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どの国に投資すべきか2――バフェット流の検証

  5月16日の記事「どの国に投資すべきか」では株価が名目GPSと相関があり、新興国の予想名目GDP成長率が高いので、新興国に多く投資すべきではないかと書いた。

shinonomen.hatenablog.com

 しかし、新興国インデックスファンドの過去のリターンを見ると先進国と比べてそれほど良くもない。経済成長率は倍近いのにリターンはあまり変わらないということは、他の要素が存在するのではないか。

 その後、『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』を読んだ所、バフェット氏は「安定成長するEPS(1株利益)」と「安定して高いROE」を重視していることが分かった。バフェット氏が言っているのは個別株の話だが、各国のインデックスファンドに当てはめて検証してみた。

 検証には5月16日の記事同様「世界各国のPER・PBR・時価総額」の2010年~2018年の3月のデータを用いた。
 ROE=PBR/PERなので、表から計算できる。EPSは分からないが、国全体に投資するわけだから純利益を比較すれば良いだろう。純利益は純利益=時価総額/PER で計算した。


1)純利益成長率の検証

  国・地域 純利益成長率
  全世界 10.85
  先進国 11.76
  エマージング 5.95
  ヨーロッパ 7.83
  アジア・パシフィック 23.92
  BRICs 4.84
1 アイルランド 29.29
2 フィリピン 22.04
3 オーストリア 21.22
4 台湾 20.02
5 韓国 16.63
6 オランダ 16.54
7 デンマーク 15.39
8 タイ 14.97
9 日本 14.06
10 ニュージーランド 13.78
11 中国 13.10
12 ポーランド 13.06
13 ノルウェー 11.99
14 米国 11.96
15 ドイツ 11.61
16 ベルギー 10.34
17 香港 9.60
18 スウェーデン 9.34
19 トルコ 8.86
20 カナダ 8.54
21 英国 8.53
22 オーストラリア 8.04
23 フランス 6.08
24 マレーシア 5.58
25 フィンランド 5.49
26 インド 4.51
27 チリ 4.04
28 スイス 4.02
29 インドネシア 4.01
30 ハンガリー 3.93
31 コロンビア 3.65
32 シンガポール 3.41
33 パキスタン 1.85
34 ロシア 1.84
35 イタリア 1.28
36 イスラエル 0.58
37 メキシコ 0.36
38 ペルー -0.83
39 スペイン -1.52
40 南アフリカ -2.07
41 ブラジル -6.44
42 チェコ -6.93
43 ポルトガル -7.89
44 ギリシャ -11.79
45 エジプト -12.00


 表1に2010年~2018年の各国純利益と純利益の年平均成長率を示す。年平均成長率は基本的には2018年と2010年のデータから算出したが、当該年のデータがない国は他の年から計算した。
 純利益成長率の上位五カ国はアイルランド、フィリピン、オーストリア、台湾、韓国となった。(オーストリアは2010年だけやたら低いのでやや疑わしい)
 日本は14.06%の9位になり、11位の中国や14位の米国を上回った。とかく低成長だと言われがちな日本だが、2010年~2018年の企業利益の伸びは世界的に見て高水準であることが分かった。

 地域別では先進国が11.76%、新興国エマージング国)が5.95%と先進国が大きく上回った。(数字上はアジア・パシフィックが1位だが、アジア・パシフィックで最も成長率が高いフィリピンより高いので間違っているものと思われる)

 新興国の主要メンバーである中国、韓国、台湾の純利益成長率は米国を上回っているのに、新興国全体の成長率は低いのは奇妙だ。そこで、構成国の割合を使って計算した所、先進国10.76%、新興国9.86%となり、差は縮まったもののやはり先進国が上回った。

先進国 構成割合 純利益成長率
アメリ 65.74 11.96 786.25
イギリス 7.05 8.53 60.14
フランス 4.33 6.08 26.33
ドイツ 3.97 11.61 46.09
カナダ 3.69 8.54 31.51
スイス 3.20 4.02 12.86
オーストラリア 2.69 8.04 21.63
オランダ 1.46 16.54 24.15
香港 1.37 9.60 13.15
スペイン 1.32 -1.52 -2.01
その他 5.18    
先進国上位10ヵ国 94.82 10.76 1020.10
       
新興国 構成割合 純利益成長率
ケイマン諸島(中国) 16.14 13.10 211.43
韓国 15.08 16.63 250.78
台湾 11.52 20.02 230.63
中国 9.68 13.10 126.81
インド 8.20 4.51 36.98
ブラジル 7.51 -6.44 -48.36
南アフリカ 6.62 -2.07 -13.70
ロシア 3.61 1.84 6.64
香港 3.29 9.60 31.58
メキシコ 2.92 0.36 1.05
その他 15.43    
新興国上位10ヵ国 84.57 9.86 833.84


 表2に構成割合と純利益成長率を示す。新興国ではトップ3の成長率は高いものの、成長率-6.44%のブラジルと-2.07%の南アフリカが大きく足を引っ張っていることが分かった。


