東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2021に投票しました

信託報酬が安い円建て米国株インデックス投信を中心に選出。
円建て米国株ETFがますます充実してきて、変わったことをする時以外はドル転しなくても良くなった。良い時代になったものだ。

 

2631 MAXISナスダック100上場投信:三菱UFJ国際投信 信託報酬0.22%
今年2月に設定された、ナスダック100連動の東証上場ETF。去年絶賛していた2568よりさらに信託報酬が低い。

 

2558 MAXIS米国株式(S&P500)上場投信 信託報酬0.09%
S&P500の円建て投信では信託報酬が最安。

 

SBI・V・全米株式インデックス・ファンド 信託報酬0.09% 
今年設定された円建てVTI。つみたてNISAで買える。

 

eMAXIS Slim 全世界株式(3地域均等型)信託報酬 0.1144%
米国以外にも分散したい人はこの投信を追加することで、格安の信託報酬で日本と新興国を追加することができる。

 

投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2021の投票は11月30日までです。

www.fundoftheyear.jp

バニラアイス10種類食べ比べ

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選

休日は原稿ノルマを自分に課しており、達成できたら夜にアイスを買ってきて食べるのを楽しみにしている。
私はバニラアイスは何も入っていない分損だと思っており、もっぱら一番量が多いスーパーカップの期間限定味を食べていたのだが、先日スーパーカップのバニラを食べてみたらかなり美味しくて驚いた。
アイスそのものがこんなに美味いなら、むしろ余計なフレーバーなんか入れずに、バニラでアイスそのものの味を楽しんだ方が良いんじゃないか。
そこで100円ぐらいで買えるバニラアイス10種類を食べ比べてみた。

 

エッセルスーパーカップ 超バニラ 明治
f:id:shinonomen:20211122174952j:plain内容量200ml  ラクトアイス 無脂乳固形分8.5% 植物性脂肪分13.0% 卵黄脂肪分0.5%
原材料名:乳製品、植物油脂、砂糖、水あめ、卵黄、ぶどう糖果糖液糖、食塩/香料、アナトー色素
エネルギー374kcal/たんぱく質5.6g/脂質23.4g/炭水化物35.3g/食塩相当量0.22g
カップアイス最大容量を誇るロングセラーアイス。食べごたえと満足感で他を圧倒している。
乳脂肪分が入っていないが、たっぷり入った植物性脂肪でカバーしている。卵の旨みも強く、これぞバニラアイスというような味に仕上げている。

 

Mow バニラ 森永乳業

f:id:shinonomen:20211122175038j:plain

内容量140ml アイスクリーム 無脂乳固形分9.0% 乳脂肪分8.0% 卵脂肪分0.7%
原材料名:乳製品、水あめ、砂糖、加糖卵黄、カラメルシロップ/香料
エネルギー225kcal/たんぱく質4.3g/脂質10.2g/炭水化物28.9g/食塩相当量0.12g
素材本来のおいしさをいかすために乳化剤・安定剤を使っていないというこだわりのアイス。
卵と乳製品の旨みがぎゅっと濃縮されており、内容量が少ないのに食べごたえがある。
高級なアイスと遜色ない。初めて食べた時はこれが百円!と驚いたものだが、久しぶりに食べて改めて驚きを禁じ得ない。

 

爽 コクうまバニラ ロッテ

f:id:shinonomen:20211122175113j:plain

内容量190ml ラクトアイス 無脂乳固形分5.3% 植物性脂肪分6.7% 卵脂肪分0.1%
原材料名:砂糖、植物油脂、乳製品、果糖、卵黄、乳等を主要原料とする食品、デキストリン、食塩、食物繊維/乳化剤、安定剤、香料、アナトー色素
エネルギー179kcal/たんぱく質2.4g/脂質8.9g/炭水化物22.3g/食塩相当量0.13g
非常に細かいシャリシャリした氷が混ざっており、ふわっとした食感。卵の味が濃く、意外と濃厚だ。
爽と言えば、猛暑の時に食べたいアイスだが、コクうまバニラは秋冬限定品で涼しい時に食べても美味しい。

