東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

神様になった日感想――下らない一瞬の価値

(本稿は『神様になった日』のネタバレを含みます。)
『神様になった日』(原作・脚本:麻枝准、監督:浅井義之、アニメーション制作:P.A.WORKS)は平凡な高校生成神陽太の元に、全知の神を名乗る少女佐藤ひなが現れ、「30日後に世界は終わる」と告げたことで巻き起こる騒動を描いたアニメだ。

kamisama-day.jp

私は偉そうな幼女が大好きなのでひなの可愛さには心を撃ち抜かれた。ひなの場合は本当に全知なのだが、普通の子供も無根拠な全能感を持っている。私も子供の頃はマサチューセッツ工科大学に入学するとか言ってたもんなあ。偉そうなひなを見ていると幸せな気分になるのは、子供の頃の全能感を思い出すからかもしれない。

ひなは全知の能力を持っているのに、その能力をひたすら下らないことにしか使わない。
テンポの良い演出で話が斜め上の方向に暴走するので、笑いながら観ていたのだが、最後まで見ると、一夏の体験にこそひなにとってかけがえの無い価値があったことが分かる。
本作は一夏の話なので劇的だが、30日だろうが100年だろうが、命が限られているという点では変わりない。本作が突きつけているのは限られた命をどのように使うかという命題だ。

私は死後残るものにこそ価値があると考えているのでせっせと文章を書いているのだが、死後にはてなブログが閉鎖されたら、書いた文章は全て消えてしまう。すごい芸術作品を作れば永く残るかもしれないが、それだって人類が絶滅したら誰にも省みられない。
つまり、死後残るものを作っても問題の先送りにすぎないわけで、下らないことをして笑っている一瞬の価値を認めなければ、人類全ての活動に意味がないということになってしまうのではないか。

(以下、終盤のネタバレを含みます。)
終盤、陽太はひなを引き取るべく施設を訪れるのだが、対比的に登場したひなを捨てた実の父が物語に深みを与えている。
陽太は仲間が沢山いるから奪還に行けた。孤独だったら、一人でずっと世話をしないといけないのだから、引き取るのは諦めるしかなかっただろう。
陽太に仲間が沢山いるのは、陽太が仲間と下らないことをして笑い合っている一瞬の価値を認めているからだ。下らない一瞬の価値を認めるかどうかが人生の全てを分けるのだ。

ラーメンの残り汁で白菜餃子鍋

休日の昼間は袋麺を食べるのが日課になっている。
ラーメンスープを全部飲み干すと塩分過多になるので、半分ぐらい捨てていたのだが、ある時ふと気づいてしまった。
捨てているスープを使って晩御飯の鍋を作れるんじゃないか?

試行錯誤した結果、簡単で安いレシピが出来たので発表する。

材料
豚骨ラーメン1袋
もやし 1つかみ
キャベツ 1枚
卵 1個
白菜 2枚
チルド餃子 6個

1.ラーメン
1)モヤシとちぎったキャベツを小鍋で少なめの水で茹でる。
2)沸騰したら麺と卵を投入。
3)茹で上がったらラーメンスープとお好みで肉団子を投入。白菜鍋に最も合うのは豚骨スープだが、味噌も悪くない。

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4)スープを半分別の鍋に移す。衛生面で抵抗がある人のため食べる前にスープを移しているが、気にしない人はラーメンを食べ終わった後の汁をそのまま使えばより簡単である。

 

2.白菜餃子鍋
1)昼間の残り汁に切った白菜2枚とチルド餃子6個程度を入れて煮る。

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終わり。超簡単!

ここでは餃子を入れて主食にしているが、白菜だけを煮て副菜にしても良い。

ポイントはラーメンを少なめの水で茹でて濃いスープにすることと白菜を入れ過ぎないこと。白菜をドサドサ入れたら全然塩気がなくて悲惨なことになった。

一般的に、ラーメンは塩分過多で体に悪く、鍋は体に良いイメージがある。だが、鍋はラーメンと同等以上の塩分がないと美味しくないことが分かった。何事もイメージで判断してはダメである。

パラサイト 半地下の家族感想――失われた複雑さ

(本稿は「パラサイト 半地下の家族」の抽象的ネタバレを含みます。)

「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)はカンヌ国際映画賞やアカデミー賞を受賞した2019年の世界的大ヒット作である。
衝撃的な結末だと聞いていたので、半地下一家が上流一家を皆殺しにし、顔の皮を被ってなりすますのかと思って見ていたら、そこまで陰惨ではなかった。バッドエンドではあるのだが、ちゃんと悪者が悪事の報いを受けているので「鬼滅の刃劇場版」に比べれば不条理感は薄かった。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を連想した。