2)ROEの検証

  国・地域 ROE
  全世界 12.01
  先進国 11.76
  エマージング 13.27
  ヨーロッパ 11.17
  アジア・パシフィック 8.37
  BRICs 13.49
1 パキスタン 25.46
2 インドネシア 21.06
3 ペルー 17.44
4 トルコ 15.58
5 インド 15.28
6 タイ 14.88
7 南アフリカ 14.77
8 チェコ 14.43
9 ギリシャ 14.38
10 スウェーデン 14.37
11 米国 14.25
12 スイス 14.23
13 中国 14.00
14 ポルトガル 13.93
15 フィリピン 13.91
16 デンマーク 13.85
17 メキシコ 13.51
18 エジプト 13.10
19 ロシア 12.87
20 ドイツ 12.37
21 イスラエル 12.34
22 マレーシア 12.17
23 フィンランド 12.15
24 スペイン 12.04
25 チリ 11.87
26 英国 11.68
27 香港 11.40
28 ポーランド 11.15
29 オランダ 11.13
30 アイルランド 11.07
31 オーストラリア 11.04
32 ニュージーランド 11.00
33 ブラジル 10.95
34 台湾 10.81
35 シンガポール 10.69
36 コロンビア 10.67
37 カナダ 10.66
38 ノルウェー 10.64
39 韓国 10.44
40 フランス 9.98
41 ハンガリー 9.97
42 ベルギー 9.83
43 イタリア 7.53
44 日本 7.44
45 オーストリア 7.31


 表3に2010年~2018年の平均ROEを示す。
 平均ROEの上位五カ国はパキスタンインドネシア、ペルー、トルコ、インドとなった。日本は下から二番目と世界有数の低ROE国である。
 純利益は順調に成長しているのにROEは低いということは、日本企業は利益に寄与していない資産を多く保有しているということである。きちんと再投資できていない資産に課税するなりして、再投資を促すべきではあるまいか。

 地域別では新興国(13.27%)が先進国(11.76%)を上回った。ただし、国別の結果から独自に計算した結果では、先進国(13.43%)が新興国(12.68%)を上回った。

3)どこに投資すべきか
 両指標はおおざっぱに言えば株式のリターンと一致する。

  国・地域 純利益成長率 ROE 平均
  全世界 10.85 12.01 11.43
  先進国 11.76 11.76 11.76
  エマージング 5.95 13.27 9.61
  ヨーロッパ 7.83 11.17 9.50
  アジア・パシフィック 23.92 8.37 16.14
  BRICs 4.84 13.49 9.17
1 アイルランド 29.29 11.07 20.18
2 フィリピン 22.04 13.91 17.98
3 台湾 20.02 10.81 15.42
4 タイ 14.97 14.88 14.92
5 デンマーク 15.39 13.85 14.62
6 オーストリア 21.22 7.31 14.27
7 オランダ 16.54 11.13 13.84
8 パキスタン 1.85 25.46 13.66
9 中国 13.10 14.00 13.55
10 韓国 16.63 10.44 13.53
11 米国 11.96 14.25 13.10
12 インドネシア 4.01 21.06 12.53
13 ニュージーランド 13.78 11.00 12.39
14 トルコ 8.86 15.58 12.22
15 ポーランド 13.06 11.15 12.11
16 ドイツ 11.61 12.37 11.99
17 スウェーデン 9.34 14.37 11.86
18 ノルウェー 11.99 10.64 11.32
19 日本 14.06 7.44 10.75
20 香港 9.60 11.40 10.50
21 英国 8.53 11.68 10.10
22 ベルギー 10.34 9.83 10.08
23 インド 4.51 15.28 9.90
24 カナダ 8.54 10.66 9.60
25 オーストラリア 8.04 11.04 9.54
26 スイス 4.02 14.23 9.13
27 マレーシア 5.58 12.17 8.88
28 フィンランド 5.49 12.15 8.82
29 ペルー -0.83 17.44 8.30
30 フランス 6.08 9.98 8.03
31 チリ 4.04 11.87 7.95
32 ロシア 1.84 12.87 7.35
33 コロンビア 3.65 10.67 7.16
34 シンガポール 3.41 10.69 7.05
35 ハンガリー 3.93 9.97 6.95
36 メキシコ 0.36 13.51 6.94
37 イスラエル 0.58 12.34 6.46
38 南アフリカ -2.07 14.77 6.35
39 スペイン -1.52 12.04 5.26
40 イタリア 1.28 7.53 4.40
41 チェコ -6.93 14.43 3.75
42 ポルトガル -7.89 13.93 3.02
43 ブラジル -6.44 10.95 2.25
44 ギリシャ -11.79 14.38 1.30
45 エジプト -12.00 13.10 0.55


表4は両者の平均を取ったものだ。
 両指標から判断した投資有望国上位五カ国はアイルランド、フィリピン、台湾、タイ、デンマーク となった。
 中国が11位、米国が13位、日本は21位となった。

 5月16日の記事で述べた通り、日本から安価な手数料で投資できる地域は日本、アメリカ、先進国、新興国の四地域である。
 過去8年間の純利益年平均成長率と平均ROEはそれぞれ下記のようになる。

純利益の年平均成長率
米国 12.0
日本 14.1
先進国 11.8 or 10.76
新興国 6.0 or 9.86

平均ROE
米国 14.2
日本 7.4
先進国 11.76 or 13.43
新興国 13.27 or 12.68

両者の平均
米国 13.1
日本 10.75
先進国 11.94
新興国 10.45

 つまり純利益とROEの観点からは 米国>>先進国>日本>新興国 であると言える。

 中国などの高い成長率のわりに新興国のリターンが冴えないのは、ブラジルなどの国が足を引っ張っているせいだということが分かった。

 これは過去のデータなので将来もこうなるというわけではない。
 だが、GDP成長率の差ほど、新興国投資が優位なわけではないようだ。