東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

バイ&ホールド最強説は本当か

 投資本にはしばしば「株や投資信託を頻繁に売買すると損をするからバイ&ホールドが最強だ。」と書いてある。売買する毎に手数料がかかるので、できるだけ売買しない方が良い。特に売却すると税金がかかるので、値上がりして下落しそうでも売らずに我慢すべきだと言うのだ。

 この内、手数料の部分は、株に関しては正しいが、投資信託に関しては間違っている。
 バイ&ホールド最強説を採る投資本は基本的にコストの安いノーロード型投資信託を買うよう薦めている。ノーロード型投資信託は売買手数料が無料なので、頻繁に売買しようがずっとホールドしていようがコストは変わらない。むしろ売った方が売って現金化している間の信託報酬がかからないので、コストが安いぐらいだ。
 ETFの場合は売買手数料がかかる場合もある。だが、多くの証券会社では1日10万円以下なら売買手数料無料だし、カブドットコム証券なら特定のETFは取引量にかかわらず売買手数料無料になる。証券会社に払う手数料がかさむから、出来る限り売るなという意見は間違っている。

 では、税金に関してはどうだろうか。株を売却すると利益の20.315%課税が課税される。売却すると20%も損すると書いてある本もあるが本当だろうか。

 具体的な例で途中で株を売って利食いした方が良いか、売らずにホールドし続けた方が良いか検証してみよう。
 計算が煩雑になるため、税率は20%とした。

ケース1 1000円→1100円→1080円→1200円という値動きの場合
1)ホールドして1200円で売る
2)1100円で売って1080円で買い直し、1200円で売る

1)最終利益は200*0.8=160円
2)最初の売却益は100*0.8=80円
1080円で購入1200円で売却するから二回目の税金は120*0.2=24円
最終利益は200-24=176円 
途中で売って買い直した方が16円利益が多い。

ケース2 1000円→1100円→1090円→1200円の場合
1)ホールドして1200円で売る
2)1100円で売って1090円で買い直し、1200円で売る

1)最終利益は同じく160円
2)最初の売却益は80円
1080円で1090円の株を買うと0.99株しか買えないので、1080円で買って1189円で売ることになり、二回目の税金は22円
最終利益は189-22=167円。
10円下げた場合も途中で売って買い直した方が7円利益が多い。

 何円で利益が等しくなるかは、下記の式を解けば良い。
1080/X*1200-1000-(1080/X*1200-1080)*0.2=160

 課税額を厳密化すると
1079.685/X*1200-1000-(1079.685/X*1200-1079.685)*0.20315=160
となる。

 数学の知識が錆び付いていて解けないので、Excelで左辺を計算すると、下表のようになる。

1090 166.5090084
1091 165.6408407
1092 164.774263
1093 163.909271
1094 163.0458603
1095 162.1840267
1096 161.3237657
1097 160.4650731
1098 159.6079446
1099 158.752376
1100 157.8983629

つまり、X=1097以下なら2)が得、すなわち3円の下げを回避するだけでも売る意味があるということになる。
 予想よりはるかに僅かな下げでも利食い→再投資した方が良いことが分かる。

 売却して20%の税金を取られたくないのであれば、株券を保有し続け、現在の値段を眺めてニヤニヤしたまま死ぬより他なく、いずれかの時点で売らないと役に立たない。途中で売ろうが最後に売ろうが値上がり分の税金をいつ払うかの違いであり、良く言われる税金の繰り延べ効果はさほど大きくないのだ。
 バイ&ホールド最強説を採る本の中には雹が降ろうが槍が降ろうが絶対に売っては駄目だみたいなトーンのものもある。確かに初心者はちょっとの上げ下げで恐れを抱いて売ってしまいがちなので、売りを我慢せよと説くことには意味がある。しかし絶対売るなと言うのは言いすぎだ。

 株を売却すると損だというのは、アメリカのように基本的に右肩上がりの相場の場合である。右肩上がり相場では、天井かな、と思って売ってもすぐに上がってしまい、利益を逃すことになりかねない。
 一方、現在の日本株のようにボックス相場化している場合は、単にバイ&ホールドしていてもほとんど儲からない。下がった時に買い、上がった時に売る技術が求められるのだ。

