東雲製作所

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ノトの男は謳う、狼と残光は衰退しました 感想

USBメモリーを紛失したり(最近になって発見)、風邪を引いたりしていたせいで、やたら感想を溜め込んでしまった。

狼と香辛料VI 支倉凍砂 電撃文庫
二つのミステリーを軸に展開するのだが、一つはホロがどうして怒ったのかという超日常の謎であり、もう一つは答えを書かずに読者に考えさせるという実験的なもので、ライトノベルはヒロインがかわいければ何をやっても良いのだということを実感した。
二人の感情の機微がキャラクター小説的ではなく、異性と付き合ったことのある人でないと実感としては分からない領域に突入しているように思う。

私の男 桜庭一樹 文藝春秋
時系列を逆順にすることで閉じた印象を与えたり、視点を変えることで互いが知らない一面を炙り出したりと、完成度の高さでは著者随一だろう。
映像的表現が印象的で、特に4章の流氷のシーンは圧巻だった。

残光 小島信夫 新潮社
読んでいるうちに、その部分を述べているのが誰なのか――登場人物の一人なのか、登場人物としての小島信夫なのか、作者としての小島信夫なのかはたまた誰でもないのか、が分からなくなってくる。
平易な日本語で書かれており、部分部分の意味は分かるにも関わらず、全体としてみると全く訳が分からないという恐るべき混沌を呈しており、読み進むのが大変だったが、フィクションにおける発話者が誰であるかなど、たいした問題ではないのではないかと割り切ることで、最後まで読むことが出来た。

アストロノト赤松中学 MF文庫J
登場するキャラクター達の思いが皆真っ直ぐな、気持ちの良い小説。
主人公が何故突然月を目指すのかに関して、きっちりとした伏線が張られているので、これから読む人は推理してみるとより楽しめるだろう。

<本の姫>は謳う1 多崎礼 C☆NOVELSファンタジア
設定が複雑だったり、細かく章が変わったりするせいで、なかなか物語に入り込めなかったが、後半になると俄然引き込まれる展開になったのはさすがだ。
文字の代替品としての「スタンプ」はあるが文字は失われているという設定の意味を考えたのだが、文字の内、単純に情報を伝達する機能は存在しているが、他者を煽動するようなイデオロギー的な側面は失われている、ということだろうか。

人類は衰退しました田中ロミオ ガガガ文庫
イタロ・カルヴィーノが現れた! (と言いつつ私自身はカルヴィーノをほとんど読んだことがないが、こう書いておけば海外現代文学好きが興味を持つかなと思って)
二編ともSF的というか哲学的だが、特に『妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ』は自己とは何かという深遠なテーマを扱っており、この場合は短期間に密度を高めるためにズルをしているわけだけど、誰もが同じ方法で自己を規定しているのだとすると、自己なんて無いのかもということになるなあ。