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本心開示量が不適切な連中――かぐや様は告らせたい感想

 『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦』(赤坂アカ原作、畠山守監督)は相思相愛の白銀御行生徒会長と四宮かぐや副会長が、自分から告白すると立場が下になるからと相手から告白させようと画策しあうアニメだ。
 第一話を見て、下らないプライドのために幸せを遠ざけるなんてバカすぎると思って以降は観ていなかったのだが、放送終了後に続きを観てみたら引き込まれた。

 自分から告白するより、相手から告白して欲しいということ自体は一般的な感情だ。だが、その理由は、告白して拒絶されるのが怖いからだ。本作の白銀とかぐやの場合、相手が自分のことを好きなことは互いに気づいている。告白の失敗が怖いから告白しないでいるわけではない。
 告白しないでいる理由を本作は、相手に負けたくないというプライドによって説明している。当初は私も、下らないプライドのために幸せを棒に振るなんて愚かなことだと感じていた。だが、根本にあるのはプライドではなく臆病な心だ。
 告白するということは自分の心を相手にさらけ出す行為。拒絶されるかも知れないから怖いのではなく、自分の心をさらけ出すことそのものが怖いのだ。

 会長・副会長とは対照的に、二人がそれぞれ生徒会に引き込んだ藤原書記と石上会計は思ったことをそのまま口に出すキャラだ。心の内を見せない者同士では会長と副会長のようになかなか関係が深まらない。二人が率直な人を友人として必要としているというのは理解できる。
 面白いのは、書記と会計が仲が悪いことだ。本心を押し隠す者同士だと仲が進展しないが、思ったことを言う者同士もむき出しの言葉のぶつかり合いになってしまって必ずしも上手くいかない。

 秀知院学園生徒会は、本心開示量が不適切な連中の集まりだ。あまりに本心を隠しすぎると関係が深まらないが、さらけ出しすぎるとトラブルを起こしてしまう。
 コミュニケーション能力とは、適切な本心開示度を調整する能力と言えるのではないだろうか。