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歌番組としての矜持――第67回NHK紅白歌合戦感想

(本稿は第67回NHK紅白歌合戦のネタばれを含みます。文中の敬称は略させて頂きました。)

 生放送の魅力は何が起こるか分からないことだ。紅白歌合戦は生放送の歌番組だが、歌番組は最も生放送に向いていない。何故なら、歌は古典芸能と並んで最も何が起こるか分かるコンテンツだからだ。即興性を重んじるラッパーのような例外を除き、歌手は決まった歌詞を決まったメロディーで歌う。歌詞をど忘れしたりといったアクシデントが起こることもあるが、それは歌のクオリティが下がっているわけで、「時折歌のクオリティが下がることがあるのが生放送歌番組の魅力だ」というのでは歌番組としてのプライドを放棄しているに等しい。

 2016年年末に放送された第67回NHK紅白歌合戦は「何が起こるか分からない」ことによって視聴者を惹きつけるため、歌以外の要素を総動員していた。タモリ&マツコは果たして審査員席に辿り着けるのか、渋谷に向かって進撃するゴジラを止められるのかという二つのストーリーを細切れに入れ込むことで、視聴者の興味をつなぎ止めていた。AKB48のセンターをその場で発表したのも、白組の司会を普段からニュースキャスターを務めている櫻井翔ではなく相葉雅紀にしたのも、何が起こるか分からなくするためだ。特にゴジラを止めるため、ピコ太郎が壮大なコーラスをバックに歌ったのは全くの想定外で腹を抱えて笑ってしまった。
 だが逆に言えば、こういう演出を入れたことは歌の力だけでは視聴者を繋ぎ留めておけないということをNHKが認めたということでもある。番組内ではX JAPANの歌がゴジラを倒したが、ゴジラの力を借りねばならなかった時点で歌は負けているのだ。

 その点、視聴者や会場審査で白組が圧倒し四票のアドバンテージを得たにも関わらず、紅組が勝利したことは、図らずも紅白歌合戦の歌番組としての矜持を守ることになった。大トリを務めた嵐を始めジャニーズのアイドル中心の編成である白組に対し、紅組はトリの石川さゆりなど歌手中心の編成だった。エンターテイメント性はともかく、歌そのものの力で言えば、大竹しのぶの愛の讃歌を筆頭に紅組の方が明らかに上回っていたからだ。

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