1.はじめに
日経平均が急騰後に暴落した。
私はこの流れに翻弄された。まず急騰に完全に乗り遅れた。私は日経平均ETFを2株しか持っておらず、そのうち1株を上がり始めてすぐに売ってしまったので、1株分しか値上がりを享受できなかった。まるで昭和の時代の一坪一株運動家のようだ。
さらに問題だったのは上がった後だ。急騰後に下げたのを天井ではなく押し目だと思い、1株買い足してしまったのだ。その後利益を確定する前に株価が急落したので、含み損を抱えることになってしまった。
この件で痛感したのは、値動きに惑わされず割安な株のみを買うべきだということだ。
私は値上がり前に、日本株が割安だな、とは感じていた。だが、当時は日本株が低迷していたため、さらに下がるのではとビビってしまい、2株しか買わなかった。
さらにまずかったのは上がった所で買い足したことだ。上がった時点で日本株はバブル以降最高値であり、PER的にもそれほど割安なわけでもなかった。上がっていようが下がっていようが、割安な時に買い、割安でないときは買わなければ、今回のような失敗を防げるのではないか。
2.低PER法の検証
そこで、PER(株価収益率、時価総額÷純利益)が過去の中央値より低い時のみ買うという購入法(低PER法)を考え、有効かどうか検証を行った。
検証には2007年7月から2018年7月までの日経平均予想PERと株価の時系列月次データを用いた。
低PER法は、その時点のPERが過去の時系列PERデータの中央値より低い時に2万円購入し、高い時には購入を見送った。中央値にしたのは、PERは100超のようにやたら高くなることがあり、平均にするとそれに引っ張られてしまうためである。
これと、毎月1万円ずつ購入するドルコスト平均法の比較を行った。
2008年1月から購入を開始し、2018年7月の段階で1株あたりの購入金額を比較した。
低PER法
購入株数 117.2914株
投資金額 1440000円
1株あたり購入金額 12277.11円
ドルコスト平均法
購入株数 100.1959株
投資金額 1270000円
1株あたり購入金額 12675.17円
低PER法の方が3.14%安く買えていることが分かる。
中央値未満で購入するのではなく、中央値よりずっと低い時だけ購入すればさらに効率が良いのではないだろうか。
そこで、現在のPERが過去PERの中央値の-2未満の時のみ4万円購入するようにした所、下記の結果となった。
超低PER法
購入株数 91.89989株
投資金額 960000円
1株あたり購入金額 10446.15円
17.59%も購入金額を下げることができた。ただし、超低PER法は、総投資金額がどの程度になるか分からず、低PER状態が長く続くと資金が枯渇しかねないという欠点がある。
低PER法、超低PER法がどのタイミングで購入したかをグラフで示す。超低PER法は黄色の月に、低PER法は黄色とオレンジの月に購入している。
低PER法の問題点として、経済危機時にはしばしば企業業績が急激に悪化してPERが急上昇するので、株価は安いのに買うことができないということが挙げられる。例えば、2009年2月に日経平均は7568.42円の調査期間中最安値をつけているが、予想PERが28.71と急騰したため、買うことができなかった。
経済危機時に急騰したPERを無視して臨機応変に買い出動できれば、低PER法はさらに効果を発揮するだろう。
3.ダウ平均と上海総合指数における検証
低PER法は日経平均以外でも有効なのだろうか。ダウ平均と上海総合指数でも同様に検証を行った。
(この項は検証結果が書いてあるだけなので、お急ぎの方は末尾部分だけ読んで頂ければ十分である。)
ダウ平均
低PER法
購入株数:90.64株
投資金額:1020000$
1株あたり購入金額:11253.55$
ドルコスト平均法
購入株数:92.06株
投資金額:1270000$
1株あたり購入金額:13795.17$
上海総合
低PER法
購入株数:766.85株
投資金額:1920000元
1株あたり購入金額:2503.74元
ドルコスト平均法
購入株数:476.07株
投資金額:1270000元
1株あたり購入金額:2667.69元
両市場共、低PER法によってドルコスト平均法より1株あたり購入金額を抑えることに成功した。
ダウ平均では低PER法によって1株あたり購入金額を18.42%も抑えられており成功のようだが、大きな問題がある。ダウ平均は年々PERが上昇しているため、2013年2月を最後に全く買うことができていないのだ。
長期のPER的に見て、この5年間ダウ平均がずっと割高なのは確かだ。そのうち株価が5年前の水準まで暴落して、やはり割高で買うべきではなかった、ということになる可能性も0ではない。とは言え、5年間ずっと一株も買えないのでは投資法としては役に立たない。
そこで、過去全てではなく過去3年間までのPERと比較して中央値より低ければ買う戦略にした所、2016年1月と2018年5-7月にも買うことができ、下記の結果となった。
低PER法(3年間)
購入株数:89.74株
投資金額:1040000$
1株あたり購入金額:11589.11$
1株あたり購入金額は多少上がってしまったが、5年間ずっと買えない戦略よりは多少実用的である。
上海総合も1株あたり購入金額を6.15%抑えることができたが、投資金額が1.51倍にも膨らんでしまったのが目立つ。
上海総合の場合はダウ平均とは逆に調査開始時の2007年下半期にバブルが発生しておりPERが40前後とやたら高い時期が続いたため、その値に引っ張られ、大して割安でない時も割安と判断してしまい、買いすぎになってしまった。
PER=30以上のバブル部分は除いて2008年8月から買い付けを開始した所、下記の結果となり、投資金額、1株あたり購入金額ともに抑制することができた。
低PER法(バブル除外)
購入株数:643.39株
投資金額:1540000元
1株あたり購入金額:2393.56円
低PER法は3市場いずれでも1株あたり購入金額を引き下げる効果があった。
ただし、実際に行うには市場によって多少修正が必要である。ダウ平均のように年々PER値が高まっているような市場では適用が難しい。
4.まとめ
低PER法は一般的に言う所の長期逆張り戦略である。ウォーレン・バフェットやその師匠であるベンジャミン・グレアムが長期逆張り投資家であることからも、戦略の有効性が伺える。
低PER法は有効性が高いが、大きな欠点がある。効果が出るまでに時間がかかるのだ。
低PERが高PERに変わって株価が上がり始めるまでは、数カ月、長い時は何年もかかる。その間、投資家は値上がりしない株をじっと我慢してホールドし続けねばならない。これは、上昇中の株に乗っかる順張り戦略よりもずっとストレスが溜まる。
ドルコスト平均法の場合は自動積立にして放っておけば良いが、低PER法の場合は自分で買い付けをしなくてはならないので、雑念に惑わされて買いをためらったり我慢しきれずに売ってしまったりしかねない。
低PER法は長期的には有効だが、やるには相当な我慢強さが必要なのだ。
参考:日米主要指標のPERが確認できるサイト