 

Sof ミルクバニラ 赤城乳業

f:id:shinonomen:20211122175135j:plain

内容量150ml  アイスクリーム 無脂乳固形分9.9% 乳脂肪分8.0%
原材料名:乳製品、砂糖、牛乳、水あめ、果糖加工品、キャラメルペースト、食塩/安定剤、乳化剤、香料、調味料
エネルギー169kcal/たんぱく質2.8g/脂質8.1g/炭水化物22.0g/食塩相当量0.15g
ソフトクリームをコーンなしで食べたいという夢を叶えてくれるアイス。他のカップアイスとは一線を画す柔らかな食感が特徴。
成分的には本格的なアイスクリームなのだが、水あめの甘さが強く、乳製品の旨みがあまり感じられない。

 

昔なつかしアイスクリン オハヨー乳業

f:id:shinonomen:20211122175156j:plain

内容量150ml ラクトアイス 無脂乳固形分6.0% 乳脂肪分2.0% 卵脂肪分1.0%
原材料名:生乳、脱脂濃縮乳、水あめ、砂糖、異性化乳糖、卵黄、クリーム、食塩/香料
エネルギー158kcal/たんぱく質3.5g/脂質4.4g/炭水化物26.0g/食塩相当量0.16g
「ミルクと卵のやさしい甘さ」という通り、ミルクセーキみたいな味。スプーンで崩すととろっとした粘りはなく、雪をシャベルで掘ったみたいな感じで溶けると完全に液体になる。

 

バニラモナカジャンボ 森永製菓

f:id:shinonomen:20211122175219j:plain

内容量150ml アイスクリーム 無脂乳固形分8.5% 乳脂肪分8.0%
原材料名:乳製品、チョコレートコーチング、砂糖、モナカ、水あめ、デキストリン、乾燥卵黄、食塩/加工デンプン、乳化剤、香料、安定剤、カラメル色素、甘味料
エネルギー270kcal/たんぱく質3.6g/脂質13.9g/炭水化物32.6g/食塩相当量0.18g
日本で一番売れているアイス、チョコモナカジャンボの姉妹品。チョコモナカジャンボはパキパキ割れる板チョコの小気味よい食感が売りだが、バニラモナカジャンボはアイスを言われないと気づかないほど薄いホワイトチョコでコーティングして、バニラアイスの美味しさをそのまま味わえるようにしている。隠し味のアーモンドとアイスの上品な甘さが相まってかなり美味い。

 

しっとりビスケットサンド 森永製菓

f:id:shinonomen:20211122175238j:plain

内容量119ml アイスクリーム 無脂乳固形分10.0% 乳脂肪分10.0%
原材料名:ビスケット、乳製品、砂糖、デキストリン、水あめ、バニラビーンズ/加工デンプン、安定剤、乳化剤、香料、膨張剤
エネルギー226kcal/たんぱく質4.3g/脂質9.5g/炭水化物30.8g/食塩相当量0.3g
パリッとしたモナカジャンボとは対照的にアイスをしっとりとしたビスケットで挟んだアイス。119mlだがアイスが厚くてかなり食べごたえがある。
クリームチーズのような味と食感が楽しめる。アイスの中にバニラビーンズを入れてバニラの香りを増し増しにしているとのこと。

 

OHAYO ミルクソフト サンタ

f:id:shinonomen:20211122175258j:plain

内容量180ml アイスミルク 無脂乳固形分7.0% 乳脂肪分3.0% 植物性脂肪分2.0%
原材料名:乳等を主要原料とする食品、コーン、粉乳調整品、水あめ。乳製品、砂糖、植物油脂/加工でん粉、安定剤、乳化剤、香料、着色料
エネルギー159kcal/たんぱく質2.8g/脂質5.5g/炭水化物24.3g/食塩相当量0.13g
オーソドックスなソフトクリーム。Sofは時間が経っても形が崩れないのに対し、こちらは溶けてきてさらにトロトロになるのが美味い。蓋ががっちりはまっていて、開けるのが大変。