超貧乏だが仲良しの犯罪一家の造形が「万引き家族」と、金持ち一家と貧乏一家を対比的に描いている所が「そして父になる」と似ている。貧困層を可哀想な人として描かず、ちょっとやり過ぎであり、感情移入できないなあ、というレベルの悪事を働かせる所も似ている。
だが、「万引き家族」と比べると脚本が滅茶苦茶練りこまれている。「万引き家族」は自然な演技を重視しているためストーリー的には退屈な所もあったが、「パラサイト」は途中から完全に斜め上の方向に進んでいくし、スリリングでエンターテイメント性が高い。

本作の脚本には学ぶべき点が多い。一つは勢力Aが勢力Bを一方的にやり込める展開より、同レベルのAとBがぎりぎりの勝負をする方が面白いということ。もう一つはAとBにフォーカスしておいてCを出してくると意表を突けるということだ。

テーマ的には、地下から誰にも届かないかもしれないメッセージを送るというモチーフが心に染みた。人はどんな状況になってもメッセージを発せずにはいられないということだし、誰かが地下からメッセージを送っているのに見えていないのかもしれないとも感じた。


本作が日本でヒットしたのはたった一年前なのだが、この一年ですっかり世界は変わってしまった。コロナ禍によってこういう善悪がはっきりしない物語がヒットしにくくなっているように感じる。
パラサイトの主人公ギウは家族想いではあるが、平気で人を騙すし、スケコマシだし、好きになれない造形である。私は最初の家庭教師のシーンで嫌いになったので、早く嘘がバレて惨めに転落すれば良いのに! と思いながら観ていた。監督は悪どい金持ちと可哀想な貧乏人みたいな単純な構図にしたくなくてこういう造形にしたのだろう。

今年のヒット作である「鬼滅の刃」や「半沢直樹」はみな主人公に感情移入して観ている。下限の壱に感情移入して、炭治郎を絶望の内に殺してやりたいなあと思っている観客や、幹事長に感情移入して生意気な半沢直樹を捻り潰してくれるわ、と思って見ている観客など皆無だろう。
もともと客層が違うのだとも言えるが、パラサイトは世界的にヒットした娯楽作だ。コロナ禍以降のヒット作で、看過できない悪事を働いておりあまり感情移入できない奴が主人公の作品は思いつかない。観客が感情移入できない複雑な作品を楽しむような余裕を失っている。

「パラサイト」や「万引き家族」がテーマとしていた格差の問題は全然解決しておらず、むしろ大きくなっているのだが、全然取り上げられなくなった。
家族と会えない人も多い現状から見ると、半地下の家族は貧乏ではあるが十分幸せそうだ。本作の展開は劇的だがパンデミックで都市封鎖になる方がもっと劇的だ。
警戒警報が鳴り響いているような状況では、複雑な響きの音楽を楽しむことはできないのだ。

 

向いていることと好きなこと

コロナ禍で世界的におうちエクササイズが流行している。
私も誕生日に任天堂の大人気エクササイズソフトを購入した。CMをバンバンやって世界的に大ヒットしたあれである。


そう、Wii Fitだ。

リングフィットアドベンチャーじゃないんかい、という突っ込みが聞こえて来そうだが、型落ち品を安く買うのが好きなのでしょうがない。

Wii Fitにはからだ測定とトレーニングという二つのメニューがある。

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からだ測定では、毎日体重測定をした結果が、グラフで表示される。0.5kg以上体重が増えると、バランスボードになぜ増えたのか言い訳を述べねばならない。
毎日測っていると、どれぐらい食べると体重がどうなるか分かってくるし、機械ごときに説教されたくないので自然と体重が落ちてくる。2ヶ月で2.5キロの減量に成功し、 太りぎみを脱することができた。


レーニングでは男女いずれかのトレーナーが指導してくれる。ヨガが上手いと「きれいなポーズでしたよ」などと褒めてくれる。私はプライベートではほぼ誰とも話さないので、こんな美人が褒めてくれるのは嬉しい。

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筆者を太陽礼拝に誘うトレーナー

レーニングパートではヨガ、筋トレ、有酸素運動、バランスゲームの4ジャンルから、色んなトレーニングをすることができる。
色々やってみて分かったのは、私は俊敏さが必要なゲームはからきしだが、ゆっくり動く能力は悪くないということだ。