チェーン店の期間限定メニュー八番勝負

 「チコちゃんに叱られる!」を観ていたら、大人になると日々感動することが少ないので、時間が早く過ぎると言っていた。
 私は普段、夕飯はチェーン店の安い看板メニューで済ませることが多い。マクドナルドならハンバーガー、吉野家なら牛丼だ。看板メニューは薄利多売のためコスパが良いからだ。
 だが、看板メニューは何度も食べているので食べても印象に残らない。数日前に何を食べたのかも思い出せないような生活をしていては、あっという間に老いて死んでしまう。これではいかん、と一念発起した私は、チェーン店の看板メニューではなく、期間限定メニューを食べてみることにした。

 最終的に私が良く行くチェーン店八店の期間限定メニューを食べ歩いたのでレビューする。メニュー毎に、看板メニューと値段や味を総合的に評価してどちらが勝ちか判定した。

サイゼリヤ
『ズッキーニとトマトのトロフィエ』(399円)vsミラノ風ドリア(299円)

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 トロフィエというのはストローを指くらいの長さに斜めに切って捻ったような形状のショートパスタだ。
 具はたっぷりのズッキーニ、トマト、ベーコンで粉チーズがかかっている。野菜とベーコン、チーズの味が染み込んだスープが美味で、同価格帯のレギュラーメニューのパスタを上回る美味しさである。
 野菜が全く入っていないミラノ風ドリアより上等な食事という感じがする。
期間限定メニューの勝利!

 

松屋
『ごろごろチキンのトマトカレー』(590円)vsプレミアム牛めし(380円)

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 ゴロチキはカレー専門店並みの美味しさで話題になった松屋の看板期間限定メニューだが、今回はそれをアレンジしてトマトカレーに仕立ててきた。ニンニクが効いたソースの辛さがトマトで中和されて前より食べやすくなっている。鉄板で焼いた香ばしい鶏肉の塊が文字通りごろごろ入っていて、満足感が高い。
 牛めしよりはだいぶ高いが、高いだけのことはある。
期間限定メニューの勝利!

 

モスバーガー
『ナンタコス』(430円)vsモスバーガー(370円)

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 タコスの上にカレーのような風味のひき肉を乗せ、その上にキャベツ、トマト、トルティーヤをどっさり載せたもの。もっちりとしたタコス、しっとりしたトマト、シャキシャキしたキャベツ、パリパリしたトルティーヤが一度に口の中に広がって「食感の宝石箱やー」という感じである。
 だが、モスバーガーに比べると肉が少ないので物足りない。
看板メニューの勝利!

 

丸亀製麺
『牛山盛りうどん』(640円)vsぶっかけうどん(290円)

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 注文を受けてから小さなフライパンで炒め始める牛丼の具が別皿で提供される。牛肉は甘辛くて美味しく、見た目以上に食べごたえがあるが、うどんで640円は割高な感じを拭えない。
 ぶっかけうどんに温たま、とろろ、かしわ天を載せてもお釣りが来るし、牛肉はうどんよりご飯の方が合うと思う。天丼用ご飯+肉+無料のネギでねぎ玉牛丼にするのはありかも知れない。
看板メニューの勝利!

 

マクドナルド
『宮崎名物チキン南蛮バーガー』(390円)vsハンバーガー(100円)

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 キャベツ、鶏の唐揚げ、炒り玉子を挟んだハンバーガー。柔らかく甘辛い鶏の唐揚げがどっさり挟んであって食べごたえ十分である。
 ハンバーガーは驚異的に安いことが売りだが、これは値段の割には美味しいバーガーで比べにくい。ビッグマックと比較すれば良いのだが、もう何年もビックマックを食べていないのだ。
引き分け

 

吉野家
『麦とろ牛皿御膳』(590円) vs牛丼(380円)

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 麦飯、牛皿、とろろ、オクラ、味噌汁という五皿からなる定食。甘くて美味しいとろろを使っており、夏バテして食欲がない時でもするする食べられそう。麦飯の量は控えめでおかずがたっぷり。栄養バランスも取れており、小料理屋で出てくるようなグレードの高い食事だ。
 牛丼よりだいぶ高いが、定食屋なら1000円くらいしそうなのでお得感がある。
期間限定メニューの勝利!