 

雪見だいふく ロッテ

f:id:shinonomen:20211122175316j:plain

内容量47ml×2個 アイスミルク 無脂乳固形分10.0% 乳脂肪分3.0%
原材料名:砂糖)、水あめ、もち米粉、乳製品、植物油脂、でん粉、乾燥卵白、デキストリン、ローストシュガーシロップ、食塩/乳化剤、安定剤、加工デンプン、香料、着色料
エネルギー166kcal/たんぱく質2.0g/脂質5.2g/炭水化物27.6g/食塩相当量0.09g
アイスをもちもちとした牛皮で包んだ冬の定番アイス。アイスはミルクの味がはっきり感じられる。柔らかさの二重奏で非常に食感が良く、口内が幸せになる。

 

COOLish バニラ ロッテ

f:id:shinonomen:20211122175333j:plain

内容量140ml ラクトアイス 無脂乳固形分5.0% 植物性脂肪分5.1% 卵脂肪分0.2%
原材料名:砂糖、異性化液糖、乳製品、植物油脂、卵黄、果糖、食物繊維、食塩/乳化剤、安定剤、香料、アナトー色素
エネルギー147kcal/たんぱく質2.3g/脂質6.5g/炭水化物20.0g/食塩相当量0.13g
吸って食べるアイス。外で立ったまま食べたりするには良いが普通に食べるには量が少ない。味は爽とほぼ同じで成分も似ている。


アイスにはアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓の四種類があり、下記の基準で決まっている。
アイスクリーム 乳固形分15.0%以上、乳脂肪分8.0%以上
アイスミルク 乳固形分10.0%以上、乳脂肪分3.0%以上
ラクトアイス 乳固形分3.0%以上
氷菓 乳固形分3.0%未満
基本的にアイスとしてのグレードはアイスクリーム>アイスミルク>ラクトアイス>氷菓の順だが、乳脂肪分の代わりに植物性脂肪分や卵脂肪分を入れるなど、各社工夫を凝らしている。

昔ながらの味で勝負している中小メーカーに対し、大手はたゆまぬ味の改善に取り組んでいてすごい。
味と満足感では、やはり定番のMow、エッセルスーパーカップ、バニラモナカジャンボが3強だった。やはり売れているのは売れているなりの理由があるのだ。

小池一夫のキャラクター進化論(1)感想

小池一夫氏は『子連れ狼』などで知られる作家、漫画原作者だ。「劇画村塾」や大阪芸術大学小池一夫ゼミを開き、高橋留美子原哲夫板垣恵介、椎橋寛といった漫画家を育成されている。
小池一夫のキャラクター進化論(1) 漫画原作マル秘の書き方』(小池一夫著、星海社新書)は、漫画原作の書き方本だが、あらゆるフィクションの創作にも役に立つ。

本書が最も強く訴えているのは「漫画=キャラクター」ということだ。
さいとう・たかを氏や石ノ森章太郎氏から「漫画で一番大事なのはドラマではない。キャラクターだ」と言われた小池氏は、売れている漫画はタイトルがキャラクター名だということに気付く。読者が求めているのは凝ったストーリーではなく魅力的なキャラクター。映画やドラマと違ってスター俳優の魅力に頼れない漫画ではゼロからキャラクターを起てなくてはならないという主張に納得した。

小説は漫画ほどキャラクター重視ではなかったが、近年はライトノベルの影響もあり、キャラクター重視の小説が増えている。
私が書く小説はキャラクターが弱いので、ストーリーなど他の要素でカバーしようと考えていた。だが、本書を読んで、逃げずにキャラを起てねばならぬと腹を括ることができた。


小池氏は漫画の基本的な構成として「主・謎・技・感」を挙げている。
「主・謎・技・感」とはそれぞれ「起・承・転・結」に対応しており、
1)物語の冒頭《起》では《主》人公を強烈に印象付けて起て、
2)《承》ではキャラクターに《謎》を追わせ、
3)《転》ではアッと驚く《技》やアイデアでひねりを効かせ、
4)ラストの《結》では読者の《感情》を動かすのが重要なのだという。

