(半藤一利著、平凡社)は日本がいかにして道を誤ったかを書いた本だ。半藤氏の語りおろしになっていて面白く読んだが、内容的には胃が痛い。
一番意外だったのは昭和天皇がわりと頑張って戦争を止めようとされていることだ。政治への感心が薄い魚類学者という印象だったのだが、張作霖爆殺事件の責任を追求したり、二・二六事件の叛乱部隊を断固許さなかったり、阿部首相に英米と強調しろと命じて人事に介入したりポツダム宣言受諾の決断をしたりと色々やられている。
また、日独伊三国同盟に反対した米内光政、山本五十六、井上成美の海軍トリオや終戦に持ち込んだ鈴木貫太郎首相の働きは素晴らしい。逆に言うとその他の二・二六事件以降の責任者は本当にろくなことをしていない。
むすびの章で半藤氏が五つの教訓を上げているが、中でも最も印象深かったのが、「最大の危機において日本人は抽象的な観念論を非常に好み、具体的な理性的な方法論をまったく検討しようとしない。」という指摘だ。
ターニングポイントとなった海軍の首脳会議では及川海軍大臣が
「もし海軍があくまで三国同盟に反対すれば、近衛内閣は総辞職のほかはなく、海軍としては、内閣崩壊の責任はとれないから、この際は同盟条約にご賛成願いたい」
と言い、伏見宮軍令部総長が
「ここまできたら仕方がないね」
と言って三国同盟賛成が決まってしまった。山本五十六連合艦隊司令長官が、「条約を結べば英米勢力圏の資材を必然的に失うことになります。増産にストップがかかります。その不足を補うためにどういう計画変更をやられたか、この点を聞かせていただきたい」と尋ねたが無視されたのだという。
インサイダーでなあなあの内に決めてしまい、後から真っ当な批判を受けても聞く耳を持たないというのは今日まで続く悪習である。例えば消費税の軽減税率は、低所得者対策として効率が悪いということがはっきりしているのに、良くわからない密談で導入が決まってしまうと、国会でどれほど批判にさらされようがもうてこでも動かないのである。
結局のところ、個々人が「抽象的な観念論」ではなく、「具体的な理性的な方法論」にもとづいて行動するよう努めるしかない。過半数が山本五十六のように行動するようになれば、日本社会も変わるのではないだろうか。