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M-1グランプリ2022感想

(本稿はM-1グランプリ2022のネタバレを含みます。)

2022年12月18日はM-1グランプリ決勝、鎌倉殿の13人最終回、サッカーW杯決勝が重なったすごい一日だった。
私はM-1グランプリ決勝前半をリアルタイムで見て笑い転げ、8時から鎌倉殿の13人最終回を見て放心し、それから録画していたM-1グランプリの続きを見たので、感情がぐちゃぐちゃになった。

これまでのM-1グランプリでは、途中で爆発的笑いを取るコンビが登場し、誰の目にも決勝進出は明らかという状態になることが多かった。だが、M-1グランプリ2022の上位コンビは全然違うベクトルだが面白さは拮抗していて、どう評価すれば良いのか全然分からんという状態になった。
ネタの面白さで差がつけられないなら、技術力、芸としての完成度で比べるしかない。漫才の技術について何も知らない素人でも、技量に大きな差があると、何となく分かるというのは面白い発見だった。

最下位に沈んだダイヤモンドは結成5年目という経験の浅さが災いした。キャリアの短い漫才師が中堅と比べられると、技術面でどうしても粗さが目立ってしまう。期待の若手なのかもしれないが、期待しているのならなおさら、芸が円熟味を増してから決勝に上げるべきではないか。
敗者復活から上がって来て、極寒の屋外からやって来てすぐに漫才を披露したオズワルドも普段よりクオリティーが落ちていた。
オードリーのように瞬発力と勢いで勝負できるタイプは敗者復活から上がってきた勢いがプラスになるが、オズワルドのように準備に準備を重ねて勝負するタイプは敗者復活から上がってきたのがプラスになっていなかった。
技術で言うと、ヨネダ2000はコンビ歴が短いが、芸歴が長い他のコンビに全く見劣りがしなかった。ヨネダ2000に関しては、柴那典氏が「「ぺったんこー」「あーい!」のリズムがBPM159〜160で安定してる」という素晴らしい評論を書かれていて舌を巻いた。おそらく音楽に関してコンビ結成以前からの積み重ねがあるのではないか。

shiba710.hateblo.jp

私は男性ブランコの音符運びのネタが下らなくて大好きで、松本人志氏などは高評価だったが、低評価の審査員もいてあまり点が伸びなかった。中川家礼二氏は「もっと面白いのがあるのに何でこんなネタをやったのか」みたいなことをコメントされていた。私はお笑いは基本的に下らなくて無意味な方が面白いと思うのだが、礼二氏はある程度意味があった方が良いと思っているのかもしれない。

決勝進出の3組の中ではロングコートダディが一番好きで、遠山の金さんかと思いきやワクチン接種というのは面白かったが、最後の太秦映画村はもっともうちょっと何とかならなかったのか。ワクチン接種より面白いボケが思い浮かばなかったのなら、ワクチン接種を最後のオチにすれば良かったのではないか。
さや香のネタは面白かったが、1票しか入らなかったのは最初に噛んだせいだろう。面白さに差がなくて困っていた審査員が、さや香に投票しないための格好の理由になってしまった。
面白さが拮抗していたのでしょうがないのだが、ミスをした方が負けたという決着より、ネタが面白かった方が勝ったという決着を見たかった。

ウエストランドは、本稿のようにネタの分析をするお笑いファンのことをディスっていたのでカチンときて、あまり笑えなかった。世の中には自分に対する悪口でも笑える鷹揚な人もいるのかもしれないが、私にはとても無理だ。
ウエストランドの悪口については論争になっていて、さや香の「佐賀はでれるけど入られへん」だって悪口じゃないかという指摘があった。だが、さや香のは本当に入ることはできないと思っているわけないので、ネタで言っているのだと分かる。ウエストランドも「警察に捕まり始めてる」などはさすがにネタかな、という感じがするが、「舞台役者に向上心がない」などは本気でそう思っていそうなので、ガチの説教に聞こえてしまう。飽くなき向上心でM-1王者になった今となってはなおさらだ。
ただ、台本に従って演じているのにその場で思いついた本音を言っているように見せているのは井口氏の腕だ。河本氏がネタを飛ばしたそうなのに、全然そう見えなかったのは長年の修練の賜物である。優勝おめでとうございます。

 

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