起承転結と言って済ませている類書が多い中、本書はそれぞれのパートで読者に何を伝えるべきかが明確に書かれており、参考になる。


本書で最もためになったのが「消去」だ。
小池氏は、主人公が「俺は明日アメリカに行く!」と言ったら、飛行機を予約したり空港に移動したりといった不要なシーンは「消去」して次のコマで自由の女神を背景にハンバーガーを食べる主人公を描けば良いという例を挙げ、物語的に関係のない、省略できることは徹底的に消去しろと説いている。
また、同じことを言っているセリフは二つも要らないので、「そうですね」のように相手の意見に同意するだけの「受けゼリフ」も止めるべきだという。

漫画はページ数が限られているので、小説より消去が徹底されている。だが、テンポよく話が進んだ方が良いのは小説も同じなので、小説も漫画並みに厳しく不要なシーンを消去すべきなのではないか。


本書に書かれた心構えも印象深い。
小池氏は塾生に「毎日5つのキャラクターを描け」と言う課題を出していたが、たいていの生徒は最初だけでやめてしまう。ところが、板垣恵介氏は「絶対漫画家になりたいから、人の倍描かなきゃダメだと思って、毎日10個のキャラクターを描いた」のだと言う。
小池氏は実際にデビューする人は「なりたい人」ではなく「書きたい人」「書かずにおれない人」だと指摘する。だが、才能がにない人には無理だと切り捨てはしない。
小池氏は自分が「なりたいだけの人」だと気づいたなら「毎日、必ず1時間、机の前に座るクセをつけろ」とアドバイスする。
机の前に座って手を動かし続ける執念こそが創作者によって最も重要な資質なのだ。

小池氏はクリエイターになることを、いつも作品創りのことで心が支配される「修羅の道」と表現されている。技術的に参考になるだけでなく、精神的にも身が引き締まる一冊だ。

 

ゴルフ、ボウリング、野球の三刀流

今年の5月16日にプロゴルファーになった。何度も素振りをして飛距離を体に叩き込むことでスコアがぐっと上昇した。
翌週の5月23日にはプロボウラ―になった。投げる時に手首をひねるというコツをつかんでからは高確率でストライクを取れるようになった。
5月29日にはプロ野球選手になった。150kmオーバーの変化球を打つのは大変だが、ボール球で勝負することを意識すればプロ相手でもそこそこ抑えることができる。
ボクシングはプロに昇格してはアマチュアに戻るのを4度繰り返している。相手のパンチをかわして、相手の動きがスローモーションに見えた瞬間に叩き込むのがコツだ。
テニスだけは半年経った今でもプロになることができない。
Wii Sportsのことだ。

Wii SportsWiiコントローラーで打ったり投げたり殴ったりできるスポーツゲームだ。競技の細部は簡略化されているが、勘どころが押さえられており、今まで話には聞いていたがピンと来なかったことが実感できた。
私は野球の経験がないので、速球の後に遅い球が来るとなぜ打てないのかが分からなかったのだが、160kmの速球の後に90kmのフォークを投げられると確かに対応できない。
また、ゴルフでバーディを取った後のホールで短いパッドが入らずにボギーになると、叫びだしたくなった。ゴルフがメンタルスポーツと言われるのも納得だ。

f:id:shinonomen:20211029180712p:plain

ゴルフのクレイジーな9番ホール

Wii Sportsをやって分かったことが二つある。一つは私は俊敏性に欠けているので、対人競技が苦手だということだ。ボウリングやゴルフのように自分のペースで投げたり打ったりする競技の方が向いている。
私は中学高校と柔道部だったのだが、部内の試合で一度しか勝ったことがない。それも高校から始めた同級生が素人同然の時に勝っただけだ。
柔道はボクシングに近いので、テニスほどひどくはないが、さほど向いているとは言いがたい。高校にボウリング部やゴルフ部はなかなかないにしても、弓道部なら自分のペースで弓を引くことができる。
事前にWii Sportsのようなもので適正を調べてから部活を選べばもっと活躍できたかもしれないと思ったが、私の学校には弓道部なんかなかったので、どっちみち運動部で活躍するのは無理だった。