 

なか卯
『4種チーズの親子丼』(590円)vs親子丼(490円)

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 親子丼の具がチーズで一固まりになってピザの具みたいになっている。親子丼ととろけるチーズの旨味がミックスされた濃厚な味はもちろん美味いのだが、ジャンク度も増してしまっている。
 親子丼そのものが完成された美味しさなので、それを凌駕しているかというと微妙。100点の親子丼に30点のチーズを加えて100点になっている感じ。
看板メニューの勝利!

 

日高屋
『ごま味噌冷し』(550円) vs中華そば(390円)

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 ごまだれにつけて食べる冷やし中華。酸味があってさっぱりしており、暑い時期にはぴったりである。
 ただ、多くの冷やし中華同様、一夏に一回食べれば良いかなという感じ。これを食べるなら、同じ値段で餃子3個をつけてもお釣りがくる中華そばの方が満足度が高い。
看板メニューの勝利!

 

トータル
期間限定メニュー3勝
看板メニュー4勝
引き分け1
看板メニューの勝利!

 

 期間限定メニューは事前の予想どおり割高なものが多かった。しかし中にはかなり美味しいものもあったので、先入観に囚われず試してみるのも重要だと感じた。
 なお、私が原稿を書くのが遅いので、レビューしたメニューの多くが既に販売を終了している。食べに行く際は、事前にホームページ等でまだ販売しているか確認して頂きたい。

ひふみ投信が下落したのはトランプのせい

 ひふみ投信レオス・キャピタルワークスが運用するアクティブファンドで、長期に渡ってTOPIXを上回るリターンを出していることや、アクティブファンドの割には信託報酬が安いことから個人投資家に人気がある。
 楽天証券の7月の買付金額ランキングではひふみ投信の銀行・証券会社向け商品であるひふみプラスが1位になっている。
 そんなひふみ投信のリターンが悪化している。

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 図1に日経平均TOPIX、JPX日経中小型株指数、ひふみプラスを1月4日の終値を100として比較した年初来リターンを示す。
 ひふみプラスは7月末までは諸指数を上回る年初来リターンを叩き出していたが、8月に入って値を下げ、日経平均を下回った。

 ひふみ投信のリターンが高いのには、ファンドマネージャーの能力以外に二つ理由がある。米国株を含むことと、小型株を多く含んでいることだ。

 ひふみ投信は2割程度、AmazonやVisa、マイクロソフト等の急成長している米国株を含んでおり、その分日本株のみの投資信託よりリターンが高くなっている。これは資産配分は自分で決めるから日本株ファンドは日本株だけで運用して欲しいと考える投資家には不評だが、高いリターンの米国株だけをピンポイントで保有できるという点では悪くないとも言える。

 小型株が良いのは小型株効果が働くからだ。
 小型株効果効果とは時価総額が大きな大型株より、小さな小型株の方が長期のリターンが高くなることで、研究により実証されている。これは小型株の方が倒産等のリスクが高いので、その分リターンが高くなっているからだと言われている。
 しかし、小型株は常に大型株よりリターンが高いわけではない。下げ相場の時は大型株より下げるが、上げ相場の時に大きく上げるから、トータルとして上回るのだ。

 投資家達がイケイケの状態になっているリスクオンの時は、ハイリスク商品である小型株やさらにリスクが高い新興国株に資金が流入し、急速にリターンが改善する。一方、リスクオフの時は大型株や米国株のような手堅い株に資金が集中し、小型株や新興国株はだだ下がりになる。

 前掲の図1を見ると、2月末から5月にかけての上げ相場の時には、中・小型株のみで構成されるJPX日経中小型株指数が好調だったが、それ以降の下げ相場では大型株中心に構成される日経平均構成銘柄に資金が集まっていることが分かる。(TOPIXは大型株と小型株を両方含むので中間的な値動きになっている。)

