東雲製作所

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スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました感想

 『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(森田季節原作、木村延景監督)(以下スラMAX)は異世界に転生し不老不死になった主人公アズサが、300年間コツコツスライムを倒していたら最強になっていたという出落ちのような小説が原作のアニメだ。可愛い善人しか出てこないので、ノーストレスで見ることができる。転生ものというよりきらら系に近い。

 オープニングテーマ「ぐだふわエブリデー」のふにゃふにゃしたメロディーが作品内容を象徴している。蜘蛛子さんのデスメタルと真逆の曲調だ。悠木碧氏はどんな役でもできると言われているが、芝居だけでなく歌でも万能とはすごすぎる。

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 第10話で長年売れない吟遊詩人ククが登場し、葛藤を抱えながらもデス系からフォーク系へと作風を変えて成功を治める。スラMAX原作者の森田季節氏もなかなかヒット作がでなくて苦労した作家だ。

 森田氏は2008年に『ベネズエラ・ビター・マイスイート』でMF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。センスの塊のようなキレッキレの作風で、すごい新人が出てきたと興奮したのを憶えている。2010年の『ともだち同盟』は氏の文芸路線が頂点に達した完璧な作品で、ぜひ多くの人に読んで頂きたい。

 

 

 森田氏の作風は一部のコアな読者には刺さったものの、ライトノベルのメインターゲットからはずれていた。その後、氏は長い試行錯誤に入る。詳しくはライトノベル・フェスティバルの拙記事を参照して頂きたいのだが、ここまでドラスティックに文体を変えた作家を他に知らない。センスバリバリの凝った文章を書いていた作者が、すごいスピードで読み飛ばせるような文章に変えたことからも、森田氏の何としてもヒット作を出して専業作家としてやっていくのだという強い意思を感じる。

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 本作は出落ちギャグみたいな設定だが、作者が長年コツコツ書き続けてきた結果としてついに大ヒット作を出せたということを知ってから見ると、胸に迫るものがある。

 『不敗無敵の影殺師』でも森田氏は成功できていない職業を続けるべきかという葛藤をメインテーマに据えている。「なかなか報われなくてもやり続ける」というテーマが森田氏にとって最も切実であることが伝わってくる。
 良い設定には作者の想いがこもっている。作者の実感が入っていない借り物の想いでは、読者の心を打つことはできないのだ。

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