もう一つは苦手なものでもコツコツ続けていれば上達するということだ。私はテニスに全く向いていないが、週一回の試合を続けてきた結果、半年かけて767までスコアが上昇した。(スコアが1000になるとプロ)
スコアが上がると前に進んでいるのが実感できるので、大きなモチベーションになる。
私が最も長期に渡って取り組んでいるのは小説だが、一年かけて書いたものを半年かけて新人賞で審査してもらうので、評価を得るまでの期間があまりに長く、モチベーションの維持が難しい。
小説を読んでスコアをつけてくれるAIがあったら、多くの人がもっと上達するのではないだろうか。

キングオブコント2021感想――物語の満足感

(本稿はキングオブコント2021のネタバレを含みます。)

キングオブコント2021は愛の大会だった。
トップバッターの蛙亭が博士がアンドロイドに母性を感じてしまうというコントを披露して大会の方向性を決定づけた。
ザ・マミィの1本目は疎外されてきたおじさんの魂の回復を正面から描いていて、思わず泣いてしまった。
男性ブランコの2本目も印象深い。買い物袋をケチった男の末路という内容で、ケチで友達が少ない私には身につまされる内容だったが、ケチで友達が少なくても生きていて良いんだ!と勇気をもらった。

優勝した空気階段のコントも隅々まで変な人への愛、人間賛歌で溢れていた。今大会が愛に満ちた大会になったのは、去年空気階段が、定時制高校を舞台にした純愛のコントをやったことで、「こういうのもありなんだ」と皆に知らしめたからではないか。まさに愛の大会で優勝するにふさわしいコンビだ。

愛、他者の受容についてはすでに優れた評論が出ている。
古豆氏は「異質な他者と、豊かな関係を築く」というキーワードでファイナルステージに進んだ3組を分析されている。

gendai.ismedia.jp

また、hiko1985氏も、空気階段の愛は、“異質さ”を受け入れるという態度であると指摘されている。

hiko1985.hatenablog.com


そこで、私は角度を変えて、漫才と比べたコントの優位性という観点から論じる。


純粋に人を笑わせるという点で、漫才はコントに優っている。漫才はセットがない分、二人の掛け合いに視聴者の意識を集中させられるし、手数もより多く詰め込むことができる。
それではコントが漫才に優っていることは何だろう。コントは道具が使えるので漫才より自由度が高い。また、コントの方がウィットに富んだ笑いにしやすいという特徴もある。
だが、どちらも漫才が生み出す爆発的な笑いに比肩しうる程の優位性ではない。私は笑いの形式として漫才はコントより優れているのではないかと思っていた。キングオブコントよりM-1グランプリの関心が高いことを見るに、同じように思っている人は多いのではないか。


だが、キングオブコント2021を見て、遂に私はコントの優位性を発見した。それは物語の力を使えるということだ。
物語の基本的な構造は「欠落→回復」だ。欠落は物語の駆動力となり、回復によって視聴者に充足感を与える。視聴者の琴線に触れるものが回復された場合は感動すら生み出す。

歴代最高得点の486点を叩きだした空気階段の1本目について審査員の山内氏が「映画一本見たぐらいの充実感」と言っていたが、それは物語の構造を持っているからだ。
コントの冒頭で二人はビルの一室にあるSMクラブ内で縛られた状態で火事に遭い、安全が欠落した状態にある。だが、二人が熱い仕事への使命感を発揮して活躍することにより、二人のみならず、ビル内に取り残された人々の安全が回復されたことで、視聴者は笑いだけでなく満足感を得たのだ。

ザ・マミィの1本目では、怒りをまき散らす自尊心が欠落したおじさんが登場する。だが、彼に話しかけ、さらには信用して財布を預ける青年が表れたことで、おじさんは自尊心を回復し、善良な心を取り戻す。この過程には心打たれた。