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 図2にS&P500(米国)、TOPIX(日本)、MSCIコクサイ(先進国)、MSCIエマージング(新興国)の円ベースETFの値動きを示す。新興国株が下がり、米国に資金が集中していることが分かる。

 つまり、現在は国内市場も海外市場もリスクオフになっていることが分かる。

 投資家達がリスクオフになっている原因は二つある。一つは米国の中央銀行にあたるFRBが利上げをしていること。安全資産である米国債が高金利で買えるなら、わざわざリスクを取る必要はないと考えた投資家達が、リスク資産から資金を引き上げている。
 もう一つはトランプ大統領が仕掛けている貿易戦争だ。関税引き上げ合戦により景気が悪化するリスクが高まっているので、投資家がリスクを取りたがらないのだ。
 つまり、ひふみ投信のような小型株ファンドのリターンが悪化したのはFRBトランプ大統領のせいである。

 それでは、投資家のリスクオフはいつまで続くのだろうか。
 この原稿は日曜に書き始めたのだが、書いているうちにリスクオフ状態は弱まり、リスクオンに変わりつつある。
 グラフ末尾の8月24日にかけて上がり始めた各種指数は水曜時点でも上昇を続けている。
 原因としては、パウエルFRB議長の発言が利上げに慎重だと受け止められたことや、アメリカとメキシコが通商協定に合意したことが挙げられる。

 だが、このままリスクオン状態が継続するかは疑わしい。世界経済最大のリスクである米中貿易戦争は一向に解決していないし、トルコの通貨危機も危機のままだからだ。

 国内小型株のリスクは大したことないので、一時的にに下落したからと言って、すぐさまひふみ投信を売り払う必要はない。
 だが、よりリスクが高い新興国株を買うのは慎重になった方が良いだろう。

www.rheos.jp

大井町のラーメン屋はこだわりが強い

 研修で二日間大井町に通った。大井町駅は品川の隣駅で複数本の電車が乗り入れている大きな駅だが、生活圏から離れているためこれまで降りたことはなかった。

 私はラーメンの食べ歩きが趣味だが、健康を考え、ラーメン屋に行くのは週に一回にしている。だが、大井町にはもう二度と訪れることはないだろうからと、二日間に三軒のラーメン屋をはしごした。

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 初日の夜は『アジトイズム』に行った。夫婦で運営している店で、天井の配管がむき出しになっているなど、内装も凝っている。

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 注文した『濃厚ピザそば』(850円)はピザの具を麺と混ぜあわせて食べるという斬新な混ぜそば。具はサラミ、ピーマン、玉ねぎ、トマト、アンチョビパウダー、クレソンなどがどっさりかかった本格的なもので、もっちりとした麺がチーズと混ざり合って美味しいが、この具なら麺よりピザの方が合うのではないかという気がしないでもない。

 

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 二日目の夜は『中華そば大井町和渦』に行った。店主一人にカウンター数席しかないこじんまりとした店で、寿司屋のような雰囲気だ。

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 『三位一体』(850円)とわずか10円のディナー丼を注文。店主が無添加にこだわったスープは「完成品」なので胡椒などの薬味をテーブルに置いていないのだと言う。
 味の印象はポタージュラーメンといった感じ。ロールキャベツ、トマト、二種類のチャーシュー、煮玉子が配され、チーズがかかっている。麺はそうめんのような柔らかい細麺。野菜そのものの旨味が感じられる上品なラーメンだ。

 新しいラーメン屋のこだわりが強いのは良くあるが、老舗はどうなのか。

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 二日目の昼に行った『永楽 そば店』は飲食店が立ち並ぶ路地にある、いかにも昔からある町中華といった店で、大勢の客で混雑していた。