飛んできたボールをヘディングをするゲームではイージーモードなのに何度やっても飛んできた靴を避けられずに得点が伸びず、悲しい音楽が流れ、最低のバランス不足級と表示される。これは学生時代の体育の授業で身に染みて分かっていた。
だが、ヨガや筋トレ、座禅などのスコアは悪くない。ゆっくり動く能力はそれほど低くないのではないか。

学校の体育では、ほぼ俊敏さと筋力が要求されるスポーツしかやらないので、私は自分のことを運動音痴だと思い、コンプレックスを持っていた。だが、ヨガのようにゆっくり動く能力はそれほど低くはなかったのだ。
私のような子供に運動習慣をつけるためには、学校でもっとヨガや太極拳、座禅のようなトロくてもできるスポーツを教えた方が良いのではないだろうか。


一方、向いてはいないが上達したゲームもある。バランススキーだ。
バランススキーは最初の頃は何度やってもコースアウトしてしまい、悲しい音楽を聞くはめになった。だが、ゲーム自体が面白いので何十回も繰り返しやっている内に徐々にコツを掴んできて、ついに第3レベルのプロ級のスコアを出すことができた。
ペンギンシーソーというペンギンが氷の上に飛び乗ってきた魚を獲るゲームも面白いので何度もやって上達した。まさに好きこそものの上手なれだ。

人間は日々の糧を得るために、不向きなことや嫌いなこともしなくてはならない。だが、私がヘディングゲームで最低ランクから脱せないように、不向きで嫌いなことをやっても上達が見込めず、自他共に益が少ない。
言い訳の書評でも書いたように、向いていることや好きなことをしている時間の割合を高めていくことが幸せへと繋がるのではないだろうか。

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2021年のグロース株、バリュー株のリターン概算

年末年始に2021年の株式相場展望記事が沢山出ていた。ざっと目を通した感じでは、2021年は経済活動回復に従って、出遅れていた景気敏感バリュー株が巻き返すという予想が多い。

私は2020年11月17日に「主要指数のコロナショックからの回復率」という記事を書いた。そこでは出遅れバリュー株はコロナ前まで業績が戻らない懸念があるため、必ずしもグロース株より割安とは言えないと指摘した。

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この記事は分析のしかたが定性的で結局どちらが良いのかよく分からない。そこで、代表的なグロース株であるQQQ(ナスダック100ETF)と代表的な出遅れバリュー株である1628(運輸・物流ETF)について、楽観、中立、悲観シナリオに基いてリターンを概算してみた。


1)QQQ(ナスダック100ETF)

主な組入れ銘柄:マイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグル、フェイスブック

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1年で47%以上も上昇してしまったので、過去の株価は参考にならない。そこで、過去のリターンやバリュエーションからリターンを算出した。

*楽観シナリオ +20.3%
QQQの過去10年間の年間リターンは20.3%。同程度上昇すれば+20.3%のリターンが得られる。

*中立シナリオ +3.2~+8.8%
過去1年のリターンが47.2%。2年分上がってしまったので、今年は平均よりはリターンが低下する可能性が高い。
NASDAQ100の予想・実績PERから算出したEPS成長率は8.8%。現在のバリュエーションが維持されれば、8.8%上昇する。
より保守的に見るなら、QQQの予想益利回り3.2%を採用しても良い。

*悲観シナリオ -14.4%
1/8時点でNASDAQ100予想PERは31.25だ。コロナ前は24前後だったので、コロナ前の水準までバリュエーション調整が起こると23.2%下落する。
EPS成長率8.8%分上昇するので、リターンは8.8-23.2=-14.4%となる。


2)1628(運輸・物流ETF)
主な組入れ銘柄:JR東海JR東日本、SGHD(佐川急便)、ANAJR西日本

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赤字企業が多く、バリュエーションで想定するのは難しいので、過去の株価から推定した。

*楽観シナリオ +26.0%
日本がワクチンによってコロナの集団免疫を獲得するのは2022年4月頃と予想されている。
1628の1/8時点での現在値は14130円。コロナ前高値は19100円。2022年年初に4月頃からの経済完全再開を見込んで株価がコロナ前高値を回復すれば、26%の上昇になる。

*中立シナリオ +16.2%
1年後に外国人観光客がコロナ前まで戻るとは考えにくく、利益はコロナ前を下回っている可能性が高い。
1628はコロナ感染者数が減少した2020年6月頃に16420の戻り高値をつけている。ここまで戻れば16.2%の上昇になる。

*悲観シナリオ -15%
1年後もコロナの収束が見通せない状況の場合、夏の安値12000辺りが下値目処になるだろう。その場合15%の下落になる。


概略リターンを計算してみた所、多くのアナリストが言う通り、今年はグロース株のQQQより景気敏感バリュー株の1628の方が期待リターンが高そうだという結果が出た。(1年後にコロナ収束の見通しが立っているという前提の上だが。)

ただし、1628のようなバリュー株は長期成長性は低いので、ある程度戻ったらグロース株に乗り換えた方が良い。そのタイミングを測るのが難しいという人は、今年のリターンは低くても最初からQQQのようなグロース株を積み立てる方が簡単である。


高名なアナリストがお勧めしていると、定性的な理由で買ってしまいがちだが、自分なりにリターンを概算して、定量的に比較してから買うことが、投資上達の近道だ。

M-1グランプリ2020感想――切れ目ないボケとカレーの後に寿司問題

1.切れ目のないボケ笑い

M-1グランプリ2020はマヂカルラブリーが優勝した。
マヂカルラブリーの2本目「つり革」は苦しいぐらい笑い転げた。

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近年の漫才はツッコミで笑いが起きる。
M-1グランプリの持ち時間は4分しかない。M-1出場者達はツッコミの手数と強さを増やす方向で漫才を進化させてきた。
2018年王者の霜降り明星は「○○やないかい!」の「やないかい!」を削って名詞だけでツッコむことで限界までツッコミ数を増やすことに成功した。
2019年王者のミルクボーイは重ねてツッコんで、ツッコミの強度を上げることで大きな笑いにするというアプローチで成功した。

マヂカルラブリー野田クリスタル氏の体を張ったボケだけで笑いが取れる。村上氏のツッコミで初めて笑うというより、ツッコミで笑いを増幅している感じだ。
ミルクボーイの漫才はボケの駒場氏が「おかんが言うには~」と話している間は笑いが起きないが、マヂカルラブリーの2本目の漫才は笑いの切れ目がなかった。
笑いの総量を増やすという点では限界に達した感がある。
ちなみに2位になったおいでやすこがもボケの笑いをツッコミが増幅させるスタイルであり、決勝ではボケが4分間切れ目なくボケ続けるというネタを披露した。ポストミルクボーイの笑いとして2組が同じ答えを出してきたのは興味深い。


2.カレーの後に寿司を食っても美味くない問題

マヂカルラブリーの優勝を受け、ネットではマヂカルラブリーは漫才か論争が起きている。
私はマヂカルラブリーが一番面白かったので、優勝に満足している。だが、インパクトの強い漫才と渋い漫才を並べて評価するのが良いのかという問題はある。
食べ物で例えるなら、「カレーの後に寿司を食っても美味くない問題」だ。

オズワルドは日常会話のトーンのしゃべくり漫才だが、去年から2回続けて優勝コンビの強い笑いの直後にやらされて気の毒だった。オズワルドに対し、審査員の松本人志氏がもっと普段通りの強さでやれ、オール巨人氏がもっと強くやれとアドバイスしていてどうすりゃええねんという感じになっていたが、順番がマヂカルラブリーの直後になった時点で詰んでいてどうしようもない。

おいでやすこがとマヂカルラブリーを続けて観た時点で、誰もが笑い疲れていた。食べ物で言う所の満腹だ。
持ち時間が10分なら徐々に笑いを高めていくような構成も重要になるが、4分の大会だと強い笑いが有利なのは当然だ。
錦鯉だけは味の濃い漫才だったので健闘していたが、他の3組はおいでやすこがやマヂカルラブリーより薄味の漫才なので、強い味に慣れていた審査員が、繊細な旨味を感じにくくなっていた感がある。

現在はくじで出場順を決めている。これは公平ではあるのだが、番組全体としての構成を放棄しているということでもある。
コース料理を食べに行ったらシェフがくじを引き始め、1番めの料理はステーキです、と言ったら、もっと美味しく食べられる順番で出せよと思うだろう。番組スタッフが話し合って、トータルとして最も笑えるような順番に並べた方が、視聴者の満足度は上がるだろう。

それではコンテストとして公平ではないと言うのなら、準決勝の点が高かったコンビから順に何番目に出るかを選んでいったらどうか。
出場コンビは自分達がどの辺で出れば一番輝くか分かっているので、くじ頼みよりは良い並び順になる可能性が高まるのではないだろうか。

www.m-1gp.com