今大会で高得点を叩きだしたコントには、物語が生み出すずっしりとした満足感があった。一方、ニューヨークなど下位に沈んだコントは笑えるという点では遜色なかったが、物語的回復がなかったため物足りない感じがしてしまい、得点を伸ばせなかった。「漫才でもできたかな」と指摘した審査員の松本人志氏にニューヨークの屋敷氏が「じゃあM-1でこのネタやるんで高得点つけて下さいよ」と噛み付いていたが、実際、純粋な笑いの量を競う漫才の大会だったらもっと得点が伸びたのではないか。


コントと違い、漫才は基本的に「欠落→回復」という構造を持たない。例えば、ミルクボーイの漫才は冒頭で「おかんが物の名前を忘れた」という欠落が提示される。ミルクボーイの漫才が強いのは欠落の駆動力に拠る所が大きい。
だが、ミルクボーイの漫才は最後までおかんが忘れたものが何なのかが判明せずに終わる。つまり回復がない。
漫才はボケによって秩序が失われ(=欠落)、ツッコミが回復しようとするが果たせずに、「いい加減にしろ」と匙を投げて終わる。

漫才はボケとツッコミの主張のギャップによって笑いを生み出している。回復をするとギャップが消滅するので、笑いが生み出せなくなる。例えば、ミルクボーイの漫才でおかんが忘れたものが何なのか分かってしまうとそれ以上ボケられない。最後までぎちぎちに笑いを詰め込むためには、回復しないまま終わった方が良い。


従来のコントは漫才同様にボケが変なことをしてツッコミが突っ込むという構造が多かった。これは笑いを生み出す有力な手段ではあるのだが、コントで漫才と同じことをすると手数で負けてしまう。
今大会で高得点を出したコントはあまり突っ込んでいないコントが多かった。ボケとツッコミのギャップではなく、異様な状況と本人たちの真剣さのギャップや、視聴者の想像と登場人物の反応のギャップなど、別の所にギャップを置くことで、物語的回復を入れることが可能になった。
笑いに加えて物語の力で満足感を与えるというのはコントが生き残るための一つの解ではないか。


まとめ
1.純粋に人を笑わせるという点で、漫才はコントに優っている。
2.コントの優位性は「欠落→回復」という物語の力を使えるということ。物語の力で笑いに加え満足感を生み出せる。
3.漫才はボケとツッコミの主張のギャップによって笑いを生み出しているので欠落を回復できない。
4.コントはボケとツッコミ以外の所にギャップを置くことで物語的回復をしながら笑いを生み出すことができる。

www.king-of-conte.com

押し目買い戦略は有効か

S&P500連動ETF、VOOの調整後チャートを示す。

f:id:shinonomen:20211012173703p:plain

VOOチャート

 

下落した株価が複数回反発した線を、テクニカル分析用語で支持線と言う。
2021年以降、S&P500は9月20日に明確に下抜けるまで、概ね50日移動平均線で支持されていた。
単に定期積立するより、50日線にタッチした所で押し目買いすればリターンを改善できたのではないか。

そこで、2021年1月から9月に毎月月初に100$ずつ得られる投資資金を、下記の2戦略で投資した場合の9月28日時点でのリターンを比較した。
1)毎月月初に100$ずつ購入(定期買い戦略)
2)50日線を下回るまで待って、その時点で貯まった投資資金全額で購入。(押し目買い戦略)

1)定期買い戦略    6.92%
2)押し目買い戦略    7.04%

押し目買い戦略が上回ったものの、リターンの差は0.12%とわずかだった。

一方、同様の戦略を2020年4月から2021年9月の期間で行った場合のリターンは下記の通りだ。
1)定期買い戦略    24.00%
2)押し目買い戦略    21.80%

S&P500は4月23日から9月18日まで5ケ月間、50日移動平均線にタッチしなかった。この間に買えなかったことで、押し目買い戦略の方が2.2%劣後する結果となった。