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 650円のラーメンを注文。中央にどっさりともやしが配され、横にチャーシューと煮卵が乗っている。ここまでは普通だが、特徴的なのはスープ。茶色いスープの中に細かい黒いものが多数浮いており、熊本ラーメンのような見た目なのだ。この黒いものは焦がしネギらしい。
 ほのかに苦く油たっぷりなスープは最初はそれほど美味しいと感じなかったのだが、何口も飲むうちに引き込まれた。毎日でも食べられるような癖になる味だ。

 普通の町では、オーソドックスなラーメン屋が数軒あり、独自色を発揮したこだわりの店が一軒あるかないかというのが普通だが、大井町では行った店全てこだわりの店だった。しかも、行き帰りに前を通ったラーメン屋も、一癖も二癖もありそうなラーメン屋ばかりだったのだ。

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 大井町には2016年までニコン大井製作所があり、今でも「光学通り」という名が残っている。こだわりの技術者達がこだわりのラーメン屋を育んだのかも知れない。あるいは、品川区民は高所得者が多いから、住民の舌が肥えているのかも知れない。大井競馬場行きのバスが出ていることもラーメン屋が多いことと関係しているのかも知れない。

 よそ者の私が驚く程のラーメン激戦区になっている大井町だが、ラーメンと言えば大井町などという話は聞いたことないし、地元の人も異常にこだわった店が集まっているのを、とりたててすごいことだと思っている風もない。
 世界はささやかな謎に満ちている。

 

米国株の暴落をPERで予測する

 米国の代表的株価指数、S&P500が一月末につけた最高値に迫っている。

stocks.finance.yahoo.co.jp


 株価が上がるのは結構だが、上がり過ぎると暴落の危険も高まる。

 株がいつ暴落するかは予想できないというのが定説だ。だが、日本のバブル崩壊や米国のITバブル崩壊のように、株価の大暴落前には、株価が高騰し、割高になっていることが多い。
 そこで過去のS&P500暴落前の月次PERを調べてみた。

www.multpl.com


1)ITバブル崩壊世界金融危機

 市場では、概ね20%を超えるような大きな下落のことを暴落、小さな下落を調整と呼ぶことが多い。

 2000年以降に米国で起きた株価の暴落は2000年に起きたITバブル崩壊と、2008年に起きた世界金融危機の二回だ。

 ITバブル崩壊では2000年8/1に実績PER27.97をつけた後に3ヶ月で13.85%下落。多少持ち直した後続落し、7ヶ月で25.63%暴落している。
 世界金融危機では2008年8/1に実績PER26.83をつけた後に3ヶ月で33.51%、6ヶ月で52.28%も暴落している。

 このことから、実績PER=27近くになったら暴落の危険性が差し迫っていると言えるだろう。

 

2)その他の調整

 世界金融危機以降も5~20%の調整は何度も発生している。

 2010.4/1から2ヶ月で13.59%下落。直前PER=19.01
 2011.4/1から5ヶ月で18.18%下落。直前PER=16.21
 2012.3/1から2ヶ月で7.01%下落。直前PER=15.69
 2015.7/1から2ヶ月で8.90%下落。直前PER=22.4
 2015.11/1から3ヶ月で7.24%下落。直前PER=23.67
 2018.1/1から2ヶ月で6.58%下落。直前PER=24.97

 7%程度の調整は、PER=15.69というとりたてて高くないPERからも発生するということが分かる。
 S&P500のPERは2014年12月に20を超えてから、20以上を維持している。つまり、1月に起きた程度の調整を嫌がっていたら、米国株は全く買うことができない。米国株を買うなら、20%以下の調整リスクは引き受けるしかない。

 

3)2018年1月の調整

 2017年以降は、S&P500の実績、予想PERの週次データが存在している。

PER(NYダウ・ナスダック100・S&P500)の推移|株式マーケットデータ


 調整前のPERと現在のPERを比較すると次のようになる。

 日付   実績PER 予想PER 
 2018.1/26  23.34  18.67 
 2018.8/10  24.05  17.61

 実績PERでは1月末の暴落前につけた最大値を既に上回っている。予想PERはまだ下回っているが、いつ大きな調整が入ってもおかしくない状態ではある。

 

