東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

シナリオ創作の要点を鬼滅の刃を例に説明する。

『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(浅田直亮著、言視舎)はシナリオ・センターの講師が書いたシナリオの書き方本だ。

 

半沢直樹』『マルモのおきて』『木更津キャッツアイ』など36本のドラマをお手本として挙げながら、どうすればシナリオが面白くなるのかを説いている。シナリオライター向けの本だが、小説や漫画などフィクションを創作するあらゆるクリエイターに役に立つ。

特にPART1は物語作りで重要なことに絞って書いてあって分かりやすい。中でも重要なのは下記の四点だ。
1)職業から性格を考える。
2)性格は一点に絞る。
3)普通の人はやらないけれど、このキャラクターならやりそうなことをやらせる。
4)主人公を困らせる。
本書ではそれぞれについてドラマを例に説明しているが、良く知らないドラマも多いので、私が良く知っている鬼滅の刃を例に説明し直してみる。

 

1)職業から性格を考える。
本書ではストーリーではなくキャラクターから考えろと説いている。キャラクターが一番重要だというのはエンタメよりの創作読本の多くが説いている点だ。
本書はさらに進んで「職業からキャラクターを考えろ」と具体的なキャラクターの立て方を指南している。
「時計職人なら細かい作業をコツコツ根気よく黙って続けているイメージ」という風にまず職業を設定して、それに合ったキャラクターにすれば良いというのだ。

鬼滅の刃』では鋼鐵塚蛍がこだわりが強くて気難しいという刀鍛冶のイメージに沿ったキャラクターだ。
本書はドラマの脚本の書き方だから職業から考えているが、ファンタジー漫画やライトノベルであれば能力から考えるのも良さそうだ。例えば『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎や伊黒小芭内といった柱のキャラクターの多くは、炎、蛇といった使う呼吸のイメージから逆算して作り上げられたように見える。

 

2)性格は一点に絞る。
「ポイントを一つにしぼることがキャラクターを見えやすくする一番のコツ」というのも重要な指摘だ。
色んな面があるキャラクターではどう行動するかが見えてこないので、気が小さいだったら、気が小さいの一点に絞るべきだと説いている。

鬼滅の刃』でも竃門炭治郎は「優しい」、我妻善逸は「女好きのヘタレ」、嘴平伊之助は「野生児」、煉獄杏寿郎は「熱血」、宇随天元は「派手」という風に多くのキャラクターの性格が一言で説明できる。だから読者もこのキャラクターならこんな言動をしそうだと具体的にイメージできるのだ。

 

3)普通の人はやらないけれど、このキャラクターならやりそうなことをやらせる。
本書で最も目から鱗が落ちたのは「普通の人はやらないけれど、このキャラクターならやりそうなことをやらせるとシーンが面白くなる」という指摘だ。本書では『ガリレオ』の湯川が所構わず方程式を書きなぐることを例に挙げていて納得した。

鬼滅の刃』でも普通の人はやらないけれど、このキャラクターならやりそうなことをやっているので面白いシーンは多い。
例えば、伊之助が玄弥に「ハハハハ お前呼吸つかえねぇのか 雑魚が!!」と言って玄弥と殴り合いになるシーンは読むたびに笑ってしまう。
普通の人は仲間が呼吸を使えないと聞いたら気を使ってフォローするのに、伊之助は真正面から「雑魚が!!」とバカにするのがいかにも伊之助らしくておかしいからだ。

 

4)主人公を困らせる。
主人公の職業、性格、名前を決めたら主人公をとことん困らせろというのが本書の教えだ。
主人公を困らせるほど視聴者は引き込まれ、困難に立ち向かい乗り越えようとする時、主人公がキラキラ輝く。
最近は主人公が圧倒的力で無双する作品も多いが、主人公が困難に立ち向かう作品の方が王道だと感じる。

主人公を困らせるという点で、『鬼滅の刃』はお手本のような作品だ。1巻だけでも、鬼に家族を殺され、たった一人生き残った妹も鬼になり、義勇に妹を殺されそうになり、鬼に襲われ、死にそうな訓練を受け続け、大岩を斬るという無茶な課題を課され、錆兎でも倒せなかった鬼と戦うはめになっている。
次々主人公に困難が降りかかるので、読者は息つく暇もなく物語に引き込まれるのだ。