押し目買い戦略ははっきりした支持線が存在する時であれば、わずかにリターンを改善できる可能性があるが、上げ相場で長期間支持線にタッチしないと大きくリターンを損ねるリスクがある。
また、定期買い付けの場合は設定して放っておけば良いのに対し、押し目買いをするには毎日値動きをチェックしなくてはならず、手間がかかる。
押し目買い戦略によるリターンの改善はわずかで、リスクと労力に見合っていない。

ただし、今回の検証期間はS&P500が右肩上がりだった。上げ相場ではさっさと買うのが有効だが、横ばいのレンジ相場や、下げ相場では押し目買いや下落待ちが有効である可能性がある。
それについては後日、別記事で検証する予定だ。

結論:上げ相場では押し目買いによるリターンの改善効果はわずかで、リスクと労力に見合っていない。

「蜘蛛ですが、なにか?」に学ぶキャラクターの立て方

(本稿は「蜘蛛ですが、なにか?」の抽象的ネタバレを含みます。)

蜘蛛ですが、なにか?』(原作・シナリオ監修:馬場翁、監督:板垣伸、アニメーション制作:ミルパンセ)は蜘蛛に転生した「私」を中心とした群像異世界ファンタジーだ。
蜘蛛ですが、なにか?』には二人の主人公がいる。私(蜘蛛子)とシュンだ。
二人はキャラクターとしての魅力が天と地ほど違う。蜘蛛子はライトノベル屈指の面白いキャラだ。悠木碧氏の熱演もあって、滅茶苦茶魅力的だ。一方のシュンは凡百の主人公程度の魅力しかない。
二人を比較することでキャラクターの立て方を学ぶことができる。

1)二面性がある。
ヤンキーが捨て猫にミルクを上げていると魅力的に見えるように、人はギャップのあるキャラに心動かされる。
蜘蛛子は人間は経験値が稼げて美味しいなどと言いながら平気で敵兵を殺すような残虐性を持っているが、赤子を助けてあげるような善良さも持っている。読者が嫌いになるぎりぎりのラインを突いた絶妙なバランスだ。
一方、シュンは善良なだけなのでキャラクターに深みがない。
魅力だけでなく、欠点や悪い面を設定することでキャラクターに深みが出るのだ。

2)過酷な試練を与えられている。
主人公が立ち向かっている試練が過酷なほど、視聴者は応援したくなる。
蜘蛛子は次から次へと死ぬ寸前のピンチへ追い込まれるが、勇気と知略を駆使し、たった一人で強大な敵に立ち向かう。
一方のシュンはいつも仲間に助けてもらっている。蜘蛛子に比べて甘やかされている。
主人公には作者が考えうる限り最も過酷な試練を与えるべきだ。それを乗り越えることで主人公が大きく成長するのだ。

かけあいの面白さが出せないので、蜘蛛子のように主人公が延々単独行しているというのは異例だ。単独行なのに話が成立させられるということをとっても蜘蛛子がどれだけ良いキャラか分かる。

3)読者の想像を超えた行動をする。
主人公が予想外の行動をすると、視聴者は先の展開が読めず、話がスリリングになる。
蜘蛛子は無鉄砲で好戦的な性格なので、視聴者の想像を超えた行動に出て、波瀾万丈のストーリーになっている。
一方のシュンは常識的な性格なので、行動に驚きがない。
蜘蛛子の場合、もう逃げないという強い信念が無鉄砲な行動につながっている。キャラクターに強い信念を持たせると、話が劇的になりやすい。


このように、シュンは蜘蛛子に比べて全然魅力がないが、最後まで見たらなぜシュンがこういうキャラになったのかがわかった。

蜘蛛ですが、なにか?』には大きく二つの魅力がある。蜘蛛子のキャラとミステリー的大仕掛けだ。
シュンは視聴者のアバターとして視聴者に情報を伏せておくためのキャラ。いわゆるワトソン役だったのだ。
ワトソンはホームズより穏当な性格である必要があるし、いきなりホームズを裏切ってモリアーティー教授についたりしたら作品世界が崩壊してしまう。アバターはあまりキャラが立っていては困るのだ。