4)個人的対処法

 個人的には次のような方針で臨もうと考えている。

 S&P500の予想PERが18を超えたら少しずつ売ってキャッシュポジションを上げる。
 S&P500の実績PERが26を超えたら半分程売却して暴落に備える。

 なお、日本株や欧州株、新興国株は米国株よりは割安な水準で推移しているが、米国株がPER=27近くまで上がったら、ある程度売却してキャッシュポジションを増やしておいた方が良いだろう。米国株が暴落したら、割安だろうが何だろうが、世界中の株がつられて暴落するからだ。

トリックスターヒロイン――半分、青い。感想

(本稿は「半分、青い。」のネタバレを含みます。)

 「半分、青い。」(北川悦吏子脚本、NHK)について朝日新聞で「逃げるは恥だが役に立つ」の漫画家、海野つなみ氏が語っていた。海野氏は「半分、青い。」について、先が読めない面白さがある、観ていて心が動く、雰囲気づくりがうまくて言葉の力がある、と賞賛した上で、穴もあると指摘していて、具体例として次のように語っている。

 「例えば、鈴愛ちゃんが師匠の秋風羽織先生(豊川悦司)に「いい年して独り者で家族もない」などと怒鳴ったシーン。鈴愛ちゃんは謝らないし、周りも止めない。私が漫画で描くなら、心の声なりで「自分でもひどいことを言ったのは分かっていたけども、言わずにはいられなかった」みたいな描写を入れます。そうすれば受け手は共感できる。はたから見て共感しにくい場面を描く時にすごく大事なことだと思います。」

 海野氏の指摘は一般的な主人公の描写法として大変参考になる。だが、「半分、青い。」に関して言うと、必ずしも穴ではないと思う。鈴愛は普通のヒロインではなく、トリックスターヒロインだからだ。

 菱本が秋風先生に原稿を捨てるぞと脅したりできるのは鈴愛ちゃんだけだと語るシーンがあったが、これはまさに鈴愛がトリックスターであることを示している。トリックスターは既存の秩序を乗りこえて物語をかき乱す力を持つが、通常、脇役として登場する。
 主人公には1)受け手の共感を得る、2)ストーリーの軸を作る、という役割があるが、トリックスターはどちらの役割も果たしにくいからだ。

 多くの作品で、主人公は読者が自らを仮託して作品世界を体感するアバターとしての役割を持つ。主人公が視聴者の感覚とかけ離れた言動を取ると、視聴者は主人公に共感できず、作品に入り込めなくなってしまう。それを避けるため、主人公は多くの人が共感できるよう、常識的な善人であることが多い。
 一方、トリックスターは普通の人ができないことをやって隠れた真実を明らかにするのが役割だから、普通の人である視聴者の共感を得られない言動が多くなる。
 鈴愛は涼次に「死んでくれ」と言い放って物議を醸すなど、朝ドラヒロイン史上随一の暴言王だし、過去を都合よく説明してナレーターに呆れられるなど身勝手な振る舞いも多い。鈴愛の造形からは視聴者からの共感を犠牲にしても、「創作者の業」といった人間の本質をえぐることを優先するぞという北川氏の覚悟が感じられる。

 トリックスターをヒロインにしたために、ストーリーの軸も消滅している。一応、「律との恋愛」という軸は残っているものの、一度自らの手でへし折っているので、物語全体を貫いている軸はもう存在しない。
 通常の主人公には大目標があり、主人公がその目標に向かって進んでいくことで物語に軸ができる。
 私は途中まで「半分、青い。」を「鈴愛が漫画家として大成する話」だと思っていた。涼次は鈴愛が再び漫画家として立ち上がる力を得るまでの間、隣に寄り添う役割を果たす「移行対象」だろうと思って見ていたのだが、むしろ鈴愛の方が移行対象だったので驚いた。
 気ままな行動を取るトリックスターがヒロインであるため、ストーリーの軸が次々切り替わり、全く先が読めない。こんなに先が見通せないドラマは観たことがない。

