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菅内閣には理系と博士がいない

森喜朗氏の発言をきっかけに、指導的立場に立つ女性の少なさが問題になっている。菅内閣でも女性閣僚は二人だけだ。
だが、さらに少ない属性がある。理系だ。
菅内閣の閣僚は全員が文系出身なのだ。

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21人中7人が法学部、7人が経済学部・商学部出身だ。政治経済学部法経学部が一人ずついるので、大半が法学系か経済学系だ。
確かに政治にとって法学や経済学の知識は重要だが、理学部、工学部、医学部、薬学部、農学部が一人もいないのに法学部と経済学部だけこれほど多いのは偏りすぎではないだろうか。
コロナ対策が政権の主課題なのだから、閣僚には医学部出身者かせめて理系がいて欲しい。
会議では色んな観点から意見が出ることが重要だ。メンバーが偏っていると見方が一面的になってしまう。

もう一つの特徴はほとんどが学士卒だということだ。修士は3人いるが、博士は一人もいない。


水際立ったコロナ対策を見せた台湾の政府と比較してみる。
蔡英文総統はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス法学博士、頼清徳副総統はハーバード大学公共衛生大学院修士卒だ。

zh.wikipedia.org


台湾の総統、副総統、行政院長、行政院副院長、行政院秘書長、政務委員は合わせて14人いる。
そのうち文系は7人、理系は7人だった。見事にバランスがとれている。
また、博士が5人、修士が7人いる。日本と比べると圧倒的に高学歴だ。

大臣には上がってきたデータの意味を理解し、データに基づいて的確な判断をする能力が必要だ。
学士は大学によっては論文なしでも取れてしまうが、博士号を取るにはちゃんとした論文を書かねばならないので、閣僚としての最低限の資質があることが保証される。
担当分野の博士か修士卒の人材を大臣に就ければ、少なくとも大臣が担当分野について全く理解しておらず、官僚が作ったペーパーを棒読みするような事態は避けられるだろう。


菅内閣には理系と博士がいない。だがこれは菅内閣の問題というよりは日本全体の問題だ。
日本は若手研究者の待遇が悪い。米国の大学では博士過程の学生には給料が出ることがほとんどだが、日本では普通出ない。
また、日本では若手研究者のポストが少なく、博士を取っても研究者として就職できないことが多い。

森喜朗氏は大学に裏口入学したと自ら喧伝している。
学力が重視される社会だったら、ひた隠しにするはず。わざわざ言うのは学力より根回し力の方が評価されるからだ。

戦後日本は人口が増加し、自然とGDPが増加していく人口ボーナス期にあったので、増加するパイを分配するコミュ力や根回し力が重視されてきた。
だが、これからの人口減少社会では海外との競争に勝たねばならない。
日本の中でパイを分け合うなら根回し力が重要だが、GAFAMと戦うのに根回し力があってもしょうがない。
ITや環境分野の技術者が大量に必要だし、トップには将来を予測し、先回りして重点分野に投資していく戦略性が求められる。そのためには専門知が不可欠だ。

世界の時価総額ランキングで台湾セミコンダクターは11位だが、日本企業トップのトヨタは44位にすぎない。
産業の米と言われる半導体分野で日本はかつて世界のトップを走っていたが、今はキオクシアがシェア9位に入っているだけだ。
日本社会全体が専門知を軽視してきたつけがきているのではないだろうか。