東雲製作所

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戦略としての小説家――ライトノベル・フェスティバル2017(ゲスト森田季節先生)感想

 まずは小説二作品の本編冒頭部分を読み比べて頂きたい。

「焼いたフルーツってずるい味がする」
 二切れ目の焼きパイナップルを口に入れる前につぶやく。率直な感想なんだけど、我ながらいまいち要領を得ない表現だ。
「ずるいって何だよ?」
 ほら、広峰には伝わらない、まあ、広峰にわかられる程度というのも悲しいし、これでいいかな。
 ほんのりとシナモンの香りが口に広がる。フルーツは焼かれるとそれまでになかった魅力を見せてくれる。まるで冴えないメガネの女の子が美容院に行って白鳥になって出てくるみたいに。
 ちなみに私はとても白鳥とは言えないけど、かといってみにくいアヒルの子でもない。ふわゆれウェーブの髪に、白のワンピースと黒のシンプルなレギンスで、まあメガネなおさげ髪系に転落することはないということだ。自分に付加価値をつける方法くらい知ってるつもり。もっとも広峰相手にオシャレしたところで何にもならないんだけど。
ベネズエラ・ビター・マイ・スィート)


 村に向かう途中、ぶよぶよしたゼリー状のものに道をふさがれた。

「ああ、スライムか」

 見た目のせいか、緊迫感はない。猫が前に出て来たという程度の感覚だ。

 とはいえ、モンスターではあるようで、こちらを攻撃してやるという意思が感じられる。

 ここでナイフを抜く。

 攻撃を仕掛ける。
 ぶゆっ!

 効いているのか……?

 再度、攻撃。
 ぶゆっっ!

 さっきより効いた気がする。 
スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました


 この二つの文章を読んで、同じ作者が書いていると見抜けるのはあらかじめ知っている人だけだろう。

 世に多彩な作風を誇る作家は数あれど、森田季節氏程、幅の広い作家はいないだろう。デビュー10周年で75冊と多作な上、松蟲寺の伝説のリライトのような変わった仕事もされている。その活躍は詩的で耽美な文芸作品から、王道ライトノベルやなろう小説まで及び、小説のほぼ全領域をカバーしていると言っても過言ではない。

 引用した小説もぱっと見からして文章の密度が全然違う。100m走とマラソンが別競技であるように、同じ小説という言葉でくくって良いのか迷う程だ。

 そんな森田季節氏が、ライトノベル・フェスティバル(LNF)のゲストとして登場されるということで、話を聞いてきた。今年のLNFは二部構成で前半が季節めぐりと題して勝木LNF委員長による森田氏のインタビュー、後半はビンゴ大会だった。

 インタビューでは三大転機として
1デビュー翌年ぐらいで文芸の仕事が来たこと「ともだち同盟」
2不戦無敵の影殺師を趣味で書き始めたこと
3なろうをはじめたこと
を挙げられていた。これは森田氏の作風がいかにして広がっていったかという証言になっていて、大変興味深かった。

1は出版社に関する話だ。当時のライトノベルでは、デビューから3年は他社からは本を出すなという雰囲気だったが、「ともだち同盟」は単行本の仕事だったのでMF文庫編集部が仕事を取り次いでくれ、色んなレーベルから本を出すきっかけになったということだ。

2は文章に関する話だ。2013年後半、仕事量が増え、同業者から文章が雑になっていると指摘された森田氏は、書き方を根本的に変えるため、手書きで『不戦無敵の影殺師』を書き始めたのだという。ハーレムラブコメのように読者にさくさく読んでほしい作品はパソコンで速く書いた方が良いが、じっくり読んで欲しい作品は手書きでゆっくり書いた方が良いという指摘に感銘を受けた。

3は媒体の話。2016年から「小説家になろう」で書き始め、しばらく苦戦していたが、「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」が一気に1位を取って大ブレイクしたとのこと。本文がろくにないのに1位になったのは明らかにタイトルの勝利だという分析をされていた。

 また、ヒット作があると、編集者から同系統の作品を書いてくれという依頼が来る。自分は長らく売れていなかったので色々試した結果他種類になったという分析をされていて得心した。

 後半のビンゴ大会では、3×3のマス目に参加者が自分で森田作品のリスト番号を選んで書き込み、森田氏が読み上げた番号と一致したら○をつけていくというもの。森田氏が思い入れが強そうな作品から順に対角線から埋めていった所、後半でビンゴして商品を頂くことができた。また、参加特典として森田氏の未発表作品の小冊子がもらえた他、休憩中にはサインを頂くことができた。どうも有難うございます。

 ビンゴで当たった参加者は一番好きな作品を発表するのだが、それが文芸系作品、ライトノベル作品、なろう作品ときれいに散らばっており、幅広い読者をつかんでおられることを実感した。
 私は「ともだち同盟」など森田氏の文芸系の作品に圧倒され、天才肌の作家なのだろうと思っていたが、非常に戦略的かつロジカルに自らをコントロールすることで多彩な作品を生み出されているということが分かって、勉強になった。

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