 ぞくぞくするような狂気を表出させつつ、愛らしさで視聴者の共感も繋ぎとめている永野芽郁氏の好演ともども、先が非常に楽しみだ。

www.nhk.or.jp

バフェットは市場の効率性を利用して勝っている

 効率的市場仮説によると、公表されている情報は全て株価に織り込まれている。従って、公表されている情報をいくら分析しても、継続的に市場平均以上のリターンを得ることはできない。
 市場は集合知の正しさを利用したシステムだ。牛の体重を予想するのに、大勢の観客の予想を平均した値は、牛の専門家が予想した値よりも正確だったと言う。市場はあらゆる情報を素早く正確に織り込んで動くため、投資家が市場全体を出し抜いてより多くのリターンを得るのは難しい。

 だが、効率的市場論者が見落としていることがある。市場に参加しているプレイヤーの多くは数分からせいぜい数ヶ月程度で売買を行う短期投資家=投機家だ。彼らは短期的に利益を上げることを目的として行動している。巨額の資金を動かしているヘッジファンドのマネージャーは四半期毎に成果を出さねばならないため、短期的に値上がりが期待できる銘柄にしか投資しない。従って、市場では短期投資家にとって効率的な価格付けがなされる。
 短期的な値動きと長期的な値動きが異なる場合、長期投資家にとっては歪みが生じる。長期投資家はその歪みを利用して儲けることができるのだ。

 例えば、何らかの理由で今後一年間は株価が低迷し、その後は順調に上昇することが見込まれる株があったとする。今後一年間のリターンは0だと予想できるので、短期投資家はその株に投資しない。結果としてその株は、長期投資家から見れば割安な水準で放置されることになる。

 ウォーレン・バフェットの戦略は全て短期的な値動きと長期的な値動きの差異を利用したものだ。
 バフェットが投資をするのは、安定した収益が見込まれる優良企業が、1)相場全体の調整や暴落や2)一時的な損失によって値を下げた時だ。
 どちらも短期的に株価が低迷し、その後上昇することが見込まれるパターンであることが分かる。

 相場全体の調整時に短期投資家が投げ売りをするのは、短期的な利益という点では合理的な行動だ。株を保有しているとさらに下がるリスクが高まっているからだ。
 企業が一時的に損失を出した場合も同じだ。企業が訴訟に負ける等の理由で一時的に大きな損失を出した時、当該年度の利益が減少するため、株価は下落する。短期投資家にとっては保有していても利益が得られないわけだから、売却する方が合理的だ。
 だが、どちらの場合も、長期投資家から見れば、その後株価が上昇することが見込まれるわけだから、割安な歪みが発生しているのだ。

 逆の場合もある。市場の期待を集める急成長株ではPERが100を超えることもある。PER=100とは投資金額を回収するのに100年かかるということだ。利益の急成長が続けばもっと短期間で回収可能だが、利益の急成長は永続しないので、長期的に見れば高すぎる不合理な価格付けがされている。だが、短期投資家から見れば、上手く売り抜けられれば大儲けできるわけだから、合理的な価格なのだ。
 急成長株はバフェットが投資するパターンとは逆に、短期的には上昇し長期的にはどこかで下落することが予想される。長期投資家から見るとアホみたいな価格でも、短期的には合理的なのだ。

 バフェットは長年安値で放置されているが、フェンダメンタル分析の結果優れているから投資するというスタイルはあまり採らない。それより、一時的に値を下げた銘柄に投資することが多い。これはバフェットが市場の効率性をある程度信用していることの現れではないだろうか。もし市場を全く信用していないなら、過去に高値をつけていたかどうかなど全く気にせずに投資するはずだからだ。

 効率的市場仮説に対してよく、バフェットは継続的に市場平均以上のリターンを得ているじゃないかという批判がなされる。それに対し、効率的市場論者は、大勢が投資を行えばリターンは正規分布になるのでたまたま勝つ人も現れるのだと反論しているのだが間違っている。

 実際の市場は短期的にのみ効率的なので、短期と長期の値動きが異なる銘柄に関して歪みが生じることがある。
 バフェットは市場が短期的には効率的であることを利用して儲けているのだ。

 

バフェットからの手紙 第4版

バフェットからの手紙 第4版