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文学の獣は衰退し、キラトロっぷる階段に臨む 感想

あんまり感想を溜め込むと、タイトルが苦しくなってしまうので、もう少しこまめに感想を書くようにしようと思います。


文学問答 河野多恵子山田詠美 文藝春秋
谷崎が大阪弁を使うことで恥ずかしい自分を包み、自分がよく出せた、という指摘が勉強になった。
河野さんが(文学賞を取れないままだったけど、本当は取れれば良かったのにと思っている作家は)いないと発言されていて、村上春樹さん等々の芥川賞を取っていない作家のことを思い浮かべたのだが、最後まで読むと、賞を取ろうが取るまいが、残る人は残るから特に問題ないということらしく、確かにその通りではある。

SH@PPLE−しゃっぷる1− 竹岡葉月 富士見ファンタジア文庫
表紙や世評から「アストロ乙女塾」みたいな話かと思っていたら、あれとは全然別方向に変な小説。
1)隠喩を多用した描写 2)夢の中のような不思議なリアリティ 3)リリカルな感情を描いている 4)展開が唐突で先が読めない といった点で、中村九郎氏と作風が似ていると思うのだが、そういうことを言っている人はあまりいないようだ。

アストロノト!2 赤松中学 MF文庫J
こてこてラブコメの皮を被った本格SFなのだが、被っている皮の部分もおざなりではなく、まっすぐに描かれ、きっちりテーマと結びついている所が素晴らしい。
大長編ドラえもんが好きな人なら、ハートを鷲づかみにされること請け合いである。

学校の階段櫂末高彰 ファミ通文庫
おおっ、ストーリーとかは全然違うが、テーマは『四畳半神話大系』と同じではないですか!
平和さんの所で、学校の階段ベン・トーの設定が受け入れられるかという話題が出てて、私は全然気にならなかったのだが、何故かと省みるに、これらの小説では、階段レースや弁当争奪戦が客観的に見れば馬鹿なことであることが、しっかり描写されているからではないだろうか。(→ベン・トー感想

人類は衰退しました田中ロミオ ガガガ文庫
作中内でリアリティレベルが変化するというアイデアは私も昔考えたことがあったのだが、どうやって変化させるかを考えると設定が込み入ってしまい断念したのだが、本作の「妖精さんの数」で変化させるというアイデアはスマートで感心した。
『ティードラゴンと鉢植えの都市』の落丁は、通過儀礼として厳しい現実が必要であるということを示唆しているのだろうか。

セキララ!! 花谷敏嗣 ファミ通文庫
今やかわいくて性格も良くて頭も良いような殆ど欠点のないヒロインなどというものは物語の中にも存在せず、「物語の中の物語の中」にしか存在できないのだなあ。
結局のところ、作者はオタクも脱オタしてモテを目指しているような奴も、両方とも悪い所を描きつつも否定しておらず、誠実だ。

戦う司書と終末の獣 山形石雄 集英社スーパーダッシュ文庫
フィクションには通常これは起きないだろうという事柄が存在するものだが(ドラえもんのび太を見捨ててジャイアンにつくことはないみたいな)、このシリーズには起きないことが何もない!
夢も希望もないような状態だが、実は勝ったも同然な状態なのかも知れない。

"文学少女”と神に臨む作家 上 野村美月 ファミ通文庫
遠子先輩のひだまりのような温かさの裏側にこんなシビアな現実を抱え込んでいたと知ってしまうと、今までのあらゆる遠子先輩の行動の意味合いが変わってしまうなあ。
「作家とは、一人で狭き門をくぐるような職業」だというのはその通りだと思うが、それは創作の時の話で、門から出てきた後の現実でも一人で道なき道を歩くのは疲れるばかりでかえって良くないと思うのだが。