の株価チャートと驚くほど似ている。時にはサイクルさえ描いてみせる。」と指摘。
 「おそらく、テクニカル分析手法に対する最も有効な反論は、投資家による利益最大化の行動がもたらす論理的帰結であろう。(中略)もし一部の人々が、その銘柄の株価が明日四〇ドルになることを知っていたとすれば、株価は明日ではなく、今日ただ今四〇ドルになるだろう。(中略)株価は新たな情報に対して非常にすばやく反応するから、テクニカル分析を試みる努力は決して報われない。」と上手くいかない理由を分析し、にも関わらずテクニカル分析が廃れない理由を、
 「チャーティストが勧めるテクニカル戦略は必ずと言っていいほど、銘柄間の乗り換え取引を伴うものだ。こういった取引は証券会社に、彼らの血液とも言える手数料収入をもたらす。テクニカル・アナリストは、顧客がヨットを買う手助けにはならないが、取引を作り出す上では大いに助けとなる。おかげで、証券会社の社員はヨットを買うこともできるというわけだ。」と皮肉っている。

 私もかつてはテクニカル分析を信じている人は創造説を信じるような科学リテラシーのない人だけだと思っていた。だが、創造説が現実の政治に影響を及ぼしているように、テクニカル分析も現実の株価に影響を及ぼしている。

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』も注意深く読むと、テクニカル分析が株価の予想に多少は役に立つこともあることをしぶしぶ認めている。
 行動ファイナンス学者の研究によると、
 「広く分散投資された株式ポートフォリオの週次と月次の所有期間リターンに関して、連続的な正の相関が見られた。つまり、ある週のリターンがプラスであれば、次の週のリターンもプラスになる可能性のほうが、そうでない可能性よりも大きい
 「テクニカル・アナリストたちが用いるチャート手法の中には、ある程度の予測力を持つものがありうる。
 のだと言う。
 マルキール氏はモメンタム(株価が同方向に動きやすい性質)戦略がバイ・アンド・ホールド戦略に勝てないことをもって、効率的市場仮説の正しさを主張しているが、それは話のすり替えだろう。効率的市場仮説が正しければバイ・アンド・ホールド戦略が最強になるが、バイ・アンド・ホールド戦略が最強だからと言って、効率的市場仮説が正しいとは限らないからだ。

 テクニカル分析は本書で言う所の「砂上の楼閣理論」に基いている。
 砂上の楼閣理論とは株価の動きのうち、合理的に説明のつく部分はせいぜい一〇%くらいで、残りの九〇%は心理的な要因によるものであるという考え方だ。
 普段の株価は短期的にはランダムに、長期的にはファンダメンタルに基いて動いている。
 しかし、バブルが発生したり、株価が暴落したりといった狂乱が生じている時は、心理的要因が強まっているため、テクニカル分析の有効性が高まる。

 2019年6月上旬現在、テクニカル分析は有効なのだろうか? 先月から今月にかけて株価は大きな下落し、反発した。そこそこの狂乱が生じていたのだから、テクニカル分析によってある程度株価を予想できたのだろうか。
 絶対に無理だ。

 なぜなら、現在はテクニカル分析の元となる心理的影響よりずっと大きな力が存在しているからだ。それはトランプ大統領だ。

 5月の株価急落は米中貿易協議が突如決裂しトランプ大統領が中国に追加関税を課すと発表したのが原因で、トランプ大統領が対メキシコ関税の発動を表明したことがダメ押しとなった。
 その後、FRBが利下げに柔軟な姿勢を示したことが好感されて反発し、トランプ大統領が対メキシコ関税の発動撤回を表明してさらに上昇した。

 3/4はトランプ大統領の発言によるものだ。そしてこれらはどれも事前に予想するのは不可能だった。
 テクニカル分析の元になっているモメンタムは、マルキール氏も指摘するように弱い力だ。他にずっと大きな力が働いているのだから、テクニカル分析は現状では何の役にも立たない。

 株価の予想は校庭に転がったボールの動きを予想するようなものだ。校庭が無人で、ボールが勢い良く転がっていれば、現在ボールがどちらに向かって転がっているかを元に今後の挙動を予想すること(=テクニカル分析)はある程度有効だ。
 だが、校庭でゴジラが暴れている時に、テクニカル分析をしても意味が無い。

 元々株の値動きを予想することは難しいが、現在は突然株価を撹乱する巨大なリスク要因(トランプ大統領)が存在しているため、なおさら予測不可能だ。値動きに惑わされず、安ければ買い、高ければ買わない(もしくは売る)ことが重要